軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

455 試される? (2)

「いえ、結構です」

即座に、はっきりと拒否を示す。

マーモント侯爵が提案した直後、ハルカたちの視線が俺に向けられたこととはまったく関係ないが、ここで曖昧な態度を見せることは避けるべきである。

それぐらいは俺も理解している。しているのだ。

――多分、獣耳付きの美人のメイドさん。

興味がないとは言わないけれど! くっ……!!

「マーモント侯爵、お手数をお掛けしますが、よろしくお願いいたします」

「ふっ。まぁ、お前は多少は学んでるんだろ? 大して覚えることもねぇよ」

内心は血を吐くような思いで頭を下げると、マーモント侯爵はまるで俺の葛藤を見透かすように笑い、言葉を続ける。

「叙爵さえ終われば、後は自由にやって構わない。だが、多少でも領地としての形を整えるつもりがあるなら、やはり領地で働く者を捜すべきだろうな」

「それは移住者ということでしょうか?」

「それはねぇよ。儂もお前が与えられる領地については多少調べたが、いきなり移民なんぞ受け入れたら、全員死ぬだろ?」

「……否定できませんね」

呆れたように言われ、俺もまた頷く。

ダンジョン周辺の土地に出てくる魔物は、決して弱くない。

一般人は当然として、低ランクの冒険者では魔物の餌食だし、そもそも辿り着くことすらできないだろう。

一応、ダンジョンの入り口周辺には防壁を作っているが、そこに入れる人は限られる。

とても『移住者』と言えるほどの数は暮らせない。

「なら、まずは自分たちで開拓かなぁ? 人手が欲しいけど、普通の人は無理。でも、あたしたちにはあそこで生き残れるような人を雇う余裕はない。ボチボチ頑張る?」

「労働者を雇っても守れないわよね。あの辺りの魔物の遭遇頻度を考えると」

「守れるとしても、オレたちと同じ人数ぐらい? それなら自分たちで開拓する方が早いよな」

建物の建築みたいに技術が必要な部分は別として、主に肉体労働である開拓に関して言えば、一般人以上の体力に魔法まで併用できる俺たちの方が、確実に効率が良い。

労働者の護衛に神経を磨り減らすより、普通に働く方がマシである。

「とはいえ、どうやって進めていけば良いのか……」

ダンジョン周辺を切り拓き、安全に暮らせる場所を確保するのは当然として、そこに暮らす領民がいなければ領地とは言い難い。

どこかで領民の募集をすれば良いのか?

それとも、行政関連をしっかりと立ち上げるのが先なのか?

そもそも領民を集めるべきなのか。

これまでの稼ぎでも別に困っていないのだから、自分たちが生きていくだけなら適当にダンジョン周辺を管理して、最低限の人員だけを雇うという方法もあるかもしれない。

「……俺たちが貴族になれば良いだけで、必ずしも領地の開発を一気に進める必要はないんですよね?」

「そうだな。だが、お前たちがどういうつもりだろうと、おこぼれに与ろうとする者は出てくるぞ? 上手く騙して利益を得ようとする者もな」

「君たちは余所との折衝など、あまり慣れてはいないだろう? 色々と相談する相手が必要じゃないかい?」

マーモント侯爵とレイモン様に揃って言われ、俺たちは顔を見合わせる。

情報化社会を生きてきた俺たち。二人が想像しているよりは詐欺の手口などについても詳しいとは思うが、この世界、そして国特有の物事についてはあまり自信がない。

ハルカたちの持つ【異世界の常識】も、一般常識以外には対応していないので、当然ながら貴族の常識などにはあまり効果がないのだ。

「そうなると、やはりそのあたりに強い人を雇った方が……あ、リアさんに任せられるのでは? 生まれながらの貴族ですし」

考え込んでいたナツキがそう指摘すると、今度はマーモント侯爵家の三人が困ったように顔を見合わせた。

「あー、なんつーか、できねぇとは言わねぇが……」

「次期当主は私と決まっていたからね。リアはあまり得意ではないんだよ、そのあたりのことは」

「リア、だからきちんと勉強しておきなさいと……。武力で領地を守るのは、貴族の妻の仕事ではないんですよ?」

「は、母上……。で、でも、幸いトーヤは領主ではありません。二人で肩を並べ、外敵から領地を守ることも十分な貢献かと!」

家族三人から困ったような視線を向けられたリアが、情けない表情で眉尻を下げたが、すぐに気を取り直して強く宣言。

だが、エミーレ様は呆れ気味に深いため息をついた。

「普通の貴族であればそれでも構いませんが、ナオさんたちは新興貴族となります。侯爵家の娘であるあなたが率先垂範せずしてどうしますか!」

「うぅ……」

エミーレ様の言葉が正論であることは理解しているのだろう。

リアはぺたんと耳を伏せてやや涙目になるが、レイモン様が取り成すように口を開く。

「まぁまぁ、母上。サルスハート流皆伝を得たリアは、十分に誇れるマーモント家の娘だと思いますよ? 内政については得意な者に任せれば良いだけです」

「兄上! さすがは――」

嬉しそうに顔を上げ、何か言いかけたリアだったが――。

「無理にやらせて、取り返しの付かないことになっても困りますから」

「兄上……」

続いたレイモン様の言葉に、再び涙目となる。

「リア、大丈夫だ。オレもそういうのは苦手だからな。だが、ハルカたちに任せておけば、基本的に問題ないから、安心して良いぞ」

「いや、それはそれで心配なんだが……やはり、私が勉強するしかないか?」

「ははは……まぁ、リアも多少は学ぶべきかもしれないね。一応、当家から内政の得意な者を派遣することは可能だし、おそらくスライヴィーヤ伯爵も紹介はしてくれるだろうけど、無理に受け入れろと言うつもりはないよ」

「私たちが断っても構わないんですか……?」

俺とトーヤが貴族になれるのは、マーモント侯爵たちの後押しがあったからである。

そんな人が紹介する人を拒否することが、果たして許されるのか。

社交辞令で言っているだけで、現実的には強制ではないのかと探るようにハルカが尋ねたが、レイモン様はなんでもないように軽く笑う。

「トーヤは義弟になるわけだからね。ウチの兄弟仲は良い方だと思うけど、それでも母上の子供は私とリアだけ。私が当主になった後、最も強い縁戚関係になる相手なのに、仲が拗れるようなことはしないさ。受け入れてくれれば、それはそれでありがたいけどね」

「だが、下手ヤツを雇うよりは、ウチやスライヴィーヤが紹介する者を入れた方が良いと思うぜ? 紐付きにはなるが、まともな人材であることは保証されてるからな。それとも、誰か心当たりがいるか?」

マーモント侯爵やスライヴィーヤ伯爵から紹介された者が、紹介者の意向を汲むことは当然だろうし、新興貴族である俺たちからすれば、それ自体はさほど問題でもないだろう。

むしろ、ある程度の繋がりを持ち続けて、庇護下にある方が余程利があるはずだ。

問題となるのは、紹介された人と俺たちの相性ぐらいか。

良く言えば少数精鋭、現実を言えば足りない人材で領地の開発を進めていく以上、気が合わない人と一緒に仕事をしていくのはストレスが溜まるだろうし、紹介を受けた以上は簡単にリストラというわけにもいかないだろう。

「かといって、俺たちの知り合いなんて、そう多くはないからなぁ……」

「だよなぁ……。トミーとか?」

「う~ん、頼めば協力してくれるかもしれないけど、求める人材とはちょっと違うよね」

「そうね。長期的には、鍛冶屋の存在はありがたいとは思うけど……」

家を建てるなら大工が必要だし、領地を守るには兵士が必要。

そして、それらの職業には鍛冶屋の存在も不可欠なわけで、領地にトミーが来てくれるならば助かることは間違いない。

だが、最初に必要なのは文官であり、極論トーヤでも、ある程度の鍛冶仕事は可能である。

「知り合いの中で多少でも条件に一致しそうなのは、ディオラさんぐらいでしょうか?」

「……そういえばディオラさんは貴族だったか。あんまり意識してなかったけど」

普段は気の良いお姉さん。

たまーにさり気ない迫力が見え隠れするけれど、貴族っぽい傲慢さなんて皆無で、とても頼りになるお人である。

今の俺たちがあるのは、ディオラさんの協力があったからと言っても過言ではない。

「ディオラっつーと……ディオラ・メレディスか?」

「家名までは知らないですが……たぶん? ご存じなんですか?」

マーモント侯爵の確認に、俺は曖昧に頷く。

ディオラさんの実家が男爵家であることは聞いた覚えがあるが、家名については記憶にない。

だが、マーモント侯爵がここで名前を出すということは、いつもお世話になっている、あのディオラさんで間違いないのだろう。

「お前たちについては調査しているからな。当然、周辺の人物についても同様だ。メレディス家はネーナス家とも繋がりがあるしな」

「そうでしたか。とはいえ、ディオラさんを冒険者ギルドから引き抜くのは難しいでしょうね」

ディオラさんは、ラファンの冒険者ギルドの副支部長。

稼ぎだってそんなに悪くないと思うし、かなり安定した職業である。

いつも俺たちを助けてくれるディオラさんではあるが、さすがに冒険者ギルドを辞めてまで、苦労を背負い込む理由はないだろう、と思ったのだが――。