作品タイトル不明
3話
辺境伯様に嫁ぐ日の朝、とっても立派な馬車が迎えに来てくださいました。
それも我が家にはとても不釣り合いな、豪華な馬車が。
それなのに、私の荷物はたったの二つだけ。
それでも伯爵家に嫁いだお姉様が、もしもの時にと素敵なドレスをくださいました。
たぶん着る機会はないと思うのですが、それでも私のことを気に掛けてくださるだけで温かい気持ちになります。
お父様、お母様、そしてお姉様たちが、今まで忘れられていた存在だった私を、最後は笑顔で送り出してくださいました。
これってもう二度と、何があっても帰ってこれないということなのでしょう。
私も覚悟を決めて嫁ぎます。
「アンジュ、幸せにねー!」
そう言って、皆で手を振ってくださっていますけれど、幸せとはいったい、どういうものなのでしょうか。
こちらでの生活は、たとえ貧乏でもそれなりに満足はしていました。
いくら皆から忘れられた存在であったとしても、決して虐げられていたわけではありません。
大好きなお料理だって、こうして作ることができていたのですから。
だけど、これからは一体どんな人生が待っているのでしょう。
考えれば考えるほど、心細い気持ちに襲われてしまいます。
私はそんな不安を抱えたまま、今日、嫁いでいくのです。
――
馬車に揺られること半月近く、ようやく辺境伯様のお屋敷へと到着いたしました。
見上げるほど、とっても大きなお屋敷です。
馬車を降りると、執事のランカスターさんと名乗る方がご挨拶をしてくれました。
「遠いところ、よくぞお越しくださいました」
私は緊張しながら軽く一礼をしました。
「これからお世話になります、アンジュと申します。どうぞよろしくお願いします」
すると、執事の方は少しお困りなのでしょうか。どこか申し訳なさそうな顔でお話しされたのです。
「実は、旦那様は今、国境付近で小さな小競り合いがありまして、しばらくは 砦(とりで) の方に留まることになりました。ですので、顔合わせは落ち着いた頃となります」
(要するにご本人はいらっしゃらないのですね。もっとも何の期待もしていなかったので構いませんが)
「そうですか、承知いたしました」
そんな私に、さらに言いにくそうにランカスターさんは言われました。
「本宅は独り身の騎士たちがたくさん住んでおりますので、奥様のお住まいはあちらの離れにご用意させていただきました」
「は、離れですか?」
思わず私は、変な声を出してしまったのです。
すると、執事の方は申し訳なさそうに下を向かれました。そして、『自分も砦での仕事がありますので旦那様の元に向かいます』そう言って、去って行かれました。
その後ろ姿を見送っていると、これからの生活に、どうしても嫌な予感しかいたしません。
いえ、覚悟はしていたことですから、それはそれで構わないのですけれど……。それでも、『やはりここでも、そうなのですね』と、ため息がこぼれてしまいました。
やはり私は、新しい場所でも影の薄い存在のままなのでしょうか。