軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 純白のドレスといえば……

領主の仕事は色々あるけれど、一番比率が高いのは書類のチェックだ。

まともに見もしないで適当に済ます貴族もいるだろうが、私はしっかりとやるべきだと思う。たまに間違いを見つけたりもするので意味が無い訳ではない。

書類にサインをした瞬間から、それは私の意思ということになるので手は抜けない。領地の状況も把握できるし、この仕事は好きな部類だ。

せっせと書類を片付けていると、一点だけ気にかかるものを見つけた。

丁度良く執務室に来ていたデイモンに尋ねる。

「ちょっとごめん、これなんだけど」

「何でしょうか」

「相場を知らない私が言うのもおかしいけれど、水車小屋を作るのってこんなにするの?」

「はい、どうしてもそれくらいには。信頼できる職人に依頼をしますから」

職人さんの人件費で高くなっているのか。ケチって中途半端なものを作られても困るので、そのまま承認のサインを書く。

新しく作る水車は、例の開拓村のものだ。パトリックが魔法で整地したあの場所は、家屋を始めとした施設の建設が進んでいる。

盗賊に身を落としていた彼らには、そろそろ隣領の荒れ果てた村から、新しい村へと移住してもらう予定だ。

取り敢えず、今日の分の書類は終わった。ちょうどデイモンもいることだし、例のイベントについても相談しておこう。

「あの、重要な相談なのだけれど……」

「ではパトリック様もお呼びしましょうか?」

それは困る。彼には秘密にしておきたい。

私が計画しているのは「パトリック、レベル99おめでとうパーティー」だ。最近は測定していないので正確には分からないが、数ヶ月の内にパトリックのレベルは99に到達すると思う。

そんなおめでたいことは他に無いので、ささやかながらお祝いの会を目論んでいた。

彼を驚かせたいので、直前まで秘密にする。

「パトリックには秘密なの。ちゃんと私から伝えるから」

「はあ、どういったご相談でしょうか?」

デイモンは不思議そうに言う。

どこから聞かれているか分からないので私は小声で説明した。

「えっと、パーティーというかお祝いの会というか……」

「ああ! なるほど、それはお目出度い! 是非ユミエラ様からパトリック様にお伝え下さい」

「うん、そろそろでしょ?」

「わたくしも、今か今かと待ち望んでおりました!」

彼は優秀な官吏であるので、私の言わんとすることもすぐに察してくれた。

それにデイモンもパトリックがレベル99になるのを楽しみにしていたようだ。やはりレベルカンストはお祝いするべきだったと確信する。

必要な物は何だろうか、頭の中の整理も兼ねて口に出して確認する。

「準備しなきゃいけないのは、まず会場でしょ?」

「領地ですか? 王都ですか?」

「ここでいいよ」

「承知しました、領民も喜ぶことでしょう」

領民は喜ぶかな? ちょっとした違和感を覚えた私はデイモンに尋ねた。

「他に準備が必要な物って何かある?」

「ユミエラ様が拘りそうな物でしたら、ケーキでしょうか」

「うん、ケーキは必要よね」

「なるべく大きく豪華な物を手配いたします」

お祝いのパーティーにケーキは必須だ。私の違和感は杞憂だったようだ、私とデイモンは二人ともレベル99パーティーの話をしている。

後は誰を招待するかだ。この屋敷で働く人たちは確定として、後は誰を呼べば良いだろう。

「誰を招待すればいいかな?」

「もちろんパトリック様のご両親、あとは国王陛下と王妃陛下もいらっしゃるでしょう。」

「え? 国王陛下も?」

「もちろんです、王国の将来に関わる儀式ですから」

儀式って大げさな。でもレベル99の人物なんてそうそういない。私に準ずる強さを誇るパトリックを国王陛下も無下にはできないだろう。

結構大掛かりなイベントになってきた。思っていたのと違うけれど、まあいいか。

デイモンは更に必要な物を挙げる。

「あとは衣装ですね。ユミエラ様にお似合いになる素敵なドレスを仕立てましょう」

「ドレス着るの? 私が?」

「主役なのですから当然です」

「主役はパトリックじゃないの?」

「ユミエラ様もです。お二人のための式典です」

そうか、私もレベル99だった。彼はパトリックのついでに、私のお祝いもする気でいたのか、違和感の正体が分かったぞ。

でもドレスは嫌だなあ。着なきゃ駄目かなあ。

「ドレスって必要?」

「何を仰るのです! 一生に一回の機会なのですから、後悔を残してはいけません」

そりゃあ、レベル99になるのは一生で一度だけどさあ。私の場合はだいぶ前の出来事だし、ドレスを着る意味も分からない。

「あんまり派手なのは嫌だなあ」

「レースを豪勢に使った純白のドレスです。派手さもありますが、清らかさが勝るかと」

白!? 今デイモンは白いドレスと言ったか?

白いドレスなんて着たら……食べこぼしが絶対にできないじゃないか!

汚すのが怖くてまともに料理を食べられる自信がない。でもケーキはドレスと同じ白だから、万が一こぼしても目立たないかな。カレーうどんにさえ警戒すれば大丈夫かも。

今日の主役って書いてあるタスキは必要かな? パトリックは嫌がりそうだから辞めておこうと考えていると、デイモンが涙ぐんでいた。

「うう、何時になるのか心配しておりました。喜ばしい限りです」

「そこまで喜ぶこと?」

「はい、これでドルクネス家はさらに安定し、繁栄し続けることでしょう」

まあ、レベル99の人間が二人いたら安定もするだろうさ。それにしても二人というのは少ない。もっとレベル上げの素晴らしさに目覚める人物が現れても良い頃合いだ。

ついでだし、目の前にいるデイモンを勧誘しておくか。おじさんだけど、レベル上げに年齢は関係ない。

「私とパトリックの次はデイモンかもね」

「へ? わたくしはささやかながら既に済ませておりますが……」

デイモンがレベル99? 思わず聞き返す声が大きくなってしまう。

「え!? そうだったの!?」

「はい、陰ながら支えてくれる妻がいます。わたくしはもう十分なのです」

なるほど、もう今のレベルで十分ということか。確かに彼の仕事を加味するとレベルはそこまで必要ない。唐突に奥さん自慢を挟んだ理由は知らないけれど。

それより計画を詰めなければと思うも、デイモンは自分に任せてくれと言う。

「すぐに全使用人に通達して準備を進めます。数カ月後を目処に、ということで」

「お願いします。パトリックには私から伝えるから――」

「箝口令を敷きましょう。事情を説明すれば皆が協力しますとも」

私はもう一度、お願いしますと頭を下げて「パトリックレベル99おめでとうパーティー」の話し合いは終わった。

その日、私とデイモンの会話は噛み合っていたし、互いに同じイベントを話題にしていると思っていた。それだけは間違いない。