軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

使用人の申し出

こうして、テレーゼは休憩時間になると積極的にコリック姉弟攻略方法(?)の作戦を練ることにした。

「まあ、テレーゼ様。こんな夜遅くまで書き物なんて」

女官の仕事を終えたテレーゼは今日も、デスクに向かって考案中だった。

そんなテレーゼの背中に声を掛けたのは、中年の女性使用人メイベル。一年前、テレーゼがレオン大公の妃候補だったときから側で世話をしてくれた、リトハルト家に古くから仕えるベテラン使用人だ。今回も、女官であるテレーゼの使用人として両親に無理を言って引き抜かせてもらったのだ。

大公妃の女官とは基本的に貴族の令嬢の職であるため、彼女らの普段の生活補助は家から連れてきた使用人に任せる。中には三人も四人も部屋に侍らせる者もいるそうだが、テレーゼはメイベル一人で十分だし、自由にできるのでその方がよかった。

洗濯物を片付けてくれていたメイベルは一言断ってから、テレーゼが書いていたノートを覗き込んでくる。

「刺繍、ポーチ、プリザーブドフラワー……これは?」

「こっちはね、ジェイドのお姉様への贈り物候補よ」

テレーゼは椅子を引いて振り返り、とんとんとペンの先でリストアップされた項目の箇所を叩く。

「サフィーア様はお花が好きだそうだから、どんなものなら喜ばれるだろうかって、ひとまず箇条書きにしているの」

「わたくしの目が曇っていないのならば、候補の中に『腐葉土』や『園芸用スコップ』があるように思われるのですが」

「だって、サフィーア様はご自分で花壇の手入れをなさるそうだから。ほら、お父様お手製の腐葉土があるじゃない。ふっかふかの」

「さすがに、直接お会いしたことのない妙齢の女性に土を贈るのはどうかと」

「それもそうね……。はっ、なら日除けの麦わら帽子の方がいいかしら!? それとも、耐水効果のある農作業用ブーツとか……」

「テレーゼ様、こちらの項目は何でございましょうか」

話を逸らされた。

メイベルの骨張った指先が示すのは、サフィーアへの贈り物候補より下方にある、別の箇条書きたち。

「好きなもの、好きな色、好きな動物、休日には何をして過ごすか……」

「これはね、ジェイドについて知りたい項目よ」

テレーゼは胸を張って答える。

「メイベル、私は気づいたの。私はジェイドにプロポーズされておきながら、ジェイドについての知識が浅すぎるって。そんなんじゃだめだと痛感したわ」

「なるほど……」

「ほら、ジェイドは私の旦那様になるのだから、旦那様の食べ物の好みとか、趣味とか、そういうのを知っておかないと円満な夫婦生活を送れないと思うの。ジェイドは私のことをよく知っているみたいだけど、それだけじゃいけないのよ。私もジェイドのことを理解しないと」

「テレーゼ様……立派になられて……」

「他にも、ジェイドの身長体重、スリーサイズ、足の大きさにズボンの丈も聞いておかないとね」

メイベルが黙ってしまった。

テレーゼは構わず、リストアップされたものを嬉々として読み上げる。

「口癖、性癖、好きな女性の仕草。それに貧乳派か巨乳派か」

「ちょっと待ってください、テレーゼ様」

そう言って問答無用で紙を没収された。なぜだ、とテレーゼは喉を反らせてメイベルの顔を睨み上げる。

「ちょっと、まだ途中よ。他にもどんなプレ」

「そんな知識をテレーゼ様に教えたのは誰ですか」

「ふふん、私の行動力を甘く見ないで。リィナお姉様を待つ間に廊下に立っていたら、訓練帰りの近衛騎士たちの会話が聞こえてきたの。あんなのが好みだとか、あの子のこんなのが知りたいとか。事前の予習はばっちりよ、メイベル!」

にやりと不敵に笑うテレーゼ。そんな彼女の背後では、熟練の使用人が紙を持ったまま、頭を抱えている。もしかして、体調が悪いのだろうか。

「メイベル、気分が悪いのならもう休みなさい。後の作業は私一人で進めるから」

「いいえ、このメイベル、しかとテレーゼ様のサポートを致します」

とたんにきりりと表情を改めるメイベル。何とも頼もしいことだ。

(メイベル、体がしんどいのに私に付き添ってくれる……これは、早く計画を立ててメイベルを安心させないと!)

決意を胸に燃やしたテレーゼは、うんうん頷いてメイベルから紙を受け取る。

「ひとまずテレーゼ様、これと、この辺と、あとここら一帯は全て削除してください」

「うーん……せっかく騎士のみんなから知り得た情報なのに」

「テレーゼ様」

「はぁい…………そうそう、メイベル。ジェイドにしてもサフィーア様にしても、ご挨拶に伺う前に一度、コリック家を見てみたいのだけれど、やっぱり難しいのかしら」

不可、の言葉を覚悟して問うてみたテレーゼだが、やはりメイベルは難しい顔をした。

「そうですね……いくらジェイド殿の実家といえど、今のテレーゼ様はまだ、ジェイド殿の家族ではありません。よって、やたらめったらコリック家を訪問するのはよろしくないでしょう」

「そうよね……」

「わたくしでできることでしたらいたしますよ。何か、ご要望が?」

メイベルが姿勢を低くして問うてくる。どうやら頭痛は治まったようで、テレーゼも一安心だ。

「ええ。……まずは、サフィーア様が手入れなさっているという庭を確認したいの。お花の種類や花壇の規模、それからサフィーア様がどのように花壇の手入れをなさっているのかね。それから、お屋敷内の様子。サフィーア様の花は飾ってあるのか、調度品や美術品はどういうものなのか。そこからも、コリック家の好みも見えてくると思うの」

サフィーア・コリックは滅多に社交界に出てこないという。となれば、城内でサフィーアに会うことは難しい。侯爵家令嬢と伯爵家令嬢でテレーゼの方が立場が上なので、無理矢理に呼びだすこともできる。

だが、そんな形でサフィーアと会いたくはない。そもそもコリック家に部外者であるテレーゼが首を突っ込むことになるのだ。社交界に出ないとサフィーアが言うなら、彼女の主張を通して臨むべきだ。

テレーゼの提案を聞いたメイベルは、心得たように頷いた。

「なるほど……それでしたら、わたくしたちでなんとかできるかもしれません」

「本当!?」

「テレーゼ様がコリック家に調査に行くことは難しいでしょう。しかし、わたくしのような使用人が、テレーゼ様からの手紙を届けにコリック家に向かうということは可能です。その際に、わたくしや御者のトーマスでコリック家の観察をし、テレーゼ様に報告することができますよ」

メイベルの淀みない返事に、テレーゼは思わず胸の前で手をがっちり握り合わせる。

「メイベル……!」

「ただ、わたくしたちにもできることは限られます。逆に、テレーゼ様にしかできないこともあるでしょう。そちらの方は、テレーゼ様にお任せするしかありません」

「十分よ。もちろん、メイベルたちが頑張っているのに私だけのうのうと過ごすつもりはないわ。今度ね、ジェイドと一緒にお散歩する予定なの。その時も、いろいろ情報を聞き出しておくわ!」

テレーゼは上機嫌で、手元の紙を眺める。メイベルの指導を受けてかなりの項目に斜線を入れてしまったが、気持ちは高揚する一方だ。

(よし、頑張れテレーゼ!)