軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7

春のガーデンパーティでユウナが王女のネックレスを盗んだことは、またたく間に広まった。

今やどこへ行っても『ユウナが取り調べで何を話したか』ばかりが話題になる。

人々は聞きかじった、理解しがたいユウナの言葉を持ち寄っては語り合い、驚きの声を上げ、飽きることなく、その闇の深さを覗き見して楽しんでいた。

リディアもお茶会などで、それらの噂をいくつか耳にしたが、ユウナが話した内容より、ユウナが思っていた以上に素直に取り調べに応じている事に驚いた。

――もっと、嘘でごまかすのだと思っていたのに。

素直に取り調べに応じているのはいいけれど、

「リディアは、わたくしがお店で見つけたものを真似して買うから嫌い」だとか、

「アンナは、ちょっとした嘘もすぐ信じるから、おもしろかった」

といった言葉まで伝わってきて、リディアは地味に傷ついた。

――前回、誕生日のときにネックレスを贈ってきたのも。あれも全部、嫌っていたからだったのね。

親友だと疑うこともなく過ごした時間のあいだ、リディアはずっと、自分が一番ユウナのことを知っていると思っていたけれど、実際は何も知らなかった。

お揃いの物だって、真似したかったのではない。一緒に楽しんだ時間を同じものを持つ事で、ずっと共有できると思っていたからなのに。

――同じものを手にして、あんなに楽しそうに笑いあったじゃない

それを嫌がられていたなんて、想像もしていなかった。

ユウナは、前回のリディアと同じく手首を落とされることになった。

取り調べに時間がかかったせいで、執行の日は、くしくも前回と同じ五月の同じ日だった。

絶対に許さないと思って何十年と過ごした割には何の用意もせず、戻ってきてからも行き当たりばったりで、ユウナが捕まったのは運だけだった。

ーー私全然ダメだったな

あのガーデンパーティー以来、自分の行動を振り返り、リディアは落ち込み気味だ。

それに加え、五月が近づくにつれ、手首を失った時の感覚が思い出されてしまい、リディアは鬱々とした日々を送っていた。

そんなリディアをよそに、周りはお祭りの前のような雰囲気に包まれていた。

わざわざ家にまで来て、興奮気味に処刑場へ行こうと誘ってくる友人たちの熱量について行けず、「親友の刑の執行なんて怖くて見られない」とリディアがもっともらしく断ると、皆そろって残念そうに眉を寄せた。

「そうよね。親友だったものね。いくらお母様があんなことをされたからといっても、手首が落ちるところを見るのは怖いわよね」

という一人の声に皆、顔を見合わせ頷きあい、納得してくれたようだった。

――私の時も、こんなふうに楽しんでいたんでしょうね。

少し、胸がちくりとする。

友人達の会話はすぐに新しい噂に移動した。

「ところで、聞きました? ユウナ嬢がネックレスを盗った理由は、私たちにはとても理解できなかったでしょう?」

「ええ。本当に」

「それは、取り調べている方々も同じようで……」

「まあ! 何かご存じなの?」

「まだ不確かなお話ですけれど……“悪魔がついているのではないか”と疑われているようで」

「え! それじゃあ、手首を落とされた後は……」

「魔女裁判にかけられるようですわ」

「それは……最悪、火あぶりということ?」

皆揃って口元に手を当てる。けれど、その瞳はどこか期待にきらめいていた。

「まぁ、恐ろしい」

「でも、悪魔付きだなんて、本当にあるのかしら」

「さあ……。けれど、あれほど理解できないことをするのですもの。

人ならざるものが囁いている、と考えた方が、まだ納得できますわ」

皆その説明に感心したように頷いた。

リディアも周りに合わせてきちんと相づちを打つ。

けれど、胸の内側だけが、静かに水を張ったみたいに冷えていく。

――悪魔なんて、ついていなかったはずよ。

ユウナがボタンを盗んだときも。

ネックレスに手を伸ばしたときも。

その場その場で、見つかるかもしれないスリルを楽しみながら、誰かの物語に手を伸ばしたのだとリディアは知っている。

もし、本当にユウナは悪魔付きで、時が戻るのは悪魔のせいだったとしたら。

ユウナもリディアと同じように戻ってくるのだろうか?

戻ってきたユウナはきっと今よりずっと狡猾で、リディアよりもっと上手くやり直すだろう。

ーーそうなったら、私は一体どうなってしまうのだろう?

もし、今日みんなと一緒にその瞬間を見に行って、その時リディアが好奇心に満ちた目でユウナを見つめてしまったら。

今度はユウナが戻ってきてしまう予感がして、背中に悪寒が走った。

「リディア? 顔色が少し悪いわ。大丈夫?」

隣に座る令嬢が、心配そうに覗き込んでくる。

「ええ、大丈夫。ただ……あまりに怖いお話すぎて」

そう答える声だけは、ちゃんと震えずに言えたはずだ。

そろそろ時間だと言って、友人達は処刑場へ出かけて行った。

彼女たちを見送りながら、あのとき、誕生日プレゼントを差し出したユウナの笑顔を、思い出そうとしてみる。

『良かったあ。きっと気に入ってもらえると思っていたんだ』

そう言って差し出してきた細長い箱と、添えられていた花束の色までは覚えている。

だけど、それ以上の記憶はどこかぼやけていて、何度繰り返してもユウナの顔は浮かんでこない。

ただ飛び上がるほど嬉しくて、一緒に喜び笑いあったことくらいしか、もうはっきりとは思い出せなかった。