軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8. 夜の呼び出し

秋人が自宅に戻ると今日は遅くなると言ってた薫が玄関に立っていた。

「どうしたの?薫、仕事は?」

驚いてそうつぶやく秋人に、薫は顔を顰めて見せた。

「誘拐されたって連絡があって、心配しない保護者はいないよ」

憤慨である。

「ごめん。でも学校には問題ないですって伝言してもらったし」

「でも、すぐ帰ってこなかったじゃないか。スマホにも出ないし!!」

珍しく声を荒げる薫に、秋人は慌ててカバンからスマホを取り出した。薫と当夜からなんと50件以上の着信履歴があった。秋人は慌てて謝った。

「ごめんなさい」

薫はため息を付く。

「無事で良かったよ。すぐに当夜に連絡してあげて。彼、秋人が帰ってくるかもしれないから俺は家で待ってろって言うんだよ、ひどくない?そのくせ自分は一応無事だと思うけど探してみるって走って行っちゃったんだ。」

「分かった」

秋人はすぐに当夜に電話をかけた。どこか雑踏の音がする場所で電話に出てるらしい。

「あっくん、無事でよかった」

「うん。ごめんなさい」

秋人が素直に謝ると電話の向こうで当夜が苦笑する声が聞こえた。

「帰っておいでって言ってやって。ごはん作って待ってるからって」

薫の声が聞こえたのだろう、秋人の伝言を待たず、当夜は30分以内に帰ると伝えて電話を切った。

「秋人はご飯は?」

「まだ食べてないんだ」

「じゃあ、作るから3人で食べよう」

「うん」

秋人は素直に頷き制服を着替えに行った。

自室で着替えているとふと鏡に自分の姿が映った。

半年前と全然違う自分の姿。健康で、清潔で、普通の見た目の少年が鏡の向こうから自分を見返している。

「僕は、可哀相じゃない」

自分は3Sなどと呼ばれている実力の 探索者(シーカー) だ。よほどのことがない限り自分を誘拐などできるはずがない。

それなのに、自分を心配して玄関先でスマホ片手にずっと待ってくれている人と、当てもなく雑踏を探しに駆けだしてくれる人がいる。二人とも、そんな必要本当はないのに、ちゃんと連絡しなさいと怒ってくれたり、無事でよかったと安堵してくれたりするのだ。

それは、とても幸せなことだと秋人は噛みしめた。

夕飯はカレーだった。薫の作り置きの冷凍キーマカレーである。秋人も当夜も大好きな逸品だ。

「美味い!」

当夜が叫びながら食べている横で、秋人は薫に事の顛末を説明していた。

「木下組の組長さんの息子なぁ」

薫は和幸の事を思い返した。猫を被ってはいたが、おそらく本人的には今でも組長だろう。

「やっぱりプロになるのは難しいかな」

「そうだなぁ…。人気商売だからなあ」

「そっかぁ」

秋人はアメリカで出会ったパトリックの事を思い出していた。

彼は射撃の五輪代表候補だったにも関わらず、ダンジョンブレイクに巻き込まれ、 探索者(シーカー) になってしまった。その事で五輪への出場が不可能となり、事件を起こした人物だ。

「一般人でも、そんな制限があるんだね」

「いや制限掛かっている訳じゃないんだけどな。今も昔も親の職業や経歴、犯罪歴なんかは就職や結婚に影響が出るもんなんだよ」

薫の言葉に秋人は不思議そうに首を傾げた。

「まあ、でもどんなに家格が良くても、経歴や学歴が良くても、人格がクソな奴はいるしな。赤城とか中川大臣とかさ」

当夜がぼやく。薫は苦笑して頷く。氏より育ちなんてことわざもあるくらいだ。

「俺は本来親の職歴などが子供に影響があるのは良くないと思ってる。例えば、智輝君が組を継ぐつもりなら無理だろうけど、母親のところに行って組との縁を完全に切るというなら、影響されてはいかんと思うんだよ」

「ヤクザの息子のままじゃ無理?」

「そこは微妙だなぁ。木下組は一応表向きは一般企業だからなぁ。ただ、裏稼業がないわけじゃない」

薫は一応あの後、木下家を少しだけ調査していた。

もしも、木下組が完全に堅気の会社に変化していて、暴力的な事項に一切かかわっていないのだとしたら、智輝が実力があるのにプロになれないのは理不尽だと薫は思う。しかし、実際は木下組は今でもヤクザであり、法律のぎりぎり上を水平飛行している部分が大いにある会社だ。

「まあ、でも、秋人にこれ以上のことはできないしね。彼には自力で頑張って甲子園に行ってほしいかな」

薫がそう話をまとめたところで、薫のスマホに電話がかかってきた。

「後藤さんだ」

薫がスマホをタップすると、後藤のかなり深刻な声が聞こえた。

『神崎先生と秋人くんに頼みたい事案が発生したんですが、少し来ていただけないでしょうか』

後藤の声が苦い。

「急ぎですか?」

『できれば、今すぐにも』

後藤といくつか確認をし、薫はスマホを置いた。

「秋人、当夜も支度してくれるかい。ギルドへ行くよ。どうもこの前の指輪の件みたいだ」

薫は苦い顔だ。嫌な予感がしていた。

当夜の運転で 探索者(シーカー) ギルド日本支部へ向かう。

もはや深夜にも近い時間だ。本来なら未成年の秋人を連れてくるべきではないのだが、彼への依頼だというからには連れて行かなければ二度手間だ。

薫はこのことを後に激しく後悔することになる。

「神崎先生!」

ギルドに着くと、すぐにギルド長室に通された。話がついていたのだろう。薫たちが通る通路は人払いがされており、秋人の姿を他のギルド職員に見られることはなかった。

「夜分遅くに申し訳ない」

後藤が頭を下げる。彼の表情は憔悴しており、何日か寝てないのではないかという疲労の色が見えた。

三人は緊急会議室らしき部屋に通された。

部屋には朽木巌と30代半ばの青年、そして40代後半の女性が座っていた。

「秋人くん!まさか後藤さん、秋人君を呼んだのか!?」

巌が大きく顔を歪める。反対に青年と女性はまじまじと秋人を見つめた。

「ほんとに若いんだな」

青年がぽつりと呟く。

「いや、でも一瞬で全部探査されたわよ。すごい魔力探査の精度だった。なかなかここまでの魔力操作をお見掛けすることはないわね」

女性が囁く。さらに二人は先頭の薫に目をやり困惑を浮かべた。

「なんかすごくアンバランスな奴だな」

「そうね、一応同ランクの筈なんだけど」

薫は肩を竦めた。自分が一番若輩なのは自覚がある。2人は探索者素人の薫でさえ知ってる有名人だ。

青年の方は春日猛。

Sランクの 探索者(シーカー) として有名。如月秋人が前面に出てこないので、テレビでもてはやされているのはもっぱら彼である。ジョブは聖騎士。実家は由緒正しい寺。本人曰く「まあ本来の職業と似たようなもんが出たな。僧兵ってやつ?」ということらしい。

女性の方は金藤恵子。こちらもSランクの 探索者(シーカー) で攻撃魔法が得意な魔術師である。

「後藤さん、秋人くんは休眠中だ。今回の件を頼むわけにはいかん」

巌が厳しい顔で断言する。後藤は苦しそうに俯く。

これで日本に現在いる6人のSランクのうち、4人が揃った。

いないのは、2人。そのうちの一人、竹山大善は老齢の為、ほぼ寝たきりである。

そうなると、ここにいないのが不思議なのはアークエンジェルの霧崎桜子だけだ。