軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14. アイスドラゴン

その後も順調に攻略は進み、2日後には最下層の24階層手前までやってくることが出来た。

「思ってたより早いな」

当夜が言う。

「うん。朽木兄弟と茜さんの成長度合いが激しいからね」

霞が関第2ダンジョンの討伐は、ほとんどこの3人で行っていた。8階層と16階層のボスもほぼ3人で倒したので、ここまでの成長具合が大きい。

「今回は僕がやるね。薫の雷は通りにくいと思うから」

霞が関第2ダンジョンのダンジョンボスはアイスドラゴン。

秋人は単独で何度か倒しているが、通常はいくつかのパーティーで臨む相手である。

アイスドラゴンの表皮は分厚い氷で覆われていて、魔法系のダメージは入りにくいのだ。

「気を付けていこう」

5人は気合を入れて24階層のボス部屋に足を踏み入れた。

瞬間、アイスドラゴンが顕現する。しかし、はっとして秋人が最大級に魔力障壁を展開した。

「みんな、下がって!!!」

鋭い秋人の声に、薫は立ち止まる。

「いつもの個体じゃない」

秋人は魔法製ではない大剣を構えて飛び出した。

いつもは身軽さを好むので、あまり大きな武器は使わないのだが、攻撃力が必要な場合は話は別である。

薫は慌てて防御魔法を最大に展開したが、秋人は早すぎで合わせることができない。

「ちっ」

舌打ちすると、自分を入れて4人を中心に防御を厚くした。秋人が自分たちを庇って動けなくなるのを避けるためである。

ボス部屋の岩壁まで下がるが、ボスが顕現した時点で入り口は塞がれていて撤退はできない。脱出のスクロールも使えない。

「秋人…」

苦しそうな声が薫の唇から漏れた。

秋人の攻撃が縦横無尽にアイスドラゴンに繰り広げられているが、聞いていた話より数段大きな巨体は小揺るぎもしなかった。

「先生、俺も行く」

当夜が叫んだが、薫は躊躇う。

秋人一人で戦わせる方がいいのか、援軍があった方がいいのかの判断は薫ではつかない。聖夜を見ると彼も難しそうな顔をした。

「無理だと思ったら後退して!それから、秋人が下がれと言った場合も」

「分かった!」

薫が防御壁を展開しているベース部分から当夜が飛び出す。

当夜の固有スキルの第3位は炎の効果がある打撃系だ。氷系のモンスターには効き目が良いはずである。

【白焔拳】

ダメージが入ったらしく、アイスドラゴンの姿勢が傾く。そこを秋人が見逃さず大きく跳躍すると、アイスドラゴンの脳天にむかって剣を振り下ろした。

しかし、秋人が剣に魔力を込めようとした瞬間、ドラゴンの尾が当夜に向かうのに気が付いた。咄嗟に体を反転して、尾と当夜の間に自分の体をねじ込む。

「秋人!!」

当夜が叫ぶのと同時に、秋人の体は吹っ飛ばされて壁に激突する。秋人が展開していた魔力障壁の所為で大きく岩壁が抉れ、土煙がもうもうと立ち上がった。

秋人は運悪く頭を強く打って気を失った。その光景に4人は絶句する。

「秋人…」

薫以外の3人は茫然自失の状態だ。

なんだかんだ言っても、彼らは『如月秋人』の名前に安心していた部分が大きかった。その彼がダウンしたことに衝撃を受けて身動きできなくなってしまった。

しかし、薫は遠目に秋人がぐったりして起き上がれないことを確認すると、収納魔法からエリクサーを取り出した。

「茜さん、秋人にこれ飲ませてください」

「は、はい」

茜はそれを受け取ると全速力で駆けだした。

「当夜、聖夜30秒だけ稼いでくれ」

「先生、でも、先生の魔法は…」

当夜が青い顔で言う。

秋人が自分を庇ったせいで彼にダメージを与えたことがショックで頭が回らない。

「あれ」

薫が指さす方向には、脳天に突き刺さったままの秋人の大剣があった。

「あそこに落とす」

「でも…」

当夜は薫の精度が甘いことはよく知っている。

「それしかないだろう。秋人が起き上がれるまでに時間を稼ぐ。聖夜!」

「分かりました」

兄はぐっと頷いた。確かにそれしか方法がない。

薫が杖を構えて魔力をチャージしだす。

その前に立ちふさがるように朽木兄弟が陣取った。

「兄貴…」

「ぶっつけ本番だな。できるだけ、周りを壊してくれ」

「分かった」

当夜が、地面に向かって正拳突きを繰り出す。地面の破片が飛び散った。

【攪拌!】

聖夜が第三位固有スキルを発動した。

当夜が巻き上げた砂煙や、地面の欠片、秋人がさきほど抉り飛ばした岩壁などは宙を舞う。渦になってドラゴンの周りを回り出した。

「くっ」

聖夜もまだ慣れていない第三位固有スキルのコントロールに奮闘している。額から汗がしたたり落ちた。

大きめの岩の塊もいつの間にか宙を舞い、ドラゴンの体にぶつかってキラキラと氷の表皮を削る。

目隠しと攻撃を同時に行っているようなものだ。当夜も材料にするために辺り一面を粉砕して回っている。

ぐるぐるとそれらが空中を回り出し、大粒の砂嵐のような状態を作り上げた。

だが、こんな単調な攻撃がドラゴンにいつまでも通じるものではない。巨体が尾を大きく振るって邪魔な渦を無効化するように動く。

「ぐっ」

当夜はドラゴンの攻撃に何度か打ち据えられた。

チラリと秋人のいる方角へ目をやる。まだ変化はない。

甘かった。

自分は根本的に、なんて甘い考えだったんだろうと歯噛みする思いだった。

モンスターと戦うということを軽く考えていた。誰かが死ぬなんて想像もしていなかった。

アイスドラゴンの尾の攻撃が来たあの時、咄嗟に動けなかった。死が目の前に迫って足がすくんだ。ドラゴンに自分の攻撃が有効だった事に油断して、何も警戒していなかった。

秋人が吹き飛ばされた時も、馬鹿のように突っ立って茫然としていた。あの如月秋人が負けるなんて想定してなかったのだ。

咄嗟に動いたのは、自分が一番内心軽んじていた「素人」の神崎薫だった。

彼は自分たちよりはるかに実戦経験が少ないはずなのに、的確に指示を出し、アイスドラゴンを秋人抜きで倒す方法を考えている。

「情けねえ」

ここで自分が死んでも、秋人が立ち上がれる時間が稼げるなら勝機はある。ぎりっと歯を食いしばった。

「汝の敵を撃ちのめせ

【 雷神の雷鎚(トールハンマー) 】

薫の呪文が炸裂する。緑色の雷撃が放たれた。

30秒、朽木兄弟は見事稼いだ。