軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第140話 追憶 戦士の覚悟と少年の忠告

比類なき膂力に強靭な肉体。

魔物や魔族などという怪物共と戦うために神によって与えられた俺の能力はこれ以上ないくらいに分かり易いものだった。

そして俺も小難しいことを考えるような性分ではなかったから、与えられたその力を存分に振るったものだ。

戦わなければ異世界人という区別などなく人間は滅ぼされる。となれば戦うのが怖いなどと言ってはいられないではないか。

そうして何度も傷つき、けれども能力のおかげもあって魔族や魔物との戦いに生き残り続けた俺は、いつしか人類側の重要な戦力として扱われるまでになっていた。

「んで、その俺様に対して何だって? ガキ」

「だからこのままだと次の戦いで死んじゃうから、大人しくしてた方がいいって言ってるんだよ、オジサン」

このガキは次の戦いに備えて休んでいた俺の前のどこからともなく現れた。

そしてあろうことかこんな世迷言を言い出してきたのである。

(姿を現すまで接近に気付けなかった辺り、このガキの能力は身を隠す類いのものってところか?)

俺と同じく神から能力を与えられた人間は結構な数がいる。

その中には直接的な戦いに向かないものだとか、あるいはどの分野でも使い物にならなそうな類いのものもあるのだとか。

そういう戦場に出ないも良いという意味でなら当たり、まともに力を発揮できないという意味では外れの能力を引いた奴の扱いについて俺はよく知らない。

だけど表向きはともかく、裏でそういう奴らが役立たずとして扱われているらしいことは小耳に挟んだことがあったか。

だとすると目の前のガキもそういう扱いをされている内の一人なのだろうか。

身を隠す能力は使い方によっては強力なものになりそうなものだが。

あるいは身を隠したままだと攻撃はできない、みたいな戦闘に向かないとされる何らかの制約があるのかもしれない。

俺達に与えられた能力は強力ではあるものの、それと同時に完璧でもなければ無敵でもないのだ。

そのことを俺は自分の能力で嫌というほど知っている。

(戦える俺に嫉妬して適当なことをほざいてる……って感じでもなさそうだな)

こちらを侮っている様子もないし、だとするとこのガキは本気でそう思っているのだろうか。

だとしたらこの発言も俺の命を心配してのものということになるのだが、それにしては伝え方というものがあるだろうと思ってしまうものである。

乱暴な口調の俺が言うのものなんだが、この言い方ではそれこそ喧嘩を売られているとしか思えないくらいだし。

「半身を吹き飛ばされても生き残る俺が死ぬ、ねえ。……まあその可能性は否定できねえだろうな」

どれだけ強靭な肉体と不死身に近い回復力を持っているとしても戦場に出る以上は何が起こるか分からない。

というか戦場で死の可能性がつき纏うことなど当たり前ことであった。

それを俺は決して忘れてはいない。

それと同時に目の前のガキがそういう意味ではこの忠告をしているのではないことも理解している。

たぶんだが、これまでの戦いで活躍した俺に対して敵も何らかの策を用意しているのだろう。

不死身に近い俺を殺し得る何らかの秘策を。

それを目の前のガキがどうやって知ったのかについては疑問だが、それでもこいつは嘘を言っていないと俺の勘が囁いているのだ。

「でもな、だからって次の戦いに出ないって選択肢は俺にはないんだよ」

「それはどうして?」

「それはな、俺様が強いからだ。少なくとも今、確認できている能力を与えられた奴らの中で最も強いのではと言われるくらいに」

神から与えられた能力により、俺は多くの同じ境遇の人の中でも戦える部類に入る人間だ。

だからこそこれまで活躍してこられたのだし、そのおかげもあって俺は多くの魔族と戦う兵士達などにとっての希望となっているのだった。

その俺がビビッて逃げ出せばどうなるか。

少なくとも一部の士気がダダ下がりになること間違いなしだ。

それ以外でも俺と同じような境遇の奴らにも悪影響が出るだろう。

あいつが逃げたのなら俺も逃げよう、という風に。

「それに最初は成り行きとは言え、俺には戦場で肩を並ばせて戦った仲間が山ほどいるんだよ。そいつらを見捨てて一人だけ逃げるなんて、そんなクソダサい真似できっかよ」

それはこのガキのような同じような立場の人間だけではない。

異世界で普通に生きていた兵士など、俺達が来る以前からずっと懸命にこちらで生き残ろう、誰かを守ろうとしていた奴のことでもある。

もしかしたらそいつらは俺のことを使い物になるから歓迎しているだけなのかもしれない。

実際、使い物にならない奴が歓迎されているは言い難いみたいだし。

だけどそれでも俺とそいつと同じ釜の飯を食いながら酒を飲み交わし、血を流しながら魔物や魔族と戦ったこと。

そして共に戦った仲間の死を悲しんで涙したことに間違いはないのだ。

「それで死ぬとしても? 死んじゃったら何にもならないのに?」

「ああ、そうだ。俺は何が有っても最期まで戦うと決めてんだ。その誓いに背くくらいなら、それこそ死んだ方がマシだっての」

それにこれは言わないが仮に俺が死んだとしても、最後の最後まで戦い続けた俺の意思は誰かがきっと引き継いでくれると信じているのだった。

俺がそうして仲間の思いを受け取ってここまで来ているように。

「お前はまだガキだから分からねえかもしれねえが、人いつか必ず死ぬ。だからこそ後悔がないように生きなきゃいけないねえんだ」

こういっておいてなんだが、以前の俺がそれを出来ていたとは言い難い。

少なくとも飛行機事故で死ぬ前までの俺は決してそうではなかった。

でもだからこそ、奇跡的にこの異世界で続きが得られたからこそ、ここからの人生はそう生きたい。

生きなければならないと強く感じるのだった。

「……バカなんだね、オジサン」

「お前みたいなガキにバカ呼ばわりはムカつくが、その点に関しては自分でも否定できねえわ。ま、そういう訳で俺を止めるのは無理だと思って諦めろ。そんでもってどうにか次の戦いも生き残れるように祈っててくれや」

「生憎と僕は神に祈らない主義なんだ」

目の前のガキではない声から返事があって俺は驚愕する。

「だって既にこれだけの恩恵を与えられているのに、これ以上を求めるのは申し訳ないからね」

「……何者だ、てめえは」

目の前のガキが全く驚いていないところから察するに、どうやらこいつはこのガキが連れてきたようだ。

そしてどうやら姿を隠して俺とガキの会話を聞いていたらしい。

「僕は勇者と呼ばれている邪神を倒す人間であり、君よりも強い男さ」

それがそれまで最強とされていた俺と、その最強の座を受け継ぐことになる勇者の出会いだった。