軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私は平和的に話し合いしてるつもりだった  3

ベリサリオの秘書達は部屋の外で待機中だし、ノーランド側は全員土下座状態なので、私が動くしかない。

瑠璃と蘇芳に駆け寄り、ふたりの腕を掴んで近くのソファーまで引っ張って座らせた。

よく状況が飲み込めないまま、精霊王がおとなしく並んで腰かけている様子がシュールだ。

「いい? 瑠璃も蘇芳もよく聞いて。まだクラリッサは何もしていないのよ。具体的な計画も何もないの。彼女が考えているのなんて、男性にモテてちやほやされたいってことくらいよ」

背後で誰か咳払いをしたけど、今は話し方に遠慮している場合ではないのだ。

精霊王達の怒りを鎮めないと、ノーランドだけでなく皇族まで大ダメージを食らってしまう。

「酒を飲んで酔っ払って気が大きくなって、いつもは言わないようなことをぽろっと言ってしまうなんてことは、人間にはよくあることなの。身内以外の人も招待している場でやっちゃうクラリッサも、そんな彼女を旗頭にしようと考えた伯爵も、頭の中がお花畑なんでしょう。どうせ誰も彼らの味方に付こうなんて思わないわよ」

『その者達が愚かなのはわかっているが、そういう話は人間同士でやれ。我らが問題にしているのは、ディアに対する暴言のみだ』

『待て、瑠璃。そいつは精霊をまともに育てていないだろう。ノーランドには精霊に助けてもらいながら戦うのは、戦士として二流だと言っているやつらがいるんだ』

ベジャイアみたいなやつがノーランドにもいるのか。

なんで脳筋って、なんでも筋肉で解決したがるの?

『魔道士のコーディが当主なのも気に入らないし、精霊王も気に入らない。だから、そいつは一度も俺のいる場に顔を出したことがない』

「まあ、そうなの? 精霊王に取り入ることも考えられないなんて、無能なのに野心家って 性質(たち) が悪いわね」

努めて明るい口調で腕を組んで何度も頷きながら言ったら、スウィングラー伯爵に睨みつけられた。

私はね、ノーランドのために蘇芳の機嫌回復を図っているの。

あんたに睨まれる筋合いはないのよ。むしろ感謝しなさいよ。

「蘇芳、あの方は気の毒な方なのよ。もう頭が固くて、新しいことを理解して取り入れることが出来ないの。近接戦闘する人だって精霊がいた方が強いのなんて当たり前じゃない。ひとりで戦う人と、補助する人が四人もついている人じゃ差があるのは当然なの。それをプライドがないとか邪道だとか言えるのは、実戦で最前線に立ったことがなく、万が一、怪我をして戦えなくなっても問題がない貴族ぐらいのものよ」

立ち上がって足を肩幅に開いて立って、片手を腰に当てて扇を伯爵に突き付けた。

「自分が死んだら家族が生きていけない人達や、怪我をして戦えなくなったら収入を得る手段がなくなってしまう冒険者達に、邪道も何もないのよ。回復魔法を使ってくれる精霊を育てるのは当然でしょう。だいたい、魔道士の何がいけないの? 敵を倒せればいいんでしょ。得意なやり方で戦うのは当たり前よ。そこに上下をつけるなんて、第三者からしたら滑稽なだけよ」

「ディア……ディア、話がずれてる。その年寄りはどうでもいいから放置で」

クリスお兄様が小声で指摘してくれたけど、距離があるから部屋の中にいる人全員に聞こえてるって。

スウィングラー伯爵ってば床についていた手を握り締めて怒りに震えているわよ。

「そうでした。重要なのはバーソロミュー様と奥様です。ブレインをなさっていた時には、あれほど聡明で冷静で決断力もおありだったバーソロミュー様が、どうしてこんな愚かな態度を取るのですか。クラリッサが精霊王を怒らせて処刑され、先代の当主と奥様も責任を取って死んだなんてことになったら、陛下とモニカは破談ですよ」

子供の頃からつらいことばかりだった陛下が、ようやく幸せな結婚をして新しい家族を作れそうなのに、ここでモニカと破談になったりしたら気の毒すぎるでしょう。

「だが……もうこれ以外に精霊王様にお詫びのしようがない」

俯いて話すバーソロミュー様に奥様がそっと寄り添った。

床は石で出来ているから膝が痛いし、冷たいんじゃないかな。

「当主をしていた頃は多忙で、コーディにもクラリッサにも父親らしいことを何もしてやれなかった。せめて引退した今ならと父親らしいことをしようとしたのに、どうやらそのせいで年配の者達はコーディを当主として認めず、私の元にやってくる。クラリッサもどうせ私達がどうにかしてくれるだろうと考えているようで、子供達の邪魔になっている」

「そうですね」

答えてから気付いた。

足を広げて立って両手を胸の前で組んで偉そうにふんぞり返っているって、令嬢として終わってない?

ドレスでよかった。

足が見えないもん。

「でも、たいていの貴族の家は同じ状況ですよ。高位貴族で権力を持ち、重要な仕事をしていたら忙しいのは当たり前。どこの家の子供も高位貴族としての責任や義務とは何なのかを学び、両親の置かれている立場を理解するんです。そんなことに罪悪感を抱いて、クラリッサを守ろうとしたせいで、他の人達が大迷惑ですよ。モニカは? カーラは? ジュードは? ハミルトンは? コーディ様は? そしてノーランドは? 守らなくていいんですか?」

しっかりしてくれ。

マジしっかりして。

バーソロミュー様の豪傑ぶりは伝説となっているし、ノーランドを豊かにした功績は大きいんだから、次の当主は認められるまで大変なんだ。

それを考えると、お父様に当主の座を譲ってすぐ、お婆様と旅に出てしまったお爺様ってさすがだわ。

『ディア、だが何も罰を与えずに済ますことは出来ないぞ。妖精姫に対する暴言がひどすぎた。これで我らが動かなかった場合、後ろ盾と言っても実際は何もしないんだと思う者が現れる恐れがある』

「わかっているわ」

瑠璃と視線を合わせて頷き、瑠璃と蘇芳の間に腰を降ろした。

「クラリッサとスウィングラー伯爵にはしっかりと罰を受けて……」

扉を開ける音が聞こえて顔を向けたら、ジュードが少しだけ顔を覗かせて、室内の様子を見て驚きに目を丸くしていた。

それで扉を持つ力が弱まったのか、ずずずっと扉が閉まりジュードを挟みそうになって、慌てたのか横から別の手が出てきて扉を押さえた。

「どうしたんだよ」

「ジュード?」

あ、ハミルトンとカーラの声だ。

「いや……それが……来てはいけなかったかもしれない」

「どういうこと?」

注目の的になっていることに気付いているジュードは部屋を出ようとしているのに、カーラとハミルトンに押されて身動き出来なくなっている。

なんで来たかな。

カーラ達に知らせない方がいいと思っていたのに。

「え? 精霊王様?!」

「うわぁ」

そりゃ驚くよね。

私は精霊王に囲まれて座っていて、大きなテーブルの横の椅子に座っているのはお父様とクリスお兄様だけで、ノーランドの人達は従者や警護の兵士も含めて全員、床に額を押し付けて土下座しているんだから。

「姉上!」

ハミルトンが止めるのも聞かず、カーラは何歩か部屋に入り、私や精霊王に向かって跪いた。

「突然、侵入して申し訳ありません。発言をお許しください」

必死な表情で、慌てているのか声が上ずっている。

せっかく奇麗なドレスを着て髪を整えたのに、またカーラにつらい思いをさせてしまったわ。

『誰?』

『クラリッサの娘だ。ディアが四歳の頃からの友人だ』

『幼馴染ってやつか』

昨日から何度もカーラと話しているので、瑠璃は彼女がどういう子かわかっている。

ヨハネスは担当地域だったので、私とカーラが四歳の頃から一緒にいる場面を何度も見ていたそうだ。

これは、ノーランドにとっては頼もしい味方が現れたことになるかも。

『申してみよ』

瑠璃が精霊王っぽい話し方をしたので笑いそうになったら、がしっと頭を掴まれた。

ひどい。

「ジュードから聞きました。母が……また皆さんにご迷惑をおかけしたそうで。ディアには何度も助けてもらっているのに、本当に申し訳ありません」

ジュードとハミルトンもカーラと並んで跪いて 首(こうべ) を垂れている。

私だけ座っているのは落ち着かなくて、お尻がむずむずするわ。

「母のことは諦めています。自分のしたことは責任を取らなくてはいけません。でも、でも出来れば叔父や祖父母は許してはいただけないでしょうか。お願いします。母以外はベリサリオと親しくしていますし、ディアのことも大好きなんです。もちろん精霊王様方に感謝していて、蘇芳様は特に我らの精霊王だと敬っています。ノーランド領に住む大半の人間がそう思っているんです」

『うーーむ』

唸っているだけの蘇芳の横腹に、つい反射的に肘鉄をお見舞いしてしまった。

『おい』

「痛くないならいいでしょう。それより、私の大事な友達を虐めないでよ」

『なにもしてねえだろう』

「何もしないのが問題なの。あなた、ノーランドの担当になって約十年、彼らと付き合ってきて気に入っていたんじゃないの? あなたの住居に続く道の手前に、あなたへのお供えをするための建物が出来て、冒険者は無事に狩りを続けられるお礼にって、戦利品をお供えして感謝の言葉を伝えるのが習慣になっているって聞いたわよ」

『まあな』

もうほとんど宗教よ。

この世界の人間にとっての神様は精霊王で、人間との距離が近くて運が良ければ会えることもあるから、余計に人々の想いが強くなっている。

蘇芳は見た目的にも性格的にも、ノーランド人に好まれる要素をたくさん持っているから大人気だ。

本当の神様は……ほら、コミュ障だから……。

「それなのにノーランドを出て行っちゃっていいの?」

『ディア、おまえわかってねえな』

「何を?」

『確かにノーランドとの付き合いで何度も言葉を交わしている者はいるし、あそこの風土も気に入ってはいる。だが、ディアを守ることに比べれば、ノーランドの人間達がどう思うかなんてことは些末なことだ。どうせ今生きているやつは百年後には誰も残っていない。場所を変えても、また新しい土地の人間達との関係を築けばいい。時間なんていくらでもあるんだ』

ありがたいけど、喜べない。

これはもう、作戦を変えよう。

正攻法や理屈では無理だ。

「でもノーランドの人達は私と仲良しなの。みんなが泣いたら私も悲しいの。今まで大変な思いをしてきたカーラがまた悲しむなら、私もすっごく悲しいの」

ここはかわいさアピールよ。

羞恥心は捨てるんだ。

『そう言われてもな……』

「妖精姫が、モニカやカーラを悲しませないでって我儘を言ったから、仕方なく許したってことにしちゃ駄目?」

蘇芳の腕を両手で掴んで揺らしながら、上目遣いでお願い作戦よ。

『それは……まあ……おまえを悲しませては彼らを罰する意味がないのだが』

「そうでしょ。さすが、蘇芳!」

『ディア、何を言って……』

「瑠璃もお願い! カーラはいい子でしょ? ハミルトンもしっかりした子だし、ジュードはエルダと婚約するのよ」

『ほう?』

「それなのにノーランドが壊滅したら、みんな不幸になっちゃう。陛下もモニカと破談になったら悲しむわ。そしたら琥珀が怒るんだから!」

『いや、あいつもディアの』

「瑠璃、お願い!」

今度は瑠璃の手を掴んでぶんぶん揺らした。

他にどうすればいいかわからないのよ。

これって甘えてることになってる?

『ま、まあ、処罰は少し考えよう』

「ありがとーー! ふたりとも大好き!!」

思いっきり両手を広げてふたりに抱き付く。

これはめっちゃ恥ずかしいわよ。

私のキャラじゃないもん。

「精霊王ばっかり……」

「父上、ノーランドの件は他人事ではないですからね?」

背後からお父様とクリスお兄様の声が聞こえるし、たぶん、カーラやジュードは驚いているんだろうな。

「カーラ達やノーランドの皆さんはもう椅子に戻ってもいいわよね?」

『ああ、その姿勢では話がしにくい』

よかった。

少しは譲歩してくれそうだ。

「でもスウィングラー伯爵はそのままにしてて。あなたとクラリッサの罪までは許してはいないから」

精霊王から離れて立ち上がり、土下座したままの伯爵を見下ろした。