軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6. 如月秋人争奪戦

結局その日、秋人は智輝の家に泊めてもらいそのまま学校に向かった。

秋人は、智輝の言ったことが頭から離れず、朝食もあまり喉を通らなかった。流石に1日絶食していると頭が働かないのもある。秋人は魔力量が多いので糖分摂取量が少ないと動けなくなるのだ。

智輝はそんなフラフラの状態の秋人を引きずって学校に向かった。

彼の中で秋人の失恋はおそらく誤解だろうし、二人は完全に両片想いであることははっきりしていたので、一言秋人が美香に「好きだ」といえば解決する問題だという認識だったのだ。

道中、秋人は学校近くのコンビニ前で弱々しく切り出した。

「智輝、ちょっとコンビニ寄りたい」

「何?何かいるのか?」

「糖分食べないと動けない」

「は?」

智輝が慌てて足を止める。

「僕魔力が高いから甘い物食べないと動けなくなるんだ」

「…お前の甘党って割と死活問題なんだな。単なる砂糖魔人だと思ってて悪かったよ」

と智輝は謝りながらコンビニで速攻で口にできそうな甘いデザートをいくつか購入した。

「食えるか?」

「うん。ありがと」

もそもそと秋人が羊羹を齧っている。リスのようだなと呑気な感想を浮かべて、智輝は一つため息をついた。

「世話かけてごめん。昨日から沢山考えすぎて訳が分からなくなった」

「いや…。何というかお前はもうちょっと色々考えた方がいいぞ。行き当たりばったりばかりが人生じゃねーだろ」

「ほんと、それ」

秋人はおおいに反省した。

秋人は数年前から思考を放棄していたことに今更ながら気が付いた。

魔術式やダンジョンの攻略、技術の向上などに関してはひねったり、こねくり回したりするのも好きだし、何かを覚えたり学習するのは楽しい。でも、肝心の部分、自分自身についての思考を閉ざしていた。夢も希望もなかった5年間で、秋人のそのあたりの能力はだいぶ摩耗してしまっていた。

おそらく薫は気が付いていたのだろう。少しずつ、少しずつ秋人が自分の事を考えられるように導いてくれていた。

進路や、なりたい未来について、好きなものすら選べなかった自分を根気よく一歩ずつ手を引いて歩んでくれた。

秋人は今急にいろいろなものが動き出して戸惑っているのだ。その最たるものが美香の事だった。ずっと傍にいてくれると思っていた彼女が、そうではないと気が付いた時、秋人の思考は崩壊した。

「僕、僕は先輩に…」

何とか思考を進めようとするのに、それを打ち消すような感情がふっと湧いてくる。彼女を巻き込みたくないという心の底からの焦燥がせりあがってきて、吐きそうになった。

咳き込む秋人に慌てて智輝が背中を摩った。

「まあ、まだバレンタインもあるし、ホワイトデーもあるから、もうちょっと落ち着け」

「なんで、バレンタインがここで関係してくるの?」

秋人が首を傾げるのを見て、智輝は「あー」と声を上げた。

「そうだった。お前間違ってたんだったな。バレンタインってのはな…」

智輝がようやく説明しようとしたその時のことだ。

「如月くーーーーん」

語尾にピンクのハートが付きそうな声にギョッとして智輝が顔を上げると、同じクラスの笹川和音が手を振っていた。

「笹川さん?」

彼女はにこりと笑い、綺麗に包まれた弁当箱を差し出した。

「昨日は木下くんのとこに泊まったのかな?だったらお弁当持ってないでしょ。よかったらこれ食べて」

はいと渡された弁当箱が怖い。智輝は無言だ。秋人は思わず受け取ってしまった。

「お弁当箱はいつでもいいからー」

ふふふふふと笑いながらスキップで駆けさる和音に智輝は身震いした。やはり、昨日の放課後の会話は筒抜けだったのだ。

「なんで?」

秋人が思わず疑問を口にする。智輝は返答に困った。

そのまま二人が教室に行くと、わらわらと女子が秋人に寄って来た。

「如月くん、私クッキー焼いたの。よかったら食べて」

「如月君、このギャラリー行ってみない?このイラストレーターさん素敵なの」

「如月―、今度このパフェ食べに行かない?キラキラで綺麗でしょ」

「秋人くん、今度のお休み映画行かない?有名なフランスの画家の一生を題材にした映画だよ」

秋人は圧に押されて困惑している。智輝は女子が秋人に会わせて題材を選んできていることに感心した。美術と甘味に絞っているのがこの前までと違うところだ。

最初の頃、秋人に粉かけていた連中はあまり秋人の趣向に沿ったお誘いが出来ていなかったのだが、流石に1年付き合ってるとそれなりに好みがわかってきているようだ。

「おい、あれはなんだ?なんの騒ぎだ」

委員長が智輝をひっぱって教室の隅に寄せる。

「いや、実は昨日の放課後…」

かいつまんで事情を説明すると委員長は唇を引き結んだ。

「それ、教室内でとどまるか?」

「分からん。いや、無理だと思う」

案の定、放課後になると他教室の女子まで押しかけて来た。秋人は圧に弱いということも、どうやら織り込み済みらしい。複数人で強引に約束を取り付けようとするものまで現れる始末である。

秋人は兎のようにすっかり怯えて、智輝の背中にかくまってもらっている。これが3S 探索者(シーカー) の姿かと思うと、以下略。

「帰りたい」

秋人の泣き言に智輝は深々とため息をついた。

「流石に俺も二日連続練習さぼりは無理だ。神崎さんに迎えに来てもらってやるから保健室で寝とけ」

ずるずると秋人を引きずっていく智輝に、女子から非難の声がぶつけられる。

「俺、すげえ損な役回りじゃね?」

と嘆く智輝に秋人は小さく「ごめん」と呟いた。

「お前に姉ちゃんか妹がいたら、お詫びに紹介しろって言えるのになぁ」

と智輝がぼやく。秋人は小さく頷いた。

「いたらよかったね」と。