軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14. 遊馬

遊馬は背負ったリュックの重さにため息を付きながら、ダンジョンの中を歩いていた。

「このダンジョンを征伐するなんて信じられない」

遊馬にとって家にダンジョンがあることは一種のステータスだった。皆が自分の事を大事にしてくれるのも、ちやほやされるのも全てこのダンジョンを朽木家が所有しているからである。

そして、いずれ自分が跡取りとしてこのダンジョンを継ぐのだ。ずっとそう言われてきた。それなのに、父や祖父は「もうダンジョンは閉鎖するから、お前は 探索者(シーカー) にはならなくていい」などと言い出した。そんなのありえないと遊馬は泣いて嫌がった。

「ダンジョンを所有するということは大きな義務も発生する。お前はそれを分かってない」

一馬の言うことは分かっている。ダンジョンを荒れないように管理しなくてはならないのだ。朽木の子供なら誰でも知ってる。

「せめて、僕がジョブを選択するまで待ってくれてもいいじゃないか」

とぼやく。何やら危険なことになるので仕方ないという難しい話は聞いたけど、遊馬的には巨福呂坂ダンジョンを無くすという話の方がショックで、あまり身を入れて聞いていなかった。

「当主の息子ははずれを引かない」

そう言われてきた。遊馬は自分がちゃんと 探索者(シーカー) として役に立つジョブを得られると信じていたし、それがかなうのもダンジョンを持っているおかげだと知っていた。

ごそごそとリュックから地図を取り出した。ダンジョン内の地図は本家のもの以外は細切れにされていて、道が分からないようになっている。遊馬が持っているものはちゃんと祭壇までの道のりが書かれているものだ。家宝なのだが持ち出してきた。

「僕は跡取りだからいいよね?」

と嘯く。

チラリと腕時計を見るとダンジョンに潜ってから12時間が過ぎた。

「あと12時間か。それまでに祭壇に行かなくちゃ」

遊馬は足を速めた。

「あれえ?跡取り様じゃん」

突然背後から声を掛けられたのだ。遊馬は驚いて飛び上がった。家の人間がもう追いついたのかと思ったが、そうではなかった。黒ずくめの一団が遊馬を取り囲むように立っていた。

「赤城の…」

遊馬は思わず顔を顰めた。彼らの家のドラ息子が起こした騒動を知らない本家の人間はいない。赤城家は謹慎を言い渡されたはずだ。

「こんなところで何してんの?」

軽い口調で話しかけてくるこの男は、例の赤城誠よりさらに質が悪くて一族から追放された赤城健司、誠の弟だった。

「お前たちこそ、勝手に入ってきて何をやってるんだ」

居丈高に遊馬が叫ぶと、男たちはゲラゲラと馬鹿にしたように笑った。

「いやいや、坊ちゃんには敵いませんよ。勝手にこんなところに侵入しておいたですか?」

「何だと!!」

遊馬は食って掛かったが、相手は鼻で笑った。

「お前さあ、今自分がどういう立場か分かってるう」

ニヤニヤと健司は嗤う。

「俺たち、朽木には恨みしかねえんだけど。」

健司は容赦なく遊馬を蹴り飛ばした。小柄な少年を大の男が加減なく蹴ったのだ。遊馬は一瞬自分がどうなったか分からなかった。

壁に激突して、勢いのまま地面を二転、三転と転がった。

「ご主人様でございって、今時何様のつもり?」

健司の言葉に周囲の男も大きく頷く。

「俺たちね、この蔵を乗っ取りにきたの」

「は?」

遊馬は痛みに顔を歪ませながら健司を見あげた。

「いいね、その顔。最高」

男の笑顔には狂気が浮かんでいた。

「おい、こいつ。いいもん持ってたぜ」

別の男の一人が遊馬がさきほど見ていた地図を拾い上げた。

「お、ラッキーじゃん。俺たちの地図じゃ正しいところに行くの大変だったんだよね」

健司が大喜びで手を叩いた。

「これ、なんだと思う?」

健司が一つの宝箱を掲げ持った。遊馬には不吉なものしか見えないそれを、健司は愛しそうに撫でた。

「ある慈悲深い方が兄貴をあんな目に合わせたお前らに復讐しろって下さったんだ。これをここのダンジョンボスに投げつければ、このダンジョンは俺たちのものになるんだってさ」

「そんなものインチキだ。朽木家の人間以外が主様に言う事聞かせられるもんか」

遊馬が怒鳴ると、健司はゲラゲラと笑った。

「お前、何も知らないんだな」

「何をだよ」

「言う事聞かせてたわけじゃないぜ。朽木の人間は主様のご機嫌を取ってたんだよ。身内を食わせてな」

「は?」

遊馬の表情が凍った。

「だからみんなお前らをちやほやするんだよ。いずれ、俺たちのために食われる運命の人間だからな」

遊馬の一番小さな記憶は、祖父と父親が酷く真剣な顔で話し合ってた夜だ。

「俺が行くしかない。遊馬はまだ小さい。蔵が氾濫したら主様を満足させられないだろう。親父には残ってもらうしかない」

「何を言う。俺が新宿に行く。うちの蔵はまだ当分大丈夫だ。しばらくは親子で過ごせる。」

「俺はあまり力が強くない。主様を鎮めるのは無理だ。親父も分かってるだろう。遊馬はおそらく大きくなればいける。でも俺は主様に相応しくない。なら、新宿を抑えるのは俺だ」

「一馬…すまない」

すまないと祖父が泣いていた。見てはいけない、聞いてはならない話を聞いてしまったと怖くなって遊馬は逃げ出した。

「直近では、お前のじじいの姉貴が人身御供になったんだぜ?」

健司は遊馬の心を折る。実家の祭壇に祭られている美しい若い女性の遺影。祖父はその人の事をなんと言っていただろう。「神の花嫁になった」と言ってはいなかったか。

「お前もいずれ主様の腹の中だ。よかったな。俺たちが貰ってやればお前は食われなくていい。まあ、でも今度は俺たちに尽くしてもらおうかな。家来として」

はははと健司が笑うも、遊馬は恐ろしくて震えて声が出なかった。