軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6. パーティー

薫の魔法での口止めが終わった後、消音の魔道具を片付ける。後藤は内線で再度コーヒーをもってくるように秘書に頼んだ。

「ところで、神崎先生。大晦日パーティーは参加しますよね?」

後藤の否と言わせない確認に薫は苦笑いを浮かべる。年末にギルド主催で行われるパーティーは、Aランク以上でないと参加できない 探索者(シーカー) なら誰でも一度は夢見る晴れ舞台であるが、薫には煩わしい限りである。

「いや、去年は欠席で済ませたじゃないですか?」

と薫が言ったところに秘書の女性が到着した。話が聞こえたらしい。

「ダメですよ、神崎先生」

後藤が返事をするより早く、女性の秘書が苦言を呈した。

「パーティーには桜子さんも出るんです。婚約者のエスコートがなかったら彼女が恥かくじゃないですか」

「そういう感じですか」

「そうですよ」

女性として我慢できなかったのだろう。秘書は色々とアドバイスしてくれた。

「桜子さんは神崎先生が出ないって言ったら『そうですか』で済ませちゃうと思いますけど、そんなの可哀相ですよ。婚約を発表したばっかりなのに一人で参加させるなんて絶対あり得ません」

秘書の食い気味のアドバイスに薫は素直に頷く。

「わかりました。教えていただいて助かりました。ありがとうございます」

悠然と薫が頭を下げた。しかし、彼の内心は外見ほど落ち着いてはいなかった。

危なかった。この話題がもし夕飯時に出ていたら薫は即座に出席しないと言っていただろう。彼女は素知らぬ顔で頷いたに違いない。桜子はそういう女性だ。そして、きっと後で薫は康子にこっぴどく罵られたことだろう。彼女を苦境に立たせなかったこと、康子の怒りを回避できたことで二重に感謝である。

「ドレスコードはありますか?」

「後で詳細はメールします。衣装が必要ならこちらで用意もできますが、今からならまだオーダーが間に合うので、桜子さんと合わせて作ったらいいですよ」

「分かりました」

薫はコクコクと頷く。

後藤は大胆な秘書をハラハラして見守っていた。そういえば、彼女はたしかものすごい霧崎桜子ファンだった。桜子は実は女性に大変人気が高いのだ。そして、この秘書は確かファンクラブのかなりの重鎮だったはずである。

ここで素直に行く方に方向転換した薫の危機回避能力の高さに脱帽である。

「因みに、会場のどこかに待機する部屋とかありますか?」

薫の言葉に後藤と秘書が首を傾げた。

「大晦日に秋人を一人だけ家に残すのは寂しいので。流石にパーティーに連れてくると魔力の多さで普通の少年じゃないのがばれるから、近場で当夜と待っててもらって、私たちがパーティー抜けて合流しようかなって」

「それは…すいません。そこまで考えていませんでした。そうですよね。如月様はまだ参加できませんものね」

ふうと秘書がため息を零す。

彼女ともう一人の男性秘書は秋人が少年だということを知っている。未成年の少年を一人年末年始に家で留守番させるのは、流石に忍びない。

「秋人が18歳の年なら参加できると思うので、あと2年ですね」

しみじみと薫が言う。何やら父親のような心境だ。

「それでしたら、会場近くのホテルに部屋をご用意します。神崎先生たちがパーティーに出席されている間、私ともう一人の秘書で如月様を接待させていただきます」

にこりと後藤の秘書が笑う。

「ん?私の世話は誰がするんだい」

後藤が首を傾げると、秘書はにっこりと微笑んだ。

「ボスは大人なんですから、自分で頑張ってください」

「いや、ギルドマスターなんだよ。色々大変なんだよ。去年だって必死だったじゃないか」

そもそも後藤はもともとギルドマスターではない。臨時だったはずがいつの間にか、臨時が取れてしまった経緯の就任だ。ごく一般の職員だった後藤がセレブだらけのパーティーの主催として振る舞うのは、去年かなり大変だったようで涙目である。

「一回経験されているのですから、問題ないでしょう。奥様と二人で頑張ってくださいね」

秘書の圧に負けて後藤が項垂れる。薫はそっと視線を反らした。

帰宅した後、秘書から送ってもらったメールを確認してから、さっそく秋人に年末のパーティーの話をした。秋人はたいそう悔しがった。

「ええ、薫と師匠がダンスするの僕も見たいよ」

なんとダンスがあるらしい。薫は明日から講師に特訓してもらう羽目になった。

「ううん。でもなぁ。秋人連れて行ったら絶対如月秋人ってバレちゃうだろう」

「確かに、あっくんの魔力量はごまかせないよな」

当夜も頷く。まだ経験値の浅い 探索者(シーカー) ならともかく、Aランク以上となると熟練の 探索者(シーカー) が多い。秋人の尋常でなさはすぐにばれるだろう。

「あ、それなら大丈夫!この前の足環改造するから」

「ああ、あれか」

薫が偽教授に着けられた魔法封じの魔道具だった。現物は確かギルドの研究所に渡したはずだが、秋人はあの短期間で術式を全て覚えたらしい。

「僕の魔力量が他の人に分からないようにしたらいいんでしょ。たぶんちょっと改造したらいけると思う」

「まあ、そうだけど…」

薫としてはできるだけ秋人があの如月秋人だとばれる機会は避けたい。

自分が秋人の代理人なのは先日の事件でそれなりに広まっている。本当はもっと大々的に広まるかと思っていたが、「薫の敵は私の敵」というショッキングなフレーズを広めたくないがために、薫と如月秋人の関連について記事にする記者がかなり少なかったのだ。それもどうよ…とは思うのだが。

「そしたら、俺と給仕のバイトで入るか?」

当夜が例のパーティーをスマホで調べると、給仕のバイトを募集していた。ここは後藤の名前を使って採用してもらえばいい。流石に如月秋人が給仕のバイトで会場にいるとは誰も思わないだろうし、薫たちのダンスも見ることができる。

「バイトやったことない!やりたい!」

アルバイトというものを一回体験してみたかったのもあって、秋人はがぜん乗り気だ。

「うーん、まあ足環の改造次第だな。いつくらいにできそう?」

薫が尋ねると秋人は少し虚空を見つめた後、

「明日」

と明確に答えた。どうやら、ほぼ術式の構築は終わっているらしい。

「わかった。どこかで試してみていけそうならその手で行こう」

「了解!」

秋人は元気に返事した。

桜子が帰宅後、その話をすると彼女は驚いていた。

「え?薫さん出るの?秋人はどうするの?」

どうやら、大晦日ということもあって薫は出ないだろうと思い、その話をしてなかったらしい。そこで当夜の案と、後藤秘書の案を話すと

「なるほど」

と頷いた。一応どちらの案になっても秋人を一人残さなくていいことが分かって彼女も納得した。

「あ、でもね…薫さん。本当に無理しなくていいんだからね。パーティーとか本当は好きじゃないでしょ」

桜子の気遣いに薫はニコリと笑う。

「大丈夫。あなたと踊ったらすぐ退場するだけだから」

真顔でそう言うと彼女はケラケラと笑った。

「確かにその場にいたら他の女性 探索者(シーカー) にダンス申し込まれて大変なことになりそうだもんな」

「桜子さんも一緒に退場になるけど、大丈夫?」

「分かった。康子に伝えとく」

と彼女は請け負った。

「そういえば、桜子さんはもう衣装は決まってる?後藤さんの秘書が相談しなさいって言ってたんだけど、正直どういうのがいいのか俺はさっぱり分からない」

「そうだなぁ…私も、いつもはメグミに丸投げだったからなぁ」

うーんと二人で考える。

「ドレスは一応スポンサーがついているんだけど。決まってるのかな。あ、そうだ!凛子ちゃんに聞いてみたらいいかも」

「えっ」

薫の顔が微かに引きつる。できるだけ彼女に借りを作りたくないのだが、背に腹は代えられない。それに、薫からの依頼ではなく桜子のからの依頼ならば、彼女はおそらく二つ返事で受けるだろう。

「明日康子と凛子ちゃんに聞いてみるね」

と嬉しそうに笑う桜子を見ていると、薫は行くことに決めてよかったと思った。