軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リィナの好きな人

ジェイドは定例報告会があるらしく、別の騎士に入り口の番を任せて出ていった。

彼が出ていって数分の後に、リィナが戻ってきた。リィナは腕いっぱいに紐綴じの本を持っており、テーブルにそれらを積んだ。

「ただいま帰りました、テレーゼ様」

「お帰り、リィナ。大荷物をありがとう」

「どういたしまして。……ああ、紅茶のいい匂いがしますね」

「メイベルが淹れてくれたの。そうだ、リィナも座ってお茶にしましょうよ。その後、本を読まない?」

「そうですね、了解しました」

リィナもすんなり頷いてくれたので、リィナはメイベルを呼んでお茶の仕度を任せた。

「ジェイド殿は報告会でしたっけ? 下の階ですれ違ったのですが」

リィナに聞かれ、テレーゼは頷く。

「そう聞いたわ。ジェイドには本当にお世話になっているわね」

「ええ。……私も彼は、非常に頼りになるよい男性だと思います」

リィナがさらりと付け加えたため、おや、とテレーゼは首を傾げる。

何かおもしろい匂いを嗅ぎ取ったのだ。

「リィナもそう思う?」

「も、ということはテレーゼ様、あなたも?」

逆に問い返された。こういうところが、本当にリィナにはまだまだ敵わないと痛感する。

「あはは……そうね。私は一応レオン大公の妃候補としてここにいるけど、レオン大公は……その、正直何を考えられているのかよく分からなくて……」

レオン大公の騎士であるジェイドがいる前ではなかなか口にできなかったのだが、リィナならきっと大丈夫だろう。

(そうよ、連日起こる妃候補たちの陰湿な喧嘩……あれだって放置しているし)

内心憤るテレーゼだが、どうやらリィナも同じことを思っていたようだ。茶を淹れてくれたメイベルに礼を言った彼女は、紅茶と同じ色の目を瞬かせる。

「城のこの有り様ですか? 確かに、妃候補たちを集めたのはいいものの、レオン大公ご自身は『指輪の儀式』まで放置するおつもりのようですからね」

「でも、今やお互いの足を引っ張りあったり弱い令嬢を虐め倒したりってところまで来ているのよ。お城の雰囲気も何となくギスギスしているし、放っておくものなのかしら」

「……レオン大公も何か、思惑があるのでしょうね。私は一度、お目に掛かったことしかないので何とも言えませんが……」

「えっ、あるの?」

興味をそそられ、不機嫌だったテレーゼは食いつく。

レオン大公は人前に出るのを嫌っており、テレーゼたち妃候補は特例として、彼からのお言葉を戴いた際に顔を見ることができたのだ。官僚であっても、普通なら大公の顔を見ることはできない。大公の人前嫌いは筋金入りで、大公が子どもの頃からずっと、皆の前に姿を現さないのだという。

「はい、といっても本当に偶然でしたが。半年ほど前、書類を届けに行った際に鉢合わせてしまったのです。普段なら、入り口のところに護衛の方がいて、彼らを仲介して渡すだけなので」

リィナは当時のことを思いだしているのか、眉間を指先で揉んでため息をつく。

「他人嫌いとの噂の大公の顔を見るなんて……あの時はさすがに首が飛ぶかと思いましたよ……物理的に。でも、私が廊下にいるのにドアの側にいた大公の責任だということになって、私はお咎めなしになりました」

「……まあ、レオン大公の個人的な事情に巻き込まれたら、それはそれで嫌よね」

テレーゼは苦く笑う。

(……そういえば、大公はかなり顔はきれいだったけど、リィナのタイプなのかしら?)

またしても好奇心が湧いてきて、テレーゼはテーブルに身を乗り出す勢いでリィナに詰め寄る。

「ねえ、リィナ。リィナはレオン大公の顔を見て、格好いいと思った?」

「私ですか? ……まあ、整った顔だな、とは思いましたがその程度で」

「好きになったりしなかったの?」

「まさか。私はこれでも、七年前からずっと一人だけを想っていますので」

リィナの口からなかなか興味深い事項が出てきた。テレーゼはにんまりと笑い、リィナを見上げる。

「へえ……よかったらどんな人か、教えてもらっていい?」

「……ええ、まあ、そうですね」

じわじわとリィナの頬が色づく。照れている証拠だ。だが、逃がすつもりはない。

「……七年前、私がまだ官僚になる前に城の中庭で出会った男の子です。ノエル、と名乗った彼とは一度お喋りをしただけなのですが、何だか忘れがたくて……」

「ノエルねぇ……よくある名前だわ」

「そうなのです。夜だったのですが、金髪に青い目の、それはそれはきれいな顔立ちの男の子でした」

「金髪に青い目の美少年……」

テレーゼは眉を寄せる。それは、なんだか、ある人物と同じな気がするのだが。

だがリィナの方が先に手を打ってきた。

「レオン大公と、髪と目の色は同じでしょう? 私もそう思ったのですが、半年前にお見かけした大公はノエルとは全く顔が違いました。私としては、ノエルの方が格好いいと思ってしまいます」

「そんなになの!?」

「ええ。……ただ、あれから城仕えになっても彼と再会することはできなくて。七年越しとはいえ、彼の顔ははっきりと覚えています。大人になったからといって分からないことはないですよ」

そう締めくくり、リィナはテレーゼから視線を逸らして窓の方を見やった。

どこを見ているのか分からない、遠い眼差し。

彼女は今も、七年前に出会った少年のことを忘れられずにいるのだろう。

(……なんだか、いいな)

まっすぐな想いを持つリィナも、そんなリィナに想われる相手の少年も。

リィナに世話になっているのだから、リィナには是非、思い出の少年と再会して心を通わせてほしい、と思わずにはいられなかった。