軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

天才とアホの子は紙一重

うちの領地の気候は、現代日本の関東よりは暖かく沖縄よりは涼しい感じ。

国内には冬に大雪になる地域や、もっと暑い地域もある。

国が大きいっていうのもあるけど、高度差がすごいのよ。北部の辺境地帯は広大な北の大地で本当に辺境らしい。

一年はこちらと同じ十二か月で、十一月から二月が冬の社交界の時期。ほとんどの上流貴族は皇都に集まり、十歳以上の子供達は学校に通い全寮制の寮で過ごす。

三月から六月の春の時期と九月から十月の秋の時期は、一部の上流貴族以外は、平日は領地で過ごし週末だけ転送陣で皇都に戻る。

週末に開かれる会議で一週間分の議題が話し合われ、その結果を踏まえて文官や官僚達がまた一週間働くわけだ。文官や騎士は貴族の跡継ぎになれない者達の中から選ばれた優秀な人達だから、彼らは領地に帰る必要がないの。

そして残りの二か月の夏は、貴族達にとっては夏の社交の時期だ。

皇都でもたくさんの夜会が開催され、お金を持っている人ほど長く避暑地に旅行する。そこの領主に招待されたり、ホテルや自分の別荘に泊まったり、だいたい同じ派閥の人達は同じ避暑地に移動するわけよ。

これがね、うちみたいな避暑地になる地域にとっては重要なのよ。

人がたくさん来てくれれば収入が増えるし、それだけうちには人を集める力がありますよーってアピールにもなる。

あと重要なのが、皇族がどこに行くかよね、やっぱり。

今年はヨハネス侯爵領に行くんじゃないかって噂があるんだって。

そこに私の精霊発言ですよ。

魔力が餌だよとか、育つと強い魔法を覚えられるよ、ってやつね。

それに今回、他の人には見えない弱い精霊も見えるよ、が加わった。

私の誕生日は三月終わり。

夏の民族大移動の時期まで三か月ちょっと。

その間に領地の人達の精霊を育てれば、避暑に来た人達が驚くでしょ?

彼らにそっと情報をあげれば感謝される。

そして冬にクリスお兄様が、でかい精霊を全属性ふわふわさせて学校に入学してみなさいな。うちと親しくしたいって人が増えて、来年の夏には観光客が増えて、領民も喜ぶ。

本当にそんなうまくいくかわからないけどね。

精霊頼みだけじゃ駄目だと思うよ。観光地として何か考えないと。

でもやれることからコツコツとですよ。

訓練場から戻ってすぐ、湯浴みをさせられてドレスを着替えさせられた。

両親でも辺境伯夫妻だから、きちんとした服装で会わなくちゃいけないのよ。

うちは家族だけになったらくだけたりもするんだけど、上流貴族ほど家族関係は希薄だと思う。

子供を育てるのは乳母や侍女だし、両親とは季節によっては一か月くらい会わないのなんて当たり前だもん。

今もクリスお兄様の執事が私の部屋に来て、私の執事のブラッドと会話して、そして彼がお茶を飲んでいた私の元に用事を伝えに来るんだよ。

「辺境伯様との会合は夕刻になるそうです。夜会に出席なされるそうなのでそれまでの短い時間ですが、クリス様は要点だけでも早めに情報共有しておきたいとおっしゃっているそうです」

直接言えばいいじゃんねって思うけど、この無駄が貴族っぽい気もする。

でもちょっと格好良くない?

黒い執事服を着たブラッドが姿勢正しく私の横に立って、恭しく上体を屈めて用件を伝えてくれるの。お嬢様って感じするじゃない。現代日本に執事喫茶があった理由がよくわかるわ。

「はい。わかりました」

言いながら飲み終えたカップを差し出すと、レックスがすっとトレイで受け止めて片付けてくれる。至れり尽くせり。

ただこのご令嬢モードは長くは続けられない。

私の答えをブラッドに聞いてクリスお兄様の執事が帰って、ばたんと扉が閉まって身内だけになるとすぐ、足を座面に乗せて肘掛けにでれっと寄り掛かった。

「お嬢様、よろしければ少しお時間をいただけませんか?」

「なに?」

だらけた体勢のまま目線だけあげて答える。

レックスが侍女達を下がらせたので三人だけになった。

「クリス様からご家族とお話しする前に、お嬢様に伝えておいてほしいと申し付けられたことがありまして」

「話長いの? お茶どうぞ?」

居心地よく座れるように背凭れに立てかけてあったクッションを自分で並べ替えていると、自分達の分のお茶を用意したブラッドとレックスが、テーブルの向こう側に並んで座った。

ブラッドは美形揃いな私の周りでは、ちょっといい感じじゃない? 程度の普通の顔面偏差値をしている。

けっして悪くはないんだよ。 上背(うわぜい) あるし体格いいし格好いい。ただ美形ではない。

イケメンは遠くから観賞する生き物なんだよ。私にはまぶしすぎる。

ふたりのお兄様は子供だから、アラサーには見た目が幼すぎるせいで美形でも平気だけど、いまだにお父様に会うと緊張するもん。

だから彼は、 強面(こわもて) だけど傍にいてほっとする。

堅気に見えない 強面(こわもて) 男で執事。大好物のお嬢さんいるだろ。

私? 大好きです。

レックスはまだ十二歳だからね。

見た目は日本人の中三くらい?

茶色の髪をきっちり後ろに撫でつけた明るい男の子。

彼も美形ではないな。でもアイドルグループで踊っていても違和感はない。

もうずっと執事服姿ばかり見ているから、他の服装が想像できないけど。

そのふたりが私の専属ですよ。

ありがたやありがたや。

私前世で、なんか徳を積んだっけ?

オタクの神様とか薄い本の神様とかいるのかな。

そんなことを考えながらふたりを眺めていたら、ふたりの執事はちらっと顔を見合わせた後、姿勢を正して私を見た。

「では、クリス様からの伝言です」

「どうぞ」

「どうせ僕達も子供らしさと無縁だから両親も慣れているし、会話しやすさを優先させてほしいから、無理に四歳児っぽくしないで、だそうです」

え?

えーーーーー!

どういうこと?!

もう転生者ってばれた?! たった四年で??

いや、落ち着け。

これはあれだ。私の事も自分と同じ神童だと思っているってことだ。

天才だと思われているんだ私。

そうよ。それ以外考えられない。

「ディアドラ様? 大丈夫ですか?」

「この場も我々ふたりしかいませんから、無理なさらないでください」

「あの……ふたりもそう思うの?」

「はい」

「ぜんぜん子供らしさないですしね」

「…………まじ?」

ブラッドがにこやかに頷き、レックスなんて今更何言ってるのって顔をしている。

私頑張ったよ?

精神力がりがり削られながら、子供っぽい喋り方してたよ?

「ゼロ歳で魔道具の玩具を自分で動かし、一歳で単語をずっと羅列している子供。普通じゃないですよね」

それかーーーー!!

生まれた時からやらかしてたかーー!!

だって暇だったんだよ。言葉を覚えたかったんだよーー!!

「私もレックスからお嬢様の話をいろいろ聞いて驚きました」

「気持ち悪くないの?」

「むしろ普通の子供の相手をさせられるより、大人と同じ対応をすれば済む方がありがたいです」

ぶっちゃけやがったな。

ガキの世話が嫌ならなんでこの仕事引き受けたんだよ。

家族みんながうちに仕えているレックスと違って、ブラッドは他の仕事だって選べただろ。

「そういえば、訓練場でクリスお兄様と空気が悪くなってたのに、あのあと話をしたのね」

「ほお。四歳児が、空気が悪くなるって言いますか」

「この方、私より難しい言葉知っていますよ」

「話しにくくなるからやめて。元に戻すわよ」

「いえ、今のままでお願いします」

「元もこんなもんじゃ……」

「レックス」

こいつのこの馴れ馴れしさはなんだ。

いままで壊れ物でも扱うみたいに大切に扱ってくれてたのに。

走ってるからか? 吐いてたからか?

「クリス様は私が元冒険者で平民なので、警戒していらしたようです」

「冒険者?! なのにまたなんで執事?」

「半年ほど前、魔獣退治で仲間が大怪我してしまいまして、冒険者を続けられなくなったんです。そのあとすぐに子供が出来たと妻に聞いて、これは私も違う生き方を探さないといけないなと思いまして、パーティーメンバーに相談したら解散しようという事になりまして」

「うわ、子持ち?」

「……四歳児」

「レックス、うるさい」

「はい」

嬉しそうな顔をするな。

笑うな。

「それにしても、護衛ではなくて執事なのね」

「私はアサシン職なんです」

「なるほど」

護衛の騎士達とは違う守り方をしてくれるわけだ。

執事しか傍にいられない場面もあるからな。

「先程は、つい子供が娘だったらこんな風に甘えてくれるのかなと思ってしまって」

あー、それで怪しかったのね。

クリスお兄様に疑われるくらいに。

くっそ。リア充め。

「奥さんも城に住んでいるの?」

「はい。ありがたい事に城内には医者もいますし、安心して仕事が出来ます」

「そう。子供が産まれたら会ってみたいわ」

さて、どうしようかな。

言われたままにこれで子供の振りをやめて、アラサーの中身のままでってわけにはいかないのよ。

クリスお兄様は私が普通の子供とは違うとはわかっていても、どのくらい大人の話についていけるかとか、どのくらい知識があるかはわかっていないんだから、これを機会にその辺も確認したいと思っているはず。

「お嬢……様?」

「え? 今の言い方もう一度」

「お嬢?」

いい! 極道のお嬢様みたいでいい!

「身内だけの時はそれで!」

「はあ」

「で、何かしら?」

「先程の訓練場の件でもう一つ」

「?」

「ご家族の護衛は当てになさらないでください。彼らはそれぞれの 主(あるじ) 優先です。いざという時、お嬢の優先順位は低くなります。しかし我々はお嬢を守るためにいます。信用出来るのは自分の執事と護衛だけだと思ってください」

「あー、そうね。それに嫡男と私じゃ命の重さが違うわね。あ、家族で私が一番軽いか」

両親は辺境伯夫妻として重要。

クリスお兄様は大事な跡継ぎ。

アランお兄様は跡継ぎのスペア。そうじゃなくても近衛騎士団入隊確実な人材。

それに比べれば、私は手駒のひとつとして使えはしても、いないと困るわけじゃない。

「そこまで一気に理解していただけるとは。話が早くて助かります」

「私じゃなくて、お兄様のどちらかの執事になれればよかったのにね」

「まさか。一番面白そうな職場はここですよ」

「まったくです。クリス様はご自分が優秀な分、他人にも厳しいですからね。何人も執事や護衛をクビにしているらしいですよ」

うへー。頭はよくても所詮は子供だもんな。

私にはいつも優しい顔しか見せないから、お兄様達の他の顔って知らないのよね。

「評判悪くなってないの? ちゃんとフォローもしてるの?」

「優秀なら年齢も性別も身分も気にしないそうなんで、選ばれた者達からの評判はいいですね」

「猫を被るのも得意みたいですから大丈夫ですよ」

「人を自分の思うように操るのが上手い怖い子供です」

「さっきの私への 言伝(ことづて) とか?」

にっと執事ふたりが悪い顔で微笑んだ。

「いや本当におまえの言う通りだ。このお嬢さんはおもしろい」

「でしょう。傍で見ていられる一等席の仕事ですよ」

楽しい職場ならなによりだわ。

信頼出来る味方が欲しかったところだし。

お嬢様って守られている分、世間に疎くなりやすいのよ。

情報がなかなか入って来ないの。

元冒険者っていうのはありがたいわ。

「ふたりは私をどんな奴だと思っているのかしら?」

「変人」

「レックス。喧嘩なら買うわよ」

「とんでもございません」

「クリス様より、あなたのほうが神童という名にふさわしいでしょうね。ただ、それが他に知られた場合、かなりまずい事になります。クリス様はそれを気にしているのではないですか?」

ブラッドはやっぱり私を神童だと思っているのか。

まあ、まだ付き合い短いしな。

「神童というより……発想がみんなと違う方」

「それが神童だろう」

「いや、どう言えばいいんだろう。精霊に餌をやるって遊び感覚だったと思うんですよ。でもそれを気絶するまで毎日やる子はいないでしょう。今でも気持ち悪くなるまでやっているし。行動が突拍子もないし好奇心旺盛すぎるし」

「……ああ。同じ神童でもクリス様とは方向性がな」

やめろ。

ふたりして残念そうな顔でこっちを向くな。

私をアホの子だと思ってないか?

天才となんとかは紙一重のなんとかだと思っているだろう。

「アランお兄様はどうなの?」

「私はまだあの方とは接点がなくてよくわからないですね。ただ、こちらに来て最初の日に廊下で会いまして、妹をよろしくと挨拶されました」

「まあ」

「それ、待ち伏せされてたでしょ」

「たぶん、どんな奴が来るのか確認したかったんでしょう」

ちょっと待って。

アランお兄様はベリサリオ家の最後の良心だよ?

普通の可愛い男の子でしょ?

「いやあ、クリス様やお嬢とはまた違った方向で子供らしさのない子供ですよ。ある意味、三人の中で一番大人びているかもしれません」

「やさしくて思いやりのある方なので、性格も三人の中で一番いいと思うんですけど、洞察力が鋭いうえに我が道を行っている感じですね」

そこまで私達兄妹の事を分析しているこのふたりの洞察力もどうかと思うけども。

クリスお兄様と私に挟まれていたら、そりゃあ我が道を行くしかないよね。

「まあだいたいわかったわ。出来ればこれからも城内や街の噂とか、気になる事があったら教えて。参考になる情報は買うわよ」

よっこいしょっと椅子から降りて、慌てて立ち上がろうとするふたりを手で制し、読書机の引き出しから紙を取り出してテーブルに戻る。

「これ書いてくださらない?」

「魔道契約書?!」

「私がこういう喋り方が出来るって事。クリスお兄様と同じくらいに知識があるって事は他言無用よ。期限は……五年間。九歳ならお兄様で慣れている城の人達は驚かないでしょう?」

「話したらどうなるんです?」

「話そうとしただけで、私が解除するまで声を出せなくするわ。そういう契約をそこに書いてサインして」

「信用ないですね」

「こんな短期間で信用出来るわけないじゃない」

楽しそうにやり取りしているブラッドの横で、レックスは本気で落ち込んでいるようだ。

彼とは私が生まれた時からの付き合いだからなあ。

「レックス。これはあなた達のためでもあるの。お兄様達に問い詰められた時に、魔道契約したから話せないって言えるでしょう?」

「クリス様の伝言を無視するんですか?」

「私、お兄様が何をおっしゃっているのかわかりませんの。いつも普通にお話ししているのに」

眉尻を下げて頬に手を当て、首を傾げながら俯いてみせる。

うわあ……とドン引きするな。

「でもこれどうせ無駄だと思うんですけどね」

「なんで?」

「お嬢、たぶんすぐにぼろ出しませんか?」

「うん。ばらすのは本人だと思う」

あれ? 一番信用ないの私?

「ご家族をだます理由を伺ってもいいですか?」

「どうもお母様が私を皇族に嫁がせたいと思っているみたいなの」

「嫌なんですか」

「私がお妃教育なんて耐えられると思う? 皇宮で暴れるわよ」

「……ああ」

「想像できるところがなんとも……」

「それは断固阻止したいの! だから私は普通の四歳児なの!」

「無理だし無駄じゃないですかね」

「もう手遅れですよ」

うるさーーーい!

私は普通の四歳児なの!