軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3. 入院加療

薫は駄々をこねた。自分は弁護士が本業でこれ以上は休めない。入院なんてもっての他であると訴えたが、老医師は首を縦には振らなかった。

「よくもまあ、これだけ傷んだ魔力回路で生活しておるもんだ。常に頭痛がして心臓が痛んで視界が曇っておっただろうに」

医師の言葉に秋人の顔色が真っ青になった。薫はそんな秋人の様子を視界に収めて慌てた。

「いや、あのすいません。実はその症状って別に今に始まったことじゃなくて、 探索者(シーカー) になる前からだいたいそんな感じだったので、魔力回路の所為じゃないんじゃないかなと…」

薫のワーカーホリックは別に 探索者(シーカー) になってから始まった訳ではない。

「以前からそんな生活だったのなら、なお悪い。早死にしたくなければ大人しく入院しなさい。」

医師の言葉と秋人の泣きそうな顔に黙り込む。

「それに、お前さんの魔力回路はかなり特殊じゃ」

医師はさらに爆弾発言を続ける。

薫はもう勘弁してほしかった。できれば自分だけの時に告知してほしい。三人の顔にありありと不安が浮かんでいるではないか。

「お前さん、まったく魔力を感知できんじゃろ」

「あ、はい」

薫の返事に老医師は深々とため息をついた。

「通常の 探索者(シーカー) の魔力回路は『魔力を作る』『魔力を溜める』『魔力を放出する』『魔力を感知する』という4種類の機能が備わっておる。坊や大きな兄さんの回路はこのバランスが取れている。桜子さんは放出がやや強め。だが、しかしだ」

老医師はびしっと薫に指を突き付けた。

「お前さんの回路には感知能力がまったくない。ゼロじゃ」

「へえ」

薫は事の重大さが分からないので生返事である。当の本人の気のない返事に医師はがっくりと肩を落とした。

「お前さんの魔力回路は本来感知するためにあるはずの部分まで魔力を作る、溜める方へ使われている。なので、そんな阿呆みたいな魔力量なわけだ」

「なるほど?」

一応相槌を打ってみたものの、その意味が分からない。しかし、彼以外の三人は難しい顔をしている。

探索者(シーカー) 三人は、どうやら薫が何が問題が分かってないのを察して教えてくれた。

「薫は魔力のある敵を発見できないってことだよ」

「おおう」

秋人の指摘に、それは一大事と頷く。

「感知能力がないということは、自分の状態も把握できないってことっす。最悪敵のど真ん中で魔力ゼロなんてことだってあり得ますよ」

「おおう」

当夜の指摘にも、それも一大事と頷く。

「おまけに人より大量に魔力が作れるのに放出回路は人並みってことで、回路が傷みやすいし、無茶をしていることも把握できないってことでしょう」

「おおう」

桜子の指摘に、それは大変だと頷く。

「「「入院しなさい」」」

三人の圧には勝てなかった。薫はそのまま即入院となった。

しかし、流石に依頼人を放り投げるわけにはいかない。薫は当夜に頼んでノートパソコンを取りに行ってもらい、その間、臨時で代役を務めてもらう代わりの弁護士の手配をした。

「金子?今空いてる?頼む助けてくれ」

薫が電話した相手は金にがめついが腕がいいと有名な同期の弁護士金子達也だ。

『どうした、兼業弁護士』

「入院になった」

『…頭がイかれたか』

「そんな意地悪言わないくれよ。頼むよ」

『前金で1億』

「わかった」

薫が素直に1億だしたことに金子は焦った。落としどころは5千万くらいかと思っていたのだ。

『流石に値切らないとは思わなかった。そんなに重症なのか』

金子の声音が少し硬い。どうやら何か深刻な病気なのかと気にしてくれているらしい。

同期の中では鼻つまみ者、金の亡者とあまりいい噂を聞かない男だが、薫は金子が実はツンデレなだけなことを知っている。金が必要な理由も知っている。薫がそれを知っていることは金子は知らない。

「いや、 探索者(シーカー) の方でへまやって入院加療になったんだ。3週間くらい入院だってさ。ちょっと前に小林くんに所長代理をさせたら胃痛で転げまわったらしくて、もう頼めない」

『・・・・・・・命に別状はないんだな』

「ないよ。心配してくれてありがとう」

『誰が貴様の心配なんぞするか。ちゃんと金が払われるかが心配だっただけだ』

相変わらずツンデレだなと薫は思った。

「前金で5千万振り込む。3週間所長代理をお願いしたい。あと、1千万加算するから外向けには『いい人モード』でやってくれ」

『・・・・・・・・・・承知した』

金子の苦渋に満ちた返事に薫は笑いを堪えるのに必死だ。

彼はやろうと思えば笑顔を絶やさず、善良そうな弁護士のようにふるまえる。短期決戦ならそれでいいだろう。加藤法律事務所の評判を落とすわけにはいかないのだ。

「なあ、前から言ってるけど、うちに来ないか?」

薫は以前から彼を事務所の専属に誘っている。

『お前のところの仕事じゃ俺のほしい金額は稼げない』

金子はいつもそう言うのだが、薫は今回は別のアプローチを持っていた。

「今度企業買収やる予定なんだ。お前好きだろ?」

『やると決まってから言え』

電話は無情に切られた。

「薫の友だち?」

電話のやりとりを聞いていた秋人が首を傾げる。

「そう、金子達也。すごく腕のいいフリーの弁護士。勝訴請負人。ただし、金の亡者」

金子なだけに…と嘯く薫の顔がとても優しい。

「薫、その人のこと信頼してるんだね」

「うん。同期の中では一番腕がいい奴だよ。本当はもう一人いたんだけどな」

と笑う顔が少し寂しそうだったのが秋人には気になった。