軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-16右 この勝負、必勝法がある(失敗) パトリックさん!?

◆6-16右 この勝負、必勝法がある(失敗) パトリックさん!?

「この状況には……必勝法がある! ユミエラ最強! ユミエラ最強!」

パトリックさん!? どうしよ、パトリックが壊れちゃった。

いつもは常識的でおとなしい人であればあるほど、奇行を始めたときに怖い。私もパトリックの謎行動に完全にビビってしまっていた。

助けを求めてエレノーラに視線を向ける。パトリックの声に驚いていた彼女であったが、すぐにハッと何かに気が付いて最強コールに参加する。

「ユミエラさんが最強ですわ! 一番強いですわ!」

「ユミエラ最強! ユミエラ最強!」

エレノーラちゃんも壊れちゃった?

二人とも何してるの? 当然の事実を叫んでどうしちゃったの?

果たして本当に必勝法なのかと考えたが、天空のアレに変化は見られない。程なくして二人の謎コールは止まった。

「変化が無い。前回はこれで収まったんだが」

「原因は強さやレベルに由来する何かですから、こういう方法で間違いないはずですわ」

おかしくなった二人のはずなのに会話は噛み合っているように感じる。

謎コールも阿吽の呼吸だったってこと? 私は一切理解できない会話をできるくらいに、パトリックとエレノーラは通じ合ってるってこと?

「婚約者と親友が……ぐうう、脳が破壊されそう」

「ユミエラさんにも説明した方がいい気がしますわ」

「そうしよう」

見かねた二人から、改めて説明を受けたことで脳破壊展開は回避された。

どうにも前回とやらは私が弱いと煽られたことが原因のようだ。低レベルだと煽られた私は、上空のアレみたいな姿になってしまい戻った後は記憶が消えてしまうらしい。

だから彼らは、私が最強であると叫ぶことで事態の収拾を図ったのだろう。

「いくら私とはいえ、弱いって言われたくらいであんなになっちゃう?」

「なっちゃうから困ってるんだ」

「そっか。……じゃあ薄明の国にいた私の左側が、弱いって煽られたんだよね?」

「そうだと思う。迷惑なヤツはどこにでもいる」

パトリックは珍しく苛立たしさを表に出していた。

本当にね。迷惑なヤツもいたもんだ。私の左側にそんなことを言うなんて。左ユミエラは右ユミエラこと私に負けた雑魚ではあるが、言って良いことと悪いことが……あ!

急展開の混乱で頭の中から消え去っていたが、アレが出現する直前に私は何をしていたか。

抱えたままでいた例の黒い手帳を確認する。

『彼女に伝えてください。左側は右側に負ける雑魚』

原因コレじゃない? 迷惑なヤツって私?

私が固まっていると、パトリックは私がショックを受けていると勘違いしたようだ。

「あまり気に病むな。原因を作った人物にも責任がある」

「あの、その原因なんだけど――」

「半分とはいえユミエラさんを弱いなんて言った方も悪いに決まってますわ!」

「ごめんなさい。原因、私です」

頑張って私をかばってくれる二人に、事実を隠すなんて出来なかった。

手帳を見せ、左側の暴走は右側の煽りであると説明した。

すごい怒られるんだろうなと身構えていたところ、パトリックは全く違う反応をした。

「そういうことか! だからユミエラ最強と言っても効果が無かったんだ」

「わたくしも分かりましたわ! 大事なのはユミエラさんの強さではなくて、ユミエラさんの右と左どっちが強いか!」

「エレノーラ嬢も気がついたか! これで必勝法が使えるぞ!」

また私の理解は置いてけぼりにされてるけど、必勝法は使えるみたいです。

私が原因で事件が起きて、パトリックが上手く片付ける。……今回もいつもの流れで終わりそうだ。

勝ちを確信しているパトリックたちは、再度声を張り上げた。

「ユミエラは左側の方が強いぞ!」

「左のユミエラさん最強ですわ!」

右ユミエラとしては懐疑的だった必勝法は、明らかな効果があった。

空に浮かぶ黒い翼がわずかに揺らいだのだ。今まで外界に対してリアクションが無かった左の私が、初めて反応を見せた。

こんなことで暴走が収まるなんて、左のわたしは単純だなぁ。私は言葉だけで強い弱いを論じられたところで、影響なんか無いけどな。

「左のユミエラが最強だ!」

「左側かっこいいですわ!」

一度は勝負に負けた左側も、この程度のお世辞で鉾を収めるとは情けない。

今この私は、明らかに上っ面で言ってるだけの言葉に、何も思わなななななななな。精神面でもやっぱり右側の私が右が右が右が右が私が私が私がががっががああ。

「左ユミエラ最強! 左ユミエラ最強!」

「……パトリック様! まずいですわユミエラさんが!」

「ぐぎぐぎががががれじぎが」

「落ち着けユミエラ、右側も強いから! 右の方が強いから!」

「そうですわ! 右ユミエラさん最強ですわ!」

……ん? えっと何だっけ、私は何をしていたんだっけ?

確か左ユミエラが暴走して上空に浮かんでいたはずだ。空を見上げると、さっき見たよりも凶暴なオーラを放っているようだ。このままでは本当に世界が崩壊してしまう。

「必勝法は? パトリックは必勝法があるって言ってたよね?」

「詰んだ」

「え?」

「詰んだ。必勝法は使えなかった」

必勝法があると言ったときの自信はどこへ行ったのか。パトリックからはもうダメだって確信が溢れていた。

「じゃあアレどうするの?」

必勝法がダメでも、パトリックならきっと解決への道筋が見えているはずだ。

彼は問いかけに対し、私の目を真っ直ぐに見て言った。

「どうしよう」

ホントにどうしようね。

必勝法って必ず勝てる方法じゃなかったの?

「一応、屋内に避難する?」

「どこに逃げても一緒ですわ」

確かにエレノーラの言う通り。

立ち尽くして空を見上げていると、黒い点が見えた。

「何か降ってくる! 左の私とは別の……人かな?」

たぶん人くらいのサイズでそんなに早くないから、脳天直撃なんてことはないだろう。上さえ見てれば誰でも避けられる。

「何が見えますの?」

ピンポイントでぶつかりそうな人がいた。

彼女を抱えて家まで逃げないと。私は慌てて行動に移したけれど、左半身が動かないことを忘れていた。

エレノーラの足元にビターン! と派手に転ぶ。

「何をしていますの?」

「私はこれまでのようです。エレノーラ様、私のことは気にせず逃げてください」

もうダメだ私。自分を犠牲にして親友を助けるヒロインスイッチを入れます。

優しいエレノーラは親友を見捨てられるはずもなく、今度はわたくしが頑張るときと言わんばかりに立ち止まったまま……だといいな。

転がったまま上を見て確認すると、逃げてはなかったが何やってんのって顔で見られていた。スイッチ切ります。

「空からの落下物があるのでエレノーラ様は屋敷の中に避難しといてください」

「ユミエラさんは逃げなくていいの?」

うわっ。やっぱり私のこと心配してるじゃん。スイッチ再度オンで。

「私は大丈夫ですから、エレノーラ様だけでも……」

「大丈夫そうですわね!」

エレノーラは元気良くうなずくとトテテテーと屋敷に一目散に避難を開始する。スイッチオフだ解散解散。

避難訓練の小学生くらい頑張ったエレノーラを見送りながら地面に寝転がったままでいたところ、パトリックに両脇に手を突っ込まれて立たされる。荷物っぽさのある持ち上げられ方だった。

「寝てる場合じゃない。あの物体、近くに落ちるぞ」

彼に誘導されるままに空を見上げると、例の落下物はこちらに真っ直ぐに向かっていた。

近づいてきて人間くらいの大きさだとは分かったが、まだ正体は不明だ。

「なんて迷惑な。屋敷が壊れたり庭に穴が出来たらどうするの?」

「……ユミエラみたいだ」

「迷惑落下行為をしてるからって私を出さないでよ。恐竜絶滅の隕石にユミエラって名前つけないでね? 私への偏見が加速するから」

味方だと思っていたパトリックが迷惑行為をユミエラと呼び始めてしまった。

現段階で風評被害を受けるのは私だけでも、ああいう破壊活動をするのはだいたい髪が黒い人……みたいに発展してしまうと本物の差別になっちゃう。

差別マン予備軍のパトリックは落下物鋭い視線で睨み言う。

「あれはユミエラ……ではないな。黒い髪の人間だ」

予備軍が正規軍になっちゃった。

彼はユミエラ以外の黒髪の人間だと言うが、たぶん間違っている。

「そんなわけないでしょ。空から落ちてくる黒髪はユミエラに決まってるんだから」

「自分に対する偏見の方がすごくないか?」

落ちてくるのはどうせ私だ。

落下物を改めて確認すると長い黒髪を持った人間だった。パトリックが気付いたタイミングから更に大きく見えるので間違いようがない。

例によって自由落下しているのがユミエラで、天空に浮いているのもユミエラで、ここにいる私もユミエラで……三人いない?

右半身が自由に動く私はユミエラ(右)。翼のアレは左半分しかないのでユミエラ(左)。落ちてくる人は半分とかじゃないし、両手足を必死に動かしている。

なぞなぞです。左でも右でもなくて、空中落下でパニックに陥るユミエラなーんだ?

「……あれ私じゃないんじゃない?」

「だからそう言ってるだろ」

じゃあ、もしかしてだけど、助けたほうがいい?

そう思った頃には手遅れで謎の人物は私たちの目の前、王都ドルクネス邸の庭に墜落する。

「ねえパトリック、助けた方が良かったんじゃない?」

「あ」

うっかりさんの「あ」が聞こえた。ユミエラじゃないと分かっても、長い黒髪の人間を心配するのは難しいようだ。黒髪差別かユミエラ差別かの問題は深刻らしい。

舞い上がった砂塵の中から咳の音が聞こえる。どうやら生きているらしい。

少し苦しそうな咳払いが続き、次に聞こえたのは男の声だった。

「どこだここは? 何が起きた?」

あの衝撃で無事な人物だ。正体不明な以上、警戒しなくてはならない。

私たちが多少の危機感を持ったまま見守っていると、茶色い土煙の向こう側から、真っ黒な男が現れる。

長い髪は私と同一の漆黒で、瞳も真っ黒、男性であるが顔の雰囲気すら私と似ていた。これまた黒い鎧を身に着けた、男版ユミエラとでも言うべき人物を私は知っている。

彼の正体を知らないパトリックは、少し警戒しながら話しかける。

「あなたは? なぜ空からやって来たのですか?」

彼は煩わしそうにパトリックを一瞥し、次にこちらを見る。

右側しか動かずバランスの悪いまま立つ私をジロジロと無遠慮に眺め、左側しかない空のアレを見上げ、一人で「なるほど」と頷いた。

「ここは生者の世界か。向こうの貴様が半分だったことにも得心が行った」

私の左半分は死んで薄明の国へ行った。未練を残した死者が集うそこには、勇者と称された初代バルシャイン国王がいる。であるならば、魔王がいることに疑問は一つもない。

ユミエラ(左)が復活して暴走したのに巻き込まれたのは推測できる。しかし彼の行動方針は全く推し量れない。

また敵対するかもしれないと思いながら、私は恐る恐る口を開いた。

「お久しぶりです。……えっと、何とお呼びすれば? お名前の方が――」

「魔王でいい」