軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開園式

一日目はみんな緊張していたのか、何事もなく済んで翌朝。

……元気だな、ガキども。

暴れているとか、泣いているとかではないんだ。

躾はちゃんと行き届いていて、食べ方も綺麗だし、マナーも守っているところはさすが貴族。ただ、朝から友達と喋る喋る。子供の声って高いから響くのよ。食堂の賑やかさ、半端ないよ。

親元を離れて友達と寮に泊まるというのも楽しいんだろうね。そこにうちのお兄様達とかエルトン様とかがいるもんだから、女子のテンションが高い高い。

でもむやみに近づいてきたりはしない。うちの領地にいる子ばかりだから、ベリサリオ辺境伯が領地内の貴族と縁組する必要性がないことはよくわかっている。わかっていなくても親に言われている。

それにクリスお兄様が寮の代表者になってもう四年。すっかり教育が行き届いているわ。

その前の年は海峡側の港の町グラスプール周辺をまかせているハリントン伯爵家の長男が寮長をやっていたの。

この伯爵家、元は中央の文官で土地を持たない伯爵だったんだけど、お父様の妹、つまり叔母様が惚れ込んで、土地をやるからベリサリオに来いって引き抜いてきたらしい。

強いね、ベリサリオの女って。

あ、脅してはいないわよ。ちゃんと両思いよ。仲睦まじくやっているわよ。

私ね、叔母様に性格似てるねって言われるのよ。ははは。

前世では目立たないただのオタクだったのに、こんな明るい性格になったのは家系のせいだったんだね。

その私の従兄にあたるハドリーお兄様は、とても優秀なんだけど他人にあまり興味がないというか、研究者肌というか、寮の生徒をまとめる気がなかったらしい。おかげでクリスお兄様は、最初の何年か生徒達に礼儀作法を教えるのにとても苦労をしたそうだ。

今、ハドリーお兄様は国外に留学中よ。

開園式は身分によって会場が違う。

学校なのに身分差で待遇違うのかよと思われるかもしれないけど、高位貴族の間に挟まれた下位貴族とか気の毒でしょ。多民族国家だから、同じ地方の結束が強いのよ。昔は、他所の高位貴族が自分のところの下位貴族に何かきついことを言ったってだけで、大問題に発展したことがあるんだって。特に中央は特権意識が強かったしね。

棲み分けって言えばいいのかな。家庭教師を何人もつけていた生徒と、領地の仕事を手伝ってほとんど勉強出来ない生徒は、別のクラスにしないとね。高位貴族と下位貴族では必要なマナーも違うから、別の授業科目があったりもするのだ。

食事のあと、最初に寮を出る私達を見送るために生徒達が玄関ホールに集合した。

学園内といえども高位貴族はひとりで歩いちゃいけないらしい。特にご令嬢が護衛をつけずにうろうろしてはいけないんだそうだ。

だから側近や護衛は大変よ。

私達を送り届けてから自分達の開園式に参加して、終わったら私達を迎えに来る。

精霊獣並べておいたらいいじゃんね。よっぽど強いと思うし、生徒の負担も減ると思うのよ。

会場に入場するのは身分の低い寮からだから、ベリサリオは時間に余裕があって、玄関ホールでクリスお兄様がみんなに困ったことがあったらすぐに報告しなよーとかお話している間、私は隣でニコニコと微笑んでました。

こわくないよー。大丈夫だよー。突然殴ったりしないよー。

つかおまえら、今まで何度も顔を合わせているやつが何人もいるだろう。なんでそんな目を合わせないように、ちらちらとこっちを見るんだ。そんなに怖いか。

「ディアに見惚れる男が多くて不愉快だな」

「見惚れるの半分、怖がっているの半分じゃないかな」

「アランお兄様、どういうことですか」

「綺麗すぎるとこわいんだって。兄上も時々不気味でしょ?」

「おい」

不気味ではないけど、確かにクリスお兄様が無表情で冷たい視線でいるとこわいかも。

そうか。私はクリスお兄様と似ていると言われるのだから、無表情は駄目なんだな。

「あと精霊達の威圧がひどい。他の子よりでかいし」

「威圧?」

「それはいいだろう。ディアに近寄る馬鹿な男がいたら、痛い目に合わせてやってくれ」

精霊達がクリスお兄様に答えるようにくるくる回り始めた。

「これに勝てる男じゃないと、ディアの彼氏にはなれないのか。……勝てたら人間じゃないね」

「勝つ必要ないですし! なぜ戦わなきゃいけないんですか」

だいたいこんな団体を襲ってくるやつなんていないよ。

うちら兄妹にブリス伯爵の兄妹とエドキンズ伯爵の姉妹でしょ? それにそれぞれの護衛や側近達がぐるりと取り囲むと、三十人くらいの団体よ。

みんなの精霊が協力し合って、火と風の精霊のおかげで冬なのに外を歩くのに上着一枚でもあったかいのよ。

毎年、秋から何回か子供達が集まって、団体時の精霊の使い方も勉強するんだよ。

ベリサリオ軍でやっている事を基本に、メンバーの精霊の属性や数や強さで配置を変えたり、防御の仕方を変えたりするのだ。

ベリサリオは先代が精霊の国ルフタネンとの戦闘で負けないように、精霊を軍隊でどう使うか考えたんだって。それを護衛に応用するんだね。

寮の外はベリサリオより三度以上は確実に寒い。もう少ししたら転生して初めての雪が見られるかもしれない。

まわりに護衛の子達がいるからよく見えないけど、公園の端の方や各寮の入り口近くには生徒が固まっているようだ。

「じゃあ僕達はこっちだから」

「イフリー、変な男がいたら燃やしちゃっていいからね」

「クリスお兄様、イフリーに変なことを吹き込まないでください」

「僕ももう一年、初等教育課程に行きたい」

「ほら、行くよ」

エルトンに腕を掴まれても、クリスお兄様は悲しそうな顔で何度もこちらを見ている。

アランお兄様はこういう残念さはないんだけど、さっきから私と手を繋いで離さない。子供の時と違って、こんなところで突然走り出したりはしないよ?

「僕達も行こう」

初等教育課程に行く高位貴族のメンバーは、公園の西出口に向かう。

校舎と聞いて前世に通っていた高校を思い描いていたけど、どちらかというと東京駅にもっと飾りをつけた感じの建物だった。

同じように左右に長くて、入り口が中央と左右の三カ所にある。左側が下位貴族用の教室や職員関係の部屋。右側が上位貴族の教室やサロン。中央にダンスホールや父兄が来た時の応接室がある。

ダンスホールだって。ダンスの授業があるから必要なんだけどさ。学校にダンスホールがある違和感。

魔法練習場や剣や弓等の訓練施設。馬場もあるよ。

「ご苦労様、もうここでいいよ」

「ありがとうね。気を付けて戻ってね」

「ありがとうございます」

建物の前で下位貴族の子供達とはお別れだ。彼らはこのまま左側の玄関で待機になる。ちらっと見ると、あっちは生徒がたくさん待機していてわいわいと楽しそうだ。

「こっちだよ」

アランお兄様と私と、エルダとネリー。それに私の従妹とかの伯爵家以上の者達だけが中央玄関を入って階段を上る。

会場の前には、入場する順番を待っている公爵家の方々と、エルドレッド第二皇子とその側近が並んでいた。

「アランお兄様、私たち一番最後みたいなんですけど」

「僕達が遅れたんじゃなくて、皇子が早く来たんだよ」

少し離れてパティと話しているみたいだから、気付かなかったことにしちゃ駄目かな。

パティが真剣な顔をしているところを見ると、あまり楽しい話じゃないみたいだし。

「ごきげんよう」

笑顔で私が声をかけると、その場にいた全員が胸に手を当てて挨拶してくれた。

パオロのところは子爵までしかいないからここにはいないし、パウエル公爵のところもお孫さんはまだ小さくて学園に通っていない。

「おはようございます。アラン様、ディアドラ様」

「やあ、ジョシュア。ひさしぶり。公爵は元気?」

「おかげさまで。中央に戻って忙しい方が元気だと言っていました」

「ごきげんよう、ジョシュア。精霊、だいぶ大きくなったのね」

「はい。そろそろ精霊獣になるでしょうか」

「きっと学園にいる間になりますわ」

代わりに寮長になっているジョシュアは伯爵家嫡男。自分が公爵家の代理で学園で社交をしなくてはいけないと青くなっているからと、パウエル公爵に頼まれて顔合わせを済ませてあるのだ。ひとまず皇族と辺境御三家に顔つなぎしておけばよし、ということらしい。

「ひさしぶりだな。アラン。ディアドラ」

パティと話し込んでいたエルドレッド殿下が話しかけてきた。その背後で小さく手を振っているパティが可愛い。

「御無沙汰しています。エルドレッド殿下」

「敬語なんていらないぞ。兄上とは友人のように話しているのだろう」

あの騒動以来、エルドレッド殿下とは会っていなかったから四年ぶり?

さすが将軍の息子だけあってでかい。アランお兄様より背が高いとは。

真っ赤な髪を短く切って、制服の上着の前を開けて上着より幾分薄い紺色のシャツと、刺繍の入ったベストを見せている。

アランお兄様は今日もしっかりボタンを全部閉めてます。実は上着の中に武器でも持っているんじゃないでしょうかね。御令嬢達よりガッチガチに着込んでいる感じよ。

「この度、近衛騎士団に配属になる前ですが護衛という事で、側近扱いになりましたので……」

「……そうらしいな」

お兄様が何か話しているけど、私はパティに手を振って応えるのに忙しい。明日はお友達全員で茶会をする予定なのだ。エルダも隣でニコニコと手を振って、ネリーにその手をおろされている。エルダとネリーは同い年だから教室が同じなのよね。

「ディアドラ」

「はい、殿下。ご無沙汰しております。お元気そうでなによりですわ」

「……せっかくの機会だ。話がしたい。パティと一緒に招待しよう」

「あら、お手紙をいただいていましたかしら? まだ整理がつかないので、今夜にでも確認させていただきますわ。お兄様と一緒に伺いますわね」

「俺はおまえをと」

「男の方のお誘いに、独身の娘にひとりで来いと?」

順番に侯爵家の人達が中に呼ばれて、扉の前に待機する生徒が少なくなっていく。

私は扇を開いて頭ひとつ以上高い殿下の顔を見上げた。

「ひとりではないだろう。パティも」

「私はベリサリオ辺境伯家の人間ではないのですよ。それでは誰も納得しません」

パティも私の味方をしてくれたけど、なんか深刻な表情なのよね。殿下も暗いし。

でも、横にアランお兄様がいるのに私だけ誘うって、喧嘩売ってるってわからないのかな。アランお兄様の目つきがこわいんですけど。

「殿下、いったいどういうお話なのか説明していただきたいですね」

「それは……いや……なんでもない」

殿下が引いた。あの俺様皇子が。

アランお兄様の威圧感半端なくて、みんな壁際まで逃げているけど。

殿下の側近まで逃げているけど。

「パティ、入場の順番みたいよ」

「あ、そ……そうね」

「アランお兄様、女の子達が怖がるような顔をしないでください。嫌われちゃいますよ」

「ああ、すまない」

「いえ、ではのちほど」

怖いというのはパティも否定しなかったな。

「次は僕達だから入り口前に行こう」

「はい」

がっちりとアランお兄様に腕を掴まれて入り口前に移動した。

私は何も悪くないと思うのよ。走ってもいないわよ。

「口説いてくる男より、政治的な話を持ってくる男の方がめんどくさいぞ」

「うーん。でもだいたいセットになってますよね」

「……何回までならぶん殴っても平気だと思う?」

「一回でも駄目です」

腕力で片をつけようとしないでほしいな。

普段クリスお兄様が目立っているから、アランお兄様は普通に見えるのに、やっぱり過保護だなあ。

開園式の行われるホールは、簡単に言うとホテルのパーティー会場とか、結婚式場の披露宴会場を思い浮かべてもらって、それをもっと豪勢にしてもらった感じの部屋だった。

金かかってるわー。勉強するのにこの豪華さは必要ないわー。

天井三層分の吹き抜けもステンドグラスもいらんだろう。

第一なんで生徒が座る席が丸テーブルなのよ。ディナーショーでも始まるんかい。

テーブルの周りを執事服を着た人達が回って、紅茶とケーキスタンドを置いているんですけど?

あ、わかった。話が長いんだ。

思わずケーキに逃避しないといられないほど、眠くなるんだ。

「何人が挨拶するんですか?」

やめてよー。

うちと皇族のテーブルがお隣で、一番前のど真ん中の席だよ。

「学園長と生徒代表がひとりと、あとは簡単な注意とか?」

「それだけ? それでケーキ?」

「ディア。教師達より生徒の方が身分が高いし、僕達かなりのお金を学園に払っているんだよ」

えー、御機嫌取り? 確か教師って、それなりに名誉職だよね。

「それにこれからクラス分けして簡単なテストがあるだろう? 一年は特に学園内の案内もあるから、昼ごはん食べる時間なくなるからね」

「ケーキよりサンドウィッチか肉ください」

「肉……」

因みに、サンドウィッチは出してくれたので、しっかりいただきました。

ばくばく食べている御令嬢は、私とエセルぐらいでした。