軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化とのんびり。

第八回イベントも終わり、【楓の木】はイベントでの目標も達成できた。後は手に入れたメダルの使い道である。

楓と理沙は学校からの帰り道を歩きながら、それについて話していた。

「楓はどんなスキルにするか決めたの?」

「まだだよー。交換期間はまだ先だしギリギリまで考えようかなって」

「他の皆と一緒かー」

「理沙は?」

「私も、しばらく次のイベントは来ないし、急に欲しくなったスキルっていうのも今の所無いしね」

理沙の言うように、イベントは終わったばかりで、急いで戦力増強をする必要はない。七層がかなり広く作られているのもあって、八層の実装にもまだしばらくかかりそうだったため、目先の目標が特にないのである。

「またのんびりできるね!」

「そうだね。レベル上げとスキル探しでもして備えるかー」

理沙がそう言うと、楓は一つ思いついたという風に表情を明るくする。

「……そうだ!スキル探すなら、一緒に今までの層巡りしない?行けてない場所もまだまだあるし!」

「確かに。このゲーム層ごとがすごい広いし、一層でも【絶対防御】とか取れたりしたしね」

理沙としても行けていない場所を探索するのはアリだと思えた。色々と隠されたものがあることは楓がその身で証明している。ただ、楓の表情から察するにスキル探しをすることが主目的ではないことは明らかだった。

「ふふっ、そうだね。観光ついでに、スキル探しもしよっか」

「あはは、分かっちゃった?」

「まあね?いいよ、いいスポット探しに行こう。計画なんてなくてもいいよね?」

「うん!まだ見ぬ秘境探しってことで!」

戦闘が一つの楽しみ方なら、ただゲームの世界を歩き回ることも楽しみ方の一つである。

イベントで激しい戦闘を終えたばかりの二人は、一層から七層まで、のんびり歩き回ることにしたのだった。

「あ、もちろん六層はいかないからね!」

「はい……助かります……じゃあまた、ゲームで」

「うん!」

帰り道で二人は手を振って別れる。楽しみだというように足取り軽く駆けていく楓を見て、理沙からは思わず笑みが溢れる。

理沙も帰り道を歩きつつ、今までの冒険のことを思い返す。

楓は今までと比べれば遥かに長く、ずっと楽しそうにしている。それが何より嬉しく、しかしいつまで続くのか考えて少し不安になる。

「……今は楽しまないとね!あそこまでハマってくれるなんて初めてだし」

今、楽しんでくれている。自分も楽しんでいる。それでいいのだと、理沙はゲーム起動のために家へと急ぐのだった。

急いで家に帰った理沙は、着替えなどを済ませると早速ゲームにログインした。ここではサリーとして、メイプルの到着を待つ。

「ごめんねー!待った?」

「いや、今来たところ。で、本当に今日は何の計画もないよ?」

どうするかと改めて聞くと、メイプルはにこっと笑って何の計画も立てずにのんびり歩き回ることを再提案する。

「じゃあ、行こっか。モンスターは相手にならないだろうし、準備もいらないでしょ」

「うん、しゅっぱーつ!」

メイプルとサリーの二人は一層に転移すると、町を見渡してみる。ゲームが始まったばかりの頃と比べると実装されたエリアもかなり多くなったため、以前と比べると町にいる人の数は分散して少なくなっている。しかしそれでも、まだまだ町は活気にあふれていた。

「久しぶりだなぁ」

「どうしても新しい層の攻略と探索にかかりっきりになりがちだからね」

「どこ行こうか?」

「どこでもいいよ、メイプルの好きな所に」

「じゃあまずは町の中から!」

「おっけー」

二人は町を歩いて回る。かなり前にも一層の町は歩き回ったことがあるものの、プレイヤーも建物も、そこには確かに変化があった。

元々ら用意されていなかったプレイヤーの店などはそれに当たる。最新の層と最初の層は人が多くなりがちなため、一層にも需要があるのである。

「そういえば、初期装備の人ほとんど見ないね」

「まあ、これだけ装備も衣装も充実するようになったら見た目も性能も好きなのに着替えられるしね。」

「それもそっか」

「最初の時しか味わえない雰囲気もあるってこと」

「なるほどー」

メイプルとサリーは見覚えのない店に順に入っていく。アクセサリーや服、早速ギルドに加入した人用の家具など、どこも七層にも負けない品揃えである。

「おおー!すごいね!」

「スキルのレベルが高くならないと作れるものに制限もあるだろうし、イズさんみたいに最前線にいる人がここにも店を出してるのかな?」

「おしゃれするの楽しいもんね」

メイプルがパタパタと店の奥へ向かっていくのに合わせてサリーも中へ入っていく。

「何か買っていく?」

「うーん、そうしようかなあ」

「ほら、さっきも結構目立ってたし」

「うう、前もそうだったね。ちょっと変な感じ」

メイプルは人の姿もそうでない姿も有名である。この特徴的な鎧を着ていれば、嫌でも注目されるというものだ。もちろん、サリーも同様である。

「ま、でもあんまり注目されるとのんびり観光もしにくいし。服装と見た目を変えていこう!」

「それなら、前に買った服がいいんじゃない?ほらっ!」

メイプルはさっと装備を変更すると、白いワンピースになり髪型もロングヘアーに変更する。

「サリーもあるでしょ?」

「うっ、まあ……あるけど。あれはちょっと……」

私には可愛らし過ぎて似合わないとサリーが言うと、メイプルはそんなことないとすぐに返す。

「じゃあせめて髪だけ変えさせて!それくらいならいいでしょ?」

「んー、許可しよう」

「ふふっ、ありがと」

メイプルに許可をもらってサリーも服装を変更する。青を基調としていることは変わらないものの、フリルが増え、普段身につけないスカートに装備を変更する。以前一緒に買ったツインテールへの髪型変更だけはなしにして、いつもはポニーテールにしている髪をそのまま下ろすこととした。

「むぅ……意外性にかけますね」

メイプルが顎に手を当ててそう言うとサリーはどうしたものかと一瞬考え、名案とばかりに返す。

「ほら、そこはお揃いってことでなんとか!」

メイプルは同じように真っ直ぐ下ろした自分の髪をちらっと見ると表情を緩める。

「えへへ、いいよー」

「おっけ!じゃあ、普通に小物とか見ていこうよ。元々はそれが目的なんだし」

「そうだね!サリーは何か欲しいものある?」

二人は売られている家具の一覧を見ながら、ギルドの自室のことを考える。イズに作ってもらうのもいいが、こういったところで買ってみるのもまたいいものである。

「んー、ギルドホームだとほとんど共用エリアにいるんだよね」

「私は家具もちゃんと置いてみたよ!レベル上げとかでフィールドにいると見られないけど……」

「そうなんだ。今度行ってみてもいい?」

「もちろん!参考になるかは分からないけど。あ、サリーならこういうの似合うんじゃない?」

メイプルはシンプルでかっこいい家具をいくつか提案する。サリーは詳しくその家具を見ると、自分でも気に入ったのかそれらを全て購入した。

「おー!大人買いだね」

「レベル上げついでに稼いでるからね。昔と違ってお金はあるってわけ」

「いいなー、私いっつもお金ないよー」

「メイプルは色々買ってるからね」

「またお金集めないとなあ……」

「その時は手伝うよ」

「ありがとう!んん、買いたいものの目星くらいはつけておこうっと」

二人はこの店の品物を全て見終えると店から出て町を歩き始める。二人の狙い通り、服装や髪型を変えてしまえばぱっと一目見てメイプルとサリーだとは分からない。視線が消えたことで、二人は成功したと顔を見合わせ笑って、ある店へと入っていった。それはまだゲームを始めてすぐの頃二人でケーキを食べた店である。

二人はまた同じようにケーキを頼むと話し始める。

「メイプルはここ来たのはあの時以来?」

「うん、一番新しい層でやること多かったから」

「まあ実装されるものに常に追いつくのも大変だしね」

「そうそう、今はちょっとのんびりできそうだから」

「確かにね。メイプルはどの層が一番好きとかあるの?」

「難しいけど……どこも好きだよ!」

「メイプルらしいなあ」

無邪気に笑顔を浮かべてそう返すメイプルは、心の底から何だって楽しんでいるように見える。見えるだけでなく、本当にそうなのだ。

「サリーは?」

「んー、メイプルと一緒なら基本どこでも」

「えへへ、本当?」

「もちろん。そのためにゲームに誘ったんだしね」

「ちゃんとバトルでも活躍できるしよかったー。今まで誘ってくれたゲームだと上手くいかなかったし」

「まあ、今回は上手くいき過ぎってくらいだけどね」

「あはは、そうだね」

サリーの方がゲームには遥かに慣れている。無理に合わせてもらわなくとも二人が同じくらいの強さになれていて、足並みを揃えられる今はとても珍しいことなのだ。

そうして二人がケーキを食べつつ他愛ない話を続けていると、サリーが少し間を開けて切り出すように話す。

「また、別の……」

「?」

メイプルが次の言葉を待っていると、サリーは少し笑って、切り替えるように店のメニューを開いた。

「いや、また別のケーキ食べる?ほらメニュー」

「え、うん!食べるよ!サリーもどう?」

「もちろん。あ、でも前みたいに食べ過ぎて散財し過ぎないようにしないとね。まだまだ観光は始まったばかりなんだから」

「そうだね、気をつけないと!」

こうして二人はまた和やかな空気が流れる中ケーキにフォークを伸ばすのだった。