軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

夕日が水平線の向こうに沈んでいくのを、テーブルに肘をついてだらけた状態でぼんやりと眺める。

今日は一日が長い。疲れた。

大人達はまだ、あの部屋で話し合いを続けている。

皇太子が次期皇帝になるのは決定したけれど、陛下や将軍の今後についてや、ジーン様の処罰について、生き残ったバントック派の人達の処遇など、決めなくてはいけないことは山ほどあるのだ。

子供達は先に帰っていいよ。お食事会だろうって言われたけど、殺害現場を見てしまった私達に、キャッキャウフフする気力はない。

いちおう海の見えるテラスに席を用意して、目の前で美味しく焼かれていく魚介類を食べられるようにはしているけど、みんな、なかなか食べ物に手を伸ばせない。

「ほら食え」

ガチャッと乱暴に私の前に皿が置かれた。

網焼きされたばかりのぷりっぷりのエビにタルタルソースがかかっている。

「美味いぞ」

得意げに皿を配っているのはダグラスだ。

女の子だけだと不安かもしれないとカーライル侯爵が呼んでくれた。

「おまえも食べてていいぞ」

「いやあ、俺は参加してないからさ、元気有り余っているから気にすんな。嫡男なんだからと家で待っているように言われちゃってさ」

「そんなの気にすることはない」

アランお兄様の言う通り、そんなの気にする必要ないよ。嫡男を失うわけにいかないのは、貴族としては当たり前だ。あの場にいた嫡男てクリスお兄様以外は、大人の人達だけだったもん。デリック様は三男だしね。

「私も……参加出来ませんでした」

「私も! お父様がどうしてもだめだって」

カーラ様は誘ったのにドタキャンした伯爵家令嬢が、殺されてしまったと聞いてがっくりしてしまっている。エセル様は、あの強面のマイラー伯爵に溺愛されているから仕方ない。

自分だけ安全な場所にいたって後ろめたく思う必要ないんだよ?

本当は他の子達にも安全な場所にいて欲しかったよ。

こんな時は招待した側がしゃんとしないと!

ほっぺたをパンっと音をさせて両手で挟んで気合を入れて、タルタルソースをたっぷり付けたエビに食らいつく。

「おいしーー。悲しいはずなのに美味しい」

どんな時でも人間は食べて寝て生きていかないといけないのだ。

しぶとく強く、私は生き抜いてみせるぜ。

「皆も食べてみて。美味しいよ」

「うん……美味し……」

「イレーネ」

美味しい物を食べるって日常的なことをしたからかな。ほっとしたのかイレーネは食べながらぽろぽろと涙をこぼしてしまって、慌ててスザンナが隣から肩に手を置いてそっと撫でている。

「茶会の前の日にあの子に聞いてみたんです。なんで私達に嘘をついたのか。そしたらクリス様やアラン様に可愛がられているディアは生意気だって」

カーラ様の言葉に、私はエビにフォークを刺したままフリーズしてしまった。

私にどうしろと?

兄妹だから、そりゃあ妹を可愛がるよね。

「どうしよう。私、女心がわからない」

「安心して。私にもわかりませんわ」

「さすがパティ。私達、お友達ね」

「あなたもたまにわかりませんけど」

「はーい。サラダを持ってきたよ。いやあ、こんなに可愛い子ばかりで困っちゃうなあ。誰とお話しよう」

デリック様までなんで働いているの。

あれか、女の子にいい格好を見せたかったのか。可愛い子がたくさんいるからテンション上がっちゃったのか。

「スザンナ嬢、よければこれから僕と……」

「ごめんなさい。今は忙しいの」

「おお、イレーネ嬢を僕も慰めてあげたい」

「お兄様、空気を読んで」

「パティ、冷たい顔も可愛いけど男の子にモテないよ」

すごいな、デリック様めげないな。

女の子にモテるには、このくらいメンタル強くないといけないのかな。

考えようによっては、公爵子息でこの気さくさはすごいんじゃないの?

ちょっとうざいけど。

「何をやってるんですか」

遅れて戻ってきたクリスお兄様が、氷点下のまなざしでデリック様を見てから私の隣に腰をおろした。

「陛下と将軍は、退位したら現在パウエル公爵が治めている地方の領地を引き継ぐことになった」

前置きなしに報告だよ。

うちの兄妹では当たり前でも、お客さんいるんだけど。

「公爵じゃなくて、一代限りの男爵扱いだそうだ」

「男爵?!」

「侯爵家次男が戦争で功績をあげたけど、本来の皇位継承者に皇位を引き継がずに私物化。実の父の悪事を知っていたのに黙認。爵位を取り上げられても仕方ないところだよ。ただ国民の人気が高いからね。どっちにしろ当分の間はお飾りになってもらう事になったから、表面上は今のままだ」

「領地を将軍に譲ったら、パウエル公爵は?」

アランお兄様も当たり前の顔で報告聞いているし。おもてなしの心がお兄様達には足りないわ。

「バントック派のほとんどが当主を失ったし、汚職や不正の証拠があがっているからね。中央の貴族がごっそり減るから、地方に追いやられていたパウエル公爵派を中央に戻すらしいよ。あ、エビ貰うね」

「それは俺のだぞ」

「お兄様、ダグラスもいちおうお客様ですから、私のエビをどうぞ」

「ありがとう、ディア」

「おまえらの俺に対する対応酷くないか?」

文句を言いつつも、立ったままアランお兄様とエビや貝をもぐもぐしているダグラスは、本当にいいやつだ。彼とならマブダチになれる気がする。

「クリスお兄様、ジーン様は」

「うーん、まだ決まっていない。けど、皇子殺害未遂とバントック派殺人に関わっているから、たぶん処刑になるんだろうけど……」

「けど?」

「ずっとジーン様と一緒にいた精霊獣がいただろう。ジーン様が処刑される時には、砂に返してくれと琥珀様に言っているらしい」

「……そか」

ジーン様はどんな気持ちで、精霊獣の想いを聞いたんだろう。

「ただし対外的には、今回の事件は全てニコデムス教が起こしたテロだという話になる。みんなもそのつもりで」

「皇宮内にニコデムス教に入り込まれていたって知られるのはどうなんだ」

デリック様はちゃんとこういう話も出来るらしい。女の子を追いかけているだけじゃない。

あの殺人現場にいたのに、ちゃんとモグモグ食べられているのもすごい。男の子達、すごいね。

女の子達の前だから頑張っているのかもしれないけど、頑張れるだけでもすごいよ。

「皇帝の弟が派閥を潰すために、大人数を一度に毒殺したなんて話よりマシだ。今回の事を利用して、我が国ではニコデムス教は禁止出来る。僕達は別室で会話していただろう? バントック派の近衛が何人もいたけど、彼らはどんな内容の話がされているか知らない。だけど自害した信者の死体は見ている。だからもう犯人はニコデムス教だって噂が流れている」

ニコデムス教に教祖がいるって話は聞かないし、ペンデルス共和国との関係はどうなっているんだろう。

ウィキくんにはまだまだ活躍してもらわないといけないのかな。

「あー、やだ。私、今頃になって手が震えてる」

震える右手を左手で押さえて、モニカが困った顔で呟いた。

彼女だけじゃない。みんなもういっぱいいっぱいで、ご飯も喉に通っていない。

「よし! これは無理して食べるより、スイーツでしょ。今日は特別に客室にふかふかのカーペットを敷いてもらったから、クッションをいっぱい置いて床に寝転がって、スイーツ食べながら思いっきり泣こう!」

右手を振り上げて宣言したら、みんな待っていたのか一斉に立ち上がった。

「まだ食べきれていないので持っていきます」

「お先に失礼します」

「ご飯は明日の朝にいただきます」

いっせいに部屋に戻っていく女の子達を、男性陣は呆気に取られて見送っていた。

一晩泣いたくらいじゃ、あの現場を見てしまった心の傷は治らない。きっとトラウマだよ。

だったら、つらくなったらまた集まって美味しい物を食べよう。

日本でもこの世界でも、女の子の元気の素はきっと同じだ。

そうしてもっと強くなって、綺麗になって。

恋をするぞ!

恋をするよ? 生涯独身じゃないよ?

ニコデムス教の影は不気味だけど、私には精霊王達がついている。

ディアドラの冒険はこれからなのだ!