作品タイトル不明
19話
私は翌朝、テーブルに置かれていたお金を持って本宅へと向かいました。
そして執事のランカスターさんを呼んでもらうと、彼は私の顔を見て、とても驚いた顔をなさっています。
(それはそうよね、まさか私が直接こちらに来るなんて、思ってもみなかったはずだわ)
するとランカスターさんは気まずそうに言い訳をなさった。
「旦那様と何度か、別宅の方へお訪ねしたのですが、中々お会い出来なかったもので、昨日は黙ってお部屋に入ってしまい申し訳ありませんでした」
私はその言葉に、意識して淡々とした表情を作りました。
「いえ、それは構いません、元々別宅はそちらの所有の物なのですから」
そう言ってから、私はここへ来た理由を話しました。
取り敢えず置かれていたお金はお返し致します。
今は領地で働いているので生活は何とかなっていますと。
そして、勤め先には私の身分は伏せているので、ご迷惑はお掛けしません。
あと、今更実家に帰っても居場所が無いので、住まいだけはこのまま使わせて欲しい事、そして旦那様がどこで誰と何をなさろうと、私は一切、口出しはいたしません。
それらを旦那様に伝えて欲しいとお願いしました。
するとランカスターさんはとてもすまなさそうなお顔をなさっていました。
「旦那様は今、領地の視察で留守にしておりますので、お戻りになり次第、別宅へ伺うようお伝えいたします」
だけど私は首を振り、敢えて少しきつめの言い方をしてしまいました。
「いえ、それは結構です。今申し上げたことだけお伝えください」
そう伝えた後で、今度は少しだけ皮肉を滲ませ続けました。
「仕事をしていることを責められては困ります。ご承知のように、実家からの援助は受けられませんので、生きていくためには働かなければなりませんでした」
それを聞いたランカスターさんは、少し困った顔をしていましたが、私はそれを、気にも留めずに軽く頭を下げ、本宅を後にしました。
流石に、私の言い方がきつかったせいか、ランカスターさんはあたふたしながら何も口を挟めずにいました。
(それよりも旦那様が居なくて本当に良かったわ)
もし居らしたら、きっとあそこまできちんと本心を言えなかったかもしれません。
私はほっと胸を撫で下ろしました。
『さあ、これでやっと自由の身、明日からは堂々と仕事が出来るわ』と私は張り切っていました。