軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61話(番外編 ライナーのために)

リハメル帝国から持ち込まれた金銀財宝が、王宮の廊下を埋め尽くしていく。その光景に、臣下たちはかつての王妃の姿を重ね、恐怖を感じながら見つめていた。

「……これでは、あの一族と同じではないか」

会議室で、一人の重臣が声を震わせた。

「いくら他国からの贈り物とはいえ、王宮にこれほどの財宝を飾れば、苦しい生活を耐えてきた民はどう思うか……。また王族だけが贅沢を始めたと、そう誤解されるに決まっている!」

彼らの脳裏に蘇るのは、つい先日、民の怒りによる反乱で、この城を追われたばかりの前王妃と、その息子で、エミーの元婚約者である王子の姿だ。

彼らもまた、民の苦しみを無視し、税を搾り取りながら贅沢と権力に溺れていた。

その身勝手さに民は耐えきれず、ついに大きな反乱が起きた。

「メリッサ殿下の傲慢さはあの時と同じだ! このままでは、陛下が築いた平和も信頼も崩れてしまう!」

豪華な馬車の列が城へと入っていく。

その様子を、民は冷めた目で見ていた。

城で宴の準備が始まれば、その様子は使用人たちの口を通じて、すぐに街中へ広まる。

それでは、反乱が、繰り返されるだけだ。

一度、贅沢によって滅びかけたこの国。

その記憶が新しいからこそ、重臣たちはメリッサが持ち込む『国を滅ぼす程の王族の傲慢』に怯えていた。

こうなると、以前は誰もが望んだ隣国との『縁を結ぶための婚姻』を口にする者はいなかった。

ーーーー

一方、王都から遠く離れたマイセン辺境伯領。

そこには、ライナーの計らいで静かな生活を取り戻していたエミーの姿があった。

「そんな……ライナー陛下は、そこまで……」

夕暮れの書斎で、父エリックから王都の現状を聞かされたエミーは、思わず、持っていたティーカップを落としそうになった。

父エリックは、ライナーが今の状況に至るまでの苦悩を娘のエミーに語った。

帝国が、強引に持ちかけた婚姻のこと。縁を結ぶことで戦を避けようと、ライナー陛下はご自身の想いさえ押し殺そうとされたこと。

それほどまでに国と民を優先されたというのに、相手は民の心を踏みにじるような振る舞いをする女性であったこと。

そして何より、エミーに誓った『側室制度は廃止する』という言葉を守るために、なお抗おうとしているのだと。

「それに関してだけは、王である前に、一人の男なのかもしれないな」

最後にぽつりと漏らした父の言葉に、エミーの胸が、激しく波打った。

あの不器用で誠実な人が、自分との約束を果たそうとしてくれている。

その上、戦を避けるため、ご自身を犠牲にしようとまでしている。

(私がここで安穏と暮らしている間に、あの方は……)

辺境伯領へ戻ってからというもの、エミーは、何度も一人で考え込むことがあった。

(……ライナー陛下)

ふとした瞬間に思い浮かぶ、その姿。しかし、そのたびに否定をする。

(いけませんわ。わたくしは、元王太子の婚約者だった身。今の陛下に釣り合うはずはありません)

そうして、自らの心に蓋をする。それが、正しいことだと信じて。

だけどその蓋は、決して完全なものではなかった。

そこへ、王宮にいる宰相から、極秘の手紙が届けられた。

エミー・マイセン殿。

今の王宮は、かつて貴女を利用し、都合よく扱っていた者たちの時代へと、逆戻りしようとしています。

陛下は今、その流れに抗い、たったお一人で戦っておられる。

どうか、陛下の力になってはいただけないでしょうか。

あの方の孤独を癒やし、その背中を支えられるのはこの世でただ一人、貴女しかおりません。

手紙を読み終えたエミーの指先が、わずかに震えた。

その場には、母アンジュと、兄アンソニーもいた。

しばしの沈黙が落ちた。

先に口を開いたのは、アンソニーだった。

「……迷っている顔だな。だがな、エミー迷うのは当然だ」

そう言って兄は、話を続ける。

「相応しいかどうかで選ぶな。自分がどうしたいかで選べ」

その言葉に、エミーの瞳が揺れた。

すると今度は母アンジュが優しく微笑みながら言う。

「あなたは、いつも誰かのために自分を抑えてきたわね。でも、本当に守りたいものがあるのなら、もう、我慢なんて必要ないのよ」

その言葉は、優しく、それでいて強かった。

エミーは、胸の奥に蓋をしていた想いを自覚していた。

そして、父エリックが、頷いた。

「エミー。あのような者たちが再び権力を握れば、この国がどうなるか、お前なら、よく分かっているはずだ」

「……はい」

「ライナー陛下に、あのような悲劇を二度と繰り返させてはならない」

その思いは同じだった。

エミーは、覚悟を決めて立ち上がる。

(私はもう、自分の心に蓋をすることはしない。私が守りたいのはただ一人、ライナー陛下、あなたです)

その瞳からは、かつて王宮を追われた日の悲しみは消えていた。

そこにあるのは、守りたいという強い意志だけだった。

「行ってまいります」

家族に、告げた。

「ライナー様を、決して一人にはさせません。この国が二度と、同じ過ちを繰り返さないためにわたくしは行くのです」

エミーは、再び馬車に乗り込む。

今度は『見向きもされない婚約者』としてではない。

王を支え、共にこの国の未来を歩んでいく者として。