軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 2号の目的

ユミエラ2号が現れた翌日の朝。

彼女は普通の顔をして朝食の席にいる。馴染みすぎだ。その能力を遺憾なく発揮していたなら、世界を滅ぼすくらいに追い込まれることも無かっただろうに。

そして2号は、買い物でも誘うかの調子で言う。

「このあと時間ある?」

「大丈夫だけど……何?」

「ちょっとね」

何だろう? 彼女がこれからどうするかは何もかもが未定なので、2号から相談を持ちかけられるのはありがたい。でも雰囲気からして、そんな重大な内容じゃない気がする。

「どこで話す? パトリックもいた方がいい?」

「そうね……ちょっと広めの場所がいいかしら。辺境伯家のソイツはいた方がいいかも」

広めの場所? 殴り合いになりそうな話題ってことか。あまり予想はできない。どんな話をしても、最終的にどちらかが手を出しそうだからなあ。

それじゃあ屋敷の庭でいいかな。

朝食が済んですぐ、一緒に行動したがるエレノーラを家に押し留めて私たちは屋外に出る。

朝のお散歩中から帰ってきていないようで、リューの姿は見当たらなかった。そろそろ帰ってくると思うけど。

そこそこ広い我が家の庭には、あまり使わないけど椅子とテーブルがある。喫茶店のテラスにありそうなやつ。

「座って話す?」

「いいえ。どうせすぐ立つことになるだろうから」

おっ? 喧嘩か? 喧嘩か?

私たちは一定の距離を取って向かい合う。隣にはパトリック、奇しくも初遭遇と同じ構図になった。

ようし、では2号の要件とやらを聞こうじゃないか。話によっては即、場外乱闘だ。

「アンタ、私がこの世界に来た目的は分かっているわよね?」

「そりゃあね」

「改めて言うけれど、私はアンタに用があってこの世界に来たのよ」

「うん」

「その用事を済ませちゃおうと思ってね」

私は息を飲んだ。

彼女の目的は、私を殺してレベル上限を解放すること。そうか……心のどこかでは分かっていたけれど、2号との戦いは避けて通れないようだ。

「そうなるにしても、もう少し後だと思ってた」

「悠長に馴れ合っていて、いいことなんて一つも無いでしょう?」

「……そうかもしれないけど」

それでも、彼女と戦うのは心苦しい。2号とは昨日何度も言い争いをして、殴り合いをして、着る服が無い状態で置いていかれ……ん? 全然戦えるじゃん。むしろやる気が出てきた。

周囲への被害を鑑みると、屋敷の庭というのはよろしくない。でも、いっか。

「じゃあ始めようか」

「ええ、あの――」

先手必勝。2号が何か喋っているが気にするもんか。

私は地面を蹴って急加速し、2号に肉薄した。

「――あのいけ好かない邪神を倒しましょうか」

「え?」

彼女がセリフを言い終えたときにはもう、私の拳が彼女の頬に突き刺さっていた。

不意を突かれた2号はユミエラパンチを……いや、ユミエラ1号パンチを……違うな、ライダーキックはライダーキックだからユミエラパンチでいいのか。……まあ、パンチをまともに食らって吹き飛ばされた。

2号がなんか言ってたけど気にしないぜ。私が追撃の構えを見せたところ、パトリックから止められる。

「おい、ユミエラ! やめろ!」

「止めないでパトリック! 私たちは戦う運命なの! それ以外の選択肢は無いの!」

「いや、そうではなく。彼女、何か言っていたぞ?」

「…………やっぱり?」

もしかして、バトル展開は私の勘違い? いやでも、2号は用事を済ませるって言ってたし……謎だ。その謎を解明できる人物は今、若干ふらつきながら立ち上がっている。

「……まずはアンタを殺した方が、いいかもね」

「あ、そのつもりが無いなら、戦う意味も無いと思うんだけど」

「アンタから仕掛けておいて、その言いぐさは何なのよ!?」

ユミエラ2号はそう言って、私に手を向ける。

一瞬にして濃密な闇属性の魔力が溢れ出す。あ、これはアレが来るな。

「ブラックホール」

私の体の大部分が漆黒の球体に包まれた。

次の瞬間、黒球と一緒に私の体も消滅する……のだろう。仮に私が動かなかったら。

ブラックホールは球体を出現させ、それが消えるという二つの段階を踏んで攻撃が完了する。一瞬の出来事とはいえ、攻撃開始と完了にタイムラグが存在するのだ。

何が言いたいのかというと……見てから回避余裕です。

「危なっ」

地面を蹴って宙に飛び、体を捻ってブラックホールの範囲から逃れる。

びっくりした。簡単に避けられるが、即死級の魔法を撃たれるのは心臓に悪い。

「え……どうして生きてるのよ?」

「え? 普通に、避けたから」

「普通は避けられないわよね? アンタ――」

彼女の言葉は途中で遮られてしまう。

パトリックが飛び出し、2号の首元に剣を突きつけていた。

「動くな。魔力の動きを感じたら切る」

「え? パトリック? どうして急に殺気立ってるの? 今までは止める側だったのに」

「たった今、間違いなくユミエラが殺されそうになったからだ」

殺されそうになったって、パトリックは大袈裟だ。あれくらいなら彼でも回避は簡単だろうに。

「そんな大事にしないでよ。パトリックも避けられたでしょ?」

「ブラックホールは無理だろう。範囲が予想できないから避けようがない」

「見てから動けばいいんだって」

「……それこそ無理だろう」

え、ホント? まさかユミエラ2号は本気で私の命を狙いにきた?

まさかね。もしアレが直撃しても死んではいない。

「頭部はブラックホールの範囲外だったでしょ? 頭が無事なら回復魔法で再生できると思うの。試したことないけど」

「……頭だけで魔法が使えるのか?」

「実験しないことには何とも言えないけれど……。あ、私はずっと守護の護符を付けているからギリギリ死にはしないはず」

どうして私は2号の弁護をしているのだろうか。殺意の有無でパトリック検事と争うのは不毛すぎる。

そこで、被告人ユミエラ2号が口を開く。

「私、殺すつもりで魔法使ったわよ」

頑張って弁護してたのに自白しやがった。

うーん、アレくらいで死ぬわけないのに。2号ちゃんは悪ぶりたいお年頃なのかな?

何故か二人が一触即発の雰囲気になってしまったので、とりあえず仲裁しておく。私がこの立場になるのも珍しいな。

剣を下ろさせようと、掴みやすい刃の部分を雑に握る。

「はい、下ろして。こんなのじゃ切れないんだから」

「おいっ、そこを掴んだら……ああ、切れないのか」

そう言ったパトリックは剣を眺め、良い品なんだがと呟いた。剣と棍棒は同じ強さだと考えている私からすれば、別に切れ味が悪くても丈夫なら良いと思う。元気だして。

しかし、ユミエラ2号が動くなと言われ、律儀に固まっていたのも不思議だ。

「どうして動かなかったの?」

「私、動いたら切られると思って固まってたんだけど」

「だから簡単に体が切れたりしないって」

「それはアンタだけよ」

えっ、同じユミエラ防御力を持っている者に裏切られた。

なるほど。殺し殺されな、普通に切迫した場面だったのか。私としたことが気が付かなかった。

まあ、戦端を開いたのは私自身だったので、ユミエラ2号が話しかけていたことを詳しく聞いてみよう。

「あー、勘違いしてごめんね。何か言いかけてたけれど……」

「そうね、どこから話しましょうか……。アンタたちの反応を見るに、私の目的が勘違いされているみたいね」

「私を倒してレベル上限を解放しようとしてるんじゃないの?」

「それは、たった今やろうと思ったけれどね。手段であって目的じゃないのよ」

「どうゆうこと? 最初に目的は私だって言ってたよね?」

「そうよ。私はアンタに会いに来たの」

「あー、そっちか」

思い返すと、2号は私が目的でこの世界に来たとは言ったけれど、私を倒すとかは一言も言っていない。

して、彼女がわざわざ世界を越えてまで私に会いに来た目的とは。まさか並行世界の自分を見たかったとかいう下らない理由ではあるまい。

満を持して、ユミエラ2号は真の目的を話す。

「さっきも言いかけたけれどね……私は、あのいけ好かない邪神を倒すため、この世界に来たの。今の私じゃ敵いそうにないからね。アンタを倒して強くなるか、アンタに協力してもらうか悩んでいたけれど……ブラックホールを避けたりする様子を見るに、アンタに勝つのは無理そうね」

また話が変な方向に動き出したぞ。邪神って何だ? いやそれより……。

「どうしてそういう重要そうなことを、先に言わないの!?」

「分かってると思ってたのよ」

「分かるわけないじゃない」

「だってアンタ言ったじゃない。2号の目的は私? ……って。だから、ああ事情はお見通しかと思って言わなかったのよ」

えぇ……。2号がコミュニケーション下手すぎる。そりゃあ周囲に悪い勘違いもされますわ。

そうか。彼女は邪神を倒す戦力が欲しいのね。邪神? いけ好かない神様に心当たりはある。今も影から私たちの様子を窺っているはずなので、足元に声をかける。

「レムンくーん、いますかー?」

「……彼女の言う邪神ってボクじゃないからね?」

少し間が空いて、私の影から黒髪の少年が現れる。

闇の神レムンは否定するが、一応2号にも聞いてみよう。

「邪神ってこの子じゃないよね?」

「コイツじゃないわよ。コイツは抵抗してくる方の神様ね」

「レムン君も結構いけ好かない……というか胡散臭い感じだけど」

「邪神はもっといけ好かなくて胡散臭いわよ」

レムン君を超越しているとは、邪神とやらは相当だな。すごい会いたくない。

ああ、そうか。並行世界のレムンはユミエラ2号に倒されたのだった。彼が、とても敵わない邪神なはずなかった。疑ってごめん。

影から現れたものの、ユミエラ2号に警戒し過ぎなレムンは私の背中に隠れた。

「あれ? レムン君が抵抗してくる方の神様なら、無抵抗だった神様って誰?」

「名前まで知らないわよ。私を止めに来たとか言いながら、戦うそぶりすら見せなかったやつ。白い髪した女神よ」

「白い髪? おでこからビームとか出る?」

「は? なに言ってんのよ?」

あれ? サノンのこと言ってるんじゃないの?

しかし、彼女が無抵抗だったとは思えないし、おでこからビームが出ないのもおかしい。あ、無抵抗ならビームは出ないか。

邪神だけでなく、更に新しい神様が出てくるのかと辟易していると、レムンが口を開いた。

「その無抵抗の神はサノンのことだよ」

「ああ、アイツってサノン教の神だったの。まったく、名前くらい言いなさいよね」

「おでこから光属性のビーム出すんだけどね。まともに食らったら私も危ない」

「アンタでも!?」

どうしてサノンは戦わなかったのだろう。

並行世界では、彼女と共同戦線を張ろうとして断られたらしいレムンに顔を向ける。すると彼は首を振って言った。

「知らないよ。サノン本人に聞いたら?」

「そうですか」

話が脱線した。

既に済んだユミエラ2号と神の戦いより、今は邪神とやらだ。

「邪神っていうのは? どんな見た目?」

「分からないわ」

「分からない?」

「姿がぼやけているというか……見えているのに認識できない感じかしら」

それって本当にいるの? 2号の幻覚だったりしない?

私の疑念の視線に気がついたのか、彼女は口早に邪神について話す。

「邪神に会ったのは、王子サマが魔王を倒した後くらい。つまり、私が人類を滅ぼす決意をしたあたりね。今のままじゃ死んじゃうから、もっと強くなれって言ってきたのよ」

「力を貰えたり?」

「何も貰ってないわ。効率重視のレベル上げ方法を教えられただけ」

「なにそれ!? 気になる気になる」

神から伝授されたレベル上げ方法とは一体。もうレベル99の私には無用の知識かもしれないが、後学のために聞いておきたい。

「一人でダンジョンボスを倒しまくるとか……他にも頭のおかしい方法ばかりよ」

「普通じゃない?」

「邪神はアンタのやり方を教えてくれただけ。はあ……初めて聞いたときは、思いついたヤツは頭おかしいって思ったけれど、その通りだったわね」

「……世界を滅ぼそうって発想に至る人に、頭おかしいって言われたくないですー」

誰でも思いつくと思うけどな。普通に考えて、経験値がバラけてしまう複数人より、総取りできるソロが良いに決まっている。

他の方法も、誰だって思いつくはずだ。何故か誰も実行しないだけであって。

それはさておき、邪神は実在するのだろう。彼女が一人で、私のレベル上げ方法を知る方法はない。

「あっ、並行世界から移動してこれたのも邪神の力か」

「そうよ。邪神の目的は強い手駒を手に入れること。アンタを倒してレベル上限を上げてくるよう言われたのよ」

ふむふむ。邪神ね。レムンが言っていた裏から手を引いている存在も、その邪神のことだろう。

レムンやサノンより、更に上位の存在。数多の並行世界を管理する、レベル99の縛りを受けない神。世界と世界の移動などお手の物だろう。

邪神にもたらされた情報により、2号は他のユミエラより強くなり世界を滅亡まで追いやった。そして更に強くなるためこの世界に来た。

彼女が他のユミエラと違い、アリシアたちに勝てた理由。レムンですら出来ない世界の移動をしてのけた理由。不明だった点がやっと明るみに出た。

頭の中で情報を整理していると、パトリックが口を開く。

「しかし、ユミエラを倒すつもりは無いんだろう?」

「邪神の手下になるなんてごめんだもの」

「それを……邪神とやらは許すのか?」

「許さないでしょうね。だから協力してくださいって、私がこうして頭を下げてるのよ」

僅かに下がる様子もない2号の頭を見て、私は考える。

仮に彼女と協力して邪神とやらを倒して、その後はどうする? 彼女の世界が元に戻るわけでもなければ、私にメリットがあるわけでもない。

私に戦う理由は無いのだ。2号のために動くのはやぶさかではないが、それが彼女の憂さ晴らしなのだとしたら付き合う義理はない。

「私が協力する気は無いって言ったらどうするの?」

「それは無理よ」

「無理?」

「あの胡散臭い邪神は、今も私たちの会話を聞いているのよ? 裏切られたことに気がついたのだから、私を始末しようとするでしょ? ついでに扱いづらくて仕方ないアンタも処理しようとするんじゃないの?」

「巻き込まないでよ!」

邪神に扱いづらいと評価されていることはさておき、私は戦わねばならぬ状況に引きずり降ろされたらしい。やはり2号は悪者だな、うん。

「邪神って世界が滅んでも平気な顔してるヤツよ? 倒しておいたほうが、アンタとしても良くない?」

「だから、世界を滅ぼした張本人に言われても……」

まずいな。レベルで負けている相手と戦うのは初めてだ。

邪神の強さが想像できないのも拙い。レベル99を超えているとは言っても、二百と二千では全く違う。

まずは相手の戦力分析をしなければ。ユミエラ2号に問いただす。

「邪神はどれくらいの強さ? ある程度でいいから」

「知らないわよ。戦っているところ見たことないもの。やたら力を出し渋る感じだったし」

うわっ。全く使えない情報をどうもありがとう。

いくら力を出し惜しみしていても、裏切り者の粛清となれば全力で来そうだしなあ。

使えない2号ちゃんは放っておいて、私はレムンに視線を向ける。

「レムン君は分かります?」

「……お姉さんがいくら強くても絶対に敵わないよ。レベル99の枷がある限り、アイツには絶対に勝てない。この世界も終わりかもね。あはは」

乾いた笑い声を上げるレムンの顔を見てみると、目が死んでいた。闇の神だが、ここまで目の光を失ってはいなかったはず。そんなに危機的な状況なのか。

邪神の情報が少なすぎる。場所も装備も万全とは言えないので、2号に今すぐの戦闘を回避するよう提案する。

「少し先延ばしにしない? 別に負けるのが怖いとかではなく。私の方が強いから」

「駄目よ。言ったでしょう? アイツは今も私たちの様子を見ているの。ほら、いるんでしょう? 出てきなさい」

彼女は虚空に向かって啖呵を切る。

すかさずレムンが私の影に飛び込んだ。あ、逃げた。

邪神が出てこなければいいという願い虚しく、2号が現れたときのように空間が揺らめく。私たちのすぐ近くだ。