軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

作戦本部を作ろう   6

翌日は朝から大忙しよ。

この屋敷に、こんなに大勢の人間がやってきたのは初めてだ。

まず警護のための兵士達がやってきた。

カーラがカザーレと会っている間、何かあったらすぐに踏み込めるように待機させたいと陛下が寄越してくれたんだけど……私や精霊王がいるから本当は必要ないんだよね。

でも必要なくても、国も協力したんだという形にしたいんだろうな。

カザーレの背後にシュタルクやニコデムスがいる以上、帝国として動いているぞと見せなくてはいけないんだね。

それにカザーレの店の周囲に何人も張り込ませるためや、カーラの屋敷の警備を交代制で行うためにも、人手がいてくれるのはありがたい。

でも、庭にテントを張ろうとしていたから焦ったわよ。

「皇宮から毎回移動するのは時間がもったいないですし、現状を教えろとうるさい貴族もおりまして」

本当にどこにでも迷惑なやつはいるね。

今までカーラ達のことなんて忘れていたくせに、ベリサリオが絡んだと聞いてうまい話なんじゃないかと情報が欲しくて仕方ないわけだ。

仕方がない。幸いなことに広大な庭があるんだ。

一部がテント村になっても特に問題はないだろう。

自給自足出来るように訓練されているそうだし、皇宮から大鍋に入った料理を持ち込むことも出来るそうなので、ほっといていいと言うなら好きにさせておこう。

兵士達はみんな礼儀正しいし、協力してくれているんだし、夕食に差し入れくらいはしてあげようかな。

なんならフェアリー商会新商品のマットレスを使ってもらってもいいかもしれない。

評判が良ければ大量注文が来るんじゃない?

次にやってきたのは薬師の一団だ。

頼んでいたクスリの分析の報告に、なぜか五人でぞろぞろとやってきた。

「こちらは帝国でもよく見かける薬でした。あらかじめこちらの薬を飲んでいただければ、万が一薬を飲んでしまった時に働きを抑えられます」

五人の中の代表の薬師は、髪を撫でつけて顎髭を生やし眼鏡をかけた男性だった。

真面目そうな雰囲気で、いかにも研究者って感じだ。

「よく見かけるんですか?」

「はい。金持ちの平民や貴族達の中で流行っていた時期があるんです。自分で飲むこともあれば、食事会や夜会で女性の飲み物の中に入れる者もいまして」

「犯罪じゃないですか!」

思わず声が大きくなったわよ。

なに? お持ち帰りするために使うクスリってこと?

「ディア、平民の中には貴族と結婚することで、貴族社会に進出する足掛かりを作ろうとする者がいるんだよ。でもよほど困窮している貴族でなければ、娘を平民に嫁がせる者は少ない。それで既成事実を作ろうとするやつがいるんだ」

クリスお兄様の説明を聞いてこわくなってきた。

御令嬢が必ず侍女や従者を連れているのは、身を守るために必要だっていう面もあるのはわかっていたけど、そんな危険まであるのね。

「心配しなくても、信頼出来る高位貴族の主催する夜会なら平気だよ。それに精霊がいるんだ。すぐに浄化してくれるだろう」

いや、全く心配していません。

私に何か仕掛けてくる度胸のある男がいるとは思えないし、いても精霊獣に撃退されて終わりよ。

「私はそれで済みますけど、精霊のいない女性もたくさんいるんですよ。薬師のお仕事は大事ですね」

「妖精姫にそう言っていただけると光栄です。精霊と親しくなるようになって十五年弱。はじめは薬師の仕事がなくなるのではないかと心配する声もありましたが、即死毒には魔法でも対処出来ませんから、予防策を講じる必要や毒に慣れる必要がある人もおりますし、魔力が足りなくて精霊を育てられない人も多いので、仕事は減りませんでした」

そういう薬師さんも、他の薬師さん達も精霊はいるのよ。

精霊の森の魔力の満ちた空気に喜んで、彼らの周りを飛び回っている元気な様子を見ると、大事に育てられているようで微笑ましい。

魔法とクスリの両方から対処法を考えているんだろうな。

「この手の薬を自ら進んで飲む者達もいます。彼らは精霊に浄化しないように命じて摂取するんです。高揚感を十分に楽しんでから浄化と回復をすれば、健康に問題がないのだからいいだろうという考えのようですが記憶は残ります。またあの感覚を味わいたいと摂取を繰り返し、浄化してもらう時間が徐々に遅くなり、朦朧としていて浄化を忘れるという流れがとても多いのです」

「記憶は残る……そうですね。怖い思いをした女性は、たとえ浄化や回復で身体的には問題がなくても、危険な目に合ったという恐怖は魔法では回復出来ませんね」

「はい。こればかりは薬でも魔法でもどうしようもありません。……ところで」

「はい?」

「ここは素晴らしいですね!」

突然、身を乗り出してどうした。

落ち着いた研究者の人達だと思っていたのに、他の人達も急に活気づいた顔になっているわよ。

「先程ちらっとお庭を拝見したのですが、他所では見られない珍しい植物がたくさんありますし、薬草の種類も大変多いのです。皇都では見られないはずの薬草までが群生していました!」

それで五人も揃ってやって来たのか。

精霊の森の植物に興味津々だったのね。

「是非、研究所を精霊の森に置かせてください!」

「それは無理」

「……え」

「ここは精霊王の住居です。人間をこれ以上増やすのは無理です」

おっさんが五人揃ってしゅんとするな。

あなた達に許可を出したら、我も我もと人が押し寄せるわよ。

「アランにたのめばいいじゃないか」

クリスお兄様が笑い交じりの声で言った。

「アランの領地は精霊の森に隣接しているので、森の警備をしている者達が住んでいる村があるんだ。彼らなら精霊の森に詳しいから助言してくれるだろうし、あそこは森の中とあまり変わらない魔力量で自然豊かだよ」

「そ、それは素晴らしい! アラン様というのは御次男様でしたな」

「そうだ。今はもう成人して独立したので、ホルブルック子爵だ」

「お噂はお聞きしております。早速何人か見学に行かせたいのですが許可を得られるでしょうか。残りの者は何かあった時のために待機しますので、あの、庭を散策する許可をいただけると……」

また滞在する人間が増えた。

彼らもテント村で生活……は無理だろうな。

夜には帰ってもらうとして、庭の植物を少しくらいなら採取してもいいことにしよう。

「アランお兄様、ちょうどいいところに!」

薬師達との話が済んで廊下に出たら、アランお兄様と一緒にデリルが待っていた。

さっそく薬師達を押し付……紹介して、領地に研究所を作りたいそうだよということを説明して、あとは任せることにした。

領地に新しい住人が増えるのはいいことよ。

「……で、なんでデリルはいるの?」

「第一声がそれかよ」

「あなたひとりならまだわかるんだけど、彼らは何?」

少し離れた位置に魔道省の制服を着た男性がふたりと、精霊省の長官……つまり自称私の弟子の元魔道士長が並んでいるんだもん。

「この屋敷の警備はどうなっている。僕かディアの許可がない限り、皇帝陛下であろうと屋敷内に入れるな」

「兄上、僕が一緒だったんですよ」

「なんで連れてきた」

慌ててアランお兄様が部屋から飛び出してきた。

クリスお兄様としては作戦に関わる人間を、あまり増やしたくないんだろうな。

彼らが許可されたなら私も参加させろとごねる人が出てくるかもしれない。

そういう人に限って、私の働きがあったからニコデムス問題を解決出来たんだって言い出して、カーラやハミルトンは子供だからって功績を横取りしようとしたりするのよ。

ここは慎重にやらないといけないわ。

「クリス、僕が頼んだんだ。帝国に来ている人間が魔道具を自由に使えるくらいだから、たぶんシュタルクのニコデムス神殿にはたくさんの魔道具があるだろう?」

「だろうな」

「中には精霊を苦しめたり消してしまう魔道具もあるかもしれない。それらの技術は後世に残してしまわないように処理をする必要がある」

「そうだとしても、気が早すぎるだろう」

クリスお兄様は感心半分呆れ半分という様子だ。

魔道省と精霊省が協力して、あるいは互いを見張って、誰かがそういう魔道具を持ち出し出来ないようにするって話でしょ?

ニコデムスを倒しにシュタルクに出向いてからでいいじゃない。

「出来れば精霊王様にもチェックしてもらえないかなと」

「まあ……そこまで厳重にやるのはいいことだが……でもなんで今?」

「……カーラの持っている魔道具を……彼らも見たいらしくて……」

今までの前置きはまったく関係ないじゃない。

何をやっているんだ。

「ふん。どうせ魔道省や精霊省も協力しているんだとアピールしたいんだろう」

クリスお兄様に冷ややかに言われて、待機していた魔道省の人達はむっとした顔をしながら視線を逸らした。

「ディア様、おひさしぶりですー」

精霊省長官、その横で嬉しそうに手を振るのはやめなさい。

「デリルには実際に協力してもらっているからかまわないけど」

「ディア」

「ラーナー侯爵家を巻き込むのは、互いにとって利益になりますわ」

「巻き込むって言うな」

デリルっていつの間に突っ込み要員になったのよ。

子供の頃と一番性格が変わったのは、女はエルダで男はデリルだわ。

「もう少ししたらカザーレと面会する約束があるの。その時に魔道具がないと困るから、見せるのはその後になるわ」

「まったくかまわないよ。出来ればどこかで待たせてもらいたい」

また人口が増えたわよ。

もういい。今からこの屋敷は作戦本部にしよう。

なんなら扉の横に、作戦本部って書いた紙を貼っておこうかな。