軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15 王子の謝罪

田舎の小学校で同学年が1人もいない少女。一番身近な同年代は2歳上の男の子。彼は少女の話を嫌がること無く聞いてくれるし、勉強も教えてくれる。

その少女の初恋の相手は間違いなく彼だろう。

「私はその少女と同じ状況だと思うの」

「はあ? その少女というのは誰だ?」

「接する人が少なすぎて親愛と恋愛を勘違いしてるだけだと思うのよ」

「だから何の話だ?」

隣国の諜報員であるライナスを逃した私は、彼と同じルートで店から脱出した。

そして学園に戻った私が冷静に考えた結果、私がパトリックを好きだというのは勘違いではないかという結論に至った。

今はそれをパトリックに話している次第だ。恥ずかしいので前置きの部分は言わなかったが。当然意味は伝わらなかったので彼は何の話か尋ねてくる。

「ええとね、私がパトリックと友達になりたいって話」

私が勇気を振り絞って言うと、彼は残念だという風に返答した。

「今までは友人だとも思われていなかったのか?」

「え?」

「俺はユミエラのことを友人だと思っていたのだが」

何だこの中身イケメンな発言は、外見も相まって彼が完璧イケメンに見える。

いや、そんな人間が実在するはずが無い。何か裏があるに違いないのだ、騙されないぞ。

「わ、私はレムレストに攻め入ったりしないわよ。防衛くらいならするけど」

彼の故郷は国境線沿いにあるのだ。そのアッシュバトン辺境伯領にとって私の利用価値は計り知れないだろう。

「お前の人間不信も相当だな…… まあ、周囲の悪影響なのだろうが。

改めて言うのも恥ずかしいが、俺はユミエラの力を利用しようとはしない。そんな事をすればお前は逃げ出すであろうことを知っているし、そもそも俺自身がそんなことをしたくない」

パトリックは私の瞳をじっと見つめながら言い切る。少し顔を赤くした彼は目を逸して続ける。

「ユミエラがレベル1になったとしても、俺はお前の近くにいるからな」

「大丈夫、そのときはまた1からレベルを上げ直すから」

「そういうことでは…… はぁ」

溜め息をつくパトリック。

レベルを上げ直すというのは照れ隠しだからね? それも彼には悟られていそうで気恥ずかしい。

「そうだ、俺もお前に話があったんだ。ユミエラに会って話をして欲しい人がいる」

パトリックに人を紹介されるとは珍しい。私の知っている人だろうか。

今の私は最高に気分が良いので誰とでも会うし、幾らでも話をしようじゃないか。

「もちろん、それで会って欲しいというのは誰?」

私が誰に会えば良いのかを聞くが、パトリックは言いづらそうだ。

「お前は会いたくないだろうが、信用できないだろうが彼も反省しているし……」

誰だ? 早く言ってくれ。

「……エドウィン殿下だ」

唐突に出てきた王子の名前に、私の気分はどん底になった。

学園の応接室、学園長に呼び出されるときに使う部屋だ。そこで私とエドウィン王子は黙ったまま顔を突き合わせていた。

王子は一向に話を始める様子がない。彼が話があると私を呼び出したはずだが、わざわざパトリックを通してまで。

「あの、お話とは何ですか?」

こちらに噛み付いてこない彼は珍しいと思いながら尋ねると、王子は覚悟を決めたように口を開く。

「……すまなかった」

「え?」

「すまなかった、ユミエラ嬢には失礼な振る舞いをした。私の思い込みが悪かったのに、つまらない意地を張った」

予想外すぎるエドウィン王子の言葉に思考が停止する。私が混乱したまま彼の話は続く。

「元々父上から言われていたのだ、貴女が魔王ということは万に一つもあり得ないと。私自身も恐らくそうなのだということは分かっていた。

しかし、一度言い出した事を間違っていると認めることができなかった。周囲の言葉も、己に都合の良いものだけを聞いていた。

私の未熟さが原因でユミエラ嬢には不都合を強いたし、不愉快な思いもさせただろう。本当に申し訳ないと思っている」

エドウィン王子の謝罪を受けて私が感じたのは怒りではなく、まぁまだ子供だしなあという諦めの感情だった。

彼だけが幼いというわけでは無く、学園の生徒全員が子供なのだろう。根拠のない噂を鵜呑みにし、少数派や悪目立ちする者を排斥する。

クラス中心人物に嫌われているので全員で無視をする。今の私の状態は日本の高校でも起こり得たことだろう。

「どうして急に?」

私が疑問に思ったのはエドウィン王子の急な心変わりの理由だった。

「パトリックの話を聞いてな」

パトリック? 何故そこで彼の名前が出てくるのだろうか。そういえば私に王子に会うように言ったのも彼だった。

私の疑問に答えるようにエドウィン王子が続ける。

「パトリックに貴女の話を聞かされたのだ。ユミエラ嬢の強さは、私達とは比べ物にならない努力の上に成り立つ物だと。普段のユミエラ嬢の話を聞いて、貴女も普通の人間なのだと理解した。

私は自分が1番努力をしていると盲信していたし、貴女が普通とは違うものだと心のどこかで恐怖していた。

言い訳のようになってしまったな。自分勝手だと思うが、許してもらえるだろうか」

「殿下の事情は分かりました。私自身も非常識な存在だという自覚はありましたので。これからよろしくお願いしますね」

エドウィン王子を許すも許さないも、そもそも仲良くしたいわけでは無いし報復をする気もない。これで特に私の行動が変わるわけでは無いと思う。

「何か償いをしたいのだが、私に何かできることはあるだろうか? できるだけのことはしよう」

「魔王討伐に同行させていただければそれで」

王子に何かされるたびに、私の平穏は遠のきそうなので何も要らない。できることなら、なるべく関わって欲しく無い。

「そうか、パトリックの言う通りだな」

納得した様子のエドウィン王子。パトリックは彼に何を話したんだろうか?

「やはり1つ、殿下にお願いごとが。パトリックは私の事を何と言っていたのですか?」

これくらいは聞いても良いだろう。すごい気になるし。

「ユミエラ嬢は権力や富に興味が無いと、あと基本的にはお人好しの善人だと、人の悪評に負けない強い人物だとも言っていた」

思った以上の高評価だった。ただ1つ気になる部分がある。

「基本的には……と言うのは?」

「頭も行動もおかしいが基本的には善人だと……パトリックが言ったんだからな」

……自覚はあるけど、そこは黙っていても良かったのでは? 私のそんな視線を感じ取ったらしい王子が弁明する。

「貴女の質問には誠実に回答するべきだと思ってだな……」

変な所で真面目にならないでも。まあパトリックがそう思っていることは何となく知ってたし……

話が終わったエドウィン王子が退室すると、入れ違いにロナルド学園長が入ってきた。

「殿下と話してどうだったかな?」

「別人かと思いました。影武者とかじゃないですよね?」

私が正直な感想を言うと、彼は苦笑いを浮かべながら言った。

「この1年間がおかしかっただけで、エドウィン殿下は元々物分りの良い柔軟な子だったよ。やっと目が覚めてくれたと僕も安心している」

「まあ、私もレベル上げに協力できるようになりますし、魔王も何とかなるんじゃないですか?」

これで私もまともな学園生活を送れるようになるかもしれないので、パトリックには感謝してもしきれない。

「それなんだけどねえ、他3人は相変わらずなんだよね」

他3人というのはアリシアと攻略対象2人のことだろう。

「エドウィン殿下が説得すれば良いのでは……」

「すでにしたけど駄目だったよ。アリシアさんは頑固だし、他2人は彼女を盲信状態。だからレベルの上がってないアリシアさんだけでも強制的に介入することにしたよ。

君に頼みたいのだけどいいかな? 死ななければ何をしてもいいからさ」

あのバカ王子、謝るならせめて周りを説得してからにして欲しかった。少しは見直した私の気持ちを返せ。

アリシアのパワーレベリングは私が前に学園長に提案したことだから構わないが。

あのアリシアも楽しい楽しいレベル上げの快楽を覚えれば、多少はまともになるかもしれない。