軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私は平和的に話し合いしてるつもりだった  1

いつでも出陣する準備は出来ているって聞いていたし、まだ皇宮内にニコデムスの残党がいる可能性があるから、作戦は迅速に進めたいって話だったのよ?

だから急いだんだけど……さすがに早すぎた?

カザーレが屋敷を出て行った途端、いっせいにみんなが動き出してもう大騒ぎよ。

少しでも早く皇宮に報告するために、精霊の森にある転送陣まで空間を繋いだら、移動する人の列が出来たわよ。

もしかして、やっちゃった?

「ディア、大丈夫なの?」

ジェマやエセルまで忙しそうで、のんびり椅子に腰を降ろしているのは私とカーラとハミルトンだけだ。

ふたりは、これから自分達が何をすればいいのかわからなくなってしまっているんだろう。

「大丈夫に決まっているじゃない。計画通りよ」

「ディアはそれでいいんだろうけど、周りが大丈夫じゃないんじゃないか?」

転びそうになりながら転移魔法の穴に飛び込んだ兵士を、気の毒そうに見送りながらハミルトンが言った。

さっき話をしている時にも、彼は時折、こいつマジでやばいんじゃないかって顔で私を見ていたのよね。

「話では聞いていたけど、これほどとは……」

「すごいわ。やっぱりディアはすごい」

彼とは対照的に、カーラはすっかり吹っ切れたような明るい顔をしている。

「見た? カザーレったらきょとんとした顔をしていたわよ。ずっとディアのペースで、こちらの思い通りに話が進んだわ。さっき、クリスまで慌てた顔で走ってたわよ。ふふふ、ディアには誰も勝てないわね」

げっ。クリスお兄様まで慌ててた?!

それはマジでやばいかもしれない。

ルフタネンやベジャイアも巻き込んで三国の軍が動くのに、さすがに作戦開始が明後日っていうのは無謀だったかしら。

「ディア! 何をボケッとしているんだ」

噂のクリスお兄様が部屋に駆け込んできた。

「すぐに皇宮に行くぞ。ネリー、着替えの準備は出来ているな」

「はい!」

さすがにこのドレスで皇宮に行くのは駄目か。

最近、早着替えが特技の項目に増えそうな勢いだ。

「これからすぐですか?」

「当たり前だろう。大臣や高位貴族に招集をかけるように陛下に伝令を送った。三時間後には会議が始まる」

「うわ。早っ」

まだカザーレが帰ってから十分経っていないのに。

「あの、私達は」

「ああ、カーラとハミルトンも会議に出てもらうよ。着替えは精霊の森の屋敷に準備してあるから、着替えてベリサリオの控室に来てくれ。僕とディアは、会議の前にやらなくてはいけないことがあるんだ」

「すっかり全部まかせてしまってすみません」

ハミルトンは少し悔しそうだ。

功績をあげ、自分達の力で家を復興させると決意したのに、ベリサリオに頼り切っている状況がもどかしいのかもしれない。

でも、子供に出来ることには限度があるわよ。

それに、ベリサリオに借りを作りまくることなら心配いらないわ。

ニコデムスの尻尾を見つけてくれた功績は、全部チャラになるくらいにでかいんだから。

「ベリサリオは全面的にきみ達に協力すると約束した。だから謝罪などいらない。明後日から最前線に立って活躍するのがきみ達の仕事で、そのための舞台を整えるのが僕の仕事だ」

会議の席で反対意見が出たり、平民になったカーラ達を侮辱するやつらが出ないようにしなくてはね。

彼らの後ろにはベリサリオがついているんだと周知させなくては。

そのためにも、まず最初に話をつけなくてはいけないのはノーランドよ。

「皇宮に行けば、心無い言葉をかけてくる馬鹿もいるかもしれない。だが、俯くな。胸を張れ。文句があるのならベリサリオに言えと言えばいい。妖精姫を敵に回す覚悟があるのかとね」

「はい」

「心配しなくてもふたりだけにしたりはしない。警護に何人か付けるし、ライの指示に従ってくれればいいようにしてある。今後の説明も彼がしてくれる」

「何から何までありがとうございます」

「礼もいらないよ。それより」

クリスお兄様はハミルトンの肩に手を置いた。

「これからディアに振り回されることになるだろうから、常識にはあまり意味がないことをよく覚えておくんだ。気をしっかり持つんだよ」

「クリスお兄様? それはどういう意味かしら?」

「細かいことは気にしないで、きみは早く着替えておいで」

おかしいなあ。私はふたりの身を守る守護神みたいなもんなのに。

そんな風に言われるのは意味がわからないわ。

ノーランドと話をするのは昨日の時点でもう決まっていて、皇宮の会議室も押さえてあった。

会議室っていうだけ楽しい話じゃなさそうでしょ?

ノーランド当主だけではなく、先代のバーソロミュー様とその奥様。そしてノーランドでは長老的な立場にあるスウィングラー伯爵まで名指しで呼び出しているのだから、なんの話かわからなくてどっきどきよ。

そこにお父様とクリスお兄様と私が従者もつけずに登場したものだから、部屋の中がなんとも言えない緊迫した雰囲気になった。

「お待たせして申し訳ない」

この状況で笑顔で話しかけるお父様、素敵です。

「いえ、我々も報告は聞いております。それに関したお話ですよね?」

私達を待っている間会話していなかったのか、喉がいがらっぽいような掠れた声で現当主のコーディ様が言った。

こうやって見ると、彼とジュードはよく似ている。

コーディ様は魔力が強く、剣の腕はそれほどでもないためか細身で顔つきも温和だが、目元や鼻の形だけを見るとジュードともバーソロミュー様ともそっくりだ。さすが親子。

「はい。カーラとハミルトンのおかげで、ニコデムスの一味と接触出来ました。おかげでシュタルクの平民や、反ニコデムス派の貴族達を傷つけることなく、現シュタルク王やニコデムスの神官共を捕らえることが出来そうです。その功績に報いるためにも、ふたりの希望に沿う形で、彼らをベリサリオの保護下に置くことに決めました」

少しだけ場の雰囲気が柔らかくなったところで、お父様は一気に話を進めた。

この件に関しては予想していたんだろうな。

ノーランドの三人はいっさい感情を表に出さなかったけど、唯一スウィングラー伯爵だけは露骨に不満そうな顔つきになっている。

「カーラとハミルトンがそれを望んでいるんですね」

コーディ様は質問しながら、壁際に座っていた私とクリスお兄様の表情を探るように見ていた。

「そうです。それにノーランドの置かれている立場を考えれば、彼らが無事に爵位を取り戻すまで、少々彼らと距離を取った方がいいでしょう。そうお考えだからこそ、ノーランドは彼らと接触しないでいるんですよね?」

「……またバントック派の話を持ち出して、彼らに爵位を取り戻させて権力を広げようとしていると言いがかりをつける者が現れるでしょうね」

お父様の嫌味に乗じて話を進めたつもりでしょうけど、カーラ達が爵位を取り戻したいと思っていることなんか知らなかったくせに、それを理由に距離を置いていたわけがないでしょう。

カーラ達を放置したのには理由があって、こういう話をすれば、話せる範囲だけでもいいから、実は……ってノーランド側から言い出してくれると思っていたのにな。

「ではこの件に関しては同意していただけますかな」

「オーガスト」

「なんでしょう、バーソロミュー殿」

お父様は飄々として捉え所がない分、もしかしてクリスお兄様より何を考えているかわかりにくいかもしれない。

以前はブレインの仲間として毎日のように顔を合わせ、親しくしていたバーソロミュー様相手にも、明らかに親しみは排除した、でも穏やかな微笑と声で答えた。

「我々が子供達に会うのは問題ないのだろう?」

「おや。彼らにお会いになる気がおありでしたか。私が受けている報告では、去年の末以降、バーソロミュー様はいっさい彼らに接触していないようですが?」

「…………」

「ああ、失礼しました。彼らのために離れていたと今聞いたばかりでした。去年からもう、そこまで考えていらしたとはさすがですな。ただ、護衛はもう少ししっかりなさった方がよかったと思いますよ。ベリサリオが彼らの周りに人を配置していたのに気付かないようでは困ります。カザーレの店の周りにも、ノーランドの警備の者はいっさい配置されていないと報告がありましたが……あの姉弟が何をしようとしていたかよくご存じでしたね」

聞きようによっては慇懃無礼というか、喧嘩売ってんのかっていう態度よね。

お父様、やっぱり怒っているんだろうな。

どことなく、畳みかけ方が私と似ている気がする。やっぱり親子だわ。

ノーランド側は、まさかベリサリオに敵意を向けられると思っていなかったのか、表情が固まったまま反応がない。

ここからは、私の出番ね。

「お父様、私からノーランドにお願いがあるんです」

「ああ、そうだったね。では、場所を交代しようか」

飾りの少ない濃藍のドレスのスカートを片手で摘まみ、もう片方の手に同色の扇を持ち、今度は私が大きなテーブルの前に座り、お父様が壁際に移動した。

クリスお兄様も私の隣に座ったのは、私のフォローをするためじゃなくて、やりすぎそうになったら止めるためなんですって。

「私はベリサリオの代表としてここにいるのではなく、個人としてここにいるということをご理解くださいな」

だからさ、たかだか十四歳の女の子を前にして、お父様と話している時以上に緊張するのはやめなさいよ。

そっちの伯爵だけよ?

この小娘がって顔をしているのは。

「私は十八になれば帝国を離れる身ですし、政治のことに関しては全くわかりません。ですので、好きな人の味方になりたいと思うのは、ごく普通の感情だと思うんです。私にとって大事なのは家族であり、友人達です。ノーランドで言えば、モニカが一番に大事で、ジュードは……男で自分の身は自分で守るでしょうから……あ、でもエルダと結婚するなら幸せになってもらいたいですね。でも今日の話の結果次第では、結婚の話も考え直してもらわないといけないかもしれません」

扇を口元に当てにっこり微笑んで首を傾げて見せたら、コーディ様の右の目元がぴくっと痙攣した。

「次に親しいのはグレタ様です。モニカのお母様ということでお話する機会も多いですし、魅力的な貴婦人でありながら弓の名手だなんて素敵です。誰でも好きな人を傷つけられたり侮辱されたら怒りますよね。私の大事な友人を故意に傷つける人がノーランドにいるんですけど」

いったん言葉を区切って、向かい合う席に座るノーランド側の人達を順番に見つめた。

「その方、クラリッサっていうんです。なぜノーランドは彼女を野放しにしておくんでしょう」

バーソロミュー様はノーランド当主としてもブレインとしても有能で、人格も素晴らしくて素敵な方だったのに、今になってがっかりさせないでほしい。

バーソロミュー様も奥様も、娘可愛さに孫を犠牲にするような人達だったなんて思いたくないわ。

「あいつが……何をしでかしたんですか?」

兄であるコーディ様だけはもう、クラリッサを見放しているんだったよね。

「あの方、自分が母親だということを忘れていらっしゃるようですけど、離婚して一度だけハミルトンに会ったことがあるそうなんですよ。その時になんて言ったと思います? ハミルトンだけならノーランドの人間として助けてあげる。貴族として生きていけるようにしてあげる。だからカーラを捨てて、私と一緒にノーランドに行こうって言ったんですって」

「あの馬鹿は本当に……もう救いようがない」

コーディ様だけは怒りに顔を歪ませて、バーソロミュー様と奥様は真っ青な顔で黙り込んでしまった。

バーソロミュー様も奥様も、まだまだ若く見えるとはいえ孫のいる年齢だから、ストレスが多いのはちょっと心配になってくるわ。

スウィングラー伯爵はもっと年上だけど、わざと存在を無視しているところなんで、いっさい見ていない。

「今は子供の存在が邪魔なんでしょうね。でも、ふたりが功績をあげて爵位を取り戻したら? 領地を手に入れたら? 図々しく母親だからと領地に乗り込むとは思いませんか? 自分が女主人だと好き勝手に振舞い、カーラを追い出そうとするでしょう。そのようなこと私はとても許せません」

「そんなことはさせません」

「どうやって?」

コーディ様の返事にすかさず聞き返す。

「私どもがきつく言って聞かせます」

今度はバーソロミュー様が答え、奥様と目を合わせて頷きあった。

「言い聞かす?」

おふたりには悪いけど、それでは私は納得しないの。

「何を甘いことをおっしゃっているんです? 言い聞かせるなんて時期はとうに過ぎています。私はクラリッサの件に関しては、バーソロミュー様と奥様はいっさい信用していません」

まさか私がここまで強く言うとは思わなかったんだろう。

ノーランドの四人は、目を大きく見開いて息を呑んだ。