軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 私兵たちとの再会

「ディエゴ!エリアス!どうしたの?!」

疲れた顔の二人にベルティーヌが駆け寄った。

「お嬢様、旦那様はお嬢様に帰国するようにとおっしゃってます」

「ええ?私が帰国してしまったらお父様やお兄様のお立場が悪くなるじゃないの」

「いえ、旦那様はそれでもいいと。何年かかっても賠償金の不足分は侯爵家が支払う、ともおっしゃってます。お嬢様が酷い扱いをされていると聞いて、旦那様は大変胸を痛めていらっしゃいます」

さて困った。

その件はもう解決済みなのだ。今更帰国しても、小さな国の窮屈な社交界で傷物で訳ありの侯爵令嬢として肩身の狭い人生しか送れないだろう。

「せっかくここまで来てくれたのに申し訳ないけど、私は帰らないつもりよ。ううん、つもりじゃなくて帰らない。この国で力をつけて大きくなってやると心に誓ったのよ。お父様には事情を詳しく書いた手紙を書くから。それを渡してくれるかしら。せっかくこんな遠くまで来てくれたのに……本当に悪いわね」

それを聞いたエリアスが思わず

「お嬢様、帰りたくないのはあの方がいるからですか?それでしたら私どもが全力でお嬢様をお守りいたします」

と訴え、それを聞いたドロテはエリアスの言わんとすることを察して表情が硬くなる。

「あの方?あの方って誰のこと?エリアス」

「それは……奥様のことです」

「あー。私、お義母様のこと大好きではないけど嫌ってもいないわよ?なんでそう思うの?」

そこでディエゴが自分が引き止められた一件を説明した。

「そう……。そうだったの。お義母様が実力行使に出たのね。十年間、私のことを嫌ってるんだろうな、とは思っていたけれど、これといって意地悪されたこともなかったわ。だからそこそこ上手くいってるんだと思ってたけど。そう……迎えに行くなって言ったの」

考え込むベルティーヌを見て、ドロテがたまらず口を出した。

「お嬢様、帰らなくてよろしゅうございますよ。この国はお嬢様に合っています。あんな人がいる家にわざわざ帰る必要はございません」

「あんな人って。使用人には優しかったでしょうに。私にだって優しかったわよ。ただ、私を見るときにいつも目の奥が笑ってなかったから怖かったけど」

お嬢様は『あの時のこと』に気づいていらっしゃらないから、とドロテは唇を噛んだ。

「お嬢様、我々と一緒に帰りましょう」

「あのね、ディエゴ。実は私、賠償金の件は自分でほぼほぼ解決できそうなの。お父様に厳しく教育されたことが幸いしたのよ。大金貨千枚分、あと一年はかからずにこの国にお返しできそうなの」

「まさか」

「そのまさかなの」

そこでドロテがディエゴの説得に出た。

「ディエゴさん、わたくしが証人です。お嬢様は大活躍なさって、短期間で大金貨数百枚分を稼ぎ出しました。この国の方々とも仲良くなられて、族長様たちにも信用されていらっしゃいます。だからご安心ください。わたくしがお嬢様をお守りいたします」

「それにセシリオ閣下も思ってたような悪い人じゃなかったわ。私にも『使用人が無礼を働いた、すまなかった』と真摯に謝ってくださったの」

そう言いつつも疲れを滲ませた二人の私兵に申し訳なくなる。

「とにかく、まずは休んでちょうだい」

と言われて二人は湯を使い、族長の使用人に食事を出してもらって食べている。ベルティーヌはその間に長い手紙を書いた。

閣下の家での待遇は謝罪されたこと。

今は不足していた賠償金の分を別の仕事で返し終える 目処(めど) が立ったこと。

この国がとても気に入ったこと。

この国で力をつけて必要とされる存在になりたいこと。

着替えてさっぱりしたディエゴは迷った末に、セシリオから聞いたことを伝えることにした。

「お嬢様、サンルアン王家はセシリオ閣下が婚姻を断ってきたことを知っていました。そしてそれを旦那様に隠していたようです」

「ふうん。そうかなとは思ってたけど、本当に隠してたのね。なら、なおさら私は帰るわけにはいかないわよ。私が帰国したら王家は何かしらでお父様に罰を与えようとするわ。今の王家はお父様になんとかして首輪をつけたいんじゃないかと思う」

宰相である父は執務を完璧にこなすだけではない。

宰相になる前は「空気からでも 金(かね) を生み出す錬金術師」と言われるほど商売の才覚があり、それを見込まれて今の陛下が即位する時に宰相に選ばれた。今の王家はそんな父の才能は欲しいが同時に恐れてもいるのではないか、とベルティーヌは以前から思っていた。

「二人とも、よく聞いて。この国に来てから私は心に決めたの。もう誰も私を傷つけられないぐらい力をつけて強くなってやるって」

「……はい」

「それでね、これは万が一誰かの目に触れて邪魔が入ると困るから手紙には書かないけれど、お父様に伝えてほしいことがあるわ」

それは、『いつの日か帝国の人たちがこぞって泊まりたくなり、お金を落としたくなるような魅力的なホテルを連合国に作ること』だった。

「面白そうでしょう?」

「ですがなにもお嬢様がそんなことをしなくても」

「やってみたいのよ。できるかどうかはわからないけど」

クックック、とドロテが笑いだした。

「お嬢様、この国に来て以来たびたび考え込んでいらっしゃったのは、そのことだったのですね。さすがでございますよ。わたくし、感服いたしました」

「あなたはきっとそう言ってくれると思ってたわ」

エリアスも笑顔で納得してくれた。

「お嬢様はずいぶんお変わりになりましたね」

「計画が実現してもしなくても、この国でなら私は楽しく暮らせるわ。だから心配はいらないの。わかってくれる?」

考え込んでいたディエゴがうなずいた。

「わかりました。旦那様にはエリアスが必ずお嬢様の計画をお伝えいたします。ですが私は護衛としてこのまま残ります。お嬢様が帰らないとおっしゃった場合はお前は残れ、と旦那さまに言われております。旦那様はお嬢様がお断りになることも想定済みです」

「家庭持ちのディエゴにそんなことは頼めないわよ」

ディエゴが笑って「そうおっしゃると思ってました」と言う。

「妻にはこっそりと事情を話してからこの国に参りました。私は妻に『侯爵家の私兵隊長として誇れる仕事をしてきてほしい』と言われております」

「まあ。あなたの奥さんは強いわね。ありがとう、ディエゴ。では、護衛を頼みます。エリアス、お父様を守って差し上げてね」

「はい!」

こうしてエリアスは手紙を懐に帰国することとなった。

エリアスを見送るベルティーヌの顔は明るい。

「お嬢様、旦那さまからたくさんお金をお預かりしております。お受け取りください」

「あら。お金、ねえ。ディエゴ、そのお金の使い道は私が決めていいわよね」

そう言ってベルティーヌは控えていたエバンスに目を向けた。

「エバンス」

「ほい、お嬢」

「あなた、帝国で学ばない?今の商会での下働きを辞めて、帝国で最新の建築方法について正式に基礎からみっちり学ぶのよ。費用は私が出すわ。そのお金は父と私からの出資金だと思ってよ。帝国で学んだら、私のためにいつの日か活躍してほしいの」

心配げなディエゴと微笑むベルティーヌを見てエバンスがおずおずと尋ねる。

「ベルさん、俺がその金を持ち逃げするとは思わないのか?」

「思わないわ。あなたはあのご両親を悲しませるようなことができる人じゃないもの」

「バレてたか。ベルさん、俺、この機会を無駄にはしねえよ。帝国できっちりと建築の知識を学んで来る。そしてベルさんの計画のために大活躍してやるさ」

「そうよ。その意気よ。頼んだわよエバンス」

ドロテは思わず両手を胸の前で握りこぶしにする。

「お嬢様、面白くなってまいりましたね!」

「ええ、ドロテ。これからもっともっと楽しくなるわよ」