軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

作戦本部を作ろう   4

あれ? 私はやることがなくなっちゃった。

毎回思うことだけど、実務能力が低いのよね。

プロデューサーに向いているタイプなんだろうな。

ほら、頭脳労働者だから。

『ディア、ちょっといい?』

やること、ありました。

テラスで寛いでいる精霊王のお相手をしなくては。

「今日はいろいろとありがとう」

『お礼なんていいのよ。ここが賑やかなのは私も嬉しいわ』

『あなたはなかなか頼りにしてくれないんだもの。水臭いのよ』

琥珀と翡翠が並んで座っていると、自分の住んでいる屋敷のはずなのに現実味が薄くなる。

自然豊かな景色も相まって、ここだけ精霊王の住居のある空間に移動してしまったみたいだ。

『これから話すのは、あなたにとってはショックな話かもしれないわ』

私が席に腰を落ち着けた途端、翡翠が切り出してきた。

「え? 何かあったの?」

『あなたは、前の世界のことやこの世界のことを調べられる手段を持っているでしょ?』

ウィキくんの話?

それで会話が他所に聞かれないように、念入りに結界が張られているのか。

『賢王もそういう手段を持っていたって、前に話したわよね』

「ええ」

『つい先日、モアナとその話になってね。ディアも賢王と同じ手段を持っているのかって聞かれたのよ』

「うん」

『だから持っていることを話したの。かまわないでしょ?』

「もうとっくに知っているのかと思っていたわ。人間に話さないでくれるなら大丈夫よ」

『賢王も誰にも話さないでくれって言っていたそうだから、話す気はないってモアナが自分から言ってくれたわ。それでね、賢王はある日突然、その手段が使えなくなったんですって』

…………え? どういうこと?

これって期間限定の特別ボーナスだったの?

「何歳くらいの話?」

『よく覚えていないそうなんだけど、若い時だったそうよ』

日本語を忘れてしまって読めなくなる危険は考えていたけど、使えなくなるなんて考えたことがなかった。

新商品の開発はウィキくんに頼っているところが大きいのに、使えなくなるかもしれないの?

『ディア、大丈夫?』

落ち着け、自分。

アラサーだった時の感覚はほとんどなくなって、前世のことは昔見た夢のように感じ始めているんだ。

もうすっかり私はディアドラで、大好きな家族だっている。

この世界で充分にやっていけるだけの経験を積んでいて、助けてくれる人もいるんだから、そろそろ特別扱いはいらないだろうと神様に思われて当り前よ。

精霊王が後ろ盾になってくれているだけでも特別扱いなのに、ずっとチートスキルを使える方がおかしいのよ。

「大丈夫。驚いたけど、そろそろそういう手段に甘えないで、周りの人達と協力して、自力で生きていかなきゃいけないお年頃なんだと思うわ。まだすぐにどうこうってこともないだろうし、今はまず、打倒ニコデムスよ」

『よかった。瑠璃がいる時に話した方がいいかなとも思ったんだけど、早く知りたいでしょ?』

言いにくいことを話してくれた翡翠には感謝よ。

相手が瑠璃だと甘えちゃいそうだから、翡翠でよかったのかもしれない。

『困ったことがあったら、いつでも言って。私達はずっとあなたの味方よ』

「ありがとう、琥珀。あなた達がいつも力を貸してくれるんだもん。落ち込んだりしないわ」

そうは言ったけど、気にはなる。

デリルが無事に魔道具を外して機能を止めてくれて、カザーレ宛の手紙も完成して、みんなで夕食を食べて解散してから、私はまた寝室に籠った。

カーラとハミルトンは屋敷に泊まっているわよ。

当分はこちらで生活したほうが安心だし、細かいやり取りが必要になるからね。

「えーっと、カーラに教えてもらった名前は」

ウィキくんを開いて、カザーレと一緒に店で働いている男の名前を検索してみた。

「シュタルク人。遭難した漁師を装い帝国に潜入。ビンゴ! やっぱりそこにいたのか!」

これはもう間違いなく黒だ。

半年以上潜伏して、何もしないうちにカーラに見破られちゃうなんて馬鹿じゃないの。

ニコデムスが信じたければ好きなだけ信じて、シュタルクだけ滅びなさいよ。

他人を巻き込むんじゃないわよ。

潜伏されて、また何年か後にゲリラ攻撃されたら面倒だ。

全員ひとり残らず、芋づる式にずるずると捕まえてやるわ。

「ベジャイアの方は何があったんだろう。ウィキくんは……特に変わったことは書かれていないな」

「ディアドラ様」

「うっ」

リュイの声が聞こえたので、慌ててウィキくんを消してベッドから飛び降りて、テーブルに置いておいた本を手に寝椅子に倒れ込んだ。

「何?」

「カミル様がお見えです」

「え?」

慌てて自分の姿を見下ろすと、ドレスのままベッドに寝転がっていたからしわくちゃよ。

髪も乱れているはず。

「あの……お会いになりますか?」

「会うわよ。ベジャイアの話でしょ。ちょっと待ってもらって。そして誰か来て。髪が」

「かしこまりました」

今、ふふって笑ったでしょ。

別にカミルだから綺麗にしなくちゃって思ったわけじゃないのよ。

相手が誰でも身嗜みは大事よ。

「ディア、着替えるの? 髪はどうする?」

なんでネリーを呼ぶかな。

すっかりやる気になってしまっている。

可愛いドレスにしようとか、いっそネグリジェにガウンを羽織るのもいいかもとか、よくわからない盛り上がり方をしているネリーは放置で、髪は解いて手櫛で整えて、ショールで皴を隠して居間に向かった。

手伝いを呼んだ意味が全くなかったわよ。

「遅い時間に突然すまない」

居間で待っていたカミルは、昼間会った時のままの服装だ。

ベジャイアから戻ってすぐにここに来たんだろうな。

「アランお兄様は一緒じゃなかったの?」

「あいつは皇宮に向かった。俺はきみに報告した後、ルフタネン王宮に行く」

「何があったの?」

隣に腰を降ろすとすぐ、カミルが手を握り締めてきた。

「本当は抱きしめたいところだけど、話をしないといけないからしかたない」

「疲れているみたいね」

「癒しが必要なくらいにね」

私の手を取って自分の頬に当て、

「少し冷たくないか?」

言いながらさりげなく手の甲に唇を触れさせた。

「ちょっと、真面目な話なんじゃないの?」

ネリーやレックスが見ているから恥ずかしいじゃない。

私の方はまだ慣れなくて、こういうことをされると心臓に悪いのよ。

「真面目というか、シュタルクの現状がわかった。思っていた以上に悪い」

「そりゃ悪いでしょ。皇都やその近郊で作物が育たなくなって、農民が暴動を起こした地域が複数あるって何年も前に聞いたのに、それ以降、全く状況は改善されていないのよ」

「その後、農民は地方で精霊を育てて、その精霊を連れて王都に帰り魔力を増やす方法を取ったんだが、近郊はまだしも王都は農民だけじゃ何の足しにもならなくて、子供を預かる施設を作って、成人している者は全員地方に行かせるようになったんだそうだ」

それは、地方に行ったまま戻って来なくなると困るから、子供を人質にしたってことなんでは?

「状況はどんどん悪化して自分達の生活が脅かされれば、貴族も農民もまともな人間は、ニコデムスを捨てて精霊を育て、帝国やベジャイアのように精霊王と親しくした方がいいと考えるだろう? シュタルクの王都はもう建物も崩れ始めて、砂に埋もれてしまっているんだ。それで子供のいる施設に親が押し掛け、子供を連れてそのまま地方に逃げる事件が続いたそうだ」

「それはそうなるわよ」

「で、ニコデムスは施設の警備態勢を強めた。それで親達と兵士の衝突が起こり、子供を返せと押し掛けた親を殺害する事件が起きたんだ」

「ええ?!」

「見せしめのつもりだったんだろうが、兵士のほとんどが平民だ。下級兵士はまともな給料ももらえず、元ならず者のニコデムス教の私兵が幅を利かせていたため、鬱憤もたまっていたんだろうな。ニコデムスには従わず、家族や農民と行動する兵士が続出した」

「おおお」

「まあ」

思わず身を乗り出したところでネリーの声が聞こえて振り返ったら、彼女もレックスもすぐ傍で真剣なまなざしで話を聞いていた。