作品タイトル不明
422 坑道の中へ (5)
町長と別れた俺たちは、再びロック・ワームを引き摺りながら、ギルドへと向かう。
その道中、俺の顔を見て少し迷ったような様子を見せていたタニアが口を開いた。
「ナオ、なんで売ることにしたにゃ? ナオだったら、解体して売った方がきっと儲かるにゃ。あ、もちろん、自由にすれば良いけどにゃ」
「あ、それはボクも不思議かも。ボクたちだと解体は難しいけど、ナオならできるよね?」
「それか。町長がそこまで悪い人物じゃなさそうだから、多少の利益を与えても良いかと思ったのもあるが……」
最初の依頼票の不備――おそらくは意図的な――はどうかと思ったが、未帰還の冒険者の縁者に見舞金を出しているようだし、先ほどの対応も悪くなかった。
あそこで渋っていれば、討伐報酬のみ請求して素材はギルドに渡すことになっただろうが、ギリ及第点と言っても良いだろう。それに加え――。
「一番の理由は、俺がロック・ワームを解体したくなかったからだな」
「そうなんですか? 解体には慣れてますよね、ランク六なんですし」
「魔物の解体には慣れているが……解体して、行方不明者の 痕(・) 跡(・) が出てきたら嫌だろ?」
「「「……あぁ」」」
俺の言葉に、全員が納得したような声を漏らす。
出てきたのが武器や防具の残骸とかであれば問題ない。
骨とかでも耐えられる。
しかし、消化途中の死体とか出てきたら、最悪である。
それを避けられるのなら、多少の損失ぐらい気にならない。
それでも、町長が冒険者を蔑ろにするようなら話は別だったのだが、少なくともこの町出身の冒険者相手であれば心配は必要なさそうだし、もしも何か見つかっても、適切に対処してくれるだろう。
やはりそういうことは地元の有力者に任せるのが、一番だと思うしな。
……まぁ、面倒事を避けただけとも言えるわけだが。
◇ ◇ ◇
ロック・ワームの討伐から四日。
俺たちは坑道の七割ほどの探索を終えていたが、未だロック・ワーム以外の魔物には遭遇していなかった。
やはりロック・ワームが原因だったのかと、そんな風にも思い始めていた俺たちだったが、変化があったのは、その日の昼休憩を終えて、少し歩いたころだった。
「……止まるにゃ。この先に何かいるにゃ」
先頭を歩いていたタニアが手を上げて俺たちに注意を促す。
緊張感漂うタニアの言葉を受けて、メアリとミーティアが俺の顔を見上げ、俺はそんな二人に小さく頷く。
さすがは獣人と言うべきか。
トーヤも【索敵】スキルもなしに感知していたが、タニアもそれができるのだろう。
あえて口には出さなかったが、俺の【索敵】にも少し前から敵の反応が六つ、しっかりと捉えられていた。
「この先というと……地図ではちょっと広くなってますね」
「タニア、敵の数は判るかな?」
「そこまでは判らないにゃ。たぶん、複数……にゃ?」
タニアは自信なさそうに少し首を傾け、言葉を濁す。
おそらくだが、こちらに来た頃のトーヤであれば、正確な数は判らずとも、複数であることは自信を持って言い切っただろう。
そう考えると、シャリアたちにこの先にいる敵を相手にするのは、少し厳しいか?
教えても良いのだが、これも経験。
メアリとミーティアもいるし、俺も参加すれば致命的なことにはならないだろうから、ここは見守ることにする。
「複数いても、ゴブリンなら大丈夫だよね? ボクたちなら」
「シャリアさんたちは、斃したことあるんですよね?」
「はい~、ホブゴブリンまでなら~」
「なら、きっと大丈夫なの。上位種がいても、ミーたちがやっつけちゃうの!」
意気軒昂なミーティアだが、メアリの方はさりげなく俺の方を窺い、俺が何も言わないのを見て自身も口をつぐむ。
ただしその手は、しっかりと武器を握りなおしているので、俺の表情から何かを感じ取ったのかもしれない。
「えっと、それじゃ、ボクとアーニャが最初に飛び込むから、メアリとミーティアがそれに続いて。タニアとナオは援護をお願い。――行くよっ!」
俺たち全員が頷いたのを確認し、シャリアが走る。
それにアーニャたちが続き、広間へと飛び込む――が、そこでシャリアの動きが止まった。
「なにあれ!? ゴブリンじゃない!」
そこにいたのは、明らかに普通のゴブリンとは異なる魔物だった。
大きさにさほどの違いはないが、全員が武器を携え、全体的に筋肉質。
森の中でひょっこり出会うゴブリンとは異なる威圧感に、シャリアたちは動きを止めたが、ミーティアとメアリの反応は素早かった。
「上位種なの! ゴブリン・ファイターが二、リーダーが三、キャプテンが一なの!」
「ナオさん、キャプテンをお願いします!」
二人はすでに上位種との戦闘も経験している。
即座にその種別を見抜き、自分たちだけでは危ないと判断、俺に支援を求めた。
「了解!」
全てゴブリンの上位種だったことはやや予想外だが、シャリアたちの反応に関しては想定内。
俺は即座にシャリアの横を抜け、ゴブリン・キャプテンへと迫るが、俺を遮るようにゴブリン・リーダーが立ち塞がった。
だが、俺は魔法使い寄りの戦士なのだ。
状況を予想していて準備をしていないはずもない。
「『 火矢(ファイア・アロー) 』!」
馬鹿の一つ覚えみたいだが、極めた基本技は必殺技にも等しい。
そして今回も、『 火矢(ファイア・アロー) 』は俺の期待に応えてくれた。
頭が失われたゴブリン・リーダーの身体を蹴倒し、その背後にいるゴブリン・キャプテンへと槍を突き込んだ。
「グギャッ!」
「ちっ!」
かなり良いタイミングだと思ったのだが、さすがはゴブリン・キャプテンと言うべきか。ギリギリながら、俺の槍を剣で去なした。
というか、ゴブリン全員、生意気にもそれなりの剣を持ってるな?
ダンジョンで遭遇した時は、大半が棍棒だったのに。
もしかして、行方不明になっている冒険者から奪った物だろうか?
「リーダーは私とミーで相手をします。シャリアさんたちは、ファイターの相手を!」
メアリがゴブリン・ファイターを指さしながら指示を出せば、シャリアたちが我に返ったようにコクコクと頷いて、そちらへと向かった。
「わ、解った!」
「頑張ります~」
「強そうだけど、なんとかするにゃ!」
気合いを入れ直したシャリアたちだったが、それを制するように再びメアリの言葉が飛ぶ。
「無理して斃す必要はありません。防御優先で!」
「ミーたちがこっちを斃すまで、頑張って欲しいの!」
「うぐっ。アーニャ、タニア、悔しいけど、その方針で!」
「はい~。というか、かなり強いです、このゴブリン」
シャリアは気勢を 殺(そ) がれたように言葉に詰まったが、実際にゴブリン・ファイターと剣を合わせたアーニャの反応を見て、メアリたちの言葉が正しいことを実感したのだろう。あまり踏み込むことなく、ゴブリン・ファイターと対峙した。
――普通のゴブリンと比較して、ゴブリン・ファイターがどれほど強いか。
それを正確に言うのは難しいのだが、普通のゴブリンなら一般人でも頑張れば斃せるが、ファイターになると数人がかりでも殺されかねない。それぐらいの差はある。
シャリアたちは冒険者だし、戦いの訓練もしているが、これまでに斃した魔物がホブゴブリンまでなら、贔屓目なしに判断すれば一対一ではかなり厳しいだろう。
タニアが上手く援護すれば何とかなるかもしれないが、怪我を避けるのなら、冒険者でも冒険はすべきでない。
俺が援護できれば良いのだが――。
「ガァッ!!」
「ふっ!」
振り下ろされた剣を弾き、素早く槍を翻すが、その穂先はゴブリン・キャプテンの腕にわずかに傷をつけるに止まる。
こちらの戦闘だけに注力すれば斃すのも難しくないだろうが、フォローできるように全体を見ながら戦うのは、なかなかに骨が折れる。
あまり無理をすれば俺でも怪我をしかねないし、魔法を使ってしまうとシャリアたちが危険なときにフォローができない。
メアリたちはゴブリン・リーダーと互角以上に戦っているので、問題なさそうだが……それでも手を出すならメアリか。
俺はゴブリン・キャプテンを相手にしながら素早く詠唱、こちらに背を向けているゴブリン・リーダーに対して『 火矢(ファイア・アロー) 』を飛ばす。
「ギャッ!?」
多少の火傷を負わせる程度の弱い『 火矢(ファイア・アロー) 』だが、メアリにはそれだけで十分だった。
「えいっ!」
ゴブリン・リーダーが痛みに仰け反った瞬間、メアリの剣がゴブリン・リーダーの頭に叩き込まれた。
小柄ではあるが、筋力だけなら俺たちのパーティーでも上位に位置するメアリの一撃。
ゴブリン・リーダーの頭はあっさりと粉砕され、その身体は地面に倒れる。
それを確認するかしないか、メアリは動きを止めず、ミーティアと戦っていたゴブリン・リーダーも背後からバッサリと斃してしまった。
「ミーはナオさんの方へ!」
「解ったの!」
ミーティアが俺の方へ走り、メアリはシャリアたちの方へと走る。
そうなると後は消化試合だった。
ゴブリン・キャプテンがミーティアに気を取られた瞬間に、俺の槍がその心臓を貫き、ゴブリン・ファイターの方もメアリが参加してしまえばただの雑魚。
さほどの時間もかからず、戦闘はあっさりと終了したのだった。