軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 暗闇の告白

収穫の時期が終わり本格的な冬が始まる直前、バルシャイン王国建国祭は王都に一番人が集まる日だ。

収穫祭も兼ねて庶民はもちろん、貴族たちもこの日は王都に集まり建国を祝う。

国王陛下は建国祭の式典にて魔王復活を公表することを決めた。

王城の大広間にて建国を祝う言葉を述べた後、陛下はこう切り出した。

「皆に重要な話がある。エドウィンの不用意な発言で感づいておる者もいるだろうが、あと一年も経たぬうちに古の魔王が復活する」

それを聞いた貴族たちはざわめくが、それほどの混乱は無かった。魔王復活は前にエドウィン王子が公言してしまっている。王家としては否定していたが、薄々と感づいている者も多かったのだろう。

「魔王は勇者である初代国王と、聖女である妃によって封印をされていた。しかし封印はいつかは解ける。その時期を初代国王は正確に予想してくださった。

封印から目覚めた直後の魔王は弱っているであろう。勇者でもなし得なかった魔王を完全に打ち倒すことも可能だ。後世への憂いを断つためにも!」

初代国王を越える偉業を果たすと宣言した陛下に式典会場が大いに湧く。

「魔王は魔物を操ると伝えられている。魔王は力を蓄えるためにも魔物の軍勢を我が国に差し向けるであろう。それの対処は騎士団長アドルフに任せる。

国軍の大規模出兵の準備はすでに進めてあるが、兵はいくらいても足りないであろう。ここにいる皆にもいくらか兵を出して貰いたい」

陛下による出兵の要請に対する反応は様々だった。国のために戦うと気合の入る者、とても出兵の余裕はないのか難しい顔をする者、どうすれば最大限の手柄を立てられるかと思案しているであろう者。

「魔王討伐へは少数精鋭の部隊を当てる。では紹介しよう――」

陛下はエドウィン王子から紹介を始める。紹介された王子が決意表明の挨拶をすると会場中が拍手をした。

ウィリアム、オズワルド、アリシアも順番に紹介をされる。最後はいよいよ私の番だ。

「最後にユミエラ・ドルクネス、彼女は前人未到のレベル99へと到達した者でドラゴン使いでもある。魔王討伐の大きな力になるであろう。ついでにここで発表するが、彼女は伯爵位を受け継ぎドルクネス伯爵となった」

ついに来たかと私は覚悟を決めて壇上へと上がる。

「ご紹介に預かりました、ユミエラ・ドルクネスです。

私の目標は黒い髪の人間への差別を無くすことです。私自身も髪が黒いからという理由で不自由な思いをしました。

それはしょうがないことだと諦めていましたが、とある少年に会って考えが変わりました。髪の色で酷い目に遭いながらもとても心優しい彼を見て、私は何とかしなければいけないと思ったのです。

そのためにも差別の原因の一つでもある魔王は、なんとしてでも打ち倒したいと思っています」

ついに人前で言ってしまった。受け入れられなかったらどうしよう、現に式典会場は静まり返ってしまっている。

しんとした会場に一つの拍手の音が鳴り響く。横から聞こえたその音は、エドウィン王子のものだった。彼に続いて国王陛下と王妃様が拍手をすると、それは会場中に広がった。

建国式典の後は盛大な舞踏会が開かれる。本当はこういう社交の場も積極的に参加するべきなのだが、ダンスだけはやりたくない。

一応は習っているので笑われない程度には踊れるのだが、人前でダンスをするというのが恥ずかしくて仕方がない。今ではたまに忘れることもある前世の感覚が残っているからだろうか。

私は会場を抜け出して王城の中庭に来ていた。今宵は曇り空であり、中庭には光源の類は一切ない。この真っ暗な場所であれば誰かに見つかることもないだろう。

「ああユミエラ、こんな所にいたのか」

早速見つかった。こちらへとやって来るのはパトリックだ。彼は式典にも晩餐会にも呼ばれていないはずだが。

「パトリック? 何でここにいるの?」

「エドウィン殿下のご厚意でな。しかしダンスを誘うべき相手が見当たらないので、探しに来た次第だ」

「誰を誘うつもりなの? 私も一緒に探しましょうか?」

この会場に呼ばれているのは貴族家の当主とその妻くらいだが、パトリックの相手とは誰だろう。まさか、人妻か未亡人か?

「パトリック、未亡人は良いけれど人妻はやめておきなさい」

「今度はどんな勘違いをしているんだ? いや、いい言うな、聞きたくない」

パトリックは残念な物を見る目をする。私はここで違和感を覚えた。

「パトリック、目が見えているの?」

この中庭は相当に暗い。私が問題なく見えているのは高レベルの感覚によるものだ。彼のレベルではこの暗さでは何も見えないはずだが。

「隠していたのだが、こんなことで気づかれるとはな。そうだ俺はレベル50になった。感覚は鋭敏になったがこの暗がりでは人影があることくらいしか分からなかったよ」

レベル50とはこの国でもトップクラスの実力者ということだ。一体彼はいつの間に?

「あ、最近学園にいなかったのって……」

「ああ、そうだ。休みごとにダンジョンに潜っていた。後はこれの力も大きいな」

パトリックがそう言って首元から取り出したのは護符であった。

「成長の護符? ちょっと! 守護の護符を付けないと危ないじゃない、何かあったらどうするの!」

「いや、これを付けるべきだと言ったのはユミエラだろう?」

あれ? 確かに私はレベル上げは成長の護符一択という論理を展開していたはずだ。とっさに危ないと言ってしまったのは……

「だめ、危ないから。パトリックに何かあったら私が嫌だから」

守護の護符を身に着けていれば、死んでしまう攻撃を受けても一度は耐えられる。

「お前が無茶なことをするたびに、俺もずっと同じ気持ちだったんだがな」

「それは、ごめん?」

これからは私も無茶なことは控えなければなるまい。それで、私の今までの無茶な行動ってなんだろう?

「暗がりで表情は見えないが、お前が俺の話を理解していないことは分かるぞ。まあ、その話はいい。俺を魔王討伐に同行させては貰えないだろうか?」

レベル50では足りない。ゲームでの魔王戦適正レベルは60だったし、今回はお荷物が四人もいる。

「それは駄目、パトリックを守りきれる自信がない」

「やはりまだ力不足か」

「あのね、パトリックが力を最大限発揮するのは、大規模な集団戦だと思ってるから。あなたには魔物の軍勢からの防衛をしてほしい」

学園の野外実習で分かったことだが、彼の無駄が極限まで省かれた指揮は美しささえ感じる。

しかしこれを言っても、今の彼には体のいい厄介払いにしか聞こえないだろう。

「あとね? 魔王を倒した中でも、一番と二番で高レベルの男女二人はなんて呼ばれるか知ってる?」

「それは……ああ、勇者と聖女か」

「パトリックが私と二人で新しい国を作るつもりなら良いのだけれど」

彼が魔王を倒して我こそが王に相応しいと、国を作るのだと言うのなら協力しても良いのではと思っている。

「いや、王の対抗馬に祭り上げられるのはゴメンだな。ユミエラが王妃になりたいのなら、それくらいはやってもいいかもしれないが」

「嫌に決まってるじゃない」

それだと私とパトリックが結婚することになるのだが、彼は気がついていないのだろうか。

「分かった。アッシュバトン辺境伯でも兵は出すだろうから、それの応援に行こう」

「うん、ごめんね。あの、何でパトリックはそんなにレベル上げを急いだの? 魔王復活は私も言ってないはずだけど」

彼は貧乏貴族家というわけでもないし、それが不思議だった。

「……お前が」

私がなんだ? この暗闇の中でも私には見える彼の表情は百面相をしていた。

「私がどうしたの?」

「……ユミエラより強くなりたかったんだ」

うーん、基礎スペックを考えると望み薄な気がする。

「悔しかったとか? でもほら、人の価値って強さだけじゃないじゃない?」

「お前が言い出したことだろう、自分より強い男が好みだと!」

それは私を取り込もうとした貴族の子息に対する断り文句だったはずだが。

「あの、それはお断りのためのでっち上げというか……そんなことは思ってないのだけれど……」

実際、私の想い人は私に比べれば弱い。

「え、じゃあ俺はずっと無駄なことを……」

パトリックの顔が一瞬で曇る。それは、つまり、そういうことなのだろう。流石の私もそれくらい分かる。なにか、なにか言わなければ……

「あのねパトリック、じゃんけんをしましょう」

「は?」

「はい、じゃんけーんぽん」

彼は戸惑いながらも律儀に手を出した。残念なことに結果は私の勝ちだった。

「これはなんだ? 暗くて勝敗がわからないのだが」

「パトリックの勝ち。じゃんけんはあなたの方が強いのね。私、やっぱり自分より強い人が好きだから、あの……」

パトリック、これが今の私の限界です。お願いだから、どうにか察して欲しい。

「ユミエラ」

私の両肩にパトリックの手が置かれて――

パトリックよ、暗闇で表情も見えないというのは嘘だろう? だって私の唇の正確な位置が分かったんだから。