軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皇帝一家と接近遭遇

翌日さっそく両親は皇都に向かい、二日後に謁見出来る事になった。

これって異例中の異例なんだって。

女帝も将軍も何か月も先まで仕事のスケジュールが決まっているから、そこに突然、急な約束をぶっ込むと調整が大変なの。

でも「精霊王と会いました」なんて言われたら、そりゃ急ぐよね。

私達の方も突然大忙しになった。

馬車で何時間もかけないと城に来られない人達が、自分の住んでいる地域にある精霊のいる場所を探してほしいと頼んできたの。

毎日の生活に支障なく、精霊と対話出来る環境づくりのお手伝い。

これで領主への恩義を感じてくれて、精霊獣が増えて海軍や国境軍の力が増えて、作物もよく育つようになるのよ? やらないわけにはいかないでしょ。

でも、精霊獣がいないと意思の疎通が出来ないから、そうなると私が行かなくちゃいけなくなるんですよ。

でも四歳児だよ?

私ひとりで全カ所行くのはきつすぎるよ。

城からは皇宮と学園へは、転送陣で一瞬で移動できるんだけど、転送陣は行き先が決まっていて他にはいけないし、これはもう失われた技術で新たに設置することは出来ないらしい。

だから領地内を回るのには、全く役に立たない。

日本も新幹線や飛行機で遠くに二時間で行けても、同じ県内なのに二時間で行けない場所もあったりするでしょ。あんな感じ。

「精霊獣に進化させられそうな精霊を持っている人を探す!」

氷、灼熱、重力、竜巻の魔法を使える精霊なら、対話さえすれば進化するはずなんだ!

「氷魔法を使える人はひとりいるけど、他はいないかな」

なにーーーーー!!

「うちの兵力低い」

「え? 軍からも探すつもりだったの?!」

「クリスお兄様は、私に全部回れって……」

「違う違う。いやそうだけど、半年くらいかけてゆっくりとね」

「遅くなった人、文句言いますよ」

「……たしかに」

こういう時、みんな自分のところを優先させてくれって言うでしょ。

それによって、自分達は辺境伯に重要だと思われている! とか言い出すわけよ。

「氷の人は?」

「うち専属の魔道士のアリッサだよ」

この方、アラサーですって!

七年前に旦那さんに先立たれて、それからはずっとひとりで生活しているんですって。

それで精霊に話しかけていたならちょっと寂しいけど、精霊獣になれば会話出来るんだよ。やるでしょ!

「軍かあ。ふたりくらいならなんとかなるかな」

「海軍と騎士団ひとりずつ。精霊獣にする方法教えます。精霊のいる場所を探せば、新しい精霊に出会えるかも?」

「いい売り文句だけどね、ディア、四歳児っぽくするの諦めた?」

「そういうことを言うのなら、クリスお兄様とはお話ししません」

「え? ごめん、もう言わない。ディアはいつもアランとばかり仲良くしていてずるいよ。そうだ。ディアが精霊を探しに行くときは僕も一緒に行こう」

クリスお兄様は、レックスやブラッドにシスコンだと言われるくらいに、本当に私によくしてくれる。

でも私は、お兄様なら私を理解してくれるなんて思えるほど、素直な子供じゃない。

就職してひとり住まいして、東京という大都会で生きて、嫌なニュースをたくさん見てきたし、嫌な人にもたくさんあった。

だから疑ってしまう。

もし私に異世界の知識があると知ったら、利用するために私を囲い込もうとするんじゃないかって。

この世界が政略結婚当たり前の世界なら、それもいいかと思えたかもしれない。

でもこの世界は、貴族でも恋愛結婚が多いんだから私だって恋愛したいもん。

前世では独り身だったしね!

だから、私は発想の面白い子。

とんでもない事を思いつく変な子供。

そう家族にも思っていてほしい。

「ディア? 怒ったのかい? もう本当に言わないよ」

「ううん。行くならどこがいいかなって考えていました」

「きみの行きたいところに行こう」

「うーーん。チーズが欲しいです」

「え? なんで突然チーズ?」

「北側の高原地域に行ってみたいです」

「あいかわらずディアの思考は面白いなあ」

そして翌日にはアリッサ以外にもふたり、人員を確保してくれたよ。

クリスお兄様マジ有能。

そこから私の地獄の特訓が始まり……はしない。

アリッサも軍所属のふたりも職業魔法使いだから、あとは対話するだけ。

丸一日、他の事はさせないでずーっと精霊に話しかけてもらって、ちゃーんと三人共精霊獣に進化させたよ。

幼女が見張っている前で光の球にずーっと話しかけるのは、精神的にかなりつらかったらしいけど、結果オーライでしょ。

四人で手分けすれば、すぐに領地内を回れるぞ!

って思ったのに。

「皇帝一家が一週間後にこちらに来られるそうだ」

第二回家族会議発動ですよ。

一週間後ってどういうことさ。忙しい方達なんだよね。

因みに精霊達は、元の光の球の姿に戻れます。便利。

みんなが精霊獣を持てるようになって、ずっとその姿のままだったら、どれだけ部屋を大きくしないといけないか大問題になるところよ。

「おいでになるのは夏だと思っていました」

「精霊王と面会して、すぐにお帰りになるそうだ。ディアは精霊達と湖に行って会っていただけるか精霊王に確認してもらいたい」

「はい」

「皇宮から宮廷魔道士が何人か同行するそうなので、ディアもその場にいてほしいんだ」

「どういうことですか」

クリスお兄様の声が低くなる。

お父様は困った顔で頬を掻きながらため息をついた。

「精霊王についても精霊獣についても、文献には記されていても実際に会った者が、今の宮廷にはいないのだ。そこに突然、我が領地だけに様々なことが起こっているのが、特に宮廷魔道士達には納得できないようだ」

「精霊については第一人者だと自負していたでしょうからね」

「ディアの存在も信じられないらしい」

そりゃね、四歳で全属性コンプして、そのうち火と水が精霊獣で、しかも精霊王に気に入られて祝福されちゃっているからね。

その道で一生懸命やってきた人達にとっては、許せない存在だよね。

「その人達は、氷や竜巻魔法使えますか?」

「魔道士長と副魔道士長は三属性持っていて、他は二属性だったかな、使えるそうだよ」

「じゃあ、帰りは精霊獣を連れて帰れるように特訓です」

「あの、彼らはそれなりに身分の高い……」

「特訓です!」

文句を言う暇があったら学ぶがよい!

吐くがよい!

気絶するがよい!!

いやほんとたのむわ。

私だけが特別と思われるのは困るのよ。

「精霊王の森を開拓する時に、彼らは異を唱えなかった。だから私があそこは精霊王の森だったと言っただけで、信じるわけにはいかないというのもあるのだ」

「精霊王に会えば、どうせそういう話になるのにですか?」

「予定が合わないなどと理由をつけて、会えないで終わる可能性があると思っているんだろうさ。中には、海の幸が豊富だという以外なにも特色のない避暑地が、客を集めるために適当なことを言い出しているという者もいてな」

「父上、そういうやつらのリストを作ってください」

クリスお兄様が悪そうな顔をしている。

でも私もどちらかというと、やられっぱなしは性に合わない。

我慢していれば相手がわかってくれるなんてありえない。

あそこには手を出したら損だと思わせた方がいいでしょう。

精霊王に会った後に確認したら、ウィキくんにはちゃんと精霊王のいる場所が明記されていた。

皇宮にも文献が残っているんじゃないの?

それか、過去の権力争いとかでわざと廃棄されてない?

異世界から転生してきて、この世界の人達より精霊について詳しくなれたのはウィキくんのおかげだ。

でもこのスキル、最近使ってないのよ。

理由は三つあって、まず第一がやれることが増えたせいで、ウィキくんを見る時間がないってこと。

赤ん坊の時とは違って、昼間は家庭教師に礼儀作法や勉強を教わったり騎士団訓練所に行っているし、夜は疲れてすぐに眠くなっちゃう。

それにひとりの時ってなかなかないのよ。

私が何かやらかすとでも思ってるんじゃないかってくらい、誰かが傍にいるから見る機会があまりないの。

第二に、特に人物について調べるのはやめようって決意したから。

赤ん坊の時にベリサリオ辺境伯の項目を調べたでしょ。

その時にお父様とお母様の項目も調べちゃったの。

ふたりは学生時代に知り合って、熱愛の末に結婚。家族を大事にしているって大まかにいうとそういうことが書かれていた。

見た後にね、ほっとしたの。書いてあるのが幸せな内容だけでよかったって。

実は愛人がいるとか、過去に悲しい経験があった場合、私は普通に接する事が出来ないかもしれない。

それに自分だったら知られたくない個人的なことを覗き見されたら、その人とは付き合いたくないもん。

第三に、これが一番問題なんだけど、ウィキくんはちゃんと更新されるのよ。情報が現在進行形で新しくなるみたいなの。

それに気づいた時にぞっとしてしまった。

怖くない? 誰が更新しているの?

魔法が強くなるとか走るのが早くなるスキルなら、訓練した分強くなっていくのは理解できる。

でも何もしなくても情報が更新されていくスキルって、おかしいよね。

諜報活動しなくていいの。

戦争に使ったらやばくない?

使えるかわからないし、活用出来る力が私にはないけど。

それにね、産業革命を起こすような項目とか、自然破壊につながりそうな知識は書かれていないの。そこに意図を感じる。

このスキルをくれたのが神様だとしたら、精霊と人間の関係をどうにかするために私を転生させたんじゃないかと思うのよ。

精霊の育て方も進化の仕方も知らないままだったら、最悪この国は砂漠化していたかもしれないんだから。

ただ私の第一目標は長生きすることだから。

危ない事には手を出さないよ。

そこは私を選んだのが失敗だったってことで、神様に諦めてもらいたい。

あ、だから私なのかな?

そして一週間後、やってきました皇族との初遭遇。

クリスお兄様は皇宮に何度か行ったことがあるそうで、初めてなのはアランお兄様と私だけ。

朝早くに叩き起こされて、朝食の後に湯浴みさせられて、髪を結われてドレスを着せられた。

「本当に素敵ですわ」

「妖精のようですね」

ダナとシンシアが満足そうなため息をついているけど、私はもううんざりしちゃって、不満げに鏡を睨みつけている。

外に行くのに、髪をそんなに細かく編まなくてもいいじゃない。

頭皮を引っ張られるのが嫌だと知っているから、ゆるく後ろでまとめてはくれているけど、リボンが……ひらひらのリボンが……。

うん。忘れるな。私は四歳児。

リボンをたくさんつけていてもおかしくない。

ふわっふわの白いドレスにもピンクのリボンがついているけど、それもかわいいはず。

「このドレス、誰が買ったの?」

「辺境伯様の皇都のお土産です」

犯人はお父様か!!!

「……似合ってますよ」

「今日は走らないでくださいね」

黙れ、執事ども!

肩が震えているだろ。笑いたければ笑え!!

「あれ? 今日はお嬢様みたいだね。化けたね」

「今日は走っちゃ駄目だよ。イフリーに乗せてもらう?」

お兄様ふたりは私の事をよく理解してくれているけど、それが妹に言うセリフか。

あ、イフリーは私の火の精霊の名前です。

水の精霊がリヴァ。風の精霊がジン。土の精霊がガイア。

どこから引っ張ってきた名前かは……まあ……ね?

オタクだからいろいろと。

ともかく目立たないように、悪い印象を持たれないように、皇族と宮廷魔道士達との初対面を終わらせなくてはいけない。

それが今回のクエストの目標よ!

転送陣の間に続く部屋で、私達はお客様を出迎えるらしい。

ここに入るのも初めてだから、飾り気の少ない防御重視の内装をきょろきょろと見てしまう。

十分ぐらいは待たされたかな。

転送陣の間に続く両開きの扉がゆっくりと開き、まず護衛の近衛騎士がふたり部屋に入ってきた。

近衛騎士団って、いずれアランお兄様が所属する予定の職場よね。

紺色に白と黒のラインの入った制服が格好いい。

そうか。いずれこれを着るのか。似合いそう。

お父様と言葉を交わしていたみたいだけど、それはあまり聞いてなかった。

お父様の斜め後ろに立って、ちょっと隠れながらじーっと見上げていたら、近衛騎士の人は居心地悪そうに視線を泳がせている。

次に、マクシミリアン将軍にエスコートされてエーフェニア陛下が部屋に入ってきた。

将軍はやっぱりでかかった。

ごつい! でかい! こわい!

顔を見ようとするとほとんど真上を見上げないといけない。

意外だったのがエーフェニア陛下。

もっと大柄な方かと思っていたけど、お母様とあまり変わらない。

波打つ見事な赤毛に、光の加減で金色に見える薄茶色の瞳の意志の強そうな美人だ。

ウエストを細く絞って襟を大きくしたスーツの上着に似た服に、薄い布を二重にして細かいひだをつけた足首までの長さのスカートを履いている。

仕事をする女性はこういう服装が多い。

もちろんコルセットなんてしなくていいんだよ。

それは正式な茶会か、夜会や舞踏会の時だけ。

あるいは自分より身分の高い方にお会いする時だけ。

なので、お母様はきちんとしたドレス姿です。

第一皇子のアンドリュー様は、クリスお兄様と同い年でもう何度もお会いしたことがあるらしい。

この冬からは御学友になるわけで、仲がいいみたいで紹介された時に目を見交わして微笑んでいた。

ちょっと、私の中のお腐れ様が喜ぶからやめて。

将軍の血を引いてるだけあって、皇子はふたりとも大柄なのよ。

長めの赤毛を後ろで結わいたアンドリュー皇子は、将軍譲りの男らしい顔立ちに女帝陛下譲りの金色の瞳できらっきらしてる。

その隣に、さらさらのハニーブロンドで美形のお兄様が立つわけですよ。

やばい。素敵すぎる。

私、部屋に籠って執筆作業していていいですか?

あ、だめだめ。私は腐ってないから。

ピッチピチの生身だから。

可愛い四歳児だから。

第二皇子はエルドレッド様。

私の一つ年上で五歳。

まあ、ただの子供ですわ。

五歳にしてはでかいし、赤毛で金色の瞳で十年経ったら女の子に囲まれていそうだけど、私とは関わり合いにならないでくれればそれでいい。

皇子なんて、しかも美形なんて、私の傍に近づいてほしくない。

呼吸するにも気を使わないといけない気がする。

臭いとか思われたら立ち直れないもん。

「そして、この子が長女のディアドラです」

いつの間にか、私は紹介されていたらしい。

お腐れなことを考えている場合じゃなかった。

「お初にお目にかかります。ディアドラ・エイベル・フォン・ベリサリオです」

ドレスを摘まんでカーテシーを行い、ふと視線をあげたら、その場にいる全員が希少種でも見つけたみたいな真剣なまなざしで私を見ていた。