軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-06左 ←これってそういう意味だったのね

◆6-06左 ←これってそういう意味だったのね

オーケー。じゃあ最初から説明するね。

私の名前はユミエラ・ドルクネス、乙女ゲームの世界に転生したときから、私がたった一人の悪役令嬢! 後は知ってるでしょ?

ひたすらレベルを上げた。魔王とか色々倒して、恋もした。近いうちには結婚式も……いやこの話はやめとこ。

私はレベル99になり、ついにはレベル上限すらも突破した。やっぱりレベル上げは最高!

……でも死んじゃった。死因は分からない。勇者を名乗る青年に会って死後の世界……薄明の国について聞いている。赤い線で白と黒に分けられた不思議な紙を用いて、勇者から解説を受けて……ちょうど話が終わったところだ。

「――こんなものだろうか。何か質問は?」

「この紙ってどう作ったんですか?」

王様から薄明の国についてレクチャーを受け、一番気になったのは不思議な紙だった。白黒に塗り分けられ、境目をなぞると赤線が出たり消えたりする。

気になるのそっちかぁ……と王様は苦笑して、質問は猫耳さんが答えてくれた。

「神様が作ったものを貰ったんだニャ!」

「へー、神様もいるんですね」

「そうニャ! たまにしかお会いできないけれど、何でも教えてくれるいい神様ニャ!」

へー。説明用に不思議な紙を作ってくれるあたり、本当に良くしてくれる神様そうだ。どこぞのレムン君とは大違いである。

無いのに存在する薄明の国についても、黒白紙のおかげで何となくだが理解することができた。

未だに目が慣れない真っ赤に染められた世界を見回した。寂しい不毛の大地は、正体を知ると余計に悲しさが際立つ。

ここがどこかは分かり、死後の世界ともちょっと違うとも知ったが、結局は死んでしまったのだ。私は未練を残したまま死んで、薄明の国に縋り付いているのだ。

死んだ実感ないな……死因も不明だし、納得しきれない。

無言で死んだ事実を反芻していると、王様は言った。

「薄明の国を皆は夕方だと言う。生は終わり、死を受け入れるしかない夕方だと言う。でも君は、あの地平線を見て朝焼けだと断言した」

「適当に言っただけですよ」

「あの光景を見て早朝と思った人物は、数百年のうちに表れなかった。君と出会ったときから確信していたんだ。日はこれから昇る。僕は生き返ってみせる」

よみがえりを宣言する彼の瞳は死人と正反対の輝きを放っていた。

先ほどまでの説明を聞いた限り、この世界は生から死への一方通行に思えた。しかし、ここまで自信溢れて言われると、やれそうな気がしてくる。

「生き返る方法があるんですか?」

「手がかりは掴んでいる。そして君自身も生き返るための鍵になるはずだ」

私? こっちに来てから魔法も使ってないし、腕力も披露していない。腕っぷし以外で出来ることなんてあるかな……。

「君は薄明の国に来たばかり、つまりはこの世界の影響を受けていない」

この世界の影響というのは、絵描きの女性のように姿形が変化することだろう。現実のような絵を描きたいという想いが原因で、彼女の肉体は絵のように変わっていた。

おじさんの耳も生前の未練ゆえに変化したものだ。猫みたいに生きたかったという想いは理解できるので、今もぴょこぴょこ動く猫耳を許せそうに……ならないけどさ。

王冠にマント、王様然とした王様もかつての姿とは違うのかもしれない。王様になりたかっただけの一般人だったのかもしれない。

人生の後悔という一番踏み込まれたくない部分だろうから、直接は聞かないけれど想像はしてしまう。

今おじさんが抱いている三毛猫ちゃんはどうなんだろう? 猫だから対象外なのかな?

私もそのうち身体に変化が現れるのだろうか。どう変わってしまうのかは想像できない。

自分の体を見回してみるが、左手も左足も変身する気配が全く無い。死んで間もない人はみんなこんなもんだと思うけれど……。王様どこに特殊性を見出しているのかな?

彼は少し逡巡し、言いづらそうに口を開いた。

「……君は既に体が変化している」

「え? え? どこか変ですか? 顔とか?」

左手で左頬を触ってみるが、感触は普段と変わらなかった。

王様の勘違いじゃない? 本当に変わっているの? と視線を向けると、猫耳おじさんは気まずそうに目をそらした。

「どこが変わってますか? 鏡を見たいです」

「一応、鏡はあるが……」

王様は小さな手鏡を取り出すが、私に渡すか悩んでいる様子だった。

そして遠慮がちに差し出された手鏡を、私は左手で奪うように受け取り覗き見る。

「……え? なにこれ」

「君は初めて会ったときからその状態だった。段階的ではなく最初から、変化ではなく消失……君は前例の無い事象に溢れている」

鏡の中の顔は、半分しかなかった。

縦に真っ二つにされたように、右側の頭部は存在していなかった。断面部分は真っ黒に塗りつぶされている。

頭だけではなく、体も真ん中から半分が存在しない。右手も右足も見当たらない。

目覚めてから痛みも違和感も無かった。普通の感覚で歩けていたし、左手が使えない不都合もあっただろうが気にならなかった。

まさか私が、脳天から一刀両断されたみたいになっているとは。記憶に無い死因にも関係あるかもしれない。右半分を消滅させられたとか? ブラックホールではこういう直線の断面にならないので、思い当たる現象は無い。

断面が気になり、右手で左頬を触るように、真っ黒に塗りつぶされた平面をペタペタ弄る。顔を触られた感覚は無く、手にはひんやり冷たい金属のような感触が伝わってきた。

つまり私は、日本刀で縦に両断され、右半分は焼却され、左半分は断面を金属でコーティングされ……それらのどれかが原因で死んだということだ。絶対違う。

死ぬときに潰されようが、手足に欠損があろうが、薄明の国に来た時点で五体満足の健康的な姿になっているらしい。だから私が左半分だけなのは、特殊な原因があるはずだ。

薄明の国の影響だとしても、右半分が消失するとうな想いは一つも思い当たらなかった。右側にコンプレックスがあったわけでもないし、体重を半分にしたいと思ったこともないし……。

「どうして右半分が消えたんですかね?」

「君が分からないのなら、僕にも分からない」

王様は首を横に振って言った。そして続ける。

「分からないが……君がそうなった原因を追い求めれば、生き返るための手がかりになるかもしれない」

「さっきも言ってましたけど、現世に戻る方法があるんですか?」

「僕はずっとその方法を探していた。いくつか手がかりになりそうな物も発見している。だからどうか僕に協力して欲しい。君も生き返りたいだろう? やり残したことがあるはずだ」

王様の目は輝きを増し、この薄暗い世界に夜明けが来たのではと錯覚する。

やり残したことは山ほどある。

パトリックともっと一緒にいたいし、エレノーラやリューともっと遊びたい。レベルももっと上げたいし、結婚式は……そこそこやりたい。

「協力します。私も生き返りたいです!」

生きてやりたいことに意識が集中していた。

だから、このときの私は、蘇るということの意味を良く考えずにいたのだ。