軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07 光の神サノン

「ワタシは光の神サノン。ユミエラ・ドルクネス、貴女を排除します」

サノンの声色は無機質で平坦だったが、底知れない激情が感じられた。彼女は私に激怒している。

光の神様に怒られる筋合いは……ある。教会に伝わる結界魔道具を壊したのは私だし。あとはアリシア関連。

でも何故今更? 今日、今このタイミングで現れたということはレムンと何かしらの関係があるはず。そう思考を巡らせているとサノンは私から目を離し、レムンの方に顔を向ける。

「レムン、貴方は何をしているのですか?」

「えへへ、ちょっと野暮用。サノンこそどうしたの?」

「どうもこうもありません! ユミエラ・ドルクネスは何としてでも排除しなければ」

ん? 二人の目的は関係ないのか?

混乱している間にも事態は進行する。私に向き直ったサノンに、鋭い目で射抜かれた。

「ユミエラ・ドルクネス、覚悟は出来ていますね」

「覚悟と言われましても……何について怒られているのかも分かりませんので。私、何かやりました?」

「白々しいっ!」

サノンが声を張り上げると同時、彼女の露わになった 額(ひたい) がピカリと輝く。

その光を体中に浴びて……。

「痛いっ! すごい痛い! 超痛い!」

顔や手など、肌の露出した部分が染みるように痛む。おでこの光が武器とは思わなかった。

今まで感じたことのない痛みに耐えかねて、私は地面に倒れ転がりまわる。こんなに痛かったのは……前にアリシアに刺されたとき以来だ。光の結界を殴ったときより痛い。

慌てて駆け寄ってくるパトリックの顔が霞んで見える。

「ユミエラ!? 大丈夫か、何が起こった!?」

「もう私は駄目みたい……パトリック、後はお願……い」

「ユミエラ!」

私の肩を抱くパトリックの声が段々と遠くなっていく。ああ、彼が無事で良かった……しかし、なぜパトリックはあの光を浴びても平気なのだろうか。気になって仕方ない。

私はスッと起き上がり、服についた土を払いながら言う。

「パトリックは痛くなかったの? あの……おでこの光を浴びても」

「お前、結構余裕だろ」

余裕なんてことはない。あれはマジで痛かった。すぐに激痛は収まったから良かったものの、あれを永続的に照射されるのは嫌だ。

あのデコビームは何だろう。私だけをピンポイントに狙った光魔法だろうか。

未だに私を睨みつける彼女に話しかけようとしたところ、横から呻き声が。そちらを見ると、地面に倒れるレムンがいた。消えかかっているのか、体がわずかに薄くなっている。

「もうムリ、死んじゃう」

この人が一番影響を受けているのではなかろうか。

パトリックが平気で、私がそこそこダメージ、レムンは今にも消滅しそう。これは、光属性の影響と考えていいだろう。おでこの輝きすら極大の光属性が付与されるとは、流石光の神様。

おでこビームの第二射が来る前に、パトリックの背中に隠れる。顔だけを出してサノンに質問した。

「本当に心当たりが無いのですが……何か勘違いじゃないですか?」

「本気で言っていますか!? 人の人生を左右する選択をしておきながら!」

またサノンのおでこがキラリと輝いた。

隠れるのが遅れて光が顔に直撃してしまう。

「わっ! すごい痛い。顔だけ痛い」

どうも感情が昂ぶると、サノンはおでこを光らせるようだ。

穏便にいこう。フレンドリーな感じで語りかけて、同級生のお友達感覚で彼女の事情を聞き出そう。私も昔は華の女子高生だったのだ。その記憶を掘り起こせ!

「デコちゃんどしたしー。激おこプンプン丸的な? 一緒にタピって仲直りしよ? ……デコちゃん?」

「デコちゃん!? まさかワタシのことですか!?」

またデコちゃんのデコが光ったが、今度はパトリックの陰に隠れられた。今のは一番光量が多かった気がする。あれに当たったらやばたにえん。

ギャル作戦は失敗か。まあ私って、ああいうタイプじゃなかったからしょうがない。タピオカとか飲んだこと無いし。

次の策を考えていると、パトリックに本気のトーンで心配された。

「ユミエラ、どうした? 光を浴びすぎて、余計に頭がおかしくなったか?」

「今のは作戦……余計にってどういうこと?」

「これからどうする? 一旦逃げるか?」

彼は質問には答えずに撤退を提案する。

ここで逃げるのもアリだと思うが、サノンは私たちの居場所を正確に捕捉できているはずだ。そうでなければ、こんな辺鄙な場所にピンポイントで来られるはずがない。

逃げてもすぐに追いつかれるのがオチだろう。ならば立ち向かうしかない。

「逃げても解決しないから。大丈夫、私に任せて」

「そう言うだろうとは思ったが……気をつけろよ。俺は何をすればいい?」

「ここで見てて」

小声での作戦会議を終えた私は、颯爽とパトリックの背中から躍り出る。

そしてゆっくりとした足取りでサノンに近づいていく。驚いて追ってこようとするパトリックを後ろ手で制しながら。

「彼と別れの挨拶は終わりましたか? まあ、逃げないことだけは褒めましょう」

「デコちゃん、私が座して死を待つタイプに見えます?」

「デコ……またその名前で!」

サノンの額がまた輝く。私はその光を浴びてなお、歩みを止めずに彼女ににじり寄る。

後方でパトリックが驚愕の声を上げた。

「なぜユミエラはあの光が平気に!?」

サノンに驚く様子は見られないが内心ではびっくりしているはず。しているといいな。してもらわないと困る。

何かしましたか? という風を装って歩き続ける。痛いけど。めっちゃ痛いけど。

これが私の秘策。やせ我慢。

そこまで無謀な作戦でもない。あのデコビームはただ痛いだけ。継戦能力を落とすものではないのだから、私が我慢さえすれば無視して良いものなのだ。

半透明になっているレムンの横を通り過ぎ、サノンに更に近づく。

私は裏ボス。個人に限れば作中最強キャラ。こんな後付設定みたいに出てきたやつに負けるわけがない。

自分を奮い立たせて、自信満々に言う。

「その光は私に通用しませんよ? まさか私に戦闘で勝てるおつもりですか?」

「……ユミエラ・ドルクネス、貴女は勘違いしています」

サノンは心底呆れた顔で私を見つめる。そして続けた。

「この光はワタシの未熟さの現れ。気の緩みから漏れ出してしまった光です。ワタシ本来の力が、ほんの僅かに外に出てしまったに過ぎないのです」

「え?」

「これで痛がるような貴女が、ワタシに勝てるつもりでいるのですか?」

「……もっと強い光魔法も出せちゃうと?」

あれ? これ、今までで一番のピンチなんじゃない?

物理も魔法も隙がないことで有名な私だが、光属性だけには滅法に弱い。四倍弱点どころの騒ぎではないレベルでだ。

「今までの光は魔法ですらありません。では、ワタシの権能の一端をお見せしましょう。……光よ」

これはまずい。全身が凍りつくような感覚に襲われる。このままでは間違いなく死ぬと本能が言っている。

嫌な予感がして頭上を見上げた。しかし空には太陽しか……違う、太陽が二つある。では片方は……。

「やばっ」

地面を思い切り蹴り、真後ろに飛び退く。

濃密な光が降り注いだのはそれとほぼ同時だった。極限まで収束された光は、離れて見ると天を貫く柱のようだ。

余波を食らうのもまずい。

焼け石に水だろうが、シャドウランスあたりを大量に出現させて擬似的な盾に……と考え視線を彷徨わせるが手頃な影がない。誰だ、こんな遮蔽物も影もない所に私を誘導したのは。

もう駄目だ。光の柱の余波で死ぬんだ。死なないかもだけど、絶対に痛い。

攻撃を受ける面積を減らすため、飛び退いた勢いのままに地面に倒れ込んだ。

歯を食いしばって目を瞑る。一思いにやりやがれ。南無。

「……ん?」

コンマ数秒経過したが痛みが来ない。

もしかして痛みを感じる前に昇天しちゃったパターン?

恐る恐る目を開けると真っ暗闇。何だろうと手を動かすと、ひんやりとした土の感覚があった。

これは……死んだと思われて埋葬されたのだな。

折角だしゾンビのふりをして出ていこう。こういう一生に一度あるか無いかの機会は、大事にしていきたい。

両手を前に突き出した状態で起き上がる。埋められた場所は浅かったようで、上体を起こすだけで地上に出ることができた。

「うぼあぁ」

眩しさに目を細めながら周囲を見回す。そこは墓地、などではなかった。

一触即発の雰囲気で向かい合うパトリックとサノン。そこらの幽霊よりも薄くなっているレムン。だよね、そこまで時間経過してないよね。

パトリックは地面から出てきた私を一瞬だけ見て、すぐさまサノンに向き直る。

「どうして出てきた!」

そうか、彼が咄嗟に土魔法で私を守ってくれたのか。そして光の神の目の前に立ちはだかり、今も守ってくれている。

ゾンビの真似なんてしている場合じゃない。でもお願い、これだけは言わせて。

「かゆ……うま……」

「何だって?」

「大丈夫、もう私の気は済んだから」

土まみれのままパトリックの隣まで移動する。

しかし、彼は私を庇うように前に出て言った。

「ユミエラは相性が悪すぎる。逃げろ」

「彼女の狙いは私だからパトリックだけ逃げて……って言ったらどうする?」

「逃げるわけがない」

「そういうこと」

サノンは私の天敵と言えるが、だからと言ってパトリックに任せきりにするわけにもいかない。

あの光の柱は高純度のエネルギーも内包しているようで、私たちとサノンの間には赤い円が出来ていた。石や砂が熱されて熔解しかけているのだ。

デコビームでダメージを受けないパトリックでも、あの熱量を食らったら無事では済まない。

彼は深い溜め息をついた。

「逃げないことは分かっていたが……。仕方ない」

「どうする? パトリックの魔法は効きそう?」

「分からん。ただユミエラの闇魔法は効果が薄いだろう」

「じゃあ私が前衛で」

「ああ。俺が魔法で援護するから、重い一撃を入れてやれ」

魔法が駄目なら物理で殴るに限る。パトリックに遮蔽物を作ってもらいながら肉薄して、あとは接近戦。

上手くいくだろうか。何かもう一つ、有利な要素が欲しい。

サノンの気が逸れるような。空から石が降ってくるとか……ありえないか。

彼女は金色の目を細めて、私たちに手を向ける。

「私に敵うとは思わないことです。諦めたら――」

「きゃあああああ」

サノンの言葉を遮るように、頭上から悲鳴が降ってきた。どこかで聞いたような声だ。

真っ先に悲鳴に反応したのは意外にもサノンであった。

「この声は!?」

彼女は私たちを視界から外し、天を見上げる。

好機だ。だが動こうとした寸前、サノンはこちらに顔を戻す。

「ユミエラ・ドルクネス! 何としてでも受け止めなさい! エレノーラが降ってきました」