軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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十七歳の誕生日の1ヶ月後、私は処刑台の上で空を見上げていた。

皮肉なことに五月の空は明るく、爽やかに広がっていた。

刑吏が罪状が読み上げる。

「アークライト伯爵家リディア。マーガレット王女のネックレスを窃盗した罪により、その手首を切り落とす」

手首を拘束する手枷のごつごつとした木の感触と、足元に押し寄せる民衆の罵声。

「盗人令嬢」「宝石泥棒」

さっきから耳に刺さるその言葉は、どれも私に覚えのない罪を指している。

ただ一つ、心当たりがあるとすれば――四月になったばかりのあの日、親友が微笑みながら差し出した誕生日プレゼントだけだった。

「リディア、お誕生日おめでとう。」

都合が合わず、明日の誕生日パーティーには参加できないけれど、せめてプレゼントだけは直接渡したい。

そう言って屋敷に来たユウナは、花束とリボンをかけた細長い箱をもっていた。

幼い頃からずっと一緒で、社交界でも「さくらんぼみたいに仲良しの伯爵令嬢」と囁かれていた私たち。

あのときの私は、彼女を疑うということを、まだひとつも知らなかった。

「気に入ってもらえるといいんだけれど」

期待に満ちた微笑みを浮かべながら、差し出されたプレゼントの包みを開く。

中に入っていたのは、とても小さいけれど、思わず引き込まれそうな色合いのピンクの石がついたネックレスだった。

ドンピシャの好みのプレゼントに、思わず私は小さく悲鳴をあげて、ユウナに抱きついた。

「ありがとう! とってもうれしい。ユウナは本当にセンスがいいわ。明日のパーティーでつけるね」

「良かったあ。きっと気に入ってもらえると思っていたんだ」

「さすが親友ね。私の好みを分かってる!」

そう言って、私達は笑い合った。

けれど、そのネックレスこそが、王女の宝石箱から消えたアクセサリーだと判明したのは、誕生日パーティーの最中だった。

「なぜ、あなたがそのネックレスをつけているの?」

公爵令嬢メアリーの鋭く厳しい声が、会場に響いた。

「親友の、ユウナ・ベルナールからの誕生日プレゼントです」

困惑しながら答える私の声を、メアリーの言葉が遮る。

「それは、マーガレット王女へ私が贈ったネックレスよ。王女から、盗まれたかもしれないと相談されていたけれど……まさか、あなたが犯人だったなんて」

それからのことは、あれよあれよという間に進んでいった。

鑑定士が呼ばれ、ネックレスがメアリーからマーガレット王女へ贈られた品だと証明されると、すぐに騎士たちによる尋問が始まった。

彼らは、私が王女のお茶会に参加したときにネックレスを盗んだのだと考えているらしかった。

ほぼ犯人と決めつけて尋問してくる騎士に、何度聞かれても私の答えは一つしかない。

「……親友の、ユウナ・ベルナールからの誕生日プレゼントです」

そう答える度、騎士は馬鹿にしたように顔を歪めた。

「あなたと思われる女性が、現場で目撃されているんですよ。いいかげん、認めてしまってはどうですか?」

そんなやりとりが延々と繰り返された。

一方、ユウナは泣きはらした顔で、こう証言していたらしい。

「そんなはずありません! 誕生日プレゼントは花束しか渡していません。高価なネックレスを友達の誕生日に贈るだなんて、常識的にもありえないでしょう?信じて下さい!」

震える声、揺れる睫毛、祈るように組んだ細い指。

昔から、彼女は「弱い自分」を演じるのがうまかった。

結局、たいした証拠もないまま、私は窃盗罪となり、誕生日の一カ月後に刑が執行される事になった。

「……ユウナ」

貴族席の最前列。

涙ぐみながらも、私が手首を落とされるのを「エンターテイメント」として、好奇心に満ちた目で見届ける彼女の横顔が見えた。

刃物が落ちる冷酷な音が広場に響く。

私は両手を失い、家は没落した。

「ユウナ伯爵令嬢が来ると物がなくなる。盗んだものは、どこかに横流ししていたらしい」

そんな噂話が、ずいぶん後になって私の耳にも届いた。

ただの「ちょっとしたお茶目」と笑い飛ばせるような、小さな盗みの数々。

ユウナはスリルを味わう為に、そんな事を繰り返していたらしい。

欲しいものを盗っている訳ではないから、盗んだ後は「友達へのプレゼント」として、自分の手から離してしまうことで、痕跡を消していたのだ。

王女のネックレスも、その延長線上のひとつだった。

たいしたものではないから大丈夫だろうと、軽い気持ちで盗んだ品。

思いの外、大事になってしまったけれど、自分の代わりに親友が手首を落とされるのを見てぞくぞくした。

そんな事を語ってたという。

同じような秘密を抱えるグループ内で、つい漏らしてしまった話はじわじわと広がっていき、ユウナは家族によってひっそりと領地に送られたようだ。

それを聞いたとき、私は言いようのない怒りに襲われた。

あなただけは、許さない。

そう呪いの言葉を心に刻んで、私は人生を終えたはずだった。

目を開けると、そこは、かつて見慣れた自室だった。

花柄の壁紙に囲まれた部屋。母が選んでくれたレースのカーテンが、朝の光をやわらかく透かしている。

まさか、と思って腕の先をみれば、そこにはきちんと両手があった。

控えめなノックが鳴り、扉が開き、メイドが入ってくる。

「新年あけましておめでとうございます、お嬢様」

新年?

「旦那様から、新年用のドレスが届いておりますよ。お嬢様が十七歳になるからと、少し大人のデザインになっていて、とても素敵ですよ」

私はあの誕生日の四ヶ月前にもどったらしかった。