軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

383 月を待つ (4)

サイラスの扱う武器は、両手剣である。

種類としてはメアリの持つ物と同じだが、体格の違いからか、二人から受ける印象はまったく異なる。

メアリの方はどこか武器に振り回されているようにも見えるのに、サイラスはどっしりと構えて軽々と振り回し、振り切った後の引き戻しなども軽やか。片手剣を使っているトーヤと比べても遜色がない。

模擬武器だけに本来の武器よりは軽いだろうが、それでも両手剣などの大型の武器は中に錘でも仕込まれているのか、それなりの重さはある。

決して楽に扱える物ではない。

数度の剣のぶつかり合い。

体格ではトーヤの方が少し劣っているのだが、力負けしている様子はまったくない。

俺たちの中では一番膂力に勝るトーヤ故に、たまには押し負ける経験をすれば良いとか思ったのだが、サイラスでも難しいようだ。

マークスさんあたりなら、おそらくあっさりとトーヤを上回ってくれるだろうが、彼は支部長だからなぁ。『ちょっと汗でも流しましょう』なんてわけにもいかない。

そして切り結ぶこと数十回。

互いの身体に一撃を入れることもなく、二人は再び離れて対峙する。

「強いな。サイラス、ランクはいくつなんだ?」

「一応、お前たちと同じランク六だが、ここの支部長の護衛を引き受けているから、お情けでって感じだな。それがなけりゃ、五がせいぜいだ」

「そうなのか? かなり強いと思うんだが……?」

意外な答えに俺が横から口を出せば、サイラスは剣を下ろして、首を振った。

「バカ、俺一人が強くても意味がねぇんだよ。お前ら、パーティー全員でランク六だろ? それだけの腕を持つメンバーを集める人脈、それを維持する協調性、カリスマ、計画性や交渉力。色々あるが、それらも含めて判断されんだよ」

「そうなのか……」

単純に強ければランクが上がるわけじゃないとは知っていたが、思った以上に総合的に判断するんだな。

「なら、パーティーを解散したら、ランクってどうなるんだ?」

「別に剥奪されたりはしねぇよ? ただ、基本的に冒険者ギルドからの信頼を表した値だからな。パーティーじゃなくなりゃ、少なくともギルドからの依頼は減るだろうな」

であるならば、個人のランクとパーティーのランクを分けても良さそうに思うが、ギルドカードに特別な機能があるわけでもなし、それを管理するのも面倒か。

最初のナツキたち、そしてメアリたちを見ても、おそらくはパーティーの実績と、個人の行動、その両方を見て判断しているのだろう。

パーティーに参加しているだけで、単純にランクが上がるなら、寄生みたいなことも起こりうると思うし。

逆に言うと、パーティーメンバーに恵まれなければ、サイラスのようにランクを上げられなくなるわけだが、それも含めての実力と言うことなのだろう。

「さて。せっかく手応えのある相手と訓練できる機会なんだ。時間がもったいねぇ。もっとやろうぜぇ! 次はナオ、お前だ!」

「元気だな、おい……」

さすがサイラス。ケトラさんが顔を顰めるだけあって、外見通り暑苦しい。

しかし、強い相手との模擬戦が良い経験であることは間違いなく。

俺は軽く身体をほぐすと、木製の槍を手にサイラスに向かって足を踏み出した。

◇ ◇ ◇

フレディと知り合って数日。

あれ以降、フレディとサイラスは毎日訓練場に顔を出し、俺たちとの訓練に明け暮れていた。

なんとも汗臭い逢い引きではあったが、彼らとする訓練はなかなかに有意義で、それなりに成果も出ていた。

俺とトーヤ、それにサイラスはおおよそ互角というところなので、判りやすい変化はないのだが、メアリとミーティアの方は、既にフレディ相手に勝ちを拾えるようになっている。

幼い女の子相手に黒星が付いたフレディの方はかなりのショックを受けていたが、サイラスに『お前も十分に上達してっぞ』と言われたらあっさり元気になっていたので、大した問題ではないだろう。

そして今日はそのサイラスに誘われて、訓練を終えた後、全員で酒場へと繰り出していた。

「「「カンパーイ!」」」

「ごっごっごっ。ぷはぁぁぁ! 動いた後の酒は、やっぱうめぇ! もう一杯!」

「ゴク。肉多めのメシをくれ」

「ゴクゴクゴク――ふぅ。今日も疲れたっす……」

一気にジョッキを空けたサイラスと一口だけ飲んで料理を頼むトーヤ、半分ほど飲んでテーブルに身体を預けて息をつくフレディ。

三者三様である。

ちなみに俺たちがいるこの酒場は、サイラスが選んだのだが、曰く『メアリたちもいるので健全な酒場を選んだ』らしい。

しかしそれでも、こんな場所に来る機会のない彼女たちはやや戸惑い気味。

早速、料理に手を伸ばしているトーヤとは違い、静かにジュースの入ったコップを傾けている。

俺たちもあまり酒場には来ないが、最初の定宿にした“微睡みの熊”は毎晩、酔客でいっぱいだったので、戸惑いはない。

それに参加することはなかったが、その中で食事はしていたわけだしな。

ちなみに、俺とトーヤが飲んでいるのもジュース。

エールよりも若干高いのだが、今日はサイラスの奢り。

遠慮するつもりはない。

というか、俺からすれば、エールを飲むなら水の方がマシである。

「メアリ、ミーティア、遠慮せず、頼みたいものがあれば自由に頼んで良いからな? サイラスの奢りだし」

「うん……でも、あんまり美味しくないの」

どうせ他人の財布(しかも、この辺の酒場だと、大して高くもない)と気軽に言った俺に、ミーティアはコップを少し悲しそうに見る。

「……あぁ、確かにそんなに美味くはないな、このジュース」

「ははは……、普段飲んでいるものが美味しすぎますからね」

正直なミーティアの言葉に、メアリもやや乾いた笑いを漏らす。

なんといっても、家で飲んでいるジュースはダンジョンで採取した果物を使った果汁一〇〇%、丸絞りのフレッシュジュース。

元の世界ですら、ちょっと気軽には飲めないような高級ジュースである。

だが、こんな酒場で飲めるジュースなんて、かなり水で薄めた――いや、飾らずに言ってしまえば、水に果実の香りがついた程度の代物。

水の代用品にはなるが、飲んでもあまり美味くはない。

「ねぇ、ナオお兄ちゃん、冷やして欲しいの」

「そうだな。冷やせばまだ飲めるか」

「あ、ナオさん。それなら私もお願いします」

「了解」

俺のも含め、メアリたちのジュースを冷やしてやれば、あまり美味しくないジュースも多少はマシになる。

ミーティアもにっこりである。

あとは料理の方だが……うん、こっちもそんなに美味くはないな。

軽く食べるだけにして、ヤスエの食堂でもう一度食べよう。

取りあえず、どこで食べてもほぼ外れのない、塩で炒ったナッツ類を注文しておく。

ちなみに、この町での普段の食事は、基本的にヤスエの食堂だけで済ませている。

俺たちでも美味いと思える料理が提供されていることもあるが、ハルカたちの食堂の手伝いと出産の手助けをする報酬として、チェスターから『皆さんの食事は全部無料にします』と言われているのも大きい。

今の俺たちからすれば大した額でもないし、払っても良いのだが、ハルカの『素直に言葉に甘えておいた方が良いと思う』との提案で、遠慮なくごちそうになっている。

というのも、本来、治癒魔法を使える人に出産に立ち会ってもらうことは、簡単にできるようなことではなく、仮に呼べたとしても、かなりの報酬が必要になる。

それぐらいに治癒魔法を使える人は貴重なわけで、ハルカたちが無償とか、格安とかで引き受けるより、報酬を支払ったという事実がありながら、その額が判りづらい『飲食無料』は双方にとって都合が良いということのようだ。

まぁ、俺たちがわざわざこの町に来たのも、相手がヤスエだからこそだし、今後のことも考え、出産に関わる経験を積むという思惑もあってこそ。

下手に報酬を受け取って、同じぐらいの報酬で『是非ウチにも!』と言われてしまうと、面倒なことこの上ないし、時間的にも引き受けることなどできないのだから。