軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お飾りにはならなかったけど、幸せに生きています

今日から建国祭が始まる。

民衆がフレデリックの言葉を聞こうと広場に集まっている。沢山の人たちが集まっているのか、外の空気がとても賑やかだ。明るく楽し気な声が聞こえてくる。

ユリアナは窓際に立ち、目を閉じてその雰囲気を感じ取っていた。

フレデリックにかかった魔法が解けてから、すでに半年近く経っていた。あの後、すぐにベティルがいた離宮は取り壊された。今は花も何も植えずに一面タイルが敷き詰められた場所となっていた。その中央にポツンと小さな四阿が作られているだけ。

結局ベティルが何を考えていたか、わからないまま。フレデリックにしても自身にかけられた魔法が解けてしまえばいいわけで、しかも元凶であったベティルはもういない。この国で、彼女のことを知っていた人たちはあっという間に忘れ去った。彼女がいたことも、彼女が引き起こしたことも。

周囲の人たちはそうであったが、ユリアナは彼女を時々思い出すことがある。

ユリアナは半分ぐらいは彼女に感謝に近い気持ちを持っていた。確かに大変な思いをしたけれども、もし彼女がいなければ、そもそもユリアナはフレデリックと結婚することはなかった。そして魔法がかかっていなければ、彼との距離は縮まらず、きっと空気のようにお飾りの王妃を目指して城の中で息をひそめて生きていただろう。

だけどベティルの魔法を通じてユリアナはフレデリックと思いを通じ合わせ、ごく普通の夫婦として生きている。この国に嫁いできたときには想像すらしていなかった幸せだ。

「幸せよね」

一人楽しく微笑み、少し膨らんだお腹を撫でた。ユリアナは顔をあげると、部屋の隅に控えていたアレシアに声をかける。

「ねえ、建国祭にお忍びで参加したいのだけど、どうしたらできるかしら?」

「……無理です」

「えー、何とかなるでしょう?」

アレシアなら大抵のことはできると思っているユリアナは可愛らしくおねだりしてみた。だがアレシアは無表情でユリアナを見やる。

「陛下にお願いしてみては?」

「絶対に駄目だって言うのがわかっているから相談しているんじゃない」

ユリアナはふくれっ面をした。子供ができてから、フレデリックの過保護が加速していて、そのゆとりのなさに不満が溜まっている。

「そもそも妊娠は病気じゃないのよ。しかもわたしの家系は多産系なの」

「一般的には大切にすべきとされていますから」

アレシアはすっぱりとユリアナの言い分を否定した。迂闊に同意して、そうよねと出かけられても困るというのがアレシアの本音だ。アレシアは自分の仕えている主人の行動力をきちんと把握していた。

「建国祭、楽しそうなのに参加できないなんて」

ぶちぶちと文句を言っていると、扉が開いた。顔をそちらに向ければ、式典用の服を着たフレデリックがいる。

「ユリアナ」

彼は白い詰襟の上着に同じく白いズボンを合わせていた。肩からは重そうな赤のマントを羽織り、マントの留め金には大きな緑色の宝石が使われている。いつもは無造作に下ろされている髪は綺麗に後ろになでつけられていた。

久しぶりに見る正装したフレデリックにユリアナはぼうっと見入った。その様子にフレデリックは眉根を寄せた。

「どうした。具合が悪いのなら、部屋に戻るか?」

「ううん。違うの」

「だが」

心配そうにフレデリックはユリアナの側に立つ。そして優しくお腹を見下ろした。フレデリックが何を心配しているのか気が付いて、ユリアナは朗らかに笑った。

「そんなに心配しなくても大丈夫なのに。気分はとてもいいわ」

お腹を守るように手を置きながら、くすくすと笑う。

「なら、行こうか」

フレデリックの差し出した手に自分の手を乗せた。フレデリックにエスコートされながら、これから民衆へ顔見せをするバルコニーへと向かった。ユリアナの歩調に合わせて歩くフレデリックをちらりと見た。

「フレデリック様」

そっと彼の名前を呼んだ。

フレデリックの足が止まった。フレデリックは信じられないと言わんばかりに目を見開き、その場に固まった。今まで名前を呼んでいなかったのだから、急に呼ばれて驚いたのだろう。ユリアナは悪戯が成功した子供のように満面の笑顔になった。そして下から彼の顔を覗きこむ。

「フレデリック様、わたし、幸せみたい」

「……お前は」

がっくりと肩を落とし、そのままユリアナの肩へ額を付けて項垂れた。大きな体にそっと腕を回す。

「だって言いたくなったから」

「もっと時と場所を選んでくれ……。今は何もできない」

「何をする気だったのよ」

声を立て笑えば、フレデリックがユリアナの目じりに軽くキスをした。

「さっさと挨拶を済ませよう」

フレデリックは姿勢を正すと、ユリアナの腰に腕を回した。半分浮かせるような感じで大股で歩き始める。

「またこの運び方……」

「横抱きの方がいいのか?」

チラリと目を向けられて、目を瞬いた。

「え?」

「それもいいかもしれない」

フレデリックはそのまま彼女を持ち上げると、横抱きにする。急に持ち上げられ慌てて彼の首に腕を回した。

「ちょっと待って! 本当にこのまま挨拶に立つの?」

「今日は建国祭だ。堅苦しい儀式ではない」

「そうかもしれないけど……流石に恥ずかしいわ」

「心配いらない。こういうのは皆喜ぶだろうよ」

フレデリックは混乱するユリアナを抱えたままバルコニーに出た。

幸せそうな国王夫妻を見て、歓迎する声が高らかに上がった。

Fin.