作品タイトル不明
名演技を披露するわよ 5
「でも、一度はベジャイアに行って、向こうがどういうところなのか。カザーレさんの家族がどう考えているのか、確認した方がいいんじゃないかな」
ハミルトン、えらい!
いいタイミングで話が打ち合わせた方向に進んでくれたわ。
「それは……そうね」
「僕も姉と一緒にベジャイアに行ってくるよ。かまわないよね?」
ハミルトンに聞かれて、カザーレは笑顔で頷いた。
「もちろんだよ。うちの本店をぜひ見てほしい。私の家族とも会ってみてくれ。きっと安心してもらえると思うよ。よければ妖精姫もいかがです?」
「そうね」
ラッキー。私が言い出さなくても誘ってくれたわ。
「確かに自分の目で確認出来れば安心出来るわね」
「それに、妖精姫が心配でベジャイアを訪問するほど親しいとわかれば、ベジャイアでのカーラの待遇がずっとよくなりますよ」
「それはいいわね」
「私が彼女は妖精姫と親しいんだと話しても、信じてはもらえないかもしれませんから」
「じゃあ、さっそく行きましょう」
ぱんっと一回拍手をしながら立ち上がると、カザーレがとても間抜けな顔をした。
「……は? 今ですか?」
「そうよ。ベジャイア王宮になら転移出来るの。国王に頼めば精霊車を出してくれるし、案内もしてくれるわ」
「うへえ」
ハミルトン、今の声は何かな?
演技よね? 本気の声じゃないわよね。
「待ってください。王宮って、そんなことをしたら大騒ぎになってしまいますよ」
「まあカザーレったら何を慌てているの? 私がベジャイアに顔を出す時点で、大騒ぎになるに決まっているじゃない」
「いや、そうですけど、国王陛下まで出てくるのはちょっと。商売にも影響が」
「商人ならチャンスを生かして国王にも売り込みなさいよ。王族御用達になれるかもしれないでしょう」
「ディア、落ち着いて。まだ姉上は結婚すると決まったわけじゃないんだよ?」
ハミルトンまで腰を浮かして、必死な顔で私を説得し始めた。
「もしかしたら向こうに行ったらやっぱり無理だって話になるかもしれないのに、ベジャイア国王まで巻き込んだら断りにくくなるじゃないか」
「……そう? 大丈夫よ。私が断ってあげるから」
「いやいや、私の立場も少しは考えていただけないですか?」
カザーレなんて、この女はなんなんだって顔で私を見ているわよ。
これが妖精姫? ありえないだろ! って思っているでしょ。
残念でした。間違いなく私が妖精姫です。
「ふふふ」
慌てまくっているカザーレと呆れているハミルトンの相手をしていたら、カーラがとうとう笑い出した。
「もうディアったら。あなたと話していると暗い気持ちでいるのが馬鹿馬鹿しくなってくるわ」
「結婚が決まったのに暗かったの?」
「異国に行くのは、やっぱり不安だしこわいわ。やっていけるのかって、ずっと考えてた。でもディアと話していたら、ともかくベジャイアに行ってみようって前向きに考えられるようになったの。カザーレとは半年くらいずっと、仕事の関係で何度も会って話をしたのよ。年齢差なんて気にならないし、彼と一緒にいるととっても楽しいの」
なんかもう、どこまで本心なのか演技なのかわからないけど、カーラがひさしぶりに明るく笑っているから良しとしよう。
「フライの輸入をすることになるなら、今後もディアと会う機会はあるわよね」
「何もなくても会いに行くわよ」
「ありがとう。昨日から精霊が元気なくて、それで不安だったのもあって気持ちが沈みがちだったんだけど……今は元気ね」
私が部屋に入ってすぐに、カーラの精霊達は普通の状態に戻っている。
カザーレが注意深く私とカーラのやり取りを聞いているのを視界の端に収めながら、私は首を傾げた。
「元気がなかったの? カーラの体調が悪かったのに回復魔法をかけなかったと聞いて、どうしたんだろうと思ってはいたのよ。今は魔法も使えるの?」
「どうなのかしら。あなた達、どうして元気がなかったの? 魔法は使えるの? 今は話してもいいわよ」
カーラが精霊に聞いた時のカザーレの表情は、俳優だったら失格よ。
眉を寄せて目を細めて、緊張している様子がありありとわかった。
『使えるのだ!』
どの精霊が叫んだのかはわからないけど、言葉と共に暖かい光がカーラを包み込んだ。
「今は回復してくれなくても平気よ。さっきまでどうして元気がなかったの?」
『力が入らなかったのだ』
『どうしたのかわからないのだ』
『ひゃっはーー!!』
『妖精姫がいると元気になるのだ!』
『やっふーー!!』
話していいと聞いて、ハミルトンの精霊達まで奇声をあげながら飛び回り始めた。
彼らの精霊は本当はお馬鹿さんじゃないのよ?
特にハミルトンの精霊達が話し好きで賑やかで、ヨハネスがいた頃はうるさいから顕現するな、喋らせるなと言われていたせいで、話していいとなると嬉しくてハイになってしまうの。でも五分もすれば普通の状態に戻るのよ。
カーラの精霊もそうよ。
私が精霊獣を顕現させた年にヨハネス領に行って、そこでカーラやハミルトンに精霊の育て方を伝授したんですもの。
ふたりとも魔力が高いので精霊獣も強力だし、しっかり育てているから賢いの。
ただちょっと、パリピなだけ……。
「わかったわ。わかったから静かにして」
「おまえ達まで騒ぐな。家に帰ったら好きにしていいから」
こういう時、カーラやハミルトンがかまうと嬉しくて、余計にうるさくなるのよね。
「どうやら彼らにも何が起こったのかわかっていないみたいね。そうなると、やっぱりあなた達だけでベジャイアに行かせるのは心配だわ」
腕を組んで考えている振りをしてから、ちらっとカザーレに視線を向ける。
私と目が合うたびにびくっとするのはやめなさいよ。
「船で行くとしたら、いつ頃出発する予定なの?」
「あなたに合わせますよ」
「あら」
なんで私に合わせるのよ。商売の方はいいの?
でもそう言うなら合わせてもらいましょう。
「じゃあ、明後日に出発しましょう」
「え?!」
「明後日!!」
声をあげたのはエセルとジェマだ。
隣の部屋からもがたんと大きな音がした。
声だけはちゃんと届くように魔法を使っているから、隣の部屋はここより大騒ぎになっているのかもしれないけど、大丈夫大丈夫。
カザーレが驚きすぎたのか目を丸くして固まってくれていてよかったわ。音には気付かなかったみたい。
「お嬢様! いくらなんでも突然すぎます!」
「あの、カーラ様の準備もありますし。旅用のドレスを用意しなくては」
エセルとジェマが本気で止めようとしてくるのはなんでかな?
シュタルクで軟禁されている人達の命が危なくて、ベジャイア軍はもう国境沿いに集合を始めているの。
相手に反撃する準備をさせないためにも、のんびり出来ないわよ。
「明後日……ですか」
「体調の悪いカーラに告白しようとしていたくらいなんですもの。あなたの出発の日だって差し迫っていたのよね。だったら無理ではないでしょう?」
「それは……ええ」
「よかった。私としても来週がちょうどいいの。日程を考えると明後日が一番いいのよ。だって、家族に内緒で出発したいんですもの」
「そ……うなんですか?」
部屋にいる人達と、おそらく隣の部屋や廊下にいる人達の注目を一身に浴びて私は微笑んだ。
「だって突然ベジャイアに行くなんて話したら、お兄様達が一緒に行くっていうに決まっているじゃない。ベリサリオで客船を出すって言うかもしれないわ。もしかしたら警備のために軍を動かすって話になるかもしれないわよ?」
「……それは、まずいですね」
「でしょう?」
話しているうちに、どんどんカザーレが老け込んでいるような気がするけど気のせいよね。
だいぶ疲れているみたいで顔色が悪いわよ?
「でも、いなくなってからバレたらもっとまずいんじゃない? 国際問題になるかもしれないよ」
「ハミルトン、こわいこと言わないで。ディア、やっぱり内緒にするのはまずいわよ」
「大丈夫。今、領地の方でちょっと問題が起きていて、来週いっぱいは両親は皇都に来られないの。クリスお兄様は仕事が忙しくて、当分皇宮に泊まり込みだし、アランお兄様は自分の領地の整備に大忙し。だから今がちょうどいいのよ。バレた時のために、ちゃんと手紙を書いておくわ」
「でも帰ってから叱られるんじゃない?」
「カーラは心配性ね。うちの家族が私に甘いのは知っているでしょう? 心配はされるだろうし注意はされても、叱られたりはしないわよ」
「家族と仲がよろしいのですね」
真面目な口調でカザーレが言った。
もしかしてあなた、私が家族に監視されているとか利用されているっていう話をいまだに信じているの?
その情報、だいぶ古いわよ。