軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8. 血統魔法

「それじゃあ、次は魔法ありで」

嬉しそうに桜子が笑う。

「この前はダメ出しくらってお預けだったからね」

「はい」

秋人の周囲の空気の色が変わる。木刀に秋人が魔力を流しているのだ。さきほどよりさらにざわりと気配が深くなった。周囲の見学者が固唾をのんで見守る。これから、より高度な立ち合いがおこわなれることは皆理解していた。

「いきます」

「よし」

先ほど見えてた者たちにもほとんど見えないスピードで秋人が打ち込む。桜子は秋人の一打を跳ね返した。

「悪くない」

彼女にはまだ余裕がある。

秋人は道場の床に魔力を流した。裸足で床が捉えやすいので、そのまま自分のフィールドを展開したのだ。二重三重に床から壁に掛けて魔法陣が広がる。攻撃防御一体の魔法陣がスムーズに流れて、そのうちの幾つかから発した魔法が桜子に襲い掛かる。彼女はその魔法攻撃を一刀のもとに斬り払った。

斬り払われた後も立て続けに魔法陣から追尾の魔法が展開される。

「くっ」

桜子が圧に押されて思わず半歩下がった。

魔法というのは、歴戦の剣技の持ち主だと効果と共に斬ることができる。故に魔法使いより武術派の探索者の方が、単独での攻撃力が高いとみなされている。魔法使いはえてして広範囲における攻撃を任されることが多く、後衛職と言われるのはその所為もあった。

しかし、少年は違う。

「魔法剣士か」

器用貧乏の代名詞とも言われるジョブだが、ここまでどちらも高みにある者が存在することに、皆が戦慄を覚えた。

「すごい!」

遊馬が興奮を抑えきれず手を握りしめる。

あの霧崎桜子と互角に戦っているのが自分とわずか5歳しか違わない少年なのだ。興奮しない方がおかしい。

「秋人さん、がんばれ」

遊馬は小さく呟いた。

「うわ」

思わず当夜が小さく呻いた。ごまかしようもない高等テクニックだ。見学者全員が青くなっている。どの技も超一流だ。これでは秋人が只物ではないことなどバレバレである。

秋人のスピードがさらにあがる。二人の姿を追えるのはほぼ、 探索者(シーカー) でも上澄みのランクの者だけになった。

「何者だ」

低く呻く。どう見ても普通の少年ではない。恐ろしく魔力があり、練度が高い。実戦経験がないとは思えない。だがどう見ても15,6歳にしか見えないのだ。ギャラリーはかなり混乱した。

桜子も舌を巻く思いだった。想定していたより秋人が動きを掴むのが早い。彼は桜子の動きから学んで自分の動きを洗練させている。合理的かつよりシンプルな動きへ。無駄をなくし力学的に最良の動きを選んでいく。

「そう簡単に持っていかれるわけにはいかないんでね。こっちにも意地がある」

桜子はスキルを発動する。

【流星剣】

流しきれないと踏んだ秋人が床に敷いた魔法陣から防御を展開する。相殺は難しいと判断し空中で衝撃波から逃れると、くるくると二回転して道場の壁に足を着き、角度を変えて桜子へ切りつけた。

【 閃光剣(スラッシュ) 】

威力は抑え目ながらも秋人の得意技である。

しかし、桜子は太刀筋を読んでいたのか素早く秋人の剣を躱し、手首を握った。

「え?」

思わず秋人が声を漏らすが、桜子はそのまま秋人を背負い投げの要領で床に叩きつけた。

「!!!!」

秋人は受け身も取れなかった所為で背中から落ち息が詰まった。体術の面では、まったく歯が立たない。組み合わせと経験の差が大きく出た結果だった。

桜子の木刀が秋人の喉元に突き付けられた。

「まいりました」

秋人が告げると、桜子はふうっと息を吐いた。

「まあ、流石にこの条件での立会で、負けるわけにはいかないよ」

「はい」

秋人は小さく笑った。

「ありがとうございました」

両者向かい合って礼を取った。秋人は息を吐く。こんなに完全に負けたのは初めてだった。

「負けちゃった」

秋人が呟くと周囲がドン引きである。

霧崎桜子はSランク 探索者(シーカー) だ。勝てるわけがない。だが、少年はかなりいい勝負をしていた。いや、おそらく道場でやるから魔法の威力が抑え目だったこともかなり彼のジョブに不利に働いていたのは明らかだった。さらには慣れない道着も足を引っ張っていたらしい。立ち上がる時も足元を気にしていた。

ぽんぽんと袴についた埃を払って立ち上がる秋人を周囲の大人が固唾をのんで見守っている。

「秋人さん!!!」

遊馬が秋人に抱き着く。

「負けちゃったよ」

と秋人が笑うと、遊馬は笑って首を振った。

「道場初めてだったら仕方ないよ。」

「そうかな」

「うん」

本家の少年が呼んだ名前に、全員がどきりとした。その名前はもしかして…という思いと、いやいくら何でも若すぎるだろという疑念が渦を巻く。

「朽木相伝 【本日の道場での一切は他言無用である】」

一馬が唱えると、全員の背がぴんと伸びた。

「はっ」

朽木家全員が揃えたように首を垂れる。

「契約魔法?」

秋人が首を傾げた。

「うちの一族の直系だけが使える血統魔法だな」

一馬は言う。

「君のことは秘密に」

ニコリと笑った。これがあるから道場での稽古がオッケーだったのかと秋人は理解した。

朽木家の本家筋、それも跡取りの資格のある者だけが使える血統魔法である。これは特殊な魔法で、血筋に宿る力だった。

「さて、次は聖夜さんとやってごらん」

桜子がニコリと笑う。

「え?」

聖夜が顔をひきつらせた。こんな凄い試合の後に自分となんて申し訳ないではないかと思っていたが、秋人はペコリと頭を下げて

「よろしくお願いします」

と宣言した。これは逃げられないと聖夜も同じく挨拶を交わす。

「魔法も身体強化もなしね。秋人、聖夜の足元をよく見て覚えるといい」

桜子の言葉に秋人は大きく頷いた。

そして、桜子の言った通り、魔法も身体強化もなしでの試合は二人は互角かやや聖夜の方が優勢なくらいだった。

道場に集まっていた全員が、聖夜の不遇も彼のジョブが外れなことも知っていた。表立って馬鹿にしたりするものはいないが、陰では陰惨な虐めに近いやりとりもあったのだが、聖夜はこつこつと修行を積み重ねてきたのだ。

その成果が花開こうとしていた。

「聖夜兄ちゃん、強かったんだ」

遊馬の感嘆の声が全員の心を代弁していた。

認められた本人より嬉しそうな当夜の顔を見て、秋人はクスリと笑った。