軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第62話 勇者一行以外の帰還者

確かに異世界からの帰還者と目の前の男は口にした。

それもこちらの様子を見るためのブラフなどではなく、明らかな確信を持った様子で。

だからこそそれは聞き捨てならないことだった。

美夜達のような勇者一行以外でも現実世界に戻ることを希望した奴は少数名ながら存在しているが、そいつらの顔と名前は把握しており、目の前の男は確実に違うと言えたので。

(だとすると他の帰還者から情報を得たってのか?)

勇者一行ではない帰還者は俺を含めて四人のみのはず。

その内の一人はこっちに戻ってきてから自由気ままに日本各地を放浪しているそうで、魔物発生の騒動が起きる前から連絡が取れなくなっている。

だからそいつから情報を得るのはまず不可能だろう。

だとすると残る二人からだろうか。

だがその二人は魔物と戦うことを選ばずに姿を隠しているはずだ。

元々戦いを好まない気性に加えて、五年に及ぶ異世界での生活の中でトラウマを抱えており戦いたくとも戦えないのだ。

そしてそういう事情だからこそこちらに帰還をすることを選んだという面もあるのだろう。

俺としても彼らが怠惰で戦わないのではなく、本当にどれだけ頑張っても戦えないのを理解している。

だからこそこの騒動が起きた後に安否確認の連絡は取ってはいるものの戦闘面で協力を要請したりはしていない。

それがどれほど酷なことかは嫌と言うほど分かっているのだから。

(まさかあの二人を探し出して情報を手に入れたってのか?)

だがその二人は魔物が発生していない県にいるとのことで、手掛かりなしに見つけられるとは思えない。

聖域がない時点ではまだ比較的安全だろう地域に隠れているからこそ俺もその二人について特に何もしなかったのだから。

「おっと、そう怖い顔をしないでくれ」

「そう言うならどうやってその情報を手に入れたか話してくれるんだろうな?」

「勿論だよ。と言っても話は単純で私は君達と同じ帰還者という人物から聞いたんだ。正確には魔物が出現してから数日たった後の東京奪還作戦が実行された際、オークの群れに襲われた我々を助けてくれた人物にね」

魔物出現から数日だとその時点では死亡していた美夜もあり得ないし、俺に任せて隠れていた先生や茜もない。

更に戦えない二人も絶対に違うとなれば、犯人である可能性を持つのは一人だけだった。

「……そいつの名前や素性は分かるか?」

「若い女性でマキと名乗っていた。助けてもらっておいてこの発言は失礼かもしれないが、その、随分と個性的な女性だったよ」

その言い淀む様子を見て確信した。

目の前の人物が本当にそいつから話を聞いただけだということを。

(あのバカ、消息不明で連絡も取れないと思ったらペラペラと余計なことを話してるとか何を考えてやがる……!)

真木(まき) 叶恵(かなえ) 。

それこそが異世界から現実世界への帰還を選んだ俺達変わり者の連中の中でも抜きん出た変人の名前だ。

そしてその変人度だけならかの勇者に匹敵する猛者でもあった。

「彼女は私達を襲ったオークの群れを瞬く間に討伐すると、ステータスカードやスキルのことやオークやゴブリンの習性や戦い方についても話してくれた恩人だよ。彼女のおかげで我々の部隊は誰一人欠けることなく、これらの力を手に入れられたのだからね」

「はあ……で、その時に俺の事も聞いたと?」

溜息を吐きながら認めるような発言をする。

だってここに至っては誤魔化しても仕方がないだろう。どうやら気まぐれでお節介でも焼いたのか既に色々と話してしまっているようだし。

「いや、流石に君の素性などは教えてくれなかったよ。ただ色々と教わった後に彼女にこう言われたんだ」

【……とまあここまで魔物との戦い方とか心得を適当に教えてやった訳なんけど、ぶっちゃけアンタ達が何もしなくても東京は遠からず奪還されるだろうから無茶だけはすんなよー。どうせこの状況でかの英雄様が動かない訳がないだろうし】

その英雄とやらが誰なのか尋ねたら、自分と同じ異世界からの帰還者だとあのバカはあっさり答えたらしい。

しかも自分と違ってちゃんとした奴だから、話を聞くならそいつにしろと後のことを押し付けるようなことまで言い残したとか。

(絶対にそれ以上の説明が面倒になったからこっちに押し付けただけだな、それ)

本当にそんな人物が現れるのかと半信半疑だったが、実際にその数日後に東京から魔物は消え去った上に俺という異常なまでの力を持つ覚醒者が現れたことでその女の話が本当だったのだと確信するに至ったということらしい。

(……あいつ、次に会ったらぶん殴ってやる)

人が情報統制とか色々と気を使っているというのに好き勝手やりやがって。

しかもその話をしたのもあいつの性分からしてどうせ気まぐれ半分だろうし。

ただあのバカ女が生きて魔物と戦う術を身に付けているという事実は朗報以外の何物でもなかった。

勇者一行ではなかったものの叶恵という女に与えられた能力は非常に強力なものであり戦力としてそれこそ申し分ないものなので。

「それであのバカはどこに行くとか言ってなかったか? どうせあいつのことだから引き留めても聞きやしなかっただろ」

文句を言ってやりたいのもあるが、それ以上にどうにか接触して転移マーカーだけでも設置しておきたいところだ。

いざという時に居場所が分かるだけでも助かるので。

しかもあいつの場合はただでさえ連絡もしないで消息不明になることが多いのだし。

「確かに私達が幾ら説得しても聞く耳を持つ様子はなかったよ。ただ部下の話では忽然と姿を消す少し前に――北に美味しい海産物でも食べに行くかな――とか呟いていたらしい」

「なら行き先は一つだな」

東京から北方向でダンジョンが発生している場所。

なおかつ美味しい海産物が食べられるとなれば十中八九、あいつが向かった先は北海道だろう。

次に攻略するダンジョンについてはまだ決めていなかったのだが、思わぬ形でそれも決定しそうだった。