軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15. 帰国

成田の入国ゲートを秋人がくぐると、

「おおい」

と大きな声がした。振り向くと当夜が手を振っていた。

「迎えにきてくれたんだ」

パッと秋人の顔が輝いた。

当夜は、その笑顔が明るくなっていることに気が付いてほっとした。最近、元気がなかったことを心配していたのだ。

二人で色々と話せたのだろうと胸を撫でおろしたが、いるはずの人がいなかった。

「あれ?先生は?」

当夜は絶対に一緒にいるはずの薫が見当たらないことに首を傾げた。

「うん。向こうでトラブルになって出国が遅くなっちゃったから、薫だけ先に帰ってもらったんだ」

「え?」

当夜が驚いて聞き返す。彼は秋人が薫のそばを離れたがらないことに気が付いていたからだ。

「普通の旅客機だと間に合わないから、戦闘機で送って行ってってお願いしたの」

「うええええ」

当夜はその恐ろしい旅程に顔を顰めた。

いくら自分たちが 探索者(シーカー) で、身体強化の魔法が使えるからって、アメリカから日本まで戦闘機を乗り継いでの空路など御免こうむりたい。

「それで、秋人は?何か望みはあるのか?」

ジョージの問いかけに、秋人は珍しくすぐに望みを言うことができた。

「ある。あの、薫を一番早い飛行機で日本まですぐに送ってくれませんか?」

「え!?」

ジョージと薫が同時に驚きの声を上げた。

「薫の大事な公判が明日の午前中から始まるんです。普通の飛行機だともう間に合わない」

秋人の所為で公判を台無しにしたくなかった。

「いや、秋人、あれはいいんだ。間に合わない場合は代役をお願いしているんだよ。すごく腕のいい同期がいてね…」

慌てて薫が言い募る。だが、秋人はかたくなだった。

「間に合うように帰れますか?」

ジョージはうーんと首をひねったが、実は頭の中ではすでにアイデアはあった。

「まあ、少し準備に時間はもらうが間に合わせよう」

秋人はその返事を聞いて、ぱっと明るい顔になった。

「よかった!薫、間に合うって」

ニコニコと善意で溢れる笑顔の前に薫は何も言えなかった。

このタイミングで間に合わせようと思ったら、おそらくあの手段しかない。

「え?いや、ほら、秋人を置いてはいけないし。」

「大丈夫だよ、僕もう高校生だし。空港まではジョージが付いててくれると思うし。ね?」

秋人はジョージに期待のこもったまなざしを向けた。ジョージはものすごくいい笑顔で頷く。

「ミスター・神崎、安心してください。秋人のことは今度こそ俺がきちんとガードしますから」

慇懃な言葉遣い。ジョージはニヤリと笑った。

この悪魔のような弁護士に一矢報いることができるなんて夢のようだ。

「ああ…」

薫は天を仰いだ。

案の定、薫は空軍基地に連れていかれた。そこに鎮座している複座の戦闘機。

「ダンジョンが顕現するようになってからは、空は以前にもまして重要になったからな」

ジョージが秋人に説明している言葉を、薫は遠い目で聞いていた。

「アメリカはどっちかというと海軍と空軍にリソースをかなり割いているんだ。この最新鋭の戦闘機は…」

ゴクリと秋人がつばを飲む。

「なんと、日本まで無給油、無着陸でいけるんだ」

「凄い!」

薫は内心ガクブルである。まさか、そんなものに自分を乗せるつもりか?と目で訴えたが、ジョージは秋人にだけいい顔で笑った。

「これなら、明日の朝までに日本の横田につけるぜ」

ウィンクである。秋人はわあっと拍手している。

「いや、俺、戦闘機の訓練とかしてないし」

「大丈夫!」

キラーンとジョージの目が輝いた。

「複座だからもちろん操縦は専門のパイロットがする。それに、俺たち 探索者(シーカー) には、身体強化という空前絶後の必殺技があるじゃないか」

ジョージは薫の肩をぽんと叩いた。

「まさか、嫌とは言わんよな。秋人がわざわざお前のために頭下げたんだぜ」

薫はぐっとのどの奥に怒声をしまった。本当にニコニコと秋人が嬉しそうなのだ。

「エヴァンス軍曹のお見舞いは僕が行っておくから、薫は早く帰国して」

秋人は心底嬉しそうに微笑んでいる。

薫に退路はなかった。

「…というわけで、私が公判に出ますので、代理はなくていいです」

薫はヨレヨレの状態で、裁判所に現れた。

被告とされている女性は心配そうに薫を見ていたが、代理を頼まれていた同期の金子は不満げだった。

「そんな状態でまともな弁護などできるのか?」

「やりますよ。秋人がせっかく頭下げて、都合つけてくれたんですからね」

無様な真似はできません。と断言したが、何時間も強烈なGを体験してきたので、いまだに体の方向感覚がよろしくない。今日は雷を撃つ羽目にならないことを願うのみだ。

「ありがとうな。今度何か奢る」

薫の言葉に同期で一番腕がいいと言われる金子はフンと鼻を鳴らした。

「当日キャンセルは全額だぞ」

「分かってるよ」

薫は自分が弁護に立てない場合でも、絶対に負けない最高の弁護士を用意していた。

「加藤先生の最後の仕事だ。俺が仕上げなくてどうするよ」

薫はそう呟くと、パシンと自分の両手で己の頬を叩いた。

薫の大切な師の最後の仕事だった。秋人が、アメリカへの借りを帳消しにしてまで、薫を間に合わせたのだ。

薫は遠く空を見上げるように目を細めた。

見ていてくれるだろうか?師匠は。

「さて、行きますか」

薫は気合を入れ、法廷に向かった。