軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15. 反撃

一連のやり取りのあと、後藤がおもむろにリストを取り出した。

「Sランクの 探索者(シーカー) として神崎氏はこの1年で多数の功績を挙げられております。主なものでは、銀座第二ダンジョンでの大量モンスター討伐、赤坂第四ダンジョンでの最下層採取依頼、ニューヨーク・マンハッタン五号ダンジョン閉鎖、霞が関第二ダンジョンでの変異ボスモンスター討伐、丸の内第一ダンジョン救出作戦、神奈川県の巨福呂坂ダンジョン閉鎖とまあこれくらいですかね」

後藤がにこやかに並べ立てる数々の功績。薫は苦い顔をしている。

それは秋人と当夜がいてこその内容であって、自分一人でなしえたものではない。

「私だけの功績ではありません」

薫が思わずそう言いたくなるのは仕方ないだろう。しかし、それを後藤は待っていたのだ。

「そうですね。では、神崎氏のパーティーメンバーからのメッセージを読ませていただきます」

後藤がおもむろに便箋を数枚取り出した。

「ご、後藤さん!」

慌ててやめさせようとする薫の腕を総理大臣が掴んだ。

「栗原さん!」

「いや、実はね。今日の私のお仕事はこれなんです。『彼』に頼まれてしまってね」

だって流石に内閣総理大臣の腕は振りほどけないでしょう…とやり手大臣は喉の奥で笑った。

後藤は、一つ咳ばらいをしてから、便箋の文章を読み上げた。

『薫はおそらくどんなに窮地に立たされても私の名前を出すことはないだろうから、後藤さんにこの手紙を託しました。私の名前は如月秋人。そこであなた方が吊るし上げている人のパーティーメンバーで、Sランクの 探索者(シーカー) です。人によっては3Sと呼ぶ人もいますがどうでもいいです』

なげやりっ

薫が頭を抱える。

『あなた方がどこの誰とも分からないくだらない情報源から、下種の極みの妄想を繰り広げている対象の少年Aは、私の強い強い意向で薫と一緒に暮らすこととなりました。少年たっての希望でもあります。薫は私の代理人として私にまつわるあらゆる面倒ごとを全て取り仕切ってくれています。その働きに関する報酬も当初不要と言われたものを、無理にも押し付けたのは私です』

「・・・・・」

『あなた方が無法に攻撃しているその人は、私が窮地に立たされ、弱り、どうしようもない困難に陥っていた時、唯一救いの手を差し伸べてくれた人です。彼は私に人として生きる全てを与えてくれた恩人で、私にとってかけがえのない人です』

薫はぐっと唇を噛みしめる。秋人の校長室での悲痛な叫び声が今も耳の奥に残っている。

『あなた方が彼の尊厳を踏みにじるのなら、あなた方は私の敵です。私は今そこにいらっしゃるすべての人の顔、名前、声を覚えることが可能です。私の資金力があれば、もっと詳細な情報も得られるでしょう。あなた方が薫を攻撃するというのなら、私はあなた方とあなた方に連なるすべての人を救うことを拒みます』

記者席全員の顔色が青を通り越して白、さらにグレーになった。死人である。

『私からは以上です。それでも、彼を攻撃するというのであれば、ぜひお試しください。私は薫ほど優しくありません。 如月秋人』

もはや虫の息の記者席を、金子は哀れみを持って見つめた。

「おい、もっとソフトな表現にできなかったのか」

こそりと薫が金子に文句をつける。

「これでもだいぶソフトにしたんだ」

金子は最初に渡された脅迫文をどうにか説得して改稿したのだ。最初の文章は完全にイっちゃってる殺害予告だった。今回遅刻したのはその所為だ。秋人が削りたくない単語を3つ削るか削らないかで、ずいぶん時間を取られたのだ。

『追伸。最後に、週刊文秋記者の秋月さん、あなたがお勤めの会社は私が買収しました。来週のあの雑誌の表紙はあなたの顔で、本文は全ページを使ってあなたのお詫び記事を記名で掲載しますので、そのつもりで』

さきほど、後藤にたてついた記者がふらふらと椅子から崩れ落ちた。どうやら彼が週刊文秋の記者らしい。

「いやあ、怖いねえ。君、一体あの子にどんな教育してるんだい」

栗原の囁き声に返す言葉がない薫だった。

「さて、実はもう一つあります」

怒涛の宣言の後にまだあるのか…と全員が疲れ切った顔で後藤を見る。

「今回の記事はそもそもとある女性 探索者(シーカー) とこちらの神崎先生とのスクープを狙ったものでしたが、彼女の意向によりこちらは差し止めさせていただきました。しかしですね、その所為で神崎先生の名誉を傷つけることになって、彼女は大変心を痛めています」

「ちょ…」

薫が慌てて後藤を止めようとするも、SPに取り押さえられた。

「おま、当夜」

SPの恰好しているが、よく見たら当夜である。

「俺、先生の愛人扱いは流石に納得いかんわー」

と小さくぼやく。薫だって御免だ。

「でも、俺じゃなくて彼女ならいいんでしょ」

ニヤリと当夜が笑った。

入り口から颯爽と入ってくる女性。ピンヒールをものともしない、歩く時の姿勢が大変美しい。栗色の長い髪がポニーテールで揺れている。ローズピンクのワンピースがすらりとした長身に良く似合っていた。いつもの戦闘服を彷彿とさせる衣装だった。

普段の三割増しくらい美しく装っている彼女に、つい薫は見とれてしまった。

「き、霧崎桜子」

記者席の全員が茫然と口をあけて彼女を見つめた。

「薫さん、ごめんなさい」

開口一番謝罪し、悲しそうに桜子が顔を伏せる。

「私がもっとちゃんとした形で発表したくって、後藤さんに記事を差し止めてもらってしまったの。その所為でこんな酷い誹謗中傷を書かれるなんて思わなかった」

桜子がいつの間にか用意されていた薫の隣の席に着席した。

「やっぱりこういうのはインストでファンのみんなに一番に発表した方がいいかなって思っただけなのに、こんな酷いことになってしまって」

チラリと桜子が記者席を見る。誰も目を合わせられない。今現在、彼らは如月秋人の敵だ。その上霧崎桜子の敵とか、 探索者(シーカー) が命綱の現代において、存在の否定に等しい。

「私は彼と少年Aとの暮らしもよく知っています。こんな誹謗中傷を受けるようなものではありません。本当に普通の兄弟や親子のような微笑ましい、温かい関係なのです」

桜子は記者席に向かって訴えた。それは、その瞬間確定の事実となった。

この先に日本でそれ以外の情報を放つことは許されない。それだけの発言権がアークエンジェルの霧崎桜子にはあった。

会見場は一気に手打ち感に包まれた。そんな中、桜子が隣に座って唖然としている薫に話しかけた。

「薫さん、あの…お詫びに夕食をご馳走したいの。一緒に作ってくれるかしら」

「この前、病院に差し入れしていただいた、さばの味噌煮が美味しかったです」

桜子の必死の演技が可愛くて、薫が思わず笑顔になる。華やかで優しい表情だった。思わず会場中が見惚れた。

二人のやりとりを間近で見ていた総理大臣は、思わず台本になかった質問をしてしまった。

「君たち、正式に付き合ってるのかい?」

栗原の問いかけに桜子はにこやかに微笑んだ。

「はい、結婚を前提にしたお付き合いをさせていただいております」

爆弾発言だった。

その夜のハッシュタグのトップは #さばみそ だった。