軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4. 模擬戦

次の日は快晴だった。

宿泊地に指定されたホテルは超高級ホテルだったので、薫はぎりぎりまで堪能していた。迎えが来てからコーヒーを飲む始末である。

「さて、行きますか」

薫の声に秋人は素直に頷いた。

昨日は…と秋人は自分の感情の動きについていけずに戸惑った。

薫の事を悪く言われたので無性に腹が立った。よく薫の魔法はインチキ扱いされるが、ちゃんと国際探索者連盟が決めたルールに基づいた立派な魔法職だ。

審議官はおいそれとは現れないジョブだ。

薫が腕のいい弁護士だったからこそ審議官になったのだ。審議官はおそらく審判職の中でも最上位である。故に固有魔法が桁違いに強い。

それなのに…である。

秋人は早く日本に帰りたくなった。今回は付いてきていない当夜と薫と三人で、家で穏やかに話している時間が恋しかった。

半面、そんな風な気持ちになる自分がとても不思議に思えた。

送迎の車から降りると、昨日と同じ施設に案内された。

ただし、最初に話していた部屋ではなく、広間のようになっている外の施設だった。訓練場のようだった。

ジョージが手を挙げて挨拶しようとしたのを遮る男がいた。

「よく来たな」

トーマス・フランクリン中尉が、腰に手を当てて偉そうにふんぞり返っていた。その姿を見るなり薫は

「あ、軍法会議にかけられる予定の人だ」

と言ったので、彼の額には青筋が立った。

「誰がだ」

「あなたが」

さらに煽りに入った薫に、傍らの大柄な軍人が手で制した。

「まだ、決まった訳じゃない。甥が罰せられて、直属の上司が無傷なのはおかしいだろう。今調査をしている。怪しいメールもあるしな」

男が厳しい目でジョージを睨んだが、ジョージは動揺しなかった。

「統合作戦本部長のダニエル・フランクリンだ。君たちの話は中佐から聞いているが、本当にそんな実力があるのか見せていただきたくてね」

男の言葉に周囲の軍人がざわつく。

「あー、我々のランクは日本の 探索者(シーカー) ギルドがきちんと保証しておりますが」

薫がやる気のない声で反論するが

「極東の島国の判断基準など当てになるか」

というトーマスの怒鳴り声で終わった。

「そこまで信用ならないと仰るなら、ご自分たちでどうにかしたらいいじゃないですか?私どもは別に何も困りませんよ」

ニコリと薫が笑う。

「アメリカにも民間の 探索者(シーカー) ギルドがございますしね。まあ、依頼を受けてくれるかは別ですが」

薫がせせら笑うとダニエルは苦虫を噛み潰したような顔をした。

当然、依頼はしたのである。但し、まったくもって敬意もなければ、考慮もない条件と上から目線の命令口調だったので、あちらのギルドマスターが付き返してきたのである。

「顔を洗って出直してこい」

と中指を立てて追い返されたのだ。

ギルドに国家権力は命令できない。すごすごと引き返してきた部下をダニエルは激しく罵ったものだ。

「君たちの実力が見たい。こちらの用意した相手と模擬戦をしてもらう」

居丈高な命令に薫は眉を跳ね上げたが、そんな薫を押しのけて秋人は言った。

「いいですよ。いつでも、何人でもどうぞ」

「秋人!」

薫が珍しい秋人の態度に戸惑っている間に、秋人はその場に置いてあった木剣を手に取った。

「どこまで許容範囲ですか?死亡、欠損は避けますが骨折くらいは覚悟の上?」

ピッと剣をトーマスに向ける。その冷たい目に、トーマスは慌てて後退した。

「俺じゃない!うちで一番強い男と勝負しろ」

あまりの言い分に周囲の軍人も、ジョージもそして、薫も呆れ顔だ。

「誰でもかまいません」

静かに秋人は佇む。まるで、ここにいる軍人など誰が来ても関係ないと、言わんばかりの態度だった。

「曹長!」

トーマスが叫ぶと人ごみが割れて、一人の大柄な男がやってきた。

「陸軍曹長、エヴァンス・グリーンっす。よろしくな」

男はニヤリと笑った。自信があるようだった。

秋人とエヴァンスは、訓練場の真ん中に2メートルほどの距離を取って向かい合った。

「だ、大丈夫なのか。エヴァンスはうちでは数少ない高位のAランクなんだ」

ジョージが傍らでつまらなさそうな顔をして立っている薫に告げる。

見た目、どうみても秋人が瞬殺されるようにしか見えない。しかし、薫は別の心配をしていた。

「うーん。秋人は峰打ち苦手なんですよねぇ」

今回、ついてこれなかった当夜とたまに秋人は模擬戦をしている。しかし、最初は本当に形にならなかった。

秋人はもともと一撃必殺で剣を覚えているので、死なないように切るという事ができなかった。

三度ほど当夜が死ぬ目にあった頃にようやく、コツをつかんでくれたらしい。

そこからはちゃんとした撃ち合いの形になったが、それは相手が当夜だからなのではないかと薫は思った。

静寂が訓練場に訪れた。

針の落ちる音さえ聞こえるのではという空気の中、エヴァンスが動いた。

大剣の大きさをものともしないすさまじい速度で振り下ろす。

しかし、秋人は避けない。避けないどころか木剣でその一撃を一歩も引かず受け止めた。

腕に力が入っているようにも、足を踏みしめているようにも見えない。まるで、跳んできた羽を払うように、軽く右手を振る。

その瞬間、エヴァンスの巨体が5メートルほど吹っ飛んだ。訓練場は悲鳴で満ちた。

エヴァンスは巨体に見合わない俊敏さで地面に回転しながら着地し、体勢を立て直す。

「流石」

男は意識を切り替えた。目の前に居る少年は格上だ。

願ってもないチャンスだった。今アメリカ陸軍で自分より強い男はいない。訓練に物足りなさを感じていたのだ。

男が大剣を構えた直後、それはまるで瞬間移動のような速さで目の前に現れた。

秋人が5メートルを一気に跳躍したのだ。

直後、エヴァンスはかつて感じたことない衝撃を剣で受けた。腕がしびれて上手く動かない。少年は、まるで何の熱量も感じない無表情で木剣を振るった。

エヴァンスの手の中の剣が上空高く弾き飛ばされ、遥か遠くの地面に突き刺さった。

ピタリと喉に少年の木剣が付きつけられた。

一瞬だった。1分もかかってない間に武装を解除された。

「参った」

エヴァンスは即答した。しなければ、首を刎ねられると直感した。

そこで、男は秋人の腕にまだ制御リングが嵌っているのを見て愕然とした。格上などではない、目の前のこの華奢な少年は遥か高みにいる。

「無礼は詫びる」

エヴァンスの言葉に、コクリと秋人は小さく頷いた。

「は、3Sってのは伊達じゃないねぇ」

エヴァンスは小さくため息をついた。今まで対戦したどんな 探索者(シーカー) やモンスターにも感じなかった恐怖がジワリと首筋を撫でた。