軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第151話 心の支えと希望の象徴

先生の解析が終わったのを契機にして、俺と一鉄は訓練場を後にする。

なお、由里達はこちらが内密の話をするのを察してくれたのか、その場でまだ訓練をしていくとのこと。

「それにしても小百合があそこまで戦えるようになっていたのは意外だったな。正直、以前までの様子だと戦うのは無理だと思ってたくらいだし」

「生憎とこの身はトラウマを克服するための方法をこれでもかったほど色々と試してきたからな。その中で彼女の役に立つアドバイスが運よくあっただけの話よ」

一鉄にとってはどれも改善に至らなかった方法の数々であっても、小百合にとっては有効となるものがあったということか。

それは良い事ではあるのだが、だからこそより一層深刻な一鉄のトラウマの状態も理解させられるしかなかった。

(こいつの場合は見なければどうにかなるとかいうレベルじゃないからな)

仮に視界を塞いでも魔物の存在を感知した段階で一鉄のトラウマのスイッチは入ってしまう。

しかも戦いの世界で感覚を磨いた一鉄では、目を塞いだくらいでは魔物の存在の気配を見逃すなどあり得ない訳で。

(普通なら魔物の気配に敏感ってのは長所なんだけどな)

それが思わぬ形で悪影響を齎してしまっているのだが、だからと言って無意識の内に分かってしまうことを考えてどうにかできはしないのが現状だ。

それと比べて小百合はオークに襲われた恐怖を完全に拭いきれず魔物を見ると体が震えてしまうような状態ではあった。

だが逆に言えば魔物を見なければ魔導銃を撃って倒すことはできる。

だから最初の内は茜などの協力の元、視界を塞いで魔物を何度も倒させたとのこと。

(魔物が正体不明の怪物ではなく、倒せる敵だと認識させたってところか)

それによって魔物が倒せる存在だと、自分でも抗い対抗できる相手だという認識を植え付けさせることに成功した結果、小百合は魔導銃を手にしていれば魔物との戦いが可能になるに至ったとのこと。

また沖縄の聖樹に連れていき、影法師のように戦闘能力がほとんどないに等しい敵と戦えたのも改善した理由の一つだそうだ。

そのような形で魔物にも戦いに向かない個体や種族が存在すると分かったことが、彼女の心に何らかの良い変化を齎したらしい。

「ただしそれもまだ完全じゃなさそうだがな。あれは魔導銃という魔物に対抗できると確信できている武器を、心の支えとなる物を持っているからこそ、どうにかなっている感じだし」

「その心の支えがない状態とか、魔導銃が通じない相手とかだと厳しそうなのは変わりなってことだな。まあそれでも条件次第では戦力になるのに越したことはないし、なによりいざという時に自分の身を守れる手段があるのと無いのとでは大違いだからな」

オークを倒せるだけの実力があるのなら、余程の不意を突かれない限りは一般人や半端な覚醒者に後れを取ることも無いだろう。

今のところ聖樹の中でそういう事が起きる兆候は今のところないが、それでもずっと起こらないとも限らない以上は何らかの対策はしておかなければならない。

「あとはどこぞの英雄が次々と敵の拠点であるダンジョンを攻略して、世界の希望となる聖樹を解放して回っている影響も大きいだろうよ」

「それは光栄な話だが、そこまで影響するものかね? ダンジョン攻略にかまけて、由里達と接することが出来た時間なんて僅かなものだったぞ?」

「この場合、時間は関係ねえさ。そいつがいれば大丈夫だって思わせてくれるのが大事なのよ。それこそかつての勇者が、異世界で多くに人にとっての希望の象徴となっていたように」

確かに力を覚醒させて次々と強力な魔物や魔族を討伐していった勇者は、いつしか希望の象徴として皆から尊敬の念を集めていた。

そしてそればかりではなく多くの戦場で、勇者がいるから諦めるなというような形で、劣勢の中でも士気を落とさないケースが発生することも少なくなかったものだ。

「希望の象徴か。……正直、俺には重過ぎる役目だよ」

性格的にも向いていないし、何なら代わってくれる誰かがいるのならすぐにでもその役目を譲りたいと心の底から思う。

無限魔力などの能力的にも影から支援する方が適しているのだし。

「だけどやると決めた以上は進むしかない、だろう?」

「ああ、その通りだよ」

泣き言を漏らしていても何も変わらないどころか、そうやって気持ちを弱らせても敵が喜ぶだけ。

ならばどれだけ不向きでも関係ない。

希望の象徴としての役目を全うするのだ。

勇者と同じように無理でも、それなら俺なりのやり方でやればいいのである。

それで多くの人が魔物との戦うための士気を高く保てるというのだから。

そんな会話をしながら先生の元へと辿り着いた俺達だが、そこにはその孫たる茜も待っていた。

「あ、譲兄」

「なんだ、茜も来てたのか」

「うん、お爺ちゃんに呼ばれたの。大事な話があるからって」

どうやら先生は今回のサファリスの御神石から得られた情報については、大樹を除いた帰還者全員で共有するつもりのようだ。

(だとすると裏切り者関連の話はない感じか?)

そう予想しながら、この場に来られなかった叶恵も念話で話は聞いてもらうことにして、先生は得られた情報について語り出す。

もっともそのはずの先生はすぐにその役目を別の誰かに任せるつもりのようだったが。

「儂から説明しても良いんじゃが、今回は有り難いことにその役目を任せられる存在がいそうじゃからのう。実験も兼ねて今回はそいつに話してもらうことにするわい」

いったいその存在とやらは誰のことなのか。

俺達が内心で抱いていただろう疑問の答えを先生はすぐに口にする。

「聖樹の化身。またの名を聖霊じゃよ」