軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

長い戴冠式の一日   6

バルコニーの挨拶が終わったら、食事会に出る人達は夜用の衣装に着替えなくてはいけない。

私は不参加なのでここでカミルと合流して、各国の賓客と御挨拶だけすることになった。

私とカミルがセットで挨拶するって、だいぶ変よね。

帝国の戴冠式にカミルは関係ないし、私達はまだ正式に婚約してはいないんだから。

でもベリサリオもカミルも、私ひとりで挨拶するのは絶対反対ということで意見が一致しているの。

クリスお兄様に言わせればカミルは優秀な番犬なんだそうだ。

その番犬が私をルフタネンに連れていくんですけども。

諸外国の人達からしても、精霊の話をするならば私とカミルが一緒にいてくれた方が効率的なので、むしろ大歓迎された。

精霊に関しては最も遅れていたはずのベジャイアに、私とカミルが精霊王を伴って訪れて、王宮にドーンと精霊の集う大樹を出現させたという噂はもう世界中を駆け巡っていたのよ。

そこに精霊を嬉しそうに連れたバルターク国王とビューレン公爵が登場したもんだから、次は是非我が国へって話になるでしょ。

もう年だから精霊は無理だと言っていたビューレン公爵が、二属性連れていたからね。

嬉しくて魔力をあげすぎて、ぶっ倒れたと聞いて呆れたわ。

皇宮で食事会が始まる頃、ようやく私とカミルも精霊の森の屋敷で夕食にありつけることになった。今日初めてのまともな食事よ。

育ち盛りの私としては、食事はしっかりと摂らないとね。

「それで、フランセルって女が捕まったんだって?」

「え? なんで知っているの?!」

「きみがまた、俺に心配させたくないと話さない可能性があるからと、クリスが教えてくれた」

いつもの民族衣装に身を包んだカミルは、話さないなら食事にしないぞと言いたげに腕を組んで私をじっと見ている。

食事の時間くらい楽しい話をしたいんだけど、心配してくれているんだから仕方ない。

さくっと嫌な話は済ませてしまおう。

「ちゃんと話そうと思っていたわよ。どこまで聞いたの?」

「会場の入り口で揉めていて、ベリサリオに気付いたらディアを目指して近付いてきて、なぜか途中で睨みつけていたって」

「自供したことについては聞いていないのね」

「それはクリスもまだ報告を受ける前だった。着替えがある分、彼の方が時間に追われていたからね」

私達が戴冠式を行っている間、係の人達はフランセルの供述をしっかりと取っていてくれた。

ちやほやされることが好きな彼女には、高そうなお菓子とお茶を出して、見た目のいい若い警備兵に質問させるといいとクリスお兄様が助言した通りにしたら、ぺらぺらと聞いていないことまで話したそうだ。

「彼女を城内に招き入れたのは、中央のルガード伯爵家の家令だったそうよ。二十年以上伯爵家で勤務していた信頼していた家令がニコデムス教徒だったと知って、かなりの衝撃を受けていたって」

「出たな、ニコデムス。二十年以上前から伯爵家にいたなら、十年前の事件より前からニコデムス教徒だったんだろうな」

「そうね。表立ってニコデムス教徒だと話していなかった者達は、隠れニコデムス教徒として帝国内で生活しているんでしょう」

十年前まではニコデムス教徒でも問題なく生活出来ていたのに、あの毒殺事件を境に禁止令が出されて、迫害される日々を送ってきた者達だ。

特に私なんて恨みの対象になりそうなものなのに、聖女扱いというのが理解出来ないわ。

「ルガード伯爵もニコデムス教徒の可能性は?」

「まずないわ。とても熱心に精霊を育てている方達なの」

ちゃんと話しているのだから問題ないでしょうと、私はフォークを手に前菜を食べ始めた。

今頃食事会では豪勢な料理が振る舞われているんだろうけど、自分の家でのんびり食べる料理の方が私は好きよ。

カミルもやっと食事に手を付け始めたんだけど、ひと口がでかい。

そんなに急いで食べなくても誰も取らないっていうのに。

もしかして男所帯のイースディル公爵家では、のんびりしていると皿から食べ物を取られちゃうの?

「フランセルは貴族に返り咲くためのコネが欲しかった。そこに目を付けたのね。彼らの本当の狙いは食事会の方だったのよ。そこで自爆テロを起こす予定だったの」

「またわからない単語が出てきたぞ」

「指定された時間になると、持ち主を中心に範囲攻撃魔法を繰り出す魔道具を持たされていたの」

料理を食べようと口を開いた体勢で動きを止めたカミルは、そのまま私の方を見て顔をゆがめた。

「持ち主も死ぬじゃないか」

「そりゃそうよ。捕まっていろいろ白状されるとめんどうでしょ。最初から殺す気だったのよ」

「でもぴんぴんして、お菓子を食べて、全部話してしまっているのか」

「ニコデムスと関係があるし、処刑される立場なのにわかっていないみたいなのよね」

「おかしいだろ。彼女は魔道具がどういうものだか知っていたのか?」

「まさか。食事会に紛れ込んで気に入った相手を見つけたら、その魔道具を見せれば値打ちモノなんで興味を持ってもらえるから、親しくなるきっかけにしろって言われていたそうよ」

「うそくさい」

まったくね。

よくそんな話を信じるわよね。

食事会に紛れ込んで、自分を貴族に戻してくれる相手が見つかると思っているのもすごいよ。

自分の魅力にどれだけ自信があるのよ。

「でも彼女は食事会には行かなかった」

「うん。なんでだと思う?」

「まったくわからない」

「食事会には外国からのお客様がたくさんいるでしょ。でも彼女は帝国語しか話せなかったの」

「帝国の人間に話しかければいいだろう!」

それにどうせなら身分の高い貴族とお近づきになりたかった。

食事会に招待されている人達だって力のある貴族ばかりだけど、昼間の式典に招待されている人達の方が身分が高くて、彼らは食事会の時には奥の方の席に座るから近付けないと考えたらしい。

「それで紛れ込もうとしたんだけど、彼女の持っている招待状じゃ入れなかったのよ。そこに私達が現れたでしょ? 妖精姫は優しくて、困っている時はいつも助けてくれるってカーラが話していたから、じゃあ妖精姫を利用しようと思ったんだって」

「アホだな」

「でも私を見て、あれは儚げな顔をしているけど実はそういう性格じゃない。意地の悪い目をしているって気付いて、隣にいた優しそうな貴公子に声をかけようとしたらしいわ」

「まさか、その優しげな貴公子って」

「クリスお兄様」

「ただ見た目がよかっただけだろう」

クリスお兄様を見て優しそうって言う人は初めてかもしれない。

たいていは近付きにくそう。冷たそう。でもそこが魅力だって言うのよね。

「クリスお兄様は優しいわよ。世話焼きの一面もあるし、現実のツンデレ属性で嫌われないって才能よ」

「ツンデレが何かは知らないが、優しくても性格はよくない」

「まあ……否定はしないけど」

「それにクリスは、フランセルは愛らしくて守ってあげたくなるタイプの女性で、それを利用して男を操っていたが、ディアの方が愛らしさも、守ってあげたくなるような儚さも上だったから敵視したんだと言っていたぞ」

「見た目だけはね、守りたくなるみたいよね」

「何をしでかすかわからなくて、守らないといけないなとは思うね」

「それ、お兄様達にも言われたことがあるわ」

そんな無茶なことを今までしたかな?

割と常識的な人間だと思うのに。

「ともかく、フランセルは勝手気ままでニコデムスの計画は穴だらけ。今日の食事会にはマジックバッグすら持ち込み禁止なのに、無茶なことを考えたわよね」

魔道具には魔石を使用するから、それに反応するセンサーを魔道省が作っているのよ。

魔道具の武器の危険性はずっと前から問題視されているのに、放置するわけないじゃないね。

「毒も用意されているらしいわ。十年前の惨劇を再びって」

「十年前とは精霊の数が違うだろう。帝国ではまだ毒味をするのか?」

「しないわよ。精霊がチェックしてくれるし、浄化の魔法もあるでしょ」

中央の貴族はまだ精霊をようやく手に入れ始めているところ。

ニコデムス教徒は精霊を敵視しているから、精霊と共存する生活と言われてもよくわかっていないんだろうね。

「でもフランセルのおかげで、犯人達を捕まえられるかもしれないな」

「それはあるかも。もしかしてフランセル大活躍?」

「それはないな」

せっかく侯爵家の後妻になれるところまでもう一歩だったのに、平民に落とされてしまって、ちょっと精神的におかしくなっているみたいで、妄想がひどいと聞いたわ。

ヨハネスが魔道具を渡したと言い出したり、妖精姫が私を呪っているんだとも言っていたらしい。

冷たい親元で育って、金のために親子ほど年の違う男に親に売られて、周囲に気の毒がられたり優しくされたのが嬉しくて、それが忘れられなかったのだとしたら、彼女も気の毒ではあるのよね。

ただやることが短絡的というか、その場の思い付きで行動しているというか。

あれ? 思い付きで行動って私もしていなかったっけ。

こ、これからは気を付けるわよ。よく考えて行動するわよ。