軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第118話 幕間 戦乙女と鍵の在り処 後編

こちらの行く手を阻もうとするガーゴイルの守り方からして、絶対にそこには何かあるに違いない。

そう確信した私は進行を邪魔する魔物を全て槍で仕留めて、悠々とそのビルの中へと入っていく。

「お邪魔しまーす」

挨拶したところで勝手に入るのは不法侵入だろうが、この状況でそれを咎める人がいるはずもなし。

もっとも仮に誰かに止められても無視するつもり満々だけど。

(人間がいるのは二階か)

ビルの看板からすると、どうやらそこは何らかの飲食店のようだ。

エネルギードレインによる探索の反応からして理由は分からないが、そこの大き目なフロアに四人がまとまっているようだ。

そして生きている人間はこの近くには彼らだけしかいない。

「おーい、ここに誰かいるんでしょ? 返事してくれなーい?」

上の階に大きな声で呼びかけてくるが返事はなし。

彼らが救助を待っている民間人なら人間の声に対して何らかの反応を示してもいいはずなのに。

「まあいっか。どっちにせよ相対しないといけないだろうし」

そう呟きながら私は足音を殺すことなく階段を上っていく。

これで上の階の人も誰かがやって来たことは嫌でも分かるだろうし。

ちなみにこれが敵の罠でここに鍵がなかった場合でも、それはそれだと思っている。

その時は潔く相手に一杯食わされたことを認めよう。

その上で敵の罠をぶち破った後、既に鍵発見のミッションを終わらせている英雄様に協力を頼めばいいだけの話なのだから。

そうして特に邪魔が入ることも無いおかげで何事もなく二階まで辿り着いた私は、躊躇もなく店の入り口となっている扉を開けて中へと入る。

「ねえ、そこに居るのは分かってるから返事くらいしてくれない? さっきから無駄に独り言を繰り返しているみたいで虚しいんだけど」

迷いなく入ってきてそんな声を投げかけた私が、ここに人間がいるのを確信していることが分かったのだろう。

その四人組の高校生か大学生くらいの若い男女は恐る恐るではあるが、座席の影に隠れていたところから姿を見せる。

「あ、アンタは何者なんだ? こんなところに一人で来られるなんて。救助に来た自衛官でもないみたいだし」

「んー難しい話は省いて言うと、私は巷で覚醒者って呼ばれる存在の一人ね。これでも結構な腕を持っているから、この周辺の魔物程度を蹴散らすくらい訳ないわよ」

「そ、そうなのか。それはよかった」

そういう割に誰一人として嬉しそうに見えないのは、きっとこちらの気のせいではないだろう。

「ええ、だからあなた達が救助を待つただ一般人なら安全な場所まで送り届けることもできなくはないわ。ただその前に聞きたいんだけど……どうしてこのビルの中には人間の血の匂いがして、尚且つ座席に一般人らしきあなた達に不似合いな銃器なんて隠しているのかしら?」

「っつ!?」

この言葉に四人組の顔が強張り緊張が増す。

まさか階下からたった今やって来た相手にそこまで把握されているとは思っていなかったのだろう。

「勿論これが私の勘違いで、その銃器で魔物と戦っていた。血の匂いは共に戦った仲間のもの……とかだったなら非礼を心から謝罪するわ。だけどどうやら残念なことにその様子だと違うみたいね」

残念と言っているが別に残念でも何でもない。

だってどう考えたって目の前の奴らが殺されてグールになっていないのはおかしい。

そんなことは初めから分かっていたのだから。

「な、何を言ってるんだ。俺達は別に何もしてないし、ただ救助をここで待っていただけの民間人で……」

「ああ、そういう誤魔化しはいいから。だって魔力スポットでもないこの場所で、あなた達が今の今まで生きていられる訳がないもの。それこそ味方を裏切って魔物共に魂を売りでもしない限りは」

「そ、それは、その……」

狼狽える相手を無視して、そこで私は抑えていた殺気を解き放つ。

異世界で戦いに明け暮れて、殺し合いを何度も潜り抜けてきた私の本気の殺気を浴びて、彼ら表情には隠しきれない恐怖の感情が浮かび上がっていた。

「時間の無駄だし、いい加減にその不愉快な演技も終わりにしてもらいましょうか」

「……や、やるぞ! こうなったら口封じするしかない!」

そしてその恐怖の表情を浮かべたまま、このままでは自分達がどうなるのかを悟ったのか強硬手段に出ようとする。

隠していた銃器をその手に握り、容赦なく全員がこちらに発砲しようとしたのである。

だがその動きはあまりに遅い。

彼らが隠していた銃を拾って構える頃には、既に私がその背後を取るのも容易なくらいに。

「ふーん、この動きの遅さだと覚醒者って訳でもないみたいね。戦闘系や感知系のスキルも使ってる様子は見当たらないし」

「ひっ!?」

背後から聞こえてきた声に唯一の女性が悲鳴を上げる。

それに対して男三人はどうにかこちらの声に反応して対応しようとしたが、その瞬間に全員が突如として床に倒れることとなった。

「な、何だ、これは」

「おかしい、体に力が入らないぞ」

エネルギードレインで体力を急速に奪われた。

それにより身動きすることもできなくなったのである。

ただそんな事よりも私は彼らがその手に持つ銃が気になった。

何故ならそれには見覚えがあったから。

「これって自衛隊が使っていた銃と同じ物よね。それをどうしてあなた達のような一般人が所持しているのかしら?」

覚醒者でもないのならショップで購入することもできないはず。

だとしたら残る入手方法は一つだろう。

即ち元の持ち主から奪ったのだ。

「自衛官を仕留めた魔物が持ち帰った物をあなた達に流したってところ?」

沖縄各地ではまだ逃げ遅れた人が多くいるし、それに自衛隊などが救助の手を差し伸べているのは既知の情報だった。

実際に草壁隊長という人物やその部隊もそうだったのだし。

そこで被害が出るのは避けらない。

全滅する部隊も中にはあるだろうし、そうやって死んでしまった誰かの装備が敵の手に渡る可能性もあり得る訳だ。

それこそ英雄様がゴブリンガンナーの装備を奪っているように。

「それとも私が来る前に救助に来た自衛隊にも同じようなことをしたのかしら? 血の匂いからして、ここで誰も死んでないってことはないでしょうし。もしそうなら見た目に依らず中々の極悪人の集まりね」

「ち、違う。俺達はまだ自衛隊を殺してなんかいない!」

極悪人と断じられたらこのまま処刑されるのではないか。

そんな事でも考えたのか彼らはこちらが尋ねること以上のペラペラと話してくれた。

その話を要約すれば、彼らは脅されて仕方なくこうしたとのことだった。

魔物の行動範囲が広がってから彼らは友人などと共に隠れていた。

だが助けが来る前に魔物に見つかり、そのまま殺されるかと思ったのだが、

「影の形をしたバケモノがその場にいた俺達に殺し合いをさせたんだ。それで生き残った半数にこの場に留まり続けるように告げて、助けに来た奴を襲うように命令を下してきたんだよ」

隙を見て逃げようとした人もいたが、すぐに無残な死体となって戻ってきたとのこと。

その上で死んだらグールとなる光景も見せられたことで、完全に逆らう気力もなくなったと彼らは言う。

「お、俺達だってやりたくてやったんじゃない! ただ影の形をしたバケモノにそうしないと殺すって脅されて仕方がなく」

「そうなんだ。俺達だって被害者なんだよ!」

「反発した友達は殺されたし、従うしかなかったのよ……」

そんな言い訳を口にする彼ら。このままでは私に殺されると思っての命乞いだろう。

だが生憎と私にはそんな事情はどうでもいいことだった。

「それであなた達の中にそのバケモノから鍵を渡された人はいない? もしくは鍵の在り処とかを聞いてるとかでもいいんだけど」

それに対して全員が知らないという回答が返ってくる。

「そう、なら直接尋ねてみましょうか」

「え?」

彼らは気付いていないようだが私が同じである訳がない。

それを証明するように彼らの影に隠れた影法師に対してエネルギードレインを発動する。

その途端に隠れていた影法師がその姿を現した。

こうして彼らの影に潜んでいたのなら、逃げ出そうとしても不可能だったのも当然のことである。

「貴様、気付いていたのか!?」

「そのやり取りは前にもやったからもういいわ。それであんたがダンジョンの鍵を持っているのかしら?」

「バカめ、誰が答えるものか!」

「あ、そう。なら死んで」

質問しておいてなんだが答えがあるとは思っていなかったので、そこで即座に敵を仕留める。

すると魔石とは別の何かがその場に落ちる。

(影法師のダンジョンの鍵か。これで目標は達成ね)

これで目的のダンジョンに入れるようになったのだ。早速英雄様にも念話で知らせるとしよう。

ただその前に後始末だけは済ませておかないといけない。

「く、苦しい!?」

「な、なんで!?」

エネルギードレインを強めたことで苦悶の声を上げる彼らを私は冷ややかな眼で見ていた。

「別に人殺しに裁きの鉄槌を下す、とか言うつもりは毛頭ないわ。と言うかそれなら私も同じ穴の狢だし」

「じゃ、じゃあなんで!?」

「ただこれまでの経験上、どんな理由だとしても裏切り者を生かしておくと碌なことがないの。だからここで人知れず始末できるのなら始末しておく。悪いけど、それだけの話よ」

それに私の基本方針として善意には善意を、悪意には悪意を返すというものがある。

だから今回のケースで言えば、こちらを殺そうとしたのだから殺されても仕方がないという結論になる訳だ。

それにこの後に魔族と相対する可能性がある事を考えると、ここでそれなりの数の御霊石を用意しておきたいという狙いもあった。

「い、嫌だ! 助けて……」

私と違って必死に生きようと藻掻くその声だが、エネルギードレインというユニークスキルの前にすぐにそれは掻き消えていく。

そうして命の火が消えるのは一瞬のことであり、その後の私は四つの御霊石を手に入れるのだった。