軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化とそれぞれ。

月日は過ぎて、メイプルとサリーはそれぞれ新しく手に入ったスキルや装備を試しながら八層を楽しんでいた。

「【古代兵器】をいつでも使えるようにイズさんにいっぱい爆弾作ってもらわないと!」

「爆発音がしないのとかエフェクトが小さいのとか作れないかな?ほら、隠れて準備した方が強いでしょ?」

「いっぱい爆発させたら気づかれちゃうもんね。あ、後ろに銃を置くのはどうかな?イズさん大砲とか作ってたし」

自動で発射される銃の前に立てばそれに撃ってもらうだけでゲージは溜まっていくだろう。

「絵面を気にしなければ?いや、爆弾の時点で酷いか……」

そんな話をしつつ、二人は小さなボートで揺られながらのんびりと水上を進んでいた。目的としていたスキルも集まり、八層での探索も十分行なったと言えるだろう。

ここからは完全に手がかりなしとなるため、そう簡単には見つからない。だからこそ、無理に探索するのではなく休める時は休むのだ。

「あ、そういえば今日は次のアップデートの情報があるらしいよ」

「え、そうなの!?」

「うん。っていうかそろそろだと思うけど」

話題に出したところで、ちょうどメッセージが届いたことを示す通知音が鳴って、運営から次のアップデートの情報が伝えられる。

「えーっと次は九層だって!早いねー」

「潜水服の強化とかあれこれしてるうちに結構時間経ってたしね。まだ探索できてないところもあるけど、それは今までも同じだし……」

また頃合いを見て他の層へ戻るのもアリだろう。初めの頃に入手した【毒竜】や【悪食】もまだまだ現役なのだから、前の層に戻っても得るもの、使えるものはあるだろう。

行きたいと思ったタイミングでのんびり探索すればいいのだ。

「それともう一つ。九層実装後のイベントについてもちょっと書いてあるよ」

「えっと、二つの陣営に分かれて大規模対人戦……?」

「詳しいことはまだ分からないけど、新しいスキルも役に立つんじゃない?」

「サリーもね!」

「うん。上手く騙せるように練習中」

サリーの新たなスキルをより有効に使うには、事前にシチュエーションを想定して動きを考えおく必要がある。発動するだけで強力というわけでないスキルの難しいところである。

「九層に繋がるようになるダンジョンもこの辺りだし、ちょっと近くまで見に行ってみる?アップデートまでは繋がってないから攻略は後になるけど」

「うん!周りがどんな感じになってるか気になる!」

攻略してきた場所がそうだったように、ただ潜っていけば辿り着く場所なのかは分からない。潜る時間が長くなるならイズにアイテムを準備してもらう必要もあるだろう。

距離が近いということもあって、ジェットスキーに乗り換えることもせずゆっくりとした船旅を続ける。そうして目的地が見えてくると、メイプルもここだったのかと小さく何度も頷く。

眼の前にあったのは遥か水底まで続く長く太い塔である。先端は水面から飛び出ており、水中を確認すると水から逃れるように、何度も増築が繰り返されてきた跡がある。当然ではあるが下へ行けば行くほどボロボロになっており、侵食が激しいことが分かる。

「ここを降りていくのかな?」

「そうなるね。流石に途中から侵入はできないから上から入るしかないよ」

塔自体はボロボロではあるものの、窓や大穴が空いた場所はなく、ショートカットして中に入り込むのは難しいだろう。

「皆で行けば大丈夫だよね!」

「流石に私達八人に勝てる相手はほとんどいないと思うよ」

「皆強いもんね!」

実際メイプル達に勝てるようなモンスターなど探す方が難しいだろう。仮にいたとしても、弱体化する方法もないなどということは考えにくい。でなければそんなものは倒せないと言っていい。

「攻略は別日かな。ん?」

「どうかしたサリー?あっ!」

二人が空を見上げると、そこには二つの大きな影があった。一つは太陽の光を受けて白く輝く竜。もう一つは太陽と同じように燃え盛る翼を持った不死鳥だった。

「ミィ!ペインさん!」

「メイプル。偶然、ではないか。大方メッセージを読んで視察に来たといったところだろう?」

「そうそう!ミィも?」

「まあそんなところだ。ちょうどこちら側に用があったから、丁度いいと思ってな」

「ペインさんもそうですか?やっぱりダンジョンの確認を?」

「ああ、水中に時間を割いた分未攻略だったからな。このダンジョンは全員が攻略するんだ、隅まで把握しておけば越えていったプレイヤーの強さも少しは分かると思っている」

噂は広がるものだ。あの時どんな風に攻略したなどという話は九層に入ってすぐは話題の一つになるだろう。ダンジョンのことを詳しく把握していれば流れてくる噂からスキルに予測が立つかもしれない。

全くの未知と何かあるかもしれないと心づもりができているのでは状況は大きく変わるだろう。

「対人戦のため、ですか」

「勿論。陣営が分かれるということだったが、もし敵となればリベンジを果たしたいと思っている」

第四回イベント以降、共闘こそあれど正面からぶつかり合うことはなかった。メイプルとサリーもあれから随分強くなっている。しかし、それはペインとて同じことだろう。

「が、頑張ります!」

「敵でも味方でも全力を尽くそう。その上で戦うなら今度は俺達が勝つ」

「私達もだ。あの時は手酷くやられたものだが、同じようにはいかないと宣言しておこう」

「私も……負けません!皆で頑張ります!」

メイプルがそう返すと、ミィとペインはそれでこそだという風に少し笑う。

「じゃあ俺は行くよ。次のイベントを楽しみにしている」

「ではなメイプル。戦場で会った時は全力でいかせてもらう」

そう言ってペインはダンジョンの中に、ミィはフィールドの果てへと消えていった。

「そっかあ、また戦うかもしれないんだね」

「強いよ。第八回イベントで見た時も明らかに出力が上がってたし」

最後に敵として向かいあった時からはもうかなりの時間が過ぎている。その頃よりレベルは高くなっており、当然スキルも増えている。さらにテイムモンスターも手に入れていることが大きな違いとなるだろう。特に、二人のテイムモンスターはそれだけでもかなり強力なものだ。

前と同じようにはいかないだろう。

「また作戦考えとかないとね。メイプルのスキルも増えたことだし。どれも上手く使えば戦況をひっくり返せるはず」

「一緒に考えよう!」

「おっ、考える?いいよ、実際に使うのはメイプルだしメイプルがやりやすいのが一番だから」

ゲームを続けるうち、動きにも慣れてどんな行動を取ればより良い結果につながるかがメイプルにも少しずつ分かってきた。そして、分かるということがメイプルに考える余裕を作っているのである。

「『ロストレガシー』のダンジョンでもメイプルの案は上手くいったし……色々聞かせてよ。それがいいし、そんな話もしたかった」

「あはは、あれはたまたまだけどね」

初めてのスキル使用で【方舟】を発射タイミングが正確に分からないレーザーに完璧に合わせられたのは運が良かった部分が大きいだろう。

「サリーが【神隠し】で消えて攻撃を避けてるのを見てこれでもできるかもって思ったんだ」

「練習したら偶然じゃなく合わせられるようになるよ、きっと」

「そうかなあ?やってみようかな?」

「……できたら助かるね。戦略に組み込みやすい」

「えへへ、じゃあちょっとやってみる!」

「うん。いいと思う」

前向きにそう宣言するメイプルを見て、サリーは嬉しそうに小さく頷き返事をする。

そうして塔の前でボートに乗って少し話をしていると、ペインやミィの他にもプレイヤーがやってくる。先に進むために攻略する必要があるダンジョンとなれば、下見に来るプレイヤーがいてもおかしいことではない。実際、二人もそのために来ているのだ。

「邪魔になっちゃうかな?」

「大丈夫だと思うけど、色々話すには適さないかも」

こんな場所で重要な作戦会議をしていては聞いてくれと言っているようなものである。

そうして移動しようかと思っていたところで、また見覚えのある影がボートで近付いてくるのに気がついた。

「あ、本当にいたっすよ!」

「それはそうだろう。ウィルが見間違えるはずがないからね」

やってきたのは【thunder storm】と【ラピッドファイア】のトップ達だった。どうやらウィルバートの何かのスキルによって二人の視界よりも遥か遠くからこちらを視認したらしかった。

「申し訳ありません。話の流れで、丁度近くにいたものですから」

「対人戦っすよ!対人戦!」

「そうだね。待ちに待ったって感じなのかな?」

サリーがそう聞くと、ベルベットは大きく頷いた。

「そうっす!味方もいいっすけど、今回は敵になりたいと思ってるっすよ!」

ストレートな物言いにメイプルとサリーは目を丸くする。

「……今回はそういう気分みたいです」

詳しい理由は分からないがヒナタがそう言うのならそうなのだろう。

「イベントはその期間しかやってないっすからね!戦える機会があるときに敵になっておくっすよ!」

決闘などのシステムを使えばどこでも対人戦はできるが、一度きりのイベントでの緊張感と勝った時の楽しさは全く別のものなのだろう。メイプルはともかく、サリーはその差を明確に理解できていた。

「敵か。じゃあ対策はちゃんと考えておかないとね」

陣営決定に選択肢があれば、確実に逆側に行くと宣言されたのだ。味方になることがないなら、どちらにつくかまだ決まっていない様子だったペインやミィと比べて、しっかりとした対策が必要になる。

「あっけらかんとしていていいね。ああ、私達はまだ特にその辺りは決めていないよ。一応ね」

どうやらリリィ達はその辺りはまだ確定はさせていないようだった。

「……それが普通だと思います。ベルベットみたく宣言する必要もないですし……」

これではまたギルドのメンバーに喋りすぎだと言われると、ヒナタはベルベットの脇腹をつつく。

「ですが、私達とてどんな方が相手になってもそう易々と負けるつもりはありません」

ウィルバートも自信ありげな様子である。その自信を裏付けるだけの実力が彼らにはあるのだ。

「それはそうだとも。敵になったら、その時はよろしくお願いするよ」

誰にとっても久々の本格的な対人戦だ。皆成長しているのは理解しており、九層の実装からイベントまで時間がある以上、探り合いになるだろう。

「じゃあ勝負だね!」

「そうっす!今度は前の決闘とは違ってヒナタも一緒っす!負けないっすよ!」

二人で戦うことで相乗効果により強くなる。それはメイプル達もよく知っていることだ。サリーも決闘に勝ちこそしたが、あれが全てでないことは分かっている。

「まだ当分先の話ですから。それまでに弓の腕を上げておくとします」

今のイベント予告からは誰が敵になるか味方になるかは分からない。できることはただ自分の能力を高めることと、周りの情報を得ることだけだ。

「ベルベット達はこの後ここに入るの?」

「そうっすよ!二人と一緒に入るっす!」

「間近で戦闘が見られるなら私としても断る理由はないさ」

ヒナタが複雑そうな顔をしているところからも、ベルベットに情報を探る意思があるわけではないことは分かるが、いつものことなのだろう、特に止める様子もない。

「二人も来るっすか?大歓迎っすよ!」

「メイプル、どうする?」

メイプルはどうしようかと少し考えてから返答する。

「うーん、ギルドの皆と一緒に行こうと思ってるから……今回は、ごめんね」

「分かったっす!なら、機会があったら遊ぶっすよ!」

「うん!ありがとう!」

ペインと同じくダンジョンの中へ消えていく四人を手を振って見送ると、改めてそろそろ離れようとボードを漕ぎ出した。

「皆次のイベントに向けてって感じだったね」

「やっぱりモンスターと戦ったり探索したりするのも面白いけど、人と戦うのも需要があるんじゃないかな」

「サリーも得意だもんね」

「……そう、だね。得意だし好きかな」

ベルベットが言ったように、勝ち負けに大きな違いがある状態で戦うことができるのはイベントくらいだ。やる気を出すプレイヤーがいるのも納得のいくことである。

「九層でまた探索して、そしたらイベントだ!」

「…………」

「サリー?どうかした?」

「ん、ああ、ちょっと……戦略考えてた。って言っても細かい戦闘形式が分からないとどうしようもないところが大きいけど」

まだ大規模な対人戦イベントがあることが分かっただけだ。第四回イベントのように設置されたアイテムの奪い合いになる可能性も、バトルロイヤルになる可能性もある。

内容によって最適な戦い方も大きく変わってしまうだろう。

「今気にしてても仕方ないし、まずは九層に行くところからかな。イベントまでにまたメイプルが強くならないとも限らないしね」

新たな層が追加されるということはイベントもダンジョンも一気に増えるということでもある。そうなれば、また異次元の方向へ強化されることもあるだろう。勿論可能性は低いはずだ。だが、それでも偶然あれもこれも見つけた結果生み出された怪物が今既にここにいる。だから、サリーはないとは言えない。

「よーし、頑張るぞー!」

「うん。私もスキル使いこなせるようにしておくよ」

サリーはサリーで期限がある程度決まった以上、そこまでに新しいユニークシリーズを使った戦闘に慣れておかないといけない。ここから相手にするのはモンスターではなく、トップクラスのプレイヤー達だ。今は【虚実反転】でメイプルのスキルをコピーすることと武器の形状変化くらいしか能力を使っていない。全てのスキルを十全に使えなければならないだろう。

「じゃあ戻ろっか」

「うん!いろんな人来てびっくりしたー」

今回の目的は攻略ではなく、外観からのダンジョンの雰囲気と広さ、そして位置の確認なためサリーはまたボートを漕ぎ出す。

ジェットスキーとは違いのんびりとした船旅になるため、メイプルは釣竿を取り出して糸を垂らす。

「ふふふ、町に戻るまでに釣れるかな?」

「つ、釣れるよ一匹くらいなら!」

釣りに関してはゲームを始めてから何一つ変化がないため、釣れるまでにかかる時間は全く短くなっていないのだ。

一匹くらいは釣れるようにと、サリーはこっそり速度を少し落として町までボートを漕いでいく。

のんびりとした時間だが、サリーは何か思うことがあるようで。

「……機会がある時に、か」

ベルベットの言葉をぼそっと口に出して反復する。その言葉は誰かに対して放たれたものではなく、自身が漕ぐオールが出す水音に紛れて空に吸われて消えていくのだった。