軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と雪山2。

しばらく経って、氷漬けの洞窟内は青い氷に光が絶え間なく反射して思わず目を閉じてしまうほど眩しく輝いていた。

「えいっ!」

「【フレイムバレット】!」

今メイプルが外套の下に着ているのは緑色の洋服である。この装備を身につける理由はもちろん【ポルターガイスト】によって兵器によるレーザービームをそのままの形で剣のように振るうためである。

狭い通路に極太のレーザーを上下左右滅茶苦茶に振り払っていると、時折湧いてすぐのモンスターを焼くことがある。ヒットして仕舞えばあとは再生しようとしているところに、サリーが炎の弾丸を撃つだけである。

「えいっやあっ!」

「んー、久しぶりに見るとこれもデタラメだなあ」

サリーは昔偽メイプルと戦ったことを思い出す。偽メイプルでも【毒竜】を再利用する程度でここまで自在に振り回したりはしなかったというのに、【毒竜】以外も操れ、軌道の修正までできるのだからボスも形無しである。

「よっと!あれ?」

熊や氷塊、途中から出てくるようになった氷の精やスノーマンを薙ぎ倒せるだけ薙ぎ倒して、凍って鏡のようになっていた通路中を輝かせていたビームは遂に見覚えのある扉に突き当たる。

メイプルは兵器を一旦しまうと装備を元に戻す。

「ボス?」

「うん。【ポルターガイスト】のお陰で想定よりかなり楽できたかな。これを倒して頂上に出るのが目的。もし、何もなかったらごめんね?」

「その時はボスの素材をお土産にしよう」

「ん、そうしよっか」

メイプルとサリーは2人で扉を押し開けると、部屋の中に入る。今までにも増して厚い氷に覆われた床と壁、最奥には透き通るような白い肌をして、青い衣をまとった女性がいた。女性に表情はなく、雰囲気は道中に見た氷像と同じものを感じる。

二人が部屋の中に入り少しすると地面を冷気が吹き抜けて、爆発する氷塊が十数個一気に生み出される。

「勝つよ!」

「うん!」

こうして二人と氷の女王とでも言うべき存在との戦闘が開始されたのだった。

「【挑発】!」

メイプルは戦闘が始まると同時に【挑発】によって、召喚された氷塊を引きつけながらサリーとともに前進する。

「朧【渡火】!」

朧のスキルによって密集してきていた氷塊全てに炎が伝播し、一斉に青い光が漏れ始める。

「【ピアースガード】!」

いかに強力な爆発で、【身捧ぐ慈愛】によりサリーと朧の分が多段ヒットすると言っても、防御貫通さえ排除してしまえばなんということはない。

舞い散る氷の中、サリーは爆発をメイプルに庇ってもらったことで一気に接近する。

【ピアースガード】を発動している間はメイプルの防御力を攻撃力で上回ることだけがこの二人を傷つける方法である。この絶好のタイミングを逃す二人ではない。

「【クインタプルスラッシュ】!」

「【カバームーブ】!【捕食者】!」

【身捧ぐ慈愛】を突破できないと見るや一気に攻勢に出る。ボス戦では後のことを考える必要がないのだから、ただ強い動きを押し付ければいい。

サリーの連撃すべては炎を散らしてその氷のような体を焼いていく。瞬間移動で追いついたメイプルは大盾を叩きつけ、さらに召喚した化物で追撃する。

すると、ボスの体は青く透き通った氷に変わりパリンと砕けて地面に落ちていく。

「えっ?」

「いや、この感じは……」

サリーが後ろから風を感じて振り返ると、巻き起こる吹雪の中でボスが再び形作られていくのが見えた。そして、その吹雪は氷の礫を伴って二人へと向きを変える。

「【カバー】!」

盾は構えずに悪食を温存しつつ、メイプルはサリーの前に出る。【身捧ぐ慈愛】を使っていても【カバー】で事足りるならその方が最悪の事態を避けられる。前に立ってしまえばサリーと朧に貫通攻撃が繰り返し命中することはありえない。

「ふぅ、よかった。ただの吹雪だったみたい」

「体凍ってるけど」

メイプルの体は所々凍りついており青い氷に覆われている。

「……別に何ともなさそうだよ?」

「ステータスダウンかな」

「あっ、サリー正解!」

「流石に重なりすぎると危ないかもだから、やばそうだったら盾構えてね!」

そう言うとサリーは再び前に出る。先程のコンボは途中からただの氷に入れ替わっていたため、致命傷とまではいかなかったが、それでもかなりのダメージを与えられている。

接近するサリーに対してボスは地面に手をつくとそこから輝く冷気を噴出させる。

「【氷柱】!」

サリーは氷の柱を作ると糸を伸ばして上空に避難する。

「ヒナタの方がよっぽど厄介……【フレイムバレット】【ファイアボール】!」

威力自体は高くないものの、安全圏から弱点を突いた攻撃で的確にボスのHPを削る。ボスは適宜道中で見たモンスター達を呼び出すが、それはすべて【挑発】によってメイプルに引き寄せられていく。本来なら集め過ぎれば対処できなくなってしまうものだが、メイプルは最悪対処しなくていいのだから訳が違う。

「サリー、こっちは任せて!」

「助かる!」

集団の強みはメイプルに潰してもらい、サリーは自分の得意な一対一のフィールドに勝負を持ち込む。

「朧【拘束結界】!」

いくつものパターン。その中でより良いものから順に試行する。

朧による拘束が成功すると、サリーは流れるように体を前に動かす。

「【激流】!」

大量の水がサリーを押し流すようにして加速させる。相手の攻撃を避けやすい位置をキープして、きっかけとともに一気に攻勢に転じるのだ。

「朧【妖炎】!【鉄砲水】【トリプルスラッシュ】!」

【拘束結界】の効果が切れると同時に【鉄砲水】で跳ね上げてボスが動くことを許さない。この強さはサリーだって当然知っている。

「退くか……【ファイアボール】」

最後に、跳ね上げたボスに炎をぶつけるとサリーは一旦距離を取ってメイプルの方を見る。メイプルは下手に刺激して貫通攻撃を発動してもまずいと、特に手を出さずに氷像や雪像など氷のモンスターになすがままにされているが、HPが減っていないということは問題ないのだろう。

「メイプル」

「あ、うん!【カバームーブ】!」

メイプルは瞬間移動でモンスターから抜け出してサリーの元までやってくる。これで二人がボス部屋の中心におり、両側にボスと大量の雑魚モンスターという形になった。

二人がまずボスを警戒していると背後で氷の砕け散る音が響く。チラリとそちらを見ると召喚されたモンスターが崩れ、それと同時にボスの纏う吹雪が強くなっていくのが分かる。

「来るよ」

「うん!【ピアースガード】!」

念のためにメイプルが貫通無効スキルを発動させたところでパキパキという氷の上に氷が張る音とともに部屋全体に白い冷気が吹き抜ける。

それが晴れると同時、サリーは足元の光が消えたことに気づく。メイプルの方を見ると【身捧ぐ慈愛】は解除されており、またサリー自身が纏っていた【剣ノ舞】のオーラも消えている。

サリーは最悪のケースを考えスキルを発動しようとするが、発声よりも早く地面から氷が伝い、二人の足を縫い止める。

ボスは残りHPが少なくなり行動パターンが変化したようで氷の剣を持って、雹混じりの吹雪を纏って駆けてくる。

「解除されるまで……後何秒……?」

サリーがどの順番でスキルを使えば生き残れるかを高速で思考していると、不意に足元の感覚がなくなり、視界が真っ暗になる。

「死んだ……?」

サリーはこのゲームを始めてから、味わったことのない感覚にその可能性を考える。しかし、隣から聞き覚えのある声が聞こえてきてそうではないと理解した。

「あ、ちゃんとサリーもいる!よかったー……」

「メイプル!?えっと……ここ、どこ?」

「え?地面の中だよ」

「ん……?」

「言ったでしょ新しいスキル覚えたって!【大地の揺籠】って言ってほんの少しだけ地面に潜ってから出てくるの」

「そ、そっか?何はともあれ助かったよ」

「ふふふー見ててね」

「……?」

よく分からない様子のサリーの前で、メイプルは急いだ様子で何やら下準備を進める。

二人が消えた地上ではボスが真上で立ち止まって二人が出てくるのを待っている。そうしているとメイプルのスキルの効果時間が切れたのか地面が揺れる。

それと同時に地面から押し出されるようにしてメイプルとサリーが姿を現わす。そう、大量の付属品と共に。

漆黒の玉座に座ったメイプルは花園と化物、泥濘む大地と相手を眠らせる花を散らせながら戻ってきたのである。

地面の中で発動した設置型のスキルは地上に戻ってくる際に地中に残るわけにもいかず上に弾き出される。

それはまるで獲物をじっと待つ捕食者のように、突如出現した超危険地帯にボスは強制的に入った状態でスタートさせられる。

「【水底への誘い】」

性質が反転し悪属性を封じることがなくなった玉座の上から、下半身が沈んだボスに五本の触手が伸ばされる。そこに残った【悪食】はサリーが削り残した分のHPをしっかりと飲み込んだのだった。

戦闘が終わり、触手や花園、玉座などを全部しまったメイプルは上手くいって良かったとほっとする。

「他のプレイヤーを一緒にっていうのは初めてだったから……サリーがいた時安心したよー」

「こっちこそ、助かったよ。いいスキル取ったね。しかもまだまだ伸び代もある」

「レベル上げるのがちょっと大変だけどね。もう一回使えるようになるまで時間かかるのに、これしか使えないから」

「じゃあ使えるようになる度に地面に潜らないとだね。流石にどこでもやってたら見た人に驚かれそうだけど。で、ボスも倒したし」

「待ってました!どこ?どこに行ったらいいの?」

「付いてきて、奥に頂上に出られる抜け道があるはず」

ボス部屋をくまなく探索すると、サリーの言うように壁に隙間があり、そこを通っていけば上に出られそうだった。二人は姿勢を変えながら氷の隙間をすり抜けて、頂上に出る。

「こっちは、穏やかだね」

「おおー!」

そこは嵐の上の世界。浮遊城からの景色にも似た雲の海の上。昼間故に上にはどこまでも青空が広がっているここは、七層で最も高い場所だった。

二人が並ぶので精一杯の頂上から遠くを眺める。

「んー、夜に来た方が良かったか。浮遊城行ったしなあ……反省反省」

「でもやっぱり綺麗だよ!」

「ふふ、メイプル。言ったでしょ夜でも昼でも同じって」

「……?うん、言ってた」

「間違ってたらごめんね。落としはしないからさ」

そう言うとサリーはメイプルを抱き上げる。

「えっ?えっ?」

「行くよ!【跳躍】!」

サリーは不安定な足場を蹴って空へ跳び上がると、そのまま空中に足場を作ってぐんぐんとより高くへ跳んでいく。

「わっ、と……本当に来た」

「な、何が……えっ?」

サリーがいくつも足場を飛び上がった所で、二人の体は重力から解放されたように宙に浮く。そして、真上には青空の中にくっきりと紺色の魔法陣が浮かんでいた。

「はは、確証なく試せる人がいるなら見てみたいなあ」

「わわっ!」

「転移するよ」

サリーのその言葉を最後に二人の姿は消えて、それから少しして、紺色の魔法陣もまた空に溶けて消えていった。

メイプルは瞑っていた目をゆっくりと開く、体は変わらず浮遊感の中にあるものの、周りの景色ははっきりと見えた。以前地下でサリーと見たのはまるで夜空の中にいるような景色だった。

今回はそれとは違う、メイプルは今まさに夜空の中に浮かんでいるのである。本当の空はこんな風ではないけれども、そんなことはどうだってよかった。目の前を過ぎていく光は地上から眺める星空を切り取って、その中に自分が飛び込んだように思える近さである。

ふわふわとした感覚の中、共に転移してきたサリーと背中合わせになる。

「本当にここで合っててちょっとびっくりした」

「急に空にジャンプしていくんだもんね。あんなの偶然じゃ気づかないよ」

「どうだろ、メイプルだったら兵器で爆発して飛び込んじゃったりしてたかも」

「あははは……」

「否定しないんだ……」

サリーは肩越しにメイプルの方を見ると、目の前を通り過ぎていく光を一つ摘んですっと投げる。

「ふふ、流れ星が作れるね」

「これ掴めるんだ!」

メイプルはサリーの真似をして光を掴んでは投げてみせる。

「んー小さくなった宇宙の中にいる感じかな?」

「あ、それ分かりやすいかも!」

メイプルとサリーは二人で光の粒を投げ合いながら、ふわふわと漂って、分かりやすく大きく作られた月に二人で並んで座って星を眺める。

「あ、そうだイズさんに食べ物も作ってもらってたんだ」

「え、本当!」

「うん、今出すよ。って言っても……」

サリーがインベントリからバスケットを取り出すと、それはふわふわと浮かんで飛んでいきそうになる。慌ててそれを掴もうとして一緒に飛んでいきそうになるメイプルをサリーが支えて、ようやくバスケットから飲み物と食べ物を取り出すことができた。

「かんぱーい!」

「うん、乾杯」

「んー美味しい!……今日は何だか始めてすぐの頃を思い出すことが多かったかも」

「雪山の強敵とか夜空の下でのご飯とか、あと私のスキルとか?」

サリーがそう言うとメイプルは目を丸くする。

「えへへ、サリーもそう思ってた?」

「うん……懐かしいなって、振り返ってた」

「でもイズさんの料理の方が美味しいけどね」

「それはそうだね」

サリーは片手でグラスを持ちつつ、目の前を通り過ぎようとした光を捕まえて空いた手で弄ぶ。

「あ、今度こそ私が絶景を見つけてくるからね!イベント始まっちゃうし、また先になりそうだけど」

「期待してる」

「うん!期待してて!」

サリーは星空を眺めると、片手で弄んでいた光をぽいっと投げて、飲み物を飲み干す。

「ずっとこのままいたいくらい」

「うんうん!綺麗だよね!」

「ふふっ……そうだね」

とはいえ本当にずっとここにいるわけにもいかないため、持ってきたバスケットの中身を空にした二人は、約束通りギルドの皆にお土産を用意して帰ることにした。

「ここの記念品はこれだね」

サリーはそう言っていくつかの星を手の中に収める。するとそれはアイテムに変化し、かわりに瓶の中に収まった。

「『一摘みの星屑』だって」

「人数分持って帰ろう!……なくなっちゃったりしないよね?」

「多分大丈夫だと思うよ」

こうして二人はギルドメンバーの分も記念品を手に入れて、イベント前最後の観光を締めくくるのだった。

そうして最後の観光から時間は過ぎて、イベントの詳細が明らかになった。

今回は専用フィールドは特にないものの、各層ごとに期間限定のモンスターが追加され、その累計討伐数に応じて八層での一部要素が初期解放されたり、全員にメダルが配られたりするというものだった。

【楓の木】ではその詳細を見て、とりあえず今回は気を張る必要もなさそうだと一安心する。

「ギルドごとのランキングなんかもないみたいだしな。完全にプレイヤー全員でどれだけ倒せるかって感じか」

「私としてはこの追加モンスターの素材が気になるわね。今回のイベントは八層と関係性が強いみたいだし、何かいい素材かもしれないわ」

「レベル上げのついでに狩ればいいというのは楽でいいな。それに全員にメダルが配られるのだから、総じてモチベーションも高くなるだろう」

「最近は難易度の高いイベントが続いていたからねー。気軽にやれるのは僕にとっても助かるな。魔導書もまた貯められそうだし」

「私達も頑張ろうお姉ちゃん!」

「う、うん!少しでも多く倒したいね。新しいスキルも覚えたし……」

「他ギルド対策は次のイベントまで持ち越しても大丈夫そうかな……ふー、助かった」

正直なところ、今すぐPVPと言われてもサリーには厳しいものがあった。雪山での戦闘で、万全の状態から一瞬で崩す方法がいくらでもあることは改めて実感できたのだ。対策と呼べるようなスキルを探しておく必要がある。

「八層にあるならそれでもいいんだけど……どうかなあ」

「久しぶりにいっぱい倒さないといけないイベントだー。でも今は【暴虐】もあるし!」

メイプルが【暴虐】で駆け回っている姿は七層にいるプレイヤーからすればもう見慣れた光景である。隠す必要もない今、フィールドを駆け回り指定されたモンスターを倒すのに足りない機動力を補うためにちょうどいいスキルだと言えるだろう。

「それじゃあイベントは各自頑張るということで!」

全プレイヤーでの協力とはいえ、パーティーを組んでまとまって移動していると効率が落ちてしまう。ベストなのはそれぞれが単独で湧いたところから倒していくことだろう。【楓の木】の面々もそれに異論はないようで、それぞれその方針で構わないとする。

「それに一体は一体だし、人の少ない層とかエリアに行くのがいいかもな。イズの言っていたように本命は素材って線もある」

層ごとに追加モンスターのレベルは異なるため、自分にあった場所に行くのがベストである。

「ただ、期間の長さだけは少し気になるな。私達に余裕を持たせているからなのか……」

気にしていても仕方ないかとカスミはそこで言葉を止める。

それに期間が長いと一つ思い出されることがある。牛狩りイベントの時、メイプルがどんな風になったかである。

メイプル本人とその時のことを知らないマイとユイの極振り三人組は、何かこそこそと話をする五人を気にしつつも、三人でイベントへの士気を高める。

「二人とも頑張ろーね!」

「はい!」

「またメダルも貰えますから……」

それを聞きつつ、嬉しいような怖いようなメイプルが脱線していきうるイベント期間に向けて、【楓の木】は最後のレベル上げをするのだった。