軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-14左 勇者の目的がががががががががが

◆6-14左 勇者の目的がががががががががが

「でもこっちの方が王様らしいだろう?」

見た目すらも変わったと指摘された勇者は、一切の否定をせずにそう言ってのけた。

状況が飲み込めず私が黙っている中、魔王は怒声を上げる。

「お前はそんな人間ではなかっただろう? 小綺麗な格好も、穏やかな口調も、全くお前らしくない」

「僕らしさなんてどうでもいい。もっと王様らしくしろって君も言っていたじゃないか」

彼らの話を聞いて理解してきた。

勇者がバルシャイン初代国王であることに間違いはない。だが姿形や喋り方など、表層的な部分が激変しているのだ。

ここは薄明の国、生前の未練が影響して人間が変化する世界。長らくここにいた勇者は生前とはまるで違う見た目になってしまったようだ。

勇者に最初会ったときから感じていた。どこか上品で自信があり優しげで……いや、そんな言葉を並べる必要はない。彼はたった一言、「王様」と言い表せる。

全てが王様らしい彼は、王様らしい見た目で、王様らしい所作で、王様らしい口調で、王様らしい声色で……どこまでも王様らしく彼は言った。

「僕がこんな人間であれば、もっと上手くいったと思うんだ。」

「何を言う!? 我輩が付いて行こうと覚悟したのは粗暴な貴様だ。僕!? 気持ち悪い一人称を使うな」

「一人称について君から言われたくはない」

「我輩のどこがおかしい! ……変じゃないよな?」

一度は憤った魔王だったがすぐに不安になって私の方を見た。想い人が脈なしと分かって自信無くなってんじゃん。

我輩。古めかしくて現代基準じゃ馴染みのない一人称だけど、魔王様って昔の人だし。

「全く変じゃありません。時代が違うんですから」

私のフォローに対して、すかさず勇者の補足が入る。

「僕たちの時代も我輩なんて使う人いなかったよ」

「じゃあ変です!」

認めるしかないでしょ。これを言い出したのが勇者なら「一人称は個人の自由だから……」とフォローできたが、最初に難癖を付けたのは魔王の方だ。

「わ……我の一人称は関係ない。別問題として今のコイツは見ていられない」

我って使う人もいないぞワレ。

魔王の一人称はともかくとして、薄明の国で変容する前の勇者について気になる。たぶん、ここまで王様然とした人ではなかったんだろうけど……。

「本来はどんな方だったんですか?」

「粗雑で乱暴な男だ。戦の能があるだけで、国を治める器ではない」

そんなに酷かったの?

結構辛辣な魔王の言であったが、勇者は「そうだったね」と笑うばかりだった。どうやら真実らしい。今の勇者しか知らないから全く想像できなかった。

「警備をすれば民に賊と思われた」

「ああ、賊はどこだと君が駆けつけてきたんだった」

「同盟の場で礼儀を弁えず、不要な戦いになりかけたこともあった」

「アッシュバトンの御老公は怖かった」

「戦費の調達だと言いながら、猿と魚の骨を組み合わせて売ろうともした」

「人魚のミイラだ。止められなかったらきっと売れていたさ」

えぇ……そんなに酷かったの? 魔王もだったけど、勇者サイドもだいぶ酷いエピソードが盛りだくさんだった。

そこら辺の野盗と変わらない風体だったようだし、未遂だけど詐欺もやってる。初代国王の勇気を称える逸話は数多く残っているが、彼の正体が分かると全てヤンキーの武勇伝に聞こえてくる。

「そんな男でも、我輩が最も唾棄する種類の人間だとしても……それでも王になって欲しかった」

「ありがとう。国を夢見て君と一緒に駆けた日々は素晴らしかった」

「礼を言うな! 前半に悪口を言われた時点で喧嘩を吹っ掛けるのが貴様だろう!? 我輩が付いて行こうと決めたのは粗暴で、しかし義理堅い貴様なのだ」

若い頃の勇者は蛮族みたいだったが、そこが好かれていたらしい。その荒っぽい勢いのまま王国を作った。

そして彼は何を後悔して今の姿になったのか。想像はつく。もっと王様らしくなりたかったのだろう。じゃあ彼は生き返って、もう一度王様をやるつもりかな?

私も気になった核心への質問は、すぐさま魔王から放たれた。

「そんな姿になってまで何を望む。生き返って何を為す」

王国の繁栄……みたいな望みが聞けるはずだ。

誰よりも王様らしくなった王様は、きっと王様らしい望みを抱いているに違いない。彼はやはり王様らしく堂々と望みを口にする。

「僕の望みはバルシャイン王国の滅亡だ」

バルシャイン王国の初代国王は、王国の滅亡を切望していた。

完璧な国王として振る舞う彼は、王とは反対の希望を胸に、生き返ろうとしていたのだ。

「どうして……?」

「バルシャイン王国は数多くの犠牲の上に成り立っている。そんな国、初めから無ければ良かったんだ」

魔王と仲違いしたのを後悔するのは分かるけど、いくらなんでも王国を滅ぼしちゃうのはちょっと……。

犠牲者本人が否定すれば済む話じゃないの? 私がチラリと魔王を見た後も、勇者の言葉は続いた。

「彼だけじゃない。あえて対立構造を作った方が安定するからと、弟はヒルローズ公爵家を興した。最期は破滅と分かりながら、子孫は悪役に徹しているだろう」

「それは……」

「どうだい? 知らなかっただろう? 王国にはそんな話が沢山あるのさ」

いえ、知ってるんです。弟さんの子孫、ウチいるんです。破滅した後なんです。

私も深く関わった公爵の反乱騒動について説明しよう。私は説明するため勇者を見て……息を飲んでしまった。

勇者の瞳をに飲み込まれそうになり出かかった言葉が止まってしまう。こんなに人間味のない目をしていたなんてどうして今まで気づかなかったんだろう。

「僕の死の間際の後悔は決して揺るがない」

決して揺らがぬ、光の無い瞳で、勇者はそう言い切った。

私は何度目かも分からない裏切りを決行する。

言わなくても伝わるだろう。魔王の方へと移動して勇者と向き合った。

先程よりはマシになったが未だに勇者の瞳は怖い。人間らしからぬ視線で、人好きのする笑みを浮かべ、私は勇者から懐柔される。

「何も国を焦土に変えるわけではない。バルシャインの王族による体制を崩すだけだ」

「王国に忠誠心なんて欠片もありませんけれど……生き返ることについて考える切っ掛けになりました」

老いて後悔した勇者の、死後の成れ果てを目にして分かった。

私は流されるまま現世に戻ってはいけない。

「君が優先するべきなのは生き返ることだろう?」

「もう生き返らなくていいです」

何十年後か私が老いて死んだとき、後悔はいくらでもあるだろう。

ここで蘇りを肯定してしまえば、その時が来たときに私は生き返る道を選ぶはずだ。満足して死ぬという条件を達成するまで、何度も何度も生き返り続ける擬似的な不老不死を手に入れてしまう。

それは駄目だ。理路整然とした理由は言えないが、そんなことあってはならない。

「生き返らなくていいです。私もあなたも死を受け入れるべきと思います」

「君は味方になってくれると思ったのだがね」

勇者は腰に凪いだ剣をゆっくりと抜く。

装飾だらけの柄と鞘を見て実用性は低い剣だと思っていたが、その刃は冷徹な輝きを溜め込んでいた。

「では行かせて貰う。目的のための非情さも持っている、王であればこそ」

勇者は剣を重そうに取り回しながら構えに入る。

あまり強くなさそうだと眺めていると、魔王が慌てて言う。

「気をつけろ! 来るぞ!」

大丈夫だって。魔王さんは私の強さ分かってるでしょ。

今は左半分だけどさ、あのときより強くなってるから。

勇者はまだ構えの最中だ。距離も離れているし、警戒の必要性は――

「っ」

たった今、勇者は私の目の前にいる。

瞬間移動を疑う速度で接近されて、剣が私の首元に迫っていた。

音速の剣撃を認識は出来たが体の反応が間に合わない。私は勇者渾身の横薙ぎを受けた。

「見えているのか。やはり強い」

当たってしまったが、私は自分から飛ぶことで威力を殺すことに成功した。

吹き飛びながら、勇者の呟きは遠くに消えていった。

「アイツの剣をまともに食らって無傷とは」

「首くっついてます? 斬られてません?」

「縦に一刀両断されたような見た目ではある」

ほんなら大丈夫か。半分こなのは最初からだ。

攻撃は効かなかったけれど、避けられなかったのは事実だ。速すぎる。

「ちょっと強すぎません!?」

「アイツは国を建てた男だぞ。あれくらいの強さ、あって当然だ」

魔王と同じくらいだと思ってた勇者が強すぎる。

だって魔王を倒せないから封印して……あ、そっか。魔王を殺したくないから封印したんだった。

しかしまあ、普通に勝てる程度ではある。向こうの攻撃もあまり効かないし、身構えていれば速さにも対応できるだろう。

余裕の雰囲気を察知した魔王は悠長にも例の手帳を広げながら言う。

「その様子であれば問題なさそうだな……む?」

ちょっと、日記書いてる場合じゃないでしょ。

文句を言う前に、彼は手帳を私に向かって突き出してきた。

「伝言だ」

「私に?」

手帳を覗き込むと、見慣れた筆跡で文字ががががががががががが