軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

457 試される? (4)

戦えることが嬉しいのか、どこか楽しげなレイモン様。

しかしトーヤの方は、あまり気迫を感じない。

だがそれも仕方ないだろう。

マーモント侯爵が『構わない』とは言ったとはいえ、レイモン様に大怪我をさせて、何の蟠りもなくリアとの結婚が許されるのか。

可能なら無難に終わらせたいところだろうが、自分の腕前もアピールしなければいけないわけで……。俺なら胃が痛くなっている。

トーヤが気乗りしないのは当然だろう。

だがレイモン様はそんなトーヤを見て、ニヤリと笑って言葉を付け加えた。

「あぁ、安心して良いよ。『私を倒せなければ、リアをやらない』とは言わないから。気負わずに掛かってきてくれ」

「――へぇ。当然、倒してしまっても良いんだよな?」

「もちろん!」

煽るような言葉に買い言葉。

トーヤは少しムッとしたように片頬を上げる、が。

――ダメだ、トーヤ! それはフラグだ!!

古今東西、そういうことを言うヤツに限って、負けるのだ。

だがしかし、そんなことを口に出せるはずもなく、俺は無言でトーヤとレイモン様の試合を見守る。

まぁ、目的はトーヤの腕前見ること。

負けても問題ないし、一本勝負ってこともないだろう。

俺は傍観者として、ここは一つ楽しませてもらおう。

「双方、準備は良いか? ――始め!」

マーモント侯爵の掛け声で、試合が始まった。

最初は双方様子見か、静かな立ち上がり。

剣を構えて、相手を窺っている。

「ねぇ、リア。トーヤとレイモン様、どっちが強いのかな?」

「判らない。二人とも、少なくとも私より強いのは間違いないが……」

「そうですか。ハルカとナオくんは、どう見ますか?」

「私も判らないけど……たぶん、半々ぐらい?」

「だよなぁ……」

ナツキが俺たちに聞いたのは、俺とハルカは【看破】のスキルを持っているからだろう。

それで判る範囲では、若干トーヤの方が上だろうか。

だが、俺の【看破】スキルもレベル6にまで上がり、効果もちょっとずつ進化、しっかりと意識を向ければ、それなりに多くの情報を得られるようになっている。

その結果が、これ。

-------------------------------------------------------------------------------

種族:レイモン・マーモント

状態:健康

スキル:【カリスマ】 【剣の才能】 【剣術 Lv.6】

【筋力増強 Lv.2】 【政務 Lv.4】 【礼儀作法 Lv.3】

-------------------------------------------------------------------------------

やっとラノベでよくある【鑑定】スキルに近付いてきた気がする。

例によって、どの程度信用できるのか不明なのが悲しいところだが、大外れってことはないだろう。

そしてこれを信用するなら、レイモン様はトーヤと同じように【剣の才能】を持っているようだし、【剣術】のスキルレベルも同じ。

だがトーヤは、他にも多くのスキルを持っている。

なので、総合的にはトーヤが上だろうが、魔物との戦いが専門であるトーヤに対し、おそらくレイモン様は対人を得意としていると思われる。

それらを併せて考えれば、殺し合いであればトーヤ、試合であればレイモン様が優勢、といったところだろうか。

「――ふっ!」

先に動いたのはレイモン様だった。

力強く踏み込み、一瞬でトーヤに肉薄すると、剣を振り下ろす。

その速度はかなりのもの。

だがトーヤは、とても有能な俺たちの肉壁。攻撃を防ぐ能力はとても高い。

レイモン様の剣を難なく受け止めて押し返し、素早く反撃。

それを避けて、一度大きく下がったレイモン様だったが、今度はトーヤがレイモン様を追いかけて踏み込んだ。

「凄いのっ!」

「トーヤさんも、レイモン様も速い……」

高速で行われる戦闘に、メアリとミーティアが目を瞠る。

トーヤたちの動きは、サルスハート流の奥義だという“瞬動”だろうか?

目で捉えられないほどではないが、確かに速い。

普段の訓練よりも、間違いなく。

といっても、トーヤがいつもより気合いが入っているというわけではない。

――いや、気合いは入っているかもしれないが、一番の違いは装備。

あまり重い装備を身に着けない俺たちであるが、それでも全身を覆う鎖帷子の重さは軽く数十キロ超え。

冒険時にはそれを着て行動するため、どうしても動きは鈍くなる。

だが今のトーヤは、まさか戦うことになるとは思っていなかったこともあり、動きやすい普段着である。

その差は決して小さくなく、いつもよりも目まぐるしい速度で行われる模擬戦はなかなかに見物。

しかしそれ以上に見るべきは、レイモン様の技術だろう。

俺たちの戦闘技術は、神様から与えられたスキルが元になっていることもあり、それなりに正統な技術だと思うが、基本的に戦う相手は魔物だ。

四本脚で地を駆け、空を飛び、人では不可能な攻撃を仕掛けてくる敵に対応できるよう、それなりに変化している。

それに対しレイモン様の振るう剣は、端的に言えば見ていて綺麗な戦い方。

しかし、当然それだけではなく、俺たちがあまり使わないフェイントなども多用していて、対人戦闘に向いた技術が光る。

そのような技術は魔物相手にはあまり効果がなく、魔物の方もフェイントを使ってきたりはしないため、慣れていないトーヤはやや戦いにくそうだが、若干ある地力の差でなんとか対応できている、といったところだろうか。

「ちっとばかしトーヤは、対人戦闘が苦手か」

「私たちは冒険者ですから。盗賊の討伐経験はありますが、所詮は盗賊ですし」

俺たちに対する質問、というわけではないのだろうが、そう呟いたマーモント侯爵にハルカが頷き応え、続いてナツキが口を開く。

「貴族になるなら、そちらも鍛えるべきでしょうか?」

「そうだなぁ、人に命を狙われることがないとは言わねぇ」

やっぱりか!

だから貴族になんかなりたくないんだ。

ただ、人権意識の乏しいこの世界、悪徳貴族に狙われる危険性も考えると、どちらがマシかはなんとも言えないのだが。

そんな俺の嘆息を感じたのか、マーモント侯爵は苦笑して言葉を続ける。

「――が、余程恨まれることでもしねぇ限り、辺境の子爵、男爵程度に暗殺者を差し向けるヤツはいねぇだろうな。それにレイモンとあれだけやり合えるなら、十分だと思うぜ?」

「そうですか。――レイモン様はかなり強いと考えても?」

「あぁ。親の贔屓目なしに見ても、この国でも上位に入ることは間違いねぇな」

となると、俺たちも同じぐらいか。

弱くはないと思っていたが、活動拠点が辺境のラファンだっただけに、イマイチ基準が判らず、少し不安もあったのだが、これで多少は安心できそうだ。

勿論、上には上がいることは理解しているので、油断するつもりは毛頭ない。

「ちなみに、マーモント侯爵は?」

「儂か? 自慢じゃねぇが、この国の五指には入るだろうな」

ですよね! そんな気はしてた。

いや、そうでなければ、困っていた。

だって、【看破】で見えたステータスがこれだもの。

-------------------------------------------------------------------------------

種族:ランバー・マーモント

状態:健康

スキル:【カリスマ】 【剣の才能】 【剣術 Lv.8】

【威圧 Lv.4】 【筋力増強 Lv.4】 【政務 Lv.7】

【礼儀作法 Lv.4】 【戦術 Lv.2】 【指揮 Lv.3】

-------------------------------------------------------------------------------

【剣術】スキル、脅威のレベル8。しかも、【筋力増強】まで持っている。

他にも見慣れないスキルがいくつもあるし、さすがは侯爵といったところ。

これで上位じゃないと言われたら、いろんな意味で怖すぎる。

ちなみにだが、ちらりと確認してみたエミーレ様にも、【剣の才能】と【剣術 Lv.8】があったりしたのだが、マーモント侯爵とどちらが強いかは不明である。

でも取りあえず、もしリアの両親を怒らせたりすれば、トーヤが死亡確定なのは間違いないだろう。

――たぶん大丈夫だとは思うが、後で教えておいてやろう。

「つっても、正面から戦えば、だけどな。暗殺に対抗できるかは別問題だぜ? その点では、冒険者である前たちの方がレイモンより優秀かもな?」

「どうでしょうか。多少の心得はありますが……」

「ふむ、自惚れたりしねぇのは、良いことだと思うぜ?」

【索敵】を筆頭に、【隠形】や【忍び足】など、それ系のスキルはある程度持っているので、普通の人よりは確実に上だとは思うが、 本(・) 職(・) がどれほどのものなのか、俺たちは知らない。

むしろ、それらのスキルを過信しすぎないよう、注意すべきだろう。

――などと話している間も、トーヤとレイモン様はほとんど絶え間なく剣を振るい、激しい打ち合いを続けていた。

そんな二人を比較すれば、六対四ぐらいでレイモン様の攻撃が多く、トーヤは防御に偏りがち。

だが、トーヤの方が劣勢かと言えば必ずしもそうではない。

防御を重視しているのは、普段から俺たちを守るように行動することが多いからであり、今もレイモン様の攻撃をしっかりと去なしていた。

結果的に双方、なかなか決定的な攻撃は当たらない。

そのことに焦れたのか、トーヤは一息入れるように大きく後退すると、深く息を吸い込んで吼えた。

「『やぁぁっ!』」

「(――珍しい。【咆吼】ね)」

俺たちだけになんとか聞こえるような声で、ハルカが小さく呟く。

「苦し紛れ、ってワケでもないんだろうが……」

魔力の扱いに慣れたことで知ったのだが、【咆吼】は魔力を使って放つ一種の魔法だった。

ゲーム的に表現するなら、対象とのレベル差に応じて状態異常『怯み』を引き起こす。効果範囲は指定可能、といった感じだろうか。

つまり、相手が強ければほとんど効果がないし、広範囲を対象とすると効果も落ちる。

雑魚が大量に出たときに、敵の動きを少し止めるぐらいはできるかもしれないが、俺たちの戦い方でそれが必要な場面はほぼないし、同じ魔力を消費するなら、俺たちが攻撃魔法で範囲攻撃をする方がより効果的。

レベルアップすればまた別なのかもしれないが、ご近所トラブルを避けるためにも、早朝の訓練で使うことはできないのが難しいところ。

そんなわけで、最初から持っている割にあまり活躍の場面がない【咆吼】スキルであるが、一対一の戦いであればそれなりに有用だろう。

――効果を発揮すれば、だが。

「う~ん、イマイチ……?」

「練習不足でしょうね、やはり」

魔法の一種ということは、抵抗も可能ということ。

レイモン様に【魔法障壁】などのスキルは見えなかったが、それとは関係なく、強い人は魔法に対する抵抗力も高いわけで。

当然と言うべきか、レイモン様もトーヤの【咆吼】を正面から受けてもほとんど影響はなかったようで、一瞬だけ動きが鈍ったにすぎなかった。

だが、その僅かな隙が勝負の分かれ目だった。

乱れたレイモン様の剣をトーヤが避け、側面へと回り込み――。

「そこまで!!」