軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 イベントは突然に

あれからすぐ王都を発った私たちは、領地でいつも通りの生活を送っていた。公爵が事を起こしたという知らせは未だに来ない。

それはそれとして、私には領主としての仕事が山積みだ。例の開拓村は住民の移住が完了、支援だけは継続しつつ畑を耕して貰っている。最初のちょっとは手伝おうかと思ったけれど、パトリックからも村人からもストップがかかってしまった。

自分たちのことは自分たちでやるという決意の現れだろう。決して、私に任せると悲惨なことになるからではない。

今は執務室で、封筒に宛名と署名を延々と書いている。

何に使われる物なのか分からないので、封筒の山を押し付けてきたデイモンに尋ねる。

「ねえ、これって何の封筒?」

「それはですね……もう伝えましたか?」

デイモンは、執務室の隅で書類の検分しているパトリックをチラチラ見ながら言った。

ああ、なるほど「パトリックレベル99おめでとうパーティー」の招待状か。辺境伯やら国王陛下やらの名前があったので何事かと思った。

例のお祝いはギリギリまで隠してサプライズにするつもりだ。勘の良い彼に悟られてはいけない。

首を横に振った私は、何でも無い風を装って会話を続ける。

「ああ、招待状ね。中の手紙は?」

「それはわたくしが用意いたします。これは正式な物ではなく、冬頃に執り行いますというお知らせですので。宛名と署名だけお願いしております」

半年以上先の話だが招待客は多忙な人が多いし、前もっての通達も必要か。でも招待状を全員分書くのは面倒くさいな。そのうちやってくる手紙地獄に憂鬱になった。

デイモンは思い出したようにパーティー準備の報告をする。

「ドレスの方もそろそろ出来上がって参ります。一度試着していただいて、それから手直しですね」

「白いやつだっけ?」

「その通りです」

白いドレスって本当に着なくちゃ駄目かな? レベル99のお祝いだけど、それだけは気が進まない。

それと、こうやって大々的なパーティーの準備をしているけれど、もしパトリックのレベル上げが間に合わなかったらどうしよう? 私のレベル99到達のお祝いを兼ねているにしても、彼が恥をかくことになってしまう。

こうしてはいられない、最後の封筒に自分の名前を書き終えた私は勢いよく立ち上がった。

「デイモン、後はお願い」

「かしこまりました」

「パトリック! ダンジョンに行こう!」

「……突然どうした?」

五分後に屋敷の玄関で集合とだけ告げて、私は執務室を飛び出した。こうやって半ば強引に誘えば、彼は必ず付き合ってくれる。

今回ばかりは許してくれ、あなたのためでもあるんだ。

◆ ◆ ◆

ドルクネス領の名所の一つである闇属性のダンジョン最下層付近、私はパトリックが戦うのを傍から眺めていた。

次々現れる魔物の一体一体を、正確に対処しながらパトリックは言った。

「今日は珍しいな、ダンジョンは単独に限るというのがお前の持論だろ?」

「まあ、たまにはいいじゃない。あとパトリックの邪魔はしていないし」

「ユミエラも参戦してくれた方が楽になるんだがな」

「そんなことしたら効率が落ちるでしょ? パトリックの足を引っ張るようなことはしないって」

効率という面で考えると、このダンジョンはとてもよろしくない。出現する魔物がほとんど闇属性なので、パトリックの風・土属性の魔法との相性が悪いのだ。

だがどんなに非効率的でも、近いからという理由だけで闇ダンジョンは重宝している。

他にも、魔物の強さは何回攻撃で倒せるくらいがいいのかなどのダンジョン効率周回術があるが、私には無意味な話だ。近日中にパトリックにも必要なくなる。

剣をメインに、魔法はあくまで補助として戦うパトリックの一歩後を付いてダンジョンを歩く。

はっ、これが大和撫子の条件の一つ、男性の一歩後を歩くってやつなのか?

後方から来た魔物の突進を避けて、パトリックの方に向かわせながら閃いた。今のは奥ゆかしさが滲み出ていた気がする。

男性を立てて経験値を譲る。おいおい、完璧じゃないか。

私が譲った魔物をギリギリで振り向いて倒したパトリックは、若干息を切らせながら言う。

「今のはユミエラが倒してくれても良かったんじゃないのか?」

「私ってほら、奥ゆかしくて控えめだから」

「は?」

何故か彼は理解してくれなかったけれど、私はこれからも健気に頑張る。だって大和撫子だから!

それからしばらく、丁度良く魔物も途切れたし、切り上げても良い頃合いなのでパトリックに声をかける。

「そろそろ終わりにしない? 帰りは私も戦うから」

「そうだな帰るか、その前にこれを渡しておく」

剣を鞘に収めた彼は、懐から黒い小箱を取り出す。あれは……この前お酒を飲んだときに見たような?

パトリックは私の目の前で箱を開けて中身を見せる。

箱の中に入っていた物は指輪。シルバーのリングに透明な宝石が付いている。

なぜに指輪? 不思議に思っていると、彼は私の左手を取って指輪を嵌める。わあ、きれい。

「ユミエラ、結婚しよう」

「え、あ、うん」

どゆこと?

「それじゃあ、帰るぞ」

パトリックはそれだけ言って先へ先へと進んでいく。彼の背中と、左手の薬指にある指輪を交互に見ながら考える。

え、今のってプロポーズ的なやつ?

慌てて彼の背中を追いかけるうちに、なぜだか涙が溢れてきて、そのままの勢いで背中にぶつかった。

パトリックは呻き声を漏らしたものの立ち留まったので、背中に顔を押し付けて泣き顔を隠す。そのまま発した私の言葉はくぐもったものになっていた。

「ねえ、今のってプロポーズ?」

「そうだぞ、何時も通りの生活の中で突然、というのも良いとアドバイスを受けてな」

「どうして、どうして今なの!? もっと、こう、ロマンチックなのが良かった!」

「お前、そういう場を設けても絶対に台無しにするだろ」

うーん、一理ある。反論したかったが、私自身も半分納得してしまった。

でも、もっとちゃんとした所で、ちゃんとした感じで……様々な考えが脳内を駆け巡る中、彼は一つだけ質問をした。

「それで? 結婚しないのか?」

そんなの答えは一つしか無い。

「……する」

もう泣くのは辞めよう。彼の背中で盛大に鼻をかんでから、そう思った。

ダンジョンを出てすぐの所には休憩所がある。何年も前、私がここに通いつめていた頃に作ったのだ。

ベンチっぽくしようとして、結局は表面を削るだけになってしまった丸太に並んで座る。

二人で無言の中、私は薬指に輝く指輪を眺めていた。

ふと、これの名称が気になる。

「これって結婚指輪ってやつ?」

「婚約指輪だな、結婚指輪は結婚式で交換する方だ」

二種類もあるんだ。この世界独自の風習だろうか……ん? 前の世界でも結婚式で指輪を交換していたような? 良く分からん。

指輪に付いている宝石は、ガラス玉よりも透明で、良く見なければ存在していることすら分からない。私知ってる、これダイヤってやつだ。

「ダイヤ……だよね?」

「違うぞ、お前がダイヤはいらないと言うから急遽、別な物を用意した」

「……そんなこと言ったっけ?」

「本当に……ユミエラは……」

ため息をついたパトリックはしょうがないなと笑って、私の頭を撫でる。私は逃げないでされるがままに、彼の肩に頭を預けた。

悪いことを、我儘なことをしてしまった。きっと私は何となしに発言しただけで、彼もそれは分かっていて……。でもパトリックは私の要望に答えようとしてくれた。

右耳で彼の胸の鼓動を聞きながら、左耳で話を聞く。

「これは人の魔力を込められる特殊な魔石でな。あの、怪しい商人がいただろ? 魔物呼びの笛を売りつけようとしたあの。彼から買ったんだ」

ああ、あの商人か。私の醜態の引き金になった人物を忘れるはずもない。

人の魔力が込められる、というのは緊急時に指輪の魔力を使って魔法が打てるということだろう。それってとても……。

「ユミエラが魔力切れになる場面は想像できないが、実用性皆無と言う訳ではないから、その、なんだ、気に入ってもらえると嬉しい」

「ありがとう、パトリック!」

最高すぎるプレゼントに気分が高まり、思わず彼に抱きついてしまう。横に引っ付くと彼は恥ずかしげに顔を逸した。何やかんやでパトリックも恥ずかしがりだよね。

「それじゃあ、魔力を込めてみるね」

しばらくして彼から離れた私は、指輪の宝石に魔力を注ぎ込む。壊さないように、慎重に、少しずつ、少しずつ。

私の闇の魔力をたっぷりと吸った魔石は、禍々しい黒い輝きを放ち始める。世界を滅ぼさんとする呪いのアイテムのようだ。

人の欲望を呼び覚ますような混沌の輝きを見て、私たちは絶句した。こんな魔力を持ってる私って一体何なの?

「……これ、パトリックの魔力を入れたほうがいいんじゃない? ほら、貴方からの贈り物な訳だし」

「……そうだな」

パトリックの風の魔力を入れたところ、宝石はエメラルドのような緑色の輝きになった。彼の瞳のようでとても素敵だ。

うん、最終的に綺麗になったから良し。

結婚しようと言われて「はい」と答えてしまった。何時になるかは分からないけれど、結婚式の準備を始めなければなるまい。招待状とかも送らなきゃな。