軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2. 冬由の友達

冬由(ふゆ) が轟学園中等部一年に編入してからまだ一ヶ月と少しだが、彼女にはもう友達がいる。

「冬由ちゃん!」

「 莉音(りおん) ちゃん!」

とこの人の多い東京駅での待ち合わせもめげない2人はきゃっきゃとはしゃいでいた。

「すごいなぁ、冬由はもうあんな仲良しなのか…」

と秋人は半ば羨望の眼差しで妹が友達の手を取る姿を眺めた。自分と大違いである。

「莉音、あんまはしゃいでると置いてくで」

「そんないけず言わんくてもええやんか」

音々が妹の頭をぽんとはたく。

「こんにちわ!冬由ちゃん」

「こんにちわ。音々さん!」

冬由はしっかりと挨拶してニコリと控えめに微笑んだ。淑女そのものの姿を見て秋人と薫は慄いた。

「い、家と全然違う…」

「淑やか、めっちゃ淑やか!」

ひそひそしている薫と秋人に冬由が冷たい視線を向ける。それは

『黙ってろ』

という意味だ。2人は口をつぐんだ。

今回の依頼の案内は音々が引き受けてくれたのだが、彼女の妹もこのタイミングで里帰りするという。冬由が秋人の妹だと知った莉音は、

「冬由ちゃんも一緒に大阪行こうや。ユニバいこ!」

と誘ったのだ。

どうせ秋人と薫も大阪行きだ。近くにいた方が何かと守ってやれるだろうということで一緒に行くことにした。ちなみにユニバとはユニバーサル・フィルム・ジャパンという大阪のテーマパークで、この夏は2人が愛してやまないゲームのコラボ企画をやっているのだ。

そう、ゲームである。

轟学園中等部編入生同志の2人が意気投合したのは、ゲームが切っ掛けだった。というか、秋人は不思議で仕方ないのだが、いつの間にか彼の妹はかなり重度のゲームオタクになっていた。

薫が当夜を締め上げたところ、一般常識として漫画とアニメとゲームを見せたらしい。漫画やアニメにはあまり興味を示さなかったのだが、ゲームにものすごく食いついたそうだ。当夜は面白がってついつい色々と教えてしまったのだという。

そこから冬由の怒涛の学習が始まり、秋人の妹はたったの一ヶ月と少しで立派なゲーマーになっていた。

「せっかく東京におんねんから、夏休みは色々ゲームのイベント行きたかったんやけどなぁ」

と莉音はぼやくも、両親から実家に帰って来なさいと言われているので仕方ないらしい。

「帰ってきたら絶対に行こうな、冬由ちゃん」

「うん、楽しみ」

にこりと可愛らしく微笑む妹の豹変っぷりに秋人は無言だ。

冬由は秋人と同じく絵を描くのが巧いので、ゲームのキャラクターなどを描いては莉音に喜ばれているようだった。

【まあ、そなたの妹だからな。龍に組成はだいぶ近いのう】

というのが小姫が初めて冬由を見た感想だった。

【なんというか、そなたは龍と龍が愛した芸術家の所謂最終合体だからな。ようするに、龍神族としての能力ももっているが、その伴侶だった芸術家としてのセンスも頂点ということじゃ】

小姫の言い分によると、秋人が絵がうまかったり歌が達者だったりするのはそういうことらしい。当然、その妹である冬由もそれなりに…というか、かなりの腕前だった。

当初、やはり冬由もクラスで孤立していた。おかしな時期に編入してきた謎めいた美少女である。どうしてもクラス全員が遠巻きにしてしまっていた。冬由自身も友達やクラスメイトなどというこれまで縁遠かったものに対してどう接したらいいのかよくわからなかったのだ。

それで、最初の方では教室でぽつんと座っていることが多かったのだが、移動教室の際に冬由が莉音の落としたノートを見つけたことから2人の交流は始まった。

「あの、 片伊勢(かたいせ) 莉音(りおん) さんはいらっしゃいますか?」

と静々と隣のクラスに編入してきた美少女が尋ねてきたのだ。クラス中が見守る中、冬由は莉音に忘れ物のノートを渡した。渡し際にコソリと

「このゲーム私も大好きです」

と囁いた。莉音はノートに好きなゲームのキャラクターのシールを貼っていたのだ。

「ほんまに!?」

と莉音は標準語を忘れて叫んだ。そこから、2人の友情は始まったのだ。

とはいえ、莉音はともかく冬由はまだゲームをやり始めて間もない。冬由があまり日本の情報に詳しくない説明として、生まれた時に事件に巻き込まれて海外の辺鄙な田舎で暮らしていたが、兄が見つかったので日本に来た帰国子女ということにしてある。ここでもその設定はおおいに役立った。

最初は莉音しかいなかった友達も徐々に増えて、今は学校でも普通に過ごせるようになった。しかし、中でも冬由の最初の友人である莉音とは特別に仲良くしていた。

ある日、冬由が家に友達を連れて来たいと言ったので、薫は快くOKをした。やってきた莉音は緊張気味に挨拶をしたのだが、出て来た薫の顔を見て失神するかと思うほど驚嘆した。

「うわ!神崎薫やん!!!え?っていうことは、待って!あ!如月って!冬由ちゃんのお兄さんってもしかして…」

音々にはデステニーワールドのことでのイジメ問題のあった妹には秋人の素性を話してもいいと言ってあったので、そこで彼女はぴんときたらしい。

騒ぎに驚いて自室から出て来た秋人の姿を見て、へなへなと座り込み

「ファンです!サインしてください」

と莉音が真っ赤になって囁くのを見て、初めて冬由は己の兄がとんでもないスターでアイドルなのだと知った。

「冬由ちゃん、一緒に座ろう」

新幹線グリーン車の指定席、莉音と冬由は仲良く並んで座った。と思ったらタブレットを持ち出して、何やら落書きし始めた。チラリと見えた片鱗でも彼女のセンスが伺える。

「まあ、いいじゃないか。友達がいないよりは、いた方がずっといい」

と薫は苦笑した。

秋人は、妹が自分よりはるかに社交的なので、立つ瀬がないのであるが、そこは性格的なものだろうと、半ば諦めていた。